AI?経済圏?ついていくかは店次第。楽天市場の進化論 2024春 戦略共有会に想う
知らず知らずのうちに、僕らはついていったら、成長していた。いつの時代も楽天市場は、店舗を先導してきた。時代が変われば、トレンドを取り入れなければならない。だが、大事なのは、店舗の商売にどう結びつけるかなのである。楽天市場に求められるのは、時代の最先端を店の事業に落とし込むこと。だからこそ、毎年恒例の戦略共有会で語られた内容を今一度、整理するべく、常務執行役員 松村 亮さんに聞いてみた。それについていくかはあなた次第だ。
生成AIが売上を上げるのではない
1.アップするのは店舗の基礎体力
今回、三木谷さんの講演然り、多くの時間を割いて語られたのは、生成AIである。
ただし、生成AIは、今まで積み重ねてきたことの上に成り立つ事。それを松村さんの言葉から、察した。だから、そこを今一度、整理していくことから始めよう。思うに、生成AIがアップさせるのは店舗の基礎体力のほうだ。店舗の価値に気づかせる“右腕”であって、それ自体が売上をもたらす“魔法の杖”ではない。
経済圏とよく言われるけど、要するにそのことの核心は、ロイヤルカスタマーの醸成である。そこで原資として彼らが持ち出しているのがポイントで、購買を触発する。最初は楽天の70のサービスに始まり、その外側との連携で流通の幅が広がるようになって、楽天市場の集客と販促の装置になっている。
だから、コロナ禍が終息してリアル回帰が進もうとも、ポイントはリアルでも流通しているおかげで、2023年第3四半期もYOYで+15.7%と好調である。ある意味、このスケールメリットを活かしたビジネスモデルは、楽天という立場にこそ、できるから理にかなっている。
よくAmazonと比較されたりもするが、Amazonとはそもそもビジネスモデルが異なる。なので、別のベクトルで彼らはマネタイズしていわけだ。だから、僕は、「店として、それが受け入れられるかどうか」を迫るわけだ。それは、AIの時代になってからも、ますます言えることだ。
2.コロナ禍終息後でも売上を支えた経済圏
なので指標として、EC流通総額が大事になる。2023年見込みで6兆円。この経済圏の流通を活性化させる事で、ここを増やすことが、楽天市場にとっても意味があるので、2030年で10兆円の達成を目標としている。
改めて、ポイント経済圏の原点はどこにあるかと言えば、楽天市場と楽天カードの親和性の高さにある。親和性の高い両方を、共に楽天内で回遊させる事で、自らの利点を生み出す。だから、それをポイントを原資にして、そこに手厚くフォローしてきたと松村さん。つまり、それらは優遇されてきたわけだ。
結果、それは累計で4兆ポイントを発行するに至った。でも、時代は変わりゆく。彼らもそうだし、店も、今以上の成長を目指す中で、彼らが考えたのが、ロイヤルカスタマーを今以上に盤石にして、単価を上げていくという事。その中で、導き出した指標は何か。それは、併用して利用するお客様のお客様の購入金額である。
3.原資の使い道を変えていく
「楽天カード」利用者についてみてみると、何も他に楽天のサービスを利用していない人と比べて、楽天市場での一人当たりの購入金額が、1.3倍程度高い。また「楽天モバイル」の利用者でも近い数字が出ていて、1.3倍。
それに対して「楽天カード」「楽天モバイル」の利用者で見ると、どうだろう。一人当たりの購入金額が、1.9倍。一目瞭然。
これには時代背景もありそうだ。デジタルを起点として、リアルの生活が成り立ち、その要となるのがスマホである。最大限、それを使いこなす過程の中に、楽天市場が組み込まれる事で、芋蔓式に、利便性も加味されて、カード利用も増えて、購入単価が上がるのだろう。
