売れていない国に、顧客はいないのか──ジグザグ、MAYLAが台湾・ドイツで見つけた越境ECの次の一手

いい意味で、越境ECという概念が覆されたように思う。日本だけでなく、海外の人にも商品を買ってもらい、今より売上を伸ばす。そのために越境ECに挑戦する。もちろん、それも一つの目的だ。けれど、ジグザグの松野亘さんと話していて、本質はそこだけではないのかもしれないと思った。
自社のブランドを受け入れてくれる人を、これまでとは違うフィルターを通して拾い上げていく。その感覚には、「日本だから」「海外だから」という境界そのものがない。ただ、自分たちのブランドを好きになってくれる人が、まだ出会えていない場所にいる。越境ECとは、その人たちと出会うための手段なのだと思った。
1.台湾で見つけた、「売る」より先にあるもの
ここで紹介したいのは、ファッションブランド「MAYLA」である。「体温が2℃あがる」。そんな言葉をコンセプトに、独創的なデザインのシューズやアクセサリーを展開している。
ここで、ファッションの話をするのかと思われるかもしれない。だが、今回注目したいのは、そこではない。
MAYLAは、アニメやキャラクター作品の世界観を、単なるキャラクターグッズではなく、「ファッション」として再解釈したコラボ商品を数多く生み出している。そして、その独自のものづくりが、海外で思いがけない成果を生み出していたのである。
ことの発端は、2026年5月。MAYLAが台湾で開催したポップアップだった。とはいえ、その場に在庫を持ち込み、商品を販売する一般的なポップアップとは少し違う。
ここで僕が注目したのが、越境ECのサービスを手がける、ジグザグの存在である。
2.越境ECは、「待つ」だけのものなのか
これまでジグザグが提供してきた越境ECの仕組みは、海外の人が日本のECサイトへやって来るのを「待つ」ことでも成立した。
彼らが提供するWorldShopping BIZが担ってきたのは、日本のECサイトを訪れた海外の顧客が、言語や決済、物流などの壁によって購入を諦めないための仕組みである。つまり、すでに日本の商品に興味を持ち、ECサイトまでたどり着いた人の購入を支えてきた。
ところが、彼らはそこから一歩踏み出した。自ら台湾へ出て、現地法人まで構え、その仕組みを、海外におけるリアルとECをまたぐ購買導線として活用しようとしている。ECサイトで顧客を待つのではない。リアルな場所にブランドとの「出会い」をつくり、そこで生まれた興味や熱量を、そのままECでの購入へつなげていく。
そうすることで、ブランドは日本国内と同じように、リアルな体験価値を起点として、海外でもファンの裾野を広げていける。
その実践の場となったのが、台湾でのMAYLAのポップアップショップだった。
来場者はMAYLAの商品を実際に見て、触れて、試着する。そして欲しいと思えば、QRコードを読み込み、日本のMAYLAのECサイトへアクセスする。WorldShopping BIZを通じて購入すれば、商品は後日、日本から購入者のもとへ届けられる。
3.「待つ」から、「出会いにいく」へ
① 9割が新規だった、その意味
その結果、MAYLAの台湾向け越境EC売上は、約10倍に伸びた。これには驚いたが、それ以上に興味深い数字があった。購入者の約9割が、新規顧客だったのである。
これは当初の想定とは違っていたと、松野氏は振り返る。なぜなら、MAYLAは、それ以前から台湾で商品が売れていた。その購買データを見ていたジグザグも、「台湾にはすでにファンがいる。現地で商品に触れられる機会を作れば、その人たちが来てくれるだろう」と考えていたのである。
もちろん、実際にファンは来た。ところが、商品を購入したのは、そうした既存のファンだけではなかったのだ。
② 越境ECが「出会う仕組み」に変わる
以前から少し気になっていた人。たまたま立ち寄った人。MAYLAをまだ深く知らなかった人。そうした人たちが、実際に商品を手に取り、試着することで興味を持ち、その場でECから購入していったのである。
「新しいお客様にアプローチできる価値が、すごく見えてきた」
松野氏が台湾で得た発見は、まさにそこにある。これまでの越境ECが、すでに日本の商品に興味を持っている海外の顧客の購入を支えるものだとすれば、リアルな体験を組み合わせることで、その一歩手前にいる人たちにまで接点を広げることができる。
つまり、待っているだけでは出会えなかった人に、こちらから出会いにいく。台湾で見えたのは、越境ECを「売るための仕組み」から、「新しい顧客と出会うための仕組み」へと広げていく可能性だった。
4.売れた国ではなく、まだ出会えていない国へ
台湾でのこの経験は、MAYLAの海外に対する見方も変えていった。実はMAYLAには、それ以前からドイツのAnimagiCへの出展オファーが何度も届いていた。しかし、市場が読めない。現地へ行って、本当に成果が出るのかも分からない。そのため、なかなか出展には踏み切れずにいた。
そこに、台湾での経験が生まれた。
