“コールセンター”の舞台裏 DMC 高橋貞光さんが明かす オペレーターが慕われる理由
コールセンターは通販企業にとっての最大の価値である。お客様はこのオペレーターとのやり取りで、商品の魅力を理解し、健康を意識して、人生を謳歌する。とはいえ、そのオペレーターが何をしているのかは語られることがないから、DMCの高橋貞光さんに取材を試みた。彼は、CRMの第一人者 やずやの西野博道さんの理論を現場で実践した張本人である。
西野さんの CRM 一番弟子 高橋貞光氏が語る
1.オペレーター は 通販 の秘密兵器
より深い話ができるようにと、この日、彼のCRMの“師匠”である西野さんにも同席してもらうことにした。僕が気になっているのは、接客するほど、お客様の信頼が向上して、ファンになっていくそのメカニズムである。現場では何が行われているのか。その為には、実践者に話を聞く他ない。
最初は商品に対しての不安もあるだろう。商品を購入した後、まず最初にオペレーターがお客様に確認するのは商品の「効果の実感」である。それをケアしつつ、徐々にその実感を確認しながら、会話をするうち、打ち解けていくのである。
2.小さな実感から会社の信頼まで。オペレーターは常にいる
これを西野さんは「小さな実感」とも言っている。これをすることの意味は、大きい。なぜなら、彼らが扱う商品は、薬ではないからだ。
彼らは、その実感が例え小さくとも見逃さず大事にしていく。この一歩から健康全般に派生させていく土台となるからである。ゆえに、大事なのは商品を提案して終わりではないことがわかる。
精神的なケアも含めて、お客様の健康をトータルでフォローしていく。そうすることで、自然とその信頼は、オペレーターだけではなく、会社にまで広がっていく。そこまでくれば、いつしか商品とオペレーターのやりとりは、ワンセットでお客様の生活の一部となる。それは理屈としてはわかった。
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3.コミュニケーションの中身
ただ、今回の記事のテーマはそこでの会話やコミュニケーションの中身のほうである。現場はどういうやりとりを意識しているのだろうか。
つまり、オペレーターの対応がそこまでお客様の信頼を勝ち得る。それには、何かしらのメカニズムがあるように思っている。DMCの高橋貞光さんに取材をすることにしたのは、そこだ。西野さんの理論をもとに、高橋さんがコールセンターの現場でどう実践したのか。
彼は株式会社えがお(ロフティ)入社後経営企画、販売部門、管理部門、システム、物流、コールセンター責任者など全ての部門を経験。入社から5年で 44 億円から 262 億円の売上成長に貢献した人である。西野さんの理論を実践して、大きく業績を伸ばした張本人だからお呼びした。
お客様の気持ちが変化するほどの対応。さぞかし、オペレーターに対して何か特別なマニュアルを渡しているのだろう。そう言って高橋さんに迫ったところ、それは覆された。
4.お客様と真に「会話する」のが使命
基本的に、オペレーターの自主性に委ねられていると。そしてオペレーター自身も、お客様の事を各々で考えた上で、相応しい対応をどれだけしてあげられるか、という事に重きを置いている。だから、マニュアルに基づくのは、3割程度だという。3割?あとは自主的に動いている?
つまり二人が理想とする通販企業は、こうだ。まずオペレーターを活かすための仕組みづくりが徹底されている。そして、それはマニュアルやルールでオペレーターを管理するのではない。これは発見であった。
さて、オペレーター自身、どうやったらお客様の事を各々で考えた上で、相応しい対応をどれだけしてあげられるか。その根底を流れているものについて、高橋さんは「質問力」と答えた。
5.質問力とは?
質問力とはなんだろう。案外、世の中の多くのオペレーターは一方的に自分が話して、逆に、お客様の方が聞き役になることが少なくない。だから高橋さん達はその逆。質問をして相手に共感することに努めると話している。
すると相手も人間。だから、色々話すうち心を開いてくれる。つまり、オペレーターが存在する真の目的は、本音を話してくれるほどの信頼感の確立なのである。
やずやであれば「健康」において総合的にアプローチをしていく。末は、このジャンルにおける信頼感を築いていくわけだ。それができるのは、この「質問力」が為せる技なのだという。
こうやって本音を引き出して、真にお客様の中身と向き合う。そうすれば、相応しい助言をしていくことが可能になる。それがますますの信頼につながっていくから、更に購入を継続するのだ。
お客様と心で繋がるのは裁量権を与えているから
1.外注ではなく自社で伸ばす
不思議な話だが、これが社内にもプラスに働く。「外注するよりも自分の会社で育てる方が良い」。西野さんがよくそう主張することにも一致する。オペレーターのモチベーションをあげることにもなるのだ。お客様の信頼に伴い、責任感を持ち始める。それゆえ、自分で学ぼうという意識も高まるのである。
それがあるから、高橋さん達もオペレーターに対して裁量権もある程度、渡してしまうのである。まさにこの点は、高橋さんが自らコールセンターを経験したからこそわかった。そうした判断がベターだと考えたのは実体験に基づくわけである。
「何の根拠もなく、パートの方はここまで、これ以上は社員さんに聞いてください。そういう風にしていたりする事は多いです。でも、本来はオペレーターさんの方がベテランなのに、新人社員に質問をしていたりする事も多い。新人社員なんてこたえきれないですよね?」と続ける。確かに。