言い方が変かもしれないが、楽天経済圏はその時代の要となるサービスを取り込む事で、利用機会を増やして、最終的に、楽天市場に価値を還元していくものと思われる。今はモバイルということ。それはこの後の文脈にも出てくる生成AIなどの文脈にも直結する事だろう。恐らくモバイルで収集するデータが蓄積されることにより、レコメンドの質が向上するなど、利点も含めて、手厚くする中身も変えていくだろう。
実績としてカードとモバイルを併用している人が、楽天市場の購入額の面で明らかに成果を出している。だから、モバイルの数を増やしていく。そのことが、楽天市場の売上を上げ、彼らの付加価値を高めるからだ。
4.モバイル利用者を増やすことが楽天市場の売上UPの肝となる
ゆえに、時代に合わせて、ポイントという原資の使い道を変えていくのである。ショッピング、カードに加えて、モバイルを使用してくれているユーザーへのポイント還元を高める。
これが外部からの流入という意味での価値だ。その一方で、外部メディアに連携し、楽天市場そのものの価値を発信していくとも。
そうなれば、楽天市場での購入のきっかけ作りが大事になる。彼らは、その点、スーパーSALEなどの意味を解く。これらセールに関しては、その点、2019年から4年間の年平均成長率で見ると+20.8%。それらを活用して、ただ、会員であるだけではなく、それらのユーザーの購買意欲を触発して、行動に変える。
当然、ヘビーユーザーであるほど、購入単価が上がる。それゆえ、広告面でも会員ランクにより入札単価を変えて、最適化を図るわけだ。それは、クーポンでも同様。ユーザーの購買動向により、値引きの原資を使いわけて、発行内容を変えていく。
関連記事:楽天市場 ラ・クーポン 無料キャンペーン終了の真実
以上から、従来型の数を大きく取りにいく販促ではないことがわかる。ロイヤルカスタマーを醸成し、行動によってユーザーを分けて、購買確率を上げていく。そうすることで、成果を出すスタイルになるのだから。
土台を盤石にするシステムとインフラ投資
1.地味に着実に買いやすさの向上に努める
ここまでが全体の流れだ。一方で、システムの変更に対応しつつ、インフラへの適応していくことが大事となる。例えば、『SKU施策』。下記の記事でも掲載したが、登録する商品単位を細分化するもの。
参考記事:楽天市場 選べる範囲広がる SKU対応がお店の実績を一変させる理由
SKUの名の通り、サイズごと、味の種類ごとなど、各々の商品のバリエーションに合わせた提案ができる。それは在庫設定、価格設定とも連動し、店舗の粗利改善に寄与すると共に、お客様を迷いなく商品購入へと至らせる。だから、検索結果上のクリックは以前と比べ、2倍以上になっている。
2.システムはインフラとセットで最大化される
物流に関しても、システム運用と実態とを一体で考える。例えば、「ー月ー日までの注文でー月ー日までにお届け」など、配送スケジュールの表記を始めたことで、購買転換率が9%上昇した。
この点は、先日、SOYで何店舗かに、話を聞いた際も、皆が言っていた事にも一致する。口を揃えて「大事なのは、欲しいタイミングで商品を用意できて、送り届けられること」。そう話していたのだ。いつ届くか。それは購入時の決断を大きく左右するという事だ。
参考:全てはお客様が教えてくれた “楽天 SHOP OF THE YEAR 2023”
ただ、お客様の立場で考えれば、それが早いからいいというわけではない。だから、急がない便(仮)なども用意していくなどして、インフラ側に皺寄せがいかない配慮も彼らは行うという。
これらは共通して、倉庫との連携ができていてこそ、活かされることでもあるので、彼らの「楽天スーパーロジスティクス(RSL)は、存在感を増している。楽天市場という括りでまとめられる、スケールメリットを活かし、価格だけでなく、これらサービス品質の向上の部分で、店に還元できるからだ。
3.楽天スーパーロジは受注に柔軟さを出すことで価値が出る