海外へ出れば、今まで数字には表れていなかった顧客に出会える。その手応えがあったからこそ、次にドイツから話が来たとき、MAYLAは一歩を踏み出すことができた。台湾で得た実感が、さらに遠い欧州へ向かう後押しになったのである。
売れている国へ、売りに行った。しかし、そこで本当に見つけたのは、まだ売上になっていなかった顧客だった。台湾で得たこの発見が、ドイツへと続く今回の挑戦の出発点になったのである。
5.MAYLAを知らない。でも、「好き」は知っている
台湾の次にMAYLAが向かったのは、ドイツである。舞台となったのは、日本のアニメやマンガを扱う出版社を背景に、1999年から続くイベント「AnimagiC」だ。
毎年、ドイツだけでなく周辺国からも、日本のアニメやマンガを愛する人たちが集まり、コスプレを楽しみ、作品やグッズを買う。松野氏によれば、3日間で約3万5000人が来場するという。
そこへ、ファッションブランドであるMAYLAが出展した。この組み合わせこそ、今回の事例を考えるうえで重要である。
MAYLAの主力商品は、シューズやスカート、ブラウス、アクセサリーなどだ。一方で、日本のアニメやIPとのコラボレーションも数多く手掛けている。
つまり、顧客がMAYLAへたどり着く入口は、「ファッション」だけではない。MAYLAというブランドは知らない。でも、好きなアニメは知っている。その作品をモチーフにした商品を会場で見つけ、「こんなものがあるんだ」と足を止める。実際に手に取り、試着してみる。
そして、そこで初めてMAYLAというブランドを知る。「ブランドを知る→商品を見る」という順番だけではなく、「好きな作品→商品との出会い→ブランドを知る」という逆向きの導線が成立するのである。
6.世界に散らばる「好き」を、ブランドへの入口
だから、僕は、冒頭、「これまでとは違うフィルターを通して拾い上げていく」と書いた。言葉を選ばずいえば、この越境ECの話は「海外だから売れた」のではない。
極論、国内外を問わず、顧客との入り口は何も「ファッション」でなくてもいいのである。そう考えれば、AnimagiCはMAYLAにとって格好の場所だった。自分たちの強みである、IPの世界観を取り込んだデザイン性の高いファッションを、まだMAYLAを知らない人たちに届けられるからだ。
国が変わっても、それぞれに好きな作品があり、日本のアニメやIPから大きな影響を受けている人たちがいる。松野氏によれば、その熱量そのものは日本と変わらなかったという。
これは、MAYLAが海外へ広がっていくうえで大きな意味を持つ。海外でブランドを広げようとすれば、普通は「MAYLAという名前をどう知ってもらうか」から考える。しかし、必ずしもゼロからブランド名を覚えてもらうところから始める必要はない。
MAYLAを知らなくても、「好きな作品」をすでに知っている人は、世界中にいるからである。
ファッションという入口だけでは接点を持てなかった人と、IPを通じて出会う。作品への興味から商品を手に取り、試着し、そこで初めてMAYLAのデザインや品質に触れてもらう。
これこそが、ジグザグが自らの仕組みを通じて掘り当てた、日本ブランドの新たな成長の可能性なのである。
7.「11倍」の数字より、僕が気になったこと
①台湾以上に驚かされた数字
では、実際にAnimagiCでは何が起きたのか。結果だけを見れば、数字は強烈である。イベント期間中、MAYLAの欧州向け越境ECの日次売上は、開催前と比べて約11倍に伸びた。
この結果もまた、ジグザグにとっても想定以上だった。台湾では、ポップアップをきっかけに越境ECの売上が約10倍に伸びていた。しかし、それまでの購買データを比較すると、台湾のほうがドイツよりMAYLAとの親和性は高かった。
そのため松野氏も、「さすがに台湾ほどの爆発力はないだろう」と考えていたという。ところが、蓋を開けてみれば、ドイツでも同じような瞬間風速が生まれた。
そして、約11倍という数字以上に興味深い事実がある。
②ほぼ全員が試着していたことが明かす現実
商品を購入した人のほぼ全員が、試着をしていたことだ。AnimagiCの会場では、来場者がMAYLAの商品を見て、触れて、実際に身につける。欲しいと思えば、その場でQRコードを読み込み、ECサイトへアクセスして購入する。
靴を履いてみて、自分の足にフィットすることが分かる。鏡を見る。一緒に来た彼氏から「似合う」と言われる。そこで表情が変わり、「欲しい」という気持ちが生まれていく。
ECの画面だけでは起こせなかったかもしれない購買のきっかけが、目の前で生まれていたのである。
そして、ここでもジグザグの仕組みが効いてくる。彼らが提供するのは、海外に販売網を構築するというより、海外の顧客に代わって日本の商品を購入し、その人のもとへ届ける「買い物代行」である。だからこそ、国ごとに販売の仕組みを一から作るのとは違う形で、リアルで生まれた「欲しい」を、日本のECでの購入へつなげやすい。
リアルで商品に触れ、欲しくなったら、日本のECから買う。その国境も、リアルとネットの垣根もまたいだ購入スタイルを作りやすいことは、ジグザグにとって大きな差別化要因になりうるのではないか。
実に面白い。
