楽天市場の新たな“使い道”?広告事業を紐解くと、変わりゆく時代を感じ取れる理由
企業の仕掛け方が多様化しており、変貌していることを知った。それは、既存の枠組みとは違った価値をデジタルが創出しているから。その一つが、今回、話を聞いた「楽天市場」の新しい使い道なのだと思った。買い物を目当てに、集まる人自体が、価値を持つ。それが企業にとってはプロモーションの場所として位置付けられる。だから、広告が多様化して、出店店舗にとってはこれまでにない形で、その効果を実感する機会が増えていく。
ショッピング・イズ・エンタメだからこそ
これまでとは違った使い道?そう思う人もいるだろう。それでいうと、一番、わかりやすいのは、ナショナルブランドを持つメーカーなどが、楽天市場を使う例である。
この話は、昨日、行われた記者会見に基づくもの。順番が前後するけど、僕なりの解釈でわかりやすく説明したいと思う。
そもそも、楽天市場はショッピングの場。それらを含めた年間EC流通総額は、6兆円となる。購入を後押ししているのは、楽天ポイントであり、発行数はFY2024で約6500億にものぼる。それをフックに、楽天のアクティブユーザーは、2024年6月集計で4228万人に及ぶ。
だからこそ、ショッピング以外の使い道が生まれる。そこでの販売もさることながら、そこをプロモーションの場にしていくという新しい価値が生まれる。それがナショナルブランドが興味を持つ所以である。
広告で人の動きを作り出す
そこでは当然、人を流動させることが大事。その要の部分が、広告によって促されている。結果、彼らの広告ビジネスも多様化していく。また、従来とは違った形で、店舗が恩恵を受けることがある。それは店舗も知っておくべき事実だと思う。
そこに注力するのが広告部。ジェネラルマネージャー春山宜輝さんが登壇して、こう明かした。楽天の広告事業はFY2023で売上高が2000億円を突破している。
ここまで話したことは、いわゆる「リテールメディア」というキーワードで今、話題を集めている。とはいえ、彼らにとっては今に始まった事ではない。自然とユーザーが集まる段階で、早くからその活用を生かそうと奮闘していた。ただ、その言葉が脚光を浴びる流れで、楽天の広告の活かし方が説明しやすくなった。それがこの説明会を開く後押しになったのだろうと推測する。
要するに、ECはメディアとしての役割を兼ねるようになってきた。
楽天広告の基盤と仕組み
下の図を見てほしい。
売ることに対しての広告以外に、これだけ多様化が進んでいるのだ。
例えば、ナショナルブランドを持つメーカーが、そのブランドで出店したとしよう。
それが、戦略の一つとなる。というのも、自らの商品を直接ないし、問屋を介して「楽天市場」出店店舗に卸をしていることもあるから。ここで、メーカーがそれらの商品に広告を投入することで、その両者に利点をもたらす。つまり、メーカーにとっては広告価値の最大化である。
当然ながら、商品同じ。なので、それらを横断的に支援施策を立てていくことができる。要するに、それらを統合的に捉えることで、生産性高く、そのブランドの活性化を満たすことができる。
また、あわせて、楽天自体が「Rakuten 24」などの直販もある。だから、自らの商品をそことの絡みで広告を行い、光を当てることができる。
これらの要素に加えて、楽天市場の場合、ただ集まっているだけではないという強みがある。
つまり、その多くが、楽天IDを持っているのだ。ゆえに、そのユーザーを特定することができ、それらの施策を最大限、活用できる。そういうインフラを備えて、戦略が組み立てられることに強みがあるわけだ。
するとデータをもとに、メーカーがブランドを認知させるマーケットで利用するわけだ。結果、出店する店舗が、それらの商品を持っていると、その恩恵を受ける。従来とは違う形で消費が生まれているのも面白い。
広告のいろいろ
では、どんな広告があるのか。楽天に関する広告の話なので、従来使われてきた初歩的なものから、説明していくことで、その多様性を感じてもらえるだろう。
・検索連動型広告(RPP)
ユーザーが楽天市場で商品を検索した際、検索結果の上位に表示される広告商品。これにより、ユーザーに効果的にリーチし、購買行動を促すことができる。検索連動型広告の活用により、楽天市場の出店企業はターゲットユーザーにアプローチしやすくなり、購買率を向上させることが可能である。
・ターゲティングディスプレイ広告(TDA)
楽天市場アプリのトップ画面をはじめ、他の楽天グループのサービス内でも広告を出すことができるわけである。広告主はユーザーの購買履歴や興味関心に基づいて、特定の層に広告を配信することができる。これにより、ユーザーのニーズにマッチした広告が表示され、コンバージョン率(CVR)の向上に貢献するわけである。