2.裁量権を委ねた成果
これを実践した結果、「手上げ対応」の減少をもってお客様の満足度を上げ、成果につなげた。「手上げ対応」というのは、社員にオペレーターが確認することだ。裁量権を委ねた事で「手上げ対応」が減った。ゆえに、お客様を「代わりに他の担当者が対応します」などといって「たらい回し」にさせたり、待たせたりすることがなくなった。
これが大事な理由は、お客様との会話が信頼感を築く礎だからだ。その雰囲気を壊してはならないと西野さん。
西野さんが茶目っ気たっぷりに「コールセンターは唯一の対面であり、お客さんとデートしているみたいな感覚なんですよね、電話で。ちなみにDMは私、文通だと思っているんですよ」と話す。
確かにな、と。恋人を目の前にして、話を阻害されたくない。もっと話が聞きたいし、気持ちを分かち合いたい。それがこのオペレーターとのやり取りで再現されていたら、お客様がこの会話を心待ちにしても不思議ではない。全てはここから始まっている。
2.全体最適を踏まえた部分最適に基づく目標設定
だから、電話は何分以内にするなどのルールはナンセンスだと、高橋さんは一蹴する。これは、全部署を経験して、全体最適を分かった上で、部分最適がわかる人でないと、陥りがちな罠。例えば西野さんの様に、それを全部経験していないと気づかないと高橋さん。最終的にお客様にとっての喜ぶ価値は何かという答えが見えていないと出てこない結論なのだ。
そして、こうやってオペレーターがお客様を『大切な人』と感じるようになれば、心底、尽くしたいと思うのも自然。以前、他社で恐縮だが、さくらフォレストの田上薫さんが、お客さんの家に遊びにいって、食事までしたと話をしていたのを思い出した。もうそこまでくると絆は深い。
3.自ずと素敵なエピソードも
そうやってオペレーターが自分らしくお客様との関係性を自由に謳歌すると、結果、士気が高くなり、場合によってはここからエピソードが生まれる事だってある。
こんな話を聞いた。「実はね、入院することになって、止めようと思うのよ」というお客様がいて、それを聞いたオペレーターは何をしたと思うか。
自ら手紙を書くだけではなく同じチームのメンバーに情報共有を行い、十人が10羽ずつ折り鶴を作ったと言うのだ。そりゃ、もうすぐに電話が来るだろう。まさしく、仕事と捉えるか「大切な人」への対応と捉えるかの差である。
こうしたオペレーターを生かすマネジメントは、結果、チームワークを高めることにもつながる。高橋さんによれば、うまく回り始めると、それは出勤率に現れてくるのだそうだ。高いところでは出勤率が95%を超える。
士気の高まりが連帯感を生み、情報共有も活発に
1.連携プレイも士気が高まっているから
どんな仕事でも体調を壊して休む人は出る。だが、普通はお休みしますと企業に連絡をするだけだ。ただ、ここで感服したのが、彼らの場合違うのだ。
オペレーターが高い責任感を持っていると、会社にではなく、その日にシフトが入っていない同僚に、「代わりに入ってもらえないか」と相談するらしいのだ。すると、人員分がきちんと埋まるので、出勤率が上がるというわけである。
会社側もお客様に対応するのに、最適な必要な席数を用意しているのだから、出席率が上がれば上がるほど、お客様の「会話」も徹底できるわけだ。
2.お客様との関係性を示す尺度は?
お客様との絆が深まったことを高橋さんはお客様のどういう言葉で押しはかるのだろう。すると彼は「いやぁ実はね」という言葉だと答えた。これまた深い。事務的な会話であれば「実はね」はまず出てこない。
まさに本音が引き出せるかどうかはまさに解約しようとしている時にこそ、真価を発揮する。まず彼の特徴として、「決して引き止めることはしない」。通販企業では引き止めがちだが、すっと潔く身を引いて、なんて声をかけるのだろうか。それは、、、
「何か不手際ございましたでしょうか」。
もし信頼関係のある人にこう言われたらどうだろう。ここが分かれ目。「いやぁ実はね」となれば、そこに本音があって、仮にやめても理由がわかり、なおかつ復活する可能性も高い。
3.心で繋がる オペレーター は 通販 にとって偉大だ
ここまで読んでみて、どうだろう。不思議と全ての話が紐づいているではないか。それも、皆の目指す先がお客様を喜ばせようという一点に絞られているからなのではないかと思う。少しもマニュアル、ルールで締め付けることなく、自然に人が人に働きかけていい循環を生める理由がおわかりいただけただろうか。
そしてコールセンターがお客様と深くつながり、自主性を持っているから必要なデータが何かも明確。それを西野さんが熱心に拾い上げて、コンピュータにしたから、6000万円だった年商は470億円にまで成長したのだと痛感した。
西野さんは「年商は10倍になったけど、社員の数は2倍でしたね」と語る。マニュアルではなくオペレーターを起点としてた仕組み化したことのメリットである。
コンピュータは必要な機能を果たして、変わらずオペレーターがイキイキと第一線で働くことができたからこそ、生産性は高まり、大いなる実績を得られたのだと僕は思った。改めてその仕組みを作り出したチームワークにあっぱれである。そして、オペレーターは通販において大きな存在であり、誇れる主役である事を思うのである。
今日はこの辺で。
参考:顧客の離脱の予兆に気づく「通販理論2.0」通販以外にも通用する「100億PDCAマニュアル」
DMCの高橋貞光さんと西野さんの対談の全文はこちらの記事に譲る。