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数字は答えではない──イングリウッドが実践する「市場を見える化する」商品開発

 商品開発というと、優れたアイデアや感性から生まれるものだと思われがちだ。しかし、第80回Next Retail Labフォーラムで、株式会社イングリウッド 戦略コンサルティングチーム ゼネラルマネージャーの石原田拓郎氏の話を聞いて、思ったのだ。その前提が彼らは少し違っていると。数字を見ているのではない。数字を整理しているのである。同じデータでも、どこを切り取り、どの数字を並べ、どう共通化するかによって、見えてくる景色は大きく変わる。

 今回のテーマは「オンラインを起点とする商品開発」だった。しかし、実際に語られていたのは、商品を作る技術というより、市場そのものをどう理解するかという方法論だった。商品企画から製品開発、クリエイティブ、マーケティング、販売、そしてPLによる検証まで。それぞれを分断せず、一気通貫で判断できるように仕組み化している点が印象的だった。

 なかでも興味深かったのは、数字を個別に見るのではなく、誰が見ても同じ判断ができるよう「共通言語」に変えていたことである。その仕組みがあるからこそ、自社ブランドの開発だけでなく、コンサルティングでも再現性の高い提案が可能になる。

① 商品を作っているのではない。市場を見える化している

①-① 商品より先に、市場を設計する

 イングリウッドの商品開発を見ていて感じたのは、「商品を作る会社」というより、「市場を見える化する会社」という印象だった。

 一般的には、「こういう商品を作りたい」という発想から開発が始まることが多い。しかし彼らは、その逆である。まず市場を見て、どこに需要が存在するのかを整理する。そして、その市場に対して最も適した商品を設計していく。

 だからこそ、商品開発も一つの工程だけで完結しない。まず商品企画で方向性を定め、次に商品の具体化とクリエイティブを進め、さらに製造とマーケティングの準備を経て、最後にテスト販売を行うという四段階の流れが用意されている。商品は完成してから売り方を考えるのではなく、企画段階から販売までを一つの流れとして設計しているのである。

①-② 「ぐるぐる回す」が仕組みを強くする

 その象徴が、商品企画チームとマーケティングチームが初期段階から一緒に議論する体制だった。商品案を考えるだけでは終わらない。その商品は、どう伝えればユーザーに届くのか。逆に、その訴求が成立しないなら、商品そのものを見直す。登壇では、この二つを「ぐるぐる回す」と表現していたが、この言葉が非常に印象的だった。商品とマーケティングを別々に考えないからこそ、企画の段階で市場とのズレを修正できるのである。

 OEMとの付き合い方も同じ考え方だった。提案を待つのではなく、あらかじめ自分たちで市場を分析し、「こういう商品を作る」という設計図を固めたうえで開発を進める。OEMは、その設計を実現するパートナーという位置付けである。つまり、商品開発の主導権は常に自分たちが握っている。

 この一連の話を聞いていて思ったのは、彼らが作っているのは商品ではなく、「判断の仕組み」なのだということだった。市場を理解し、その理解を商品へ落とし込み、販売後も数字で検証する。その一連の流れが共通化されているからこそ、担当者が変わっても、大きく判断がぶれないのである。

② 楽天市場は販売チャネルではない。「今」という時代を映すマーケットだった

②-① 売上データから、市場を読む

 では、その市場は、どのように見つけるのだろうか。

 この点で非常に興味深かったのが、楽天市場をはじめとするECモールのデータ活用だった。

 もちろん、楽天市場は商品を販売する場所でもある。しかしイングリウッドは、それ以上に「マーケットを知る場所」として活用していた。多くのユーザーが集まり、日々売れ筋が入れ替わるECモールには、その時代の消費者が何を求めているのかが、そのまま数字となって表れている。彼らは、その数字を市場そのものとして読み解いていたのである。

 具体的には、Nintなどを活用しながら、楽天市場やAmazonの売上データを俯瞰する。そして、伸びている商品を抽出したうえで、それらを十項目ほどの要素に分解する。「目に見えて変化が分かる」「効果をイメージしやすい」「訴求が直感的に伝わる」といった切り口ごとに整理し、どの要素を持った商品が市場で伸びているのかを分析していた。重要なのは、個々の商品を見ることではなく、複数の商品に共通する特徴を導き出すことである。

