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初音ミクと浴衣 に施された技術革新 「初音工房」が新しき中に古き良さを伝える

 ボーカロイドでお馴染みの初音ミク。そのデジタルとポップの象徴ともいえる存在が、800年の歴史を持つ伝統工芸──博多織の企業と結びつく。2023年春、伊勢丹新宿店で開催された「初音ミク × イセタン」。そこには、単なるコラボ商品という枠を超えた、深い思想と構造をもった取り組みがあった。

 仕掛け人は、着物ブランド「OKANO」の代表取締役である岡野博一さん。

 これまでの着物の常識を打破しながらも、その文化的な本質を捨てずに挑戦を重ねてきた人物である。だが今回の取り組みは、さらにその先を行く。「OKANO」とは別に「糸口」という新会社で、“初音工房”というプロジェクトを起点に、伝統工芸の未来を描こうとしているのだ。

浴衣と初音ミクは和風でよく似合う

 少しだけ、岡野さんについて触れておきたい。

 彼は、廃業が決まっていた1897年創業の博多織の織元を継いで現在に至る。父親が博多織の職人であったこともあり、その理念と矜持は深く受け継がれている。だが彼自身は、職人にはならなかった。むしろ、ベンチャー企業を経営していた経験を活かし、経営者として織元を再生させることに使命を見出した。

 流通のあり方に疑問を持ち、古い慣習を問い直しながらも、“良いものを作り、未来へ伝える”という精神を忘れなかった。その柔軟さと覚悟こそが、岡野さんの最大の武器であり、文化を“残す”ではなく“生かす”というスタンスに表れている。

キャラクターをただ使うのではない

 そんなわけで、僕も以前から、岡野さんからはキャラクターとのコラボの話をしたいことは聞いていた。だからというわけではないが、近況を聞くと、まさに初音ミクとのコラボをしているという。絶妙なタイミングでそれを耳にしたから、伊勢丹新宿店に急行したわけだ。

 とはいえ、彼らしいと痛感したのは、単純にキャラクターグッズを作ってはいないからだ。プロジェクトとして成立させており、そこには、継続的な視点で、文化を伸ばす気概も感じられた。

 版権元クリプトンフューチャーメディア社と連携して「初音工房」というプロジェクトを立ち上げた。具体的には、初音ミクがその公式アンバサダーとなって、伝統の魅力を伝えてもらうのである。

「初音工房」は、そんな岡野さんが生み出した“座組”だ。

 初音ミクとのコラボを商品化しただけではない。そこには、技術があり、物語があり、そしてビジネスとしての仕組みがある。

 伝統工芸に携わる職人たちは、皆それぞれの分野で高い技術を持ち、強い美意識を持っている。しかし、彼らの多くは営業を仕事とせず、あくまでものづくりに徹している。その結果、どれだけ素晴らしいものを作っていても、現代のマーケットと接続されずに埋もれてしまうケースも少なくない。

伝統を織り交ぜながら高めあう

 彼は思いがけず、こんなことを口にした。

 「国が認定する伝統工芸品は、何個あると思いますか?」

 その答えは、若干の変動はありながら、228個。そういうものもこういう企画と連動させながら、魅力を伝えられたらと構想を語るのである。やはり伝統を重んじながら、未来へつなげる張本人だ。実際、伊勢丹新宿店での他のフロアを見れば、定番のキャラクターグッズが多い。それはそれで間違ってはいないし、需要がある。ただ、彼らの場合は「初音工房」というプロジェクトのお披露目で、商品も本邦初公開である。

 イメージはこのような感じで、初音ミク自体も全面に出てくる。クリエイターの「がり」さんが手掛けていて、その気合の入りようがわかる。さて、その商品は、浴衣や履き物、帯であり、その実物が展示。受注発注形式で、一点一点、販売する形式を取った。金額は、10万円を超える代物もあるが、それに相応しい工夫が凝らされている。

初音尽くし紋様というキャッチを生み出す

 着物を活かすアプローチなのである。まず彼らが編み出したのが「初音尽くし紋様」である。これらは、浴衣などに施される。いずれも初音ミクを連想させるアイコンで、モノグラムで可愛らしく表現している。このような感じだ。

 その一方で、浴衣も「雪花絞」という着物の染め方を用いている。

 岡野さんが手にしている生地は、雪の結晶のような発色をしているだろう。「雪花絞」と呼ばれる、雪にちなんだモチーフである。数ある中で、これをチョイスしたのは、クリプトン社が北海道発祥だから。なるほど。

 つまり、岡野さんは、こうやって伝統工芸を動かす、一つの「歯車」として、初音ミクというキャラクターを選んだわけだ。

そして、その「構造」をこう設計した。

  • 岡野さん側(糸口)がライセンス元であるクリプトン・フューチャー・メディア社と正式に交渉し、使用許諾を取得
  • 職人たちは、伝統工芸の文脈を大切にしながら、初音ミクとのコラボ商品を制作
  • 職人は希望する価格で商品を糸口に卸し、糸口はそこにロイヤリティとマーケットに応じた付加価値を乗せて販売価格を設計
  • 販売リスクは糸口が持ち、販売戦略・販路開拓を担う

 この仕組みによって、職人は営業活動に時間を取られることなく、自身の誇る技術に集中できる。そして糸口は、「キャラクターを軸に伝統工芸をアップデートする」役割を担い、現代の消費者との接点を生み出すことができるのだ。

博多織で引き立つ印刷技術

 その一方で、このプロジェクトの仕組みがより具現化されるように岡野さんは奔走する。プロジェクトとして規模感をより大きな影響を持って、成立させる為にエプソンを巻き込んだのである。

 エプソン自体は、浴衣などとは縁もゆかりもない。ただ、彼が着目したのは同社の最新鋭の印刷技技術だ。ここの部分に先ほどの「初音尽くし紋様」が意味をなす。博多織・絞り染めなどの要素とエプソンの最新鋭の印刷技術をかけあわせて、オーダーごと、その紋様を入れて、オリジナル制作ができる仕様にしたのである。

 これまでのエプソンではできないこと。だからこそ、意味がある。

 今回の企画を通してその印刷にまつわる技術革新を披露することはエプソンにプラスである。また、その露出が広がれば浴衣の価値が向上する。その価値向上に寄与するのが「初音尽くし紋様」。

 それ自体は初音ミクにとって伝統と格式を持った新しいイメージの創出につながる。この仕組みは、互いにその強みを補完しあっている点で、プロジェクトとしての体裁をなしている。

 浴衣への想い。そして、よりそれを活かすためのキャラクターの活用。そして、受注発注をベースにした手堅いリスクを抑えた取り組み。さらにはエプソンを巻き込みながら、新しさを伝えていく。

 その商品も、その製法も「メディア」ではないか。個々の強みは連携させ、同じ方向を向かせることで、僕ら心に感動的な奏でを響かせてくれるのである。

 「文化を残す」のではなく、「文化を届ける」。 岡野さんがつくった“初音工房”は、伝統と未来の両方に橋を架けた、新しい座組みのかたちである。

 今日はこの辺で。

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