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東急プラザと東急スクエアの違いを調べたら、渋谷の再開発の見え方が変わった

 きっかけは、東急プラザと東急スクエアの違いだった。どちらも「東急」とついている。買い物に行く側からすれば、名前や店の並びが違う商業施設に見える。けれど、なぜ二つの名前があるのだろう。運営している会社は同じなのか。会社の違いを調べると、今度は土地の持ち方が気になった。土地を持っているとわかると、なぜ手放せるのかが気になった。売却後も関わり続けられると知ると、いったい何を持ち、何を商売にしている会社なのかを、もう少し確かめたくなった。

 一つの答えが、次の疑問を連れてくる。その順番をたどっていくと、最後には、渋谷で続いている大きな工事まで、別の景色に見えてきた。

同じ東急なのに会社が違う

 まず、商業施設の名前の後ろに、異なる会社の系統が見えてきた。

 例えば、東急プラザ渋谷は、東急不動産が開発に関わり、同社系の会社が運営管理を担う施設として開業した。一方、武蔵小杉や五反田などの東急スクエアを運営する東急モールズデベロップメントは、東急株式会社側のグループ会社である。www.tokyu-land.co.jp

 では、東急と東急不動産は、同じ会社の担当部署のようなものなのだろうか。

 現在の上場会社で整理すると、東急株式会社と東急不動産ホールディングスという二社がある。東急不動産は、後者の傘下にある事業会社だ。その起源をたどると、1953年に東京急行電鉄の不動産部門から分離して設立された会社に行き着く。2013年には、東急不動産、東急コミュニティー、東急リバブルによる持株会社として、東急不動産HDが発足した。今も東急との資本関係を持ち、東急ブランドを共有しているが、それぞれの上場会社を中心に事業を営んでいる。tokyu-fudosan-hd.co.jp

 それなら、何で稼いでいる会社なのか。

 東急側には、鉄道やバスなどの交通、不動産、商業施設や小売などの生活サービス、ホテルといった事業がある。同社は、これらを連携させ、沿線の価値を高めることを事業の考え方に据えている。駅を使う人が、沿線に住み、買い物をし、働く。その生活のさまざまな場面に事業がある。tokyu.co.jp

 東急不動産HD側にも、開発や賃貸に加えて、仲介、管理、リゾート、再生可能エネルギーなどの仕事がある。不動産をつくるところから、売買を仲介し、使われる間の管理を担うところまで、複数の収益源を持っている。

 ひとまず、二社が組み合わせている商売の違いはわかった。ところが、具体的なビルに当てはめようとすると、もう一つ疑問が出てくる。

ヒカリエも歌舞伎町タワーも鉄道側なのか

 渋谷ヒカリエや東急歌舞伎町タワーは、大きな不動産開発である。名前からすれば、東急不動産が手掛けた施設に思える。

 しかし、ヒカリエの建築主は当時の東京急行電鉄だった。歌舞伎町タワーも、東急株式会社と東急レクリエーションによる開発である。東急設計コンサルタント

 なぜ、そちらなのか。そこで、いま建っているビルから少し目を離し、以前、その場所に何があったかを見てみる。

 ヒカリエは、旧東急文化会館と隣接街区を含む再開発である。歌舞伎町タワーは、映画館だった新宿TOKYU MILANOの跡地を中心とした開発だ。新しいタワーに映画館、劇場、ライブホール、ホテルが組み込まれていることも、以前からの事業とのつながりを感じさせる。

 新しい建物の用途だけでは、なぜその会社が開発するのかはわからない。その場所で何を営み、どんな関係を積み重ねてきたのか。来歴をたどると、いまの事業者がそこにいる理由が見えてくる。

 建物は建て替わる。しかし、その場所と企業との関係は、建て替えの前から続いている。すると、関心が建物の下へ移った。

そもそも、その土地は誰が持っているのだろう。

 ビルを建てる技術や資金だけでなく、その場所で事業を始められる前提を知りたくなったのである。

土地が残るからビルを売れるのだろうか

 土地の持ち方が気になると、今度は、不動産会社がビルを売却するというニュースに引っかかる。せっかく時間とお金をかけてつくった施設を、なぜ手放すのか。

 銀座のような場所なら、長く持ち続け、家賃を受け取る方がよさそうにも思える。

 そこで浮かんだのが、「建物は売っても、土地は残しているのではないか」という見立てだった。土地さえ手元にあれば、上の建物が変わっても、その場所との関係を保てる。それなら、売却を選べる理由もわかる。