8.ECでは見えなかった、「買わなかった理由」
リアルな接点によって見えたのは、買った理由だけではない。
むしろ、これから海外市場を広げていくうえでは、「なぜ買わなかったのか」が見えたことも大きい。AnimagiCの会場でMAYLAの商品を試着した人の中には、商品を気に入りながら、購入には至らなかった人もいた。
つまり、MAYLAのシューズは、女性向けでは40までのサイズ展開だった。ところが、会場で来場者に希望するサイズを聞いてみると、41、42、43といった、そもそもMAYLAには用意されていないサイズを求める人が約3割いたという。
欲しくないのではない。欲しいのに、自分に合うサイズがないから買えないのである。
「この違いは大きい」。
EC上では、どちらも同じ「購入しなかった人」に見える。しかし、商品に魅力を感じなかった人と、商品は欲しいのにサイズがなくて買えなかった人とでは、企業が次に取るべき行動はまったく違う。
後者が一定数いると分かれば、それは単なる「離脱」ではない。サイズ展開を見直すことで、売上へ変えられる可能性のある需要である。現地へ行ったことで、ECの数字では「売れなかった」で終わっていた人が、「なぜ売れなかったのか」まで見える顧客になったのである。
9.「海外」という市場は、どこにもない
① 台湾とドイツでは、「欲しい」が違った
しかも興味深いのは、ドイツで見えたサイズの問題が、台湾ではそれほど顕著ではなかったことである。違ったのは、サイズだけではない。売れる商品にも、それぞれの市場の個性が表れた。
台湾では、キラキラしたアクセサリーなど、「かわいい」と感じられる商品への反応が強かった。一方、ドイツではシューズやスカートなど、よりアパレルそのものが売れた。IPについても、台湾とドイツでは人気を集めるタイトルが異なっていたという。
② 一つの壁を越えれば、次の壁が見えてくる
さらに違いが表れたのが、商品以外にかかるコストへの感覚である。
商品そのものの価格については、台湾とドイツで受け止め方に大きな差はなかった。MAYLAの商品は、スカートでも3万円程度する。決して安価ではない。それでも、ドイツで商品価格そのものが特別高いと受け止められていたわけではなかった。
一方、欧州の顧客から聞かれたのが、日本から取り寄せることで発生する送料や関税などへの懸念だった。
「オンラインでは試着できないから買いづらい」という壁に対して、今回は現地で試着できる環境を用意した。すると、その壁を越えた先に、今度は「日本から買うと、最終的にいろいろなコストがかかる」という別の壁が見えてきたのである。
台湾でうまくいった方法を、そのままドイツへ持っていけばいいわけではない。サイズも、好まれる商品も、IPも、購入をためらう理由も違う。「海外」という一つの市場があるのではない。現地へ行くことで初めて、それぞれの国にいる顧客の顔が見えてくるのである。
10.国境を越えて、自分たちを知る
① 「海外へ売る」ことが目的ではない
「人も、事業も、越境することで磨かれる」
これは、松野氏の言葉である。もし一つの国に留まっていたら、サイズの違いも、好まれる商品の違いも、IPへの反応も、送料や関税への感覚も、ここまで具体的には見えてこなかったかもしれない。
つまり、単純に「日本だけでなく、海外の市場も取りに行く」という話ではない。「海外へ行くこと」が目的なのではなく、自分たちをまだ知らない人と出会うために、どのフィルターを通すのかを考える。そのフィルターの一つがIPであり、リアルな体験であり、結果として国境を越えていただけだった。
そして、外へ出ることで初めて、自分たちは誰に、何を魅力として受け入れられるのかが見えてくる。
「もっと海外で売りたい。でも人が入ってこない。どう集客すればいいのか」
そんな声もよく聞かれる。しかし、そもそも商品やブランドを知られていなければ、ECサイトへアクセスする理由がない。知らないブランドの名前を検索することも、URLを直接入力することもない。SNSで偶然大きく広がるのを待つだけにも限界がある。
② 「集客」の前に、出会う場所をつくる
だから松野氏は、「集客」のさらに手前にある、「知ってもらう機会」そのものを作る必要があると考えるわけだ。そのために、生活の拠点を台湾に移してまで挑戦している。
「これ、MAYLAだけじゃ、もったいないですよね?」
そう僕が言うと、松野氏は大きく頷き、ジグザグが次に考えている構想を明かした。
「うちが20ブランドとかを集めて」
つまり、まだその国では知られていない日本のブランドをジグザグが選び、テーマごとに複数集める。
そして、海外の顧客が実際の商品に触れられる場所を作る。一社の成功事例で終わらせず、台湾、そしてドイツで見えてきた可能性を、次の日本ブランドへ広げていく構想である。
なるほど。どのブランドも、MAYLAのように単独で海外へ出て、チャレンジできるわけではない。だからこそ、ジグザグがその入口を作り、門戸を開くわけだ。これも実に面白い。
そのために今日も松野氏は、生活の拠点を移した台湾で、次の仕掛けを模索している。日本企業の飛躍は、これからだ。
今日はこの辺で。