②-② レビューは「次の商品」の設計図になる

 さらに、自社の商品データも組み合わせる。レビューを分析し、どんな不満があり、どんな評価が高いのかを年代別まで含めて整理する。すると、まだ十分に満たされていないニーズや、新たな切り口が浮かび上がってくる。ここで面白いのは、「売れている商品を真似する」という発想ではないことだ。売れている理由を構造化し、その中で市場に残された余白を探していくのである。

 僕は、この部分に最も学びがあると感じた。数字そのものに価値があるのではない。数字をどのような単位で整理し、共通項として抽出するか。その整理の仕方次第で、市場の見え方は大きく変わる。イングリウッドが強いのは、データ分析が得意だからではない。データを「共通言語」に変え、誰もが同じ景色を見られる状態をつくっているからなのである。

③ 「悩み」を分解すると、新しい商品が見えてくる

③-① 悩みを、そのまま商品にしない

 市場の方向性が見えても、それだけでは商品にはならない。次に必要なのは、「ユーザーは何に困っているのか」を具体的に捉えることである。

 ここでも印象的だったのは、「睡眠」や「疲労回復」といった言葉を、そのまま受け止めていない点だった。

 例えば、「睡眠」という市場が伸びているから睡眠関連の商品を作る、という発想ではない。なぜ睡眠に悩んでいるのか。その悩みはどんな年代に多く、どんな場面で現れ、既存の商品では何が満たされていないのか。その背景を一つひとつ分解していく。そうして初めて、本当に商品化すべきテーマが見えてくるのである。

 その際に特徴的なのが、一つのカテゴリーだけを見ないことだった。

 美容液を開発するからといって、美容液市場だけを分析しても、新しい発想は生まれにくい。そこで彼らは、カテゴリーを横断しながら、別の商品で成功している要素を抽象化していく。「目に見えて変化が分かる」「効果をイメージしやすい」「直感的に伝わる」といった共通項を抜き出し、それを別のカテゴリーへ応用できないかを考えるのである。

③-② 「売れる理由」を分解すると余白が見える

 さらに、自社ツールで楽天市場のレビューも分析する。ただ「良い」「悪い」を集計するだけではない。年代別の傾向や、不満として繰り返し現れる言葉を整理することで、まだ商品化されていないニーズを探し出していく。売れている商品だけを追い掛けるのではなく、「なぜ、その評価になったのか」を数字と言葉の両面から読み解いているのである。

 僕は、この考え方は商品開発に限らないと思った。

 「睡眠」という曖昧な言葉を、そのまま扱うのではなく、さらに細かな要素へと分解していく。そして、それぞれを客観的なデータと照らし合わせながら、市場の輪郭を浮かび上がらせる。その積み重ねによって、「なんとなく売れそう」ではなく、「この市場には、まだこの切り口が残っている」という判断ができるようになる。

 つまり彼らが行っているのは、数字を見ることではない。曖昧な悩みを、誰もが判断できる材料へ置き換えていく作業なのである。

④Aurelieは「ひらめき」ではなく、分析を積み重ねた必然だった

④-① 商品ではなく、世界観を設計する

 こうして整理された市場理解は、実際の商品にも反映される。その代表例として紹介されていたのが、スキンケアブランド「Aurelie(オレリー)」である。

 同ブランドは、MEGUMI氏がプロデュースするブランドとして知られている。しかし、話を聞いていて感じたのは、有名人を起用したから成功したという単純な話ではなかった。

 むしろ、その前段階にある市場分析こそが重要だったのである。

 どんな悩みが存在するのか。どんな言葉なら共感を得られるのか。どういうベネフィットならユーザーに伝わるのか。商品そのものだけでなく、ランディングページの構成やクリエイティブ、見せ方まで含め、一つの世界観として設計されていた。