 しかし、実際の取引を追うと、この説明だけでは足りなかった。

 2023年3月、東急不動産HDは、東急プラザ銀座に関する出資持分の売却を発表している。対象は、不動産の信託受益権を運用する事業への出資持分100%。東急不動産がこれを三井住友トラスト・パナソニックファイナンスへ譲渡し、施設も東急不動産HDの連結貸借対照表から外れるとした。

 建物だけを売って、土地はそのまま持ち続ける、という取引ではない。pdf.irpocket.com

 ここでいう信託受益権は、不動産を信託した場合に、その不動産から生じる利益などを受け取る権利である。不動産の取引には、土地や建物を直接売買する形に加え、こうした権利や、その事業への出資を売買する形もある。t2fifa.or.jp

 ところが、銀座の売却発表には、もう一つのことが書かれていた。売却後も、東急不動産が施設の運営を続ける予定だというのである。資産を保有し続けることと、その場所で仕事を続けることは、どうやら別々に考えられるらしい。

 では、土地や建物への出資まで手放した後、会社には何が残るのか。

所有する人と動かす人は同じとは限らない

 この疑問を解くために、REITやファンドの仕組みを見てみる。例えばJ-REITでは、投資家が出資し、金融機関からの借入なども組み合わせて、投資法人が不動産を取得する。

 その不動産から得られる賃料や売却益などが、投資家への分配につながる。一方、物件を選び、運用する実務は、外部の資産運用会社が担う。jpx.co.jp。たとえば、目の前には一棟のビルがある。しかし、その背後では、資金を出す人、資産を保有する主体、投資方針や売買を判断する会社、テナントへの対応や施設の管理を担う会社が、役割を分けている。

 この分担がわかると、売却の意味も具体的になる。

 開発会社は、物件を売却して得た資金を、次の開発などへ振り向けられる。同時に、グループ会社が資産運用や施設運営を受託する契約を結べば、売却後にも仕事が残り、その対価として報酬を得られる。tokyu-reit.co.jp

 ずっと保有して家賃を受け取る方法もあれば、資金を回収しながら、運用や運営の仕事を続ける方法もある。自社で不動産を持つ範囲と、事業として関わる範囲は、必ずしも一致しないのである。

 投資家側にも、この分担を利用する理由がある。自ら土地を仕入れ、ビルを建て、テナントを集めなくても、専門家が運用する不動産の収益に参加できる。開発会社が資金を回したいという事情と、投資家が不動産の収益を得たいという目的が、ここで結びつく。日本取引所グループ

 もちろん、運用会社が同じ企業グループだからといって、投資家の資産を自由に扱えるわけではない。投資法人には投資主総会や役員会があり、関連する企業との取引には、利益相反を管理する手続きも設けられている。運営を続けられる範囲も、契約によって決まる。jpx.co.jp

 同じ看板が残ることも、所有関係が変わっていない証拠にはならない。銀座の施設は2023年の売却発表時には運営継続を予定していたが、その後、2025年12月にはGinzaNovoへと名称を変えている。名前、所有、運営は、分けて確かめる必要があるのだ。

 それなら、もう一つ気になる。売却後も関係を続けられるのなら、必要なときに、再び開発会社側へ物件を戻すこともあるのだろうか。

売った後のさらに先まで考えてみる

 建物には、建てる時期があり、使いながら収益を得る時期があり、大きく手を入れる時期がある。そのすべてを、同じ主体が引き受けなければならないわけではない。このことを具体的に示すのが、東急プラザ赤坂の取引である。

 東急不動産系のアクティビア・プロパティーズ投資法人は、2021年、赤坂の施設に関する信託受益権の50%準共有持分を、東急不動産が出資する会社へ118億円で売却した。売却資金の一部を使い、68億円で田町のオフィスビルを取得する資産の入れ替えだった。activia-reit.co.jp

 なぜ、そのような入れ替えをしたのか。

 当時の発表では、赤坂の施設はホテルの売上減少に伴う賃料減額で収益性が低下し、築51年を経て、将来の修繕費増加も見込まれていた。REIT側は、東京のオフィス物件へ入れ替えることで、収益性の確保を図るとしている。そして、この取引には将来へのつながりもあった。建て替えが行われた場合、新しい建物について優先的に取得交渉ができる権利を、REIT側が得る取り決めが設けられていたのである。

 資産を開発会社側へ移し、REITは別の収益物件を運用する。そのうえで、将来、再び取得を話し合う機会も残す。関係者がそれぞれの事情に合わせて、物件と資金の持ち方を変えている。

