利益を出せる付加価値を求めて「良平堂」女将、カフェに挑む
夢がある話。その一方で一つ山を越えれば、また大きな山が聳え立つ。そんな現実を現在進行形で感じさせるお話。今日は岐阜の恵那まで“栗カフェ”を求めてやってきた。それを運営しているのが「恵那栗工房 良平堂」。栗きんとんのお店だが、元々は街の商店にすぎなかった。けれど、名物女将、近藤 薫さんはせっせと、この地域を盛り上げたいと、ネット通販をはじめ、催事で全国を駆け巡った。そしてその甲斐あって、広大な大地に、菓子工場を併設する「良平堂カフェ&ショップ」を誕生させたのだ。
・小さなお店の大きな革命
この写真を見て欲しい。カフェのテラスから見える景色。見渡す限り、青々とした雲が広がり、栗の栽培をはじめとした田園風景。澄み切った空気が印象的で、広く開放的な店内からそれが見える。街の小さな菓子屋が、ここまでやり遂げた事は圧巻である。
こちらがカフェの内装。この左側にテラスがあり、先ほどの光景が見えるわけだ。テラスにはベンチとブランコがあった。
カフェはショップも兼ねており、自慢の商品がずらり並ぶ。栗づくし。まずは栗納豆をプレゼント用に手に取った。
・可能性を求めて突き進み続けた
「良平堂」がネット通販を始めたのは、今から18年前。当時「ヤフオク!」で近藤さんは、洋服を売っていたから、そこに知見があった。そして、出店料を払って、商売するということは、「ヤフオク!」とは違って確実に売れる素地があるだろう。そういって「楽天市場」の門を叩いたのだ。
以来、AmazonやYahoo! ショッピングなど、ECにもその裾野を広げて、自らの商品価値の最大化に努めた。全ては、「ネットでお菓子のお取り寄せができたら」その彼女の着想からはじまったことである。
そして、その前向きな発想と行動力は今もずっと続いている。
僕は、テラスに出て、近藤さんの横でちょこんと一つの椅子で座らせてもらう。そして、指差す向こうにある栗の畑を見て、「そこで収穫したり、イベントをして交流を深められたら」と近藤さんは、構想を語りだす。それは、自分をここまで鍛えてくれた栗への恩返しなのだなと思った。
・利益を取るために新たに挑戦することも増えた
また、色々な事情を口にしながら「それをやるには、農家にならなきゃいけないのよ」。そう語る。街のお菓子屋であっても、それで十分だったかもしれない。新しくカフェを作り、そしてその横に本格的な生産工場と出荷場所を作った。そうすることで、一段と、大きなものを背負ったのである。ドライな話だが、敢えて僕は「安い単価に対して長居をする傾向が強く、カフェは儲かりづらい業態です」。そう言うと、ニッコリうなづく。
「でも、だからといって、この良平堂カフェは“おまけ”なんて言わないし、言わせない」。そう口にして、この会社の真ん中に据える大事な拠点であることを暗に示した。
この館代は投資であり、それらをきちんと返せるように、カフェ単体で収益がどうすれば作れるのか。これが彼女にとっての新しい挑戦なのだ。だから、先ほどの話に戻ってきて栗の収穫など、「こと消費」に繋げるなどして、未来に向けて策を練っている。
その言葉を聞いて、今までカフェこそなかったが、ずっと「こと消費」だったのかもしれないと思った。近藤さんはよく、口にする。「恵那をきっかけに話が広がり、打ち解けたことは数知れない」と。「今、恵那は寒いの?」。そんな会話がお客様との関係を深めるスタート地点だった。商品が命だけど、それを包み込む大事な付加価値をずっと模索し続けているのかもしれない。
・味と環境のクオリティを上げていく
思えば、ネットを通して、催事のオファーが増えて、会話が増える。そのたび、意識したのは地元への還元。知ってもらい、来てもらいたいと。だから、カフェもその延長線にあるといえるだろう。そう考えると、この一連の施設の建設は自然な流れだったのかもしれないのだ。
ちなみに、こちらが「栗きんとん大福モンブラン」。スライスされた栗きんとんが、生クリームと一緒に米粉のスポンジの上に乗っていて、さらに、栗きんとん大福まで入って、てんこ盛り。また、このスポンジのおかげで、和菓子なのに洋風テイストを醸し出しているのがgood。味は申し分ないだけに、その付加価値の探究はもっと重要になりそうである。
奥に見えるのは、お持ち帰り用で僕が購入した、このお店の限定セット品。スイートポテトや栗のパイなどてんこ盛り。
・名物女将を駆り立てさせるのは何か
聞けば、SNS、メディアなど徹底した戦略で、カフェに人が集まるように開店前から準備していた。それこそ、寝る間も惜しんで。何がそこまで、近藤さんを駆り立てるのか。そう、僕が尋ねると、「だって、そこまでしないと収益など上がらないじゃない」そう語る真剣な目が印象的。
「経営者とは利益を上げることこそ、最大の使命」であり、彼女は栗きんとんを作る職人ではない。「売る」という部分で、ずっと尽くしてきた。けれど、同時に経営者としては、どんな付加価値をもたらし、会社に「利益をもたらせるか」に全力投球してきたわけだ。
このカフェと、併設された製造と出荷のための工場はそれで得たもの。また、それが、右肩上がりの利益を作り出す大事な拠点となることを考慮して、建設に着手したわけだ。手狭で「こんなところで商品を作って、売っているの」と言われた面影はもはやない。ほら、この通り、もうお菓子の工場なのだ。
・全ては付加価値を高めるための投資か
入り口には、職人が入る前に、除菌する設備がある。勿論、梱包スペースにもゆとりを持たせていて、トラックが横付けさせられる出荷場所もある。
社員の士気を高めるための社員食堂も用意されていて、窓から見える景色に僕は唸った。また、専用の料理を作る人を招いて、社員のために、そこでご飯を振る舞うことにしているそうだ。「食べ物」を大切にする意識が、先ほどのお客様との心が通う育みにも生きてくるはずだと。これも、付加価値に直結することではないだろうか。
・現状維持では満足できない。やれることがあるのだから。
当然、「栗カフェを立ち上げて、おめでとう」と言われる。確かにそれは嬉しい。けれど近藤さんはそれ以上に、大きなものを背負ったと語る。それはここまでの語りを聞けばわかるだろう。
帰りがけ、恵那からの電車に乗りながら、以前、近藤さんと話した言葉を思い浮かべた。
「頑張っているだけじゃダメなのよ」。お菓子屋を継いでから彼女は痛感した。お菓子は、単価の安い商材であるから「売上に関する数字も、利益率もとても大事」。例えば、地域に還元するといっても、恵那のリーフレットを入れたりできればいいが、それも難しい。それが適切かは、自分たちの事業に照らし合わせて考える。利益率から考えて、できることをやるべきだと。
その答えは、そのそれぞれの企業ごとに違っている。付加価値と投資のバランスを見ながら、ずっと向き合い続けて、今があるわけだ。
でも、そこで終わりじゃない。もっと大きな付加価値を提供できるとわかったから。それがこの「良平堂カフェ」であり、工場なのである。
これらにより、喜ぶ対象も広がり、その感動の質も深まって、その満足度を更に高めて、企業に「利益」をもたらす。それらを実現することは高く聳え立つ山のように難しいけど、これまでと同じように笑顔で飛び越えようとしている。着物の帯をキュッと引き締めて「頑張るよっ」そんな感じで。
さあ名物女将、“栗カフェ“とともに、いざゆかん。この文章をエールに代えて。
今日はこの辺で。