 だからこそ、商品が完成して終わりではない。販売後も広告やLPの改善を繰り返しながら、ユーザーの反応を数字で検証し、次の改善へつなげていく。PDCAを回すほど精度が高まるのは、最初の市場分析と商品設計が一本の線でつながっているからである。

④-② 成功も失敗も、仕組みで説明できる

 それを裏付けるように、登壇では失敗事例も紹介された。

 洗顔機能を備えたクレンジング商品では、「クレイ」という特徴を前面に打ち出したものの、その価値がユーザーに十分伝わらなかった。また、継続率も伸びず、タレント起用も表面的に終わり、最終的には広告を止める判断をしたという。単に商品力が足りなかったという話ではなく、「ユーザーが欲しいと思う理由」まで設計できていたかどうかが明暗を分けたのである。

 一方で、オレリーでは、MEGUMI氏自身が商品開発の段階から深く関わることで、ブランドストーリーにも説得力が生まれた。単なる広告塔ではなく、商品そのものと一体になっていたからこそ、訴求にも一貫性があったという説明は非常に納得感があった。

 ここでも共通しているのは、「勘」で判断していないことである。

 市場分析から商品企画へ、商品企画からクリエイティブへ、クリエイティブから販売へ。そして販売後の数字を、再び商品企画へ戻していく。その循環があるからこそ、一つのブランドは偶然ではなく、必然として育っていく。

 オレリーの成功は、一つの商品が当たった話ではない。市場を構造化し、その構造に沿って商品を育てていく仕組みが機能した結果なのだと感じた。

⑤ CPA・F2・LTVは、「数字」ではなく仮説を検証するための道具だった

⑤-① 商品は、数字で答え合わせをする

 商品を市場に投入した後も、イングリウッドの商品開発は終わらない。

 むしろ、ここからが本番なのだと感じた。

 商品は市場に出して初めて、お客様から答えをもらえる。その答えを感覚ではなく、数字として受け止めるために、彼らは見るべき指標を極力絞り込んでいた。

 その代表が、CPA、F2転換率、そしてLTVである。

 まず見るのは、広告によって一人のお客様を獲得するために、どれだけ費用がかかったのかというCPAである。ただし、総額だけを見るわけではない。媒体ごとのCPAも並べながら、どの広告が効いているのかを比較していく。

 続いて重要視していたのが、F2転換率だった。

 定期通販では、一度購入してもらうこと以上に、二回目につながるかどうかが重要になる。登壇では、この数字がカテゴリー平均を上回るか下回るかで、その商品が本当に市場に受け入れられているかを判断していると説明していた。二回目につながれば、その後の継続率はある程度予測できるため、この数字が商品の良し悪しを測る重要な材料になるという考え方である。

⑤-② 数字は管理ではなく、検証だった

 最後に見るのが、一人のお客様が最終的にもたらす利益であるLTVだ。

 CPAだけを見ると赤字に見える商品でも、継続率が高ければ、時間をかけて利益を生み出す商品へ変わる。そのため、短期的な利益だけでは判断しない。広告費を先行投資と捉え、継続利用まで含めて事業全体を設計しているのである。

 僕は、この話を聞きながら、「数字を管理している」のではなく、「仮説を検証している」のだと感じた。

 市場分析によって導き出した仮説は、本当に正しかったのか。商品の切り口は合っていたのか。訴求は伝わったのか。その答えを、CPA、F2、LTVという三つの数字を通して確かめているのである。

 だから、数字はゴールではない。

 商品企画の段階で立てた仮説が、現実の市場で正しかったかどうかを教えてくれる材料なのである。

⑥ 自社ブランドとコンサルティングが、お互いを強くしていた

⑥-① 二つの事業が、一つの知見を育てる

 こうした話を聞いていて、もう一つ面白いと思ったことがある。

 それは、イングリウッドがコンサルティング会社でありながら、自社ブランドも展開していることである。

 一般的には、コンサルティングとメーカーは別々の仕事として考えられる。しかし彼らは、その二つを分けていなかった。

 自社ブランドで商品を開発し、販売し、お客様の反応を数字で検証する。その知見をコンサルティングへ生かす。一方で、コンサルティングを通してさまざまなカテゴリーの市場を分析し、その知見を再び自社ブランドへ戻す。この循環が、会社全体の強みになっているのである。