楽天市場の外から吸引する
ただ、昨今の動きを見ると、何も楽天市場の商品を買うきっかけが、楽天市場内にあるとは限らない。例えば、Googleの検索やSNSなどを通して、商品を知り、それが購入に直結することもある。
だから楽天としては、それぞれ、RPP-Expansion、TDA-Expansionという仕組みで活用しやすい環境を作るわけだ。
・RPP-Expansion
外部メディアの検索結果画面に表示される商品画像付きの広告を、楽天市場の管理画面上で行える。
・TDA-Expansion
facebookやInstagramなどメタが提供するメディアで、行動データにもとにした、相応しい店舗の商品を自動的に組み合わせて、配信できるようにしている。上記と同様、楽天市場の管理画面を通して行える。
ナショナルブランドを巻き込み生まれる消費
ここに、さらに、ナショナルブランドを持つ大きな企業を軸に、動くのはBrand Gateway/Show Roomである。簡単に説明すれば、メーカーのブランドコンテンツを楽天市場内に用意することだ。
自ら出店しているかどうかに関係なく、そこをマーケットとして捉えてブランド力を高める。それ自体が、出店店舗自体、検索結果などに影響を及ぼすのは言うまでもない。それらをまとめると、こういう図で表現できるわけである。
結果的に彼らがそれらを強調する理由は、実際に実績を上げることで、新しい顧客層にリーチしていることを実感しているからである。やったことによって得られるメリットは下記の通りで、やらなければ、機会損失になっていたということの裏返しである。
顧客ニーズに応えるための新たなアプローチ
広告が多様性を帯びて、いろいろなところへと波及効果を生む。それで、楽天市場の果たす役割が変わってきたのも事実。特に、メーカーのブランディングに寄与する部分は、集まるお客様の力を通じて生まれた新しい価値である。それが昨今言われている、リテールメディアという言葉の側面でもある。
つまり、マーケティングの手法が変わってきている。今まで、マスメディアを通して、不特定多数の人たちへアプローチしていた。それが、自らのブランド力の向上につながる拠点だと位置付けて、このような場所に出稿しているわけである。
興味深いのは、それに連動する形で、アカウントイノベーションオフィスという部署が立ち上がっていること。つまり、メーカーに対してアプローチする部隊である。
ジェネラルマネージャーの堀川直裕さんは、外資系の企業を筆頭に、積極的に楽天市場をブランド戦略の場所として位置付けていることを、強調した。
ブランド戦略の重要性
だから、堀川さん曰く、まずそれらのメーカーのターゲットを顕在化させる。対象を絞り込むことで、マーケティングコストを無駄に使わないようにしていくわけだ。それを支えるのが、楽天ID。
一気通貫で施策を実施しデータ分析を行える。だから、PDCAを繰り返すうち、メーカーの立ち位置が明確になるわけである。
しかも、楽天の場合、多くのジャンルにまたがっている。楽天市場以外の要素が補完することで、効果を最大化できる側面もある。
これは、楽天市場がそれまで商品を販売することによって成り立っていた生業とは全く違う。
広告事業の説明で、ブランドサイトの立ち上げを書いた通り、そこでイメージを定着。その後、出店店舗へ卸した商品も含めて、キャンペーンを行うことが可能となれば、プロモーションとして有効。ユーザーが絞り込まれている分だけ、的確なアプローチになるから、生産性の高いものになる。
メーカーの台頭で新たな活気を生み出す
新たなマーケットが生まれたといってよい。広告事業は親和性が高く、それでメーカーへのアプローチを加速させているのもうなづける。
資生堂は、ブランドのビジュアルを表示。そこからキャンペーンを打ち、商品を訴求したら、クーポンなどを掛け合わせ、新商品の事前サンプリングを行っている。メーカーにとっては最適なプロモーションに、楽天の持つインフラが活かされた格好だ。
つまり、マスメディアでアプローチするのとは違う形で、認知と信用のレベルを上げたわけである。
余談だが、これらを活用するのが外資系企業に多く見られると話していた。それが、個人的には少し残念。新しい動きに腰が重い日本企業の実態を示す。ここが今後の伸び代に直結するところだろう。
楽天市場はもはやショッピングだけの場所ではない。広告によって人流を作り出し、結果的に、エコシステムが効果的に機能して、ナショナルブランドの価値向上にもつながっていく。集まるユーザーが共通化されることで、的確にアプローチがしやすいというリテールメディアの側面。そして、楽天IDを使ったマーケティング的側面で新しい価値が生まれているのである。時は刻々変わりゆく。
今日はこの辺で。