それらを踏まえ、楽天スーパーロジスティクス(RSL)は柔軟性を追っていく。
今後予定しているものには、
- ・メール便の翌日配送
- ・特大サイズの取り扱い
- ・RSLと自動連携ができる受注システムの拡大
・・・などが挙げられる。
また、RSL利用率に応じた在庫補完料特別値引きなど、料金体系にも見直しを行う。
ここまできたところで、物流のリソースを楽天市場の出店店舗の付加価値にする。2024年夏から、配送品質の高い店舗はラベルを付与していく。その名も「最強配送」という。(楽天モバイルの最強プランにかけてのネーミングらしい。。。)。
思うに、物流に関する顧客満足度は、その後の継続度合いにも繋がる。だから、彼らの経済圏にとっても、店にとても、意義は大きい。自ずと、物流施策は、2024年問題もある中で、注力ポイントにすべき点になっていくだろう。
生成AIはなぜ楽天市場にとっての付加価値になるのか
1.生成AIは魔法の杖ではない。
そして、ここからは、時代の潮流を、楽天市場にどう取り入れ、未来を見据えるかという話だ。生成AIに関して、一番、感じたのは店舗の運営のあり方が変わるということ。
例えば、商品説明ページを作成する過程も、変わる。説明文は、商品に関するウェブ上にある予備知識などをもとに、原案を指し示す。また、作られた説明文をヒントにして商品画像に、相応しい背景を入れるなど、提案をしてくれるのだ。
それはECコンサルタントも然り。分析ツールの中身にも生成AIを取り入れる。だから、効果の出る企画を短時間で割り出し、必要なシナリオ作成など、コンサルの立場で必要な業務の精度を上げる。その上で、RMS(管理画面)では、店舗もチャットによるアシスタントの質を向上させ、わざわざECCに聞かずとも解決できるようにして、時間短縮を図る。対話形式で、話が積み上がっていく中で、答えを導き出す生成AIだからできること。
互いに打ち込むべき事にもっと打ち込めるようになる。その為には、生成AIを使いこなせていなければならない。ただ、それは目的なしに、生成AIは使いこなせないのであって、そこが難しい。何も考えず、生成AIを使って売上を伸ばせるわけではないのだ。
2.人情のアップデートたる所以
だから、魔法の杖ではない。出したい答えのイメージがあってそれを絞り込む過程で、生成AIは機能する。それゆえ、店舗自身がその店の価値を今一度、どこにあるのかを考え直すことが急務。それができて、使いこなせるという事になる。
その上で、消費者側の環境も変わる。そこで寄与するのがセマンティック検索だ。
つまり、この検索では、従来のようにぶつ切りの単語ではない。「花火大会に着ていく服で、大人っぽくシックに見える衣服」。そんな会話チックな検索でも、的確に答えてくれるのだ。「子供が遊べるボードゲーム」という検索時の商品転換率は、この生成AIを用いることで+2.7%。
それゆえ、楽天市場が描く「生成AI」はスタッフ側、消費者側の双方が描くイメージが歩み寄った形で、生まれる新しいショッピングである。
3.最新テクノロジーをどう商売に結びつけるか
だから、僕が以前、こう書かせてもらった。
生成AIによって、楽天市場にもたらされるのは“人情のアップデート”だと。
かつての楽天市場とは違うものになっている。そこには以前にも増した費用がかかるし、ここにリソースを割かれることもあるだろう。ただ、そこに、ついていくかどうかは店次第。逆に言えば、どれだけついてくるかに、楽天の未来がかかっている。
経済圏も変容していくし、その働き方も変わっていくと書いた所以だ。
でも、今あるその環境は、近い将来、時代遅れになるはず。だから、そこは真剣に考えていきたいところである。それを店舗に対して指南するのもプラットフォームたる「楽天市場」の使命なのだ。今も昔も変わらない。今あるその環境は、近い将来、時代遅れになるはずから。
今日はこの辺で。