 そのため、OEMとの関係も一般的なものとは少し異なる。

 OEM企業から提案を受け、それを選ぶという形ではない。市場分析によって方向性を定め、「こういう商品を作る」という設計図を自分たちで描いた上で、それを実現できるOEMを探していく。だからこそ、競争が激しい市場でも、既存商品の後追いではなく、新しい切り口の商品を生み出しやすいのである。

⑥-② 市場を見る力は、実践で磨かれる

 さらに、自社ブランドを持っているからこそ、販売後の知見も蓄積される。

 例えば、三ツ星ファームでは、CRMやアプリ、同梱物などを工夫しながら継続率を高める取り組みを続けている。オレリーでも、商品だけではなく、LPやクリエイティブ、広告運用まで含めて改善を繰り返している。こうして得られた知見は、そのままクライアント支援にも応用できる。逆に、コンサルティングで見えてきた市場の変化が、自社ブランドの商品開発にも生かされる。

 ここまで見てくると、イングリウッドの強みは、自社ブランドがあることでも、コンサルティングができることでもない。

 その二つを循環させることで、市場を見る解像度を上げ続けていることにある。

 市場は常に変化する。だから、一度成功したやり方だけでは通用しない。その変化を、自社ブランドという実践の場で確かめ、コンサルティングという俯瞰の視点で整理し、再び商品開発へ戻していく。その循環があるからこそ、商品ごとではなく、「市場を見る力」そのものが磨かれていくのだと感じた。

⑦ 共通化された判断基準が、商品開発を再現可能にする

⑦-① 商品ではなく、仕組みが資産になる

 ここまで見てきて思うのは、イングリウッドの強みは、特別な商品を作ることではないということである。

 もちろん、自社ブランドとしてオレリーや三ツ星ファームを育ててきた実績は大きい。しかし、その実績以上に価値があるのは、その成功を偶然で終わらせず、誰もが再現できる形へ整理している点ではないだろうか。

 市場をどう見るのか。どんなデータを集めるのか。何を基準に商品を企画するのか。どう販売し、どう数字を検証するのか。

 その一つひとつが共通言語として整理され、商品企画から販売まで同じ判断軸でつながっている。だから、担当者が変わっても、カテゴリーが変わっても、大きく判断がぶれない。商品そのものではなく、「商品を生み出す仕組み」が会社の資産になっているのである。

⑦-② データを意思決定へ変えるという学び

 商品は、水物である。

 どれだけ売れているブランドでも、市場は変化し、ユーザーの価値観も移り変わる。EC市場も成熟し、新規参入は難しいと言われることが多い。しかし、その一方で、市場が成熟しているからこそ、多くのデータが蓄積されているとも言える。

 イングリウッドは、その蓄積されたデータの中から、まだ満たされていないニーズを探し出していた。

 売れている商品を追い掛けるのではない。

 売れている理由を構造化し、その中で市場に残された余白を見つけていく。

 その考え方は、商品開発だけに限った話ではないように思う。

 どんな業界でも、お客様の声は集まる。売上もある。アクセス解析もある。レビューもある。ただ、それぞれを別々に見ていては、断片的な情報のままで終わってしまう。重要なのは、それらをどう整理し、どんな共通項を見つけ、次の判断につなげるかである。

⑦-③ 数字は答えではない

 今回の講演を通じて、僕は改めて、数字は答えそのものではないのだと感じた。

 数字は、市場を映す素材に過ぎない。

 その素材を整理し、共通化し、判断できる形へ変えていくことで、初めて市場の姿が見えてくる。そして、その判断基準を仕組みとして積み重ねていくことが、変化の激しい時代でも、新しい商品を生み出し続ける力になる。

 イングリウッドの話は、オンラインを起点とした商品開発のノウハウという枠を超え、「データをどう意思決定へ変えるか」という普遍的なテーマを示していた。その意味で、多くの企業に応用できる学びが詰まった講演だったと言えるだろう。

 今日はこの辺で。

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