 さらに調べると、鉄道側の東急にも、この考え方が明示されていた。

 TOKYU REITの公式資料では、開発をスポンサーが担い、完成後はREITが保有・運用し、再開発の段階ではスポンサーが担い、再びREITが運用するという役割分担を示している。売却で回収した資金を東急が沿線の開発などに再投資し、その地域にあるREITの物件にも価値の向上を期待する考え方である。 対象となる資産を売却するときに、まず相手へ優先的に売却を申し入れる取り決めもある。価格や条件の合意を経る仕組みであり、自由に取り戻せる権利という意味ではない。「鉄道側は持ち続け、不動産側は売る」という分け方では、実態を捉えきれない。どちらも、保有と資金の回収を組み合わせている。

 売却という一瞬のニュースの前後に、開発、運用、再開発という長い時間がある。 企業は、どの段階で、どんな仕事と負担を引き受けるかも選んでいるのである。

サクラステージの売却も違って見えてくる

 この仕組みを知ったうえで、渋谷サクラステージを見直してみる。

 そもそも、この施設は東急不動産が参加組合員として加わる再開発組合の事業である。同社の説明では、1998年の旧再開発準備組合設立から約25年をかけ、約120人の地権者、450人を超える借家人ら、多くの権利者と向き合ってきた。約2.6ヘクタールの敷地を一体的に整備し、2023年11月に竣工した。tokyu-land.co.jp

 一つの大きな施設になる前には、多くの人が持つ土地や建物、そこで営んでいた暮らしや商売がある。それらとの関係を調整し、事業としてまとめる仕事が、建設に先立っている。その長い開発の後に、2024年2月、東急不動産HDは、SHIBUYAタワーの特定のオフィスフロアについて、区分所有権の49%に当たる共有持分の売却を決めた。施設全体の49%を売るという意味ではない。www2.jpx.co.jp

 取引の設計を読むと、それまでに調べたことがつながる。

 買い手は特別目的会社であり、そこに、国内の機関投資家が出資するファンドと東急不動産が出資する。物件を保有するための会社に、外部の資金と自社の資金を組み合わせる。その会社から、東急不動産キャピタル・マネジメントが資産運用業務を受託する。

 さらに、東急不動産は売却対象以外の自社保有部分を引き続き持ち、売却部分を含めた施設運営も続けると発表した。www2.jpx.co.jp

 売却代金を得る立場、買い手へ出資する立場、資産運用を担う立場、施設を動かす立場。一つの開発の中で、複数の関わり方が重なっている。同社はこの取引を、外部資本を活用して関与する資産を広げ、効率性を高める取り組みと説明している。すべてを自社だけで保有する場合よりも、資金の使い方に選択肢が生まれる。www2.jpx.co.jp

 ここには、土地を持つ力だけでなく、多くの関係者と事業をまとめ、投資家を迎え、完成後も施設を運営する力がある。建物を売却しても、そうした仕事まで失うとは限らない。

 では、その隣にある渋谷駅の開発は、どうなのだろうか。

駅の土地をたどると鉄道に行き着く

 渋谷スクランブルスクエアの足元をたどると、東急、JR東日本、東京メトロという鉄道会社が現れる。

 東急の社史によれば、渋谷駅街区の土地区画整理事業は、駅や東西の駅前広場などを含む約5.5ヘクタールを対象とし、地権者はこの3社だった。東急とUR都市機構が施行者となり、複雑な権利関係を整理して、都市基盤の整備と駅ビルの更新に備えた。tokyu.co.jp

 駅前の一等地という言葉だけでは、この場所の性格を十分に表せない。

 そこでは、再開発が始まる前から鉄道が走り、人が乗り降りしていた。土地は、将来ビルを建てるために確保されているだけでなく、すでに交通の事業に使われていたのである。

 だから、駅の開発では、ビルの建設と、駅や周辺の動線の更新が重なる。東急は工期が長くなった理由として、鉄道やバスの運行を続けながら施工する難しさに加え、広場や歩行者動線の再編、防災性・安全性を高める計画変更を挙げている。ir.tokyu.co.jp

 現在の計画では、渋谷スクランブルスクエアの中央棟・西棟は2031年度、ハチ公広場などを含む駅街区全体は2034年度の完成を予定している。駅の機能を保ちながら、段階的に更新する長い事業である。tokyu.co.jp

 ここで、もう一つのことに気づく。新しいビルが完成するまで、その会社の商売がすべて止まっているわけではない。電車は走り、既存の商業施設は営業し、完成済みのオフィスでは賃貸事業が続いている。

 まだ収益を生んでいない新しい建物と、その間も動いている既存の事業。その両方を持つ会社は、どのように長期の投資を考えているのだろう。

 最初に調べた「何で稼いでいる会社なのか」が、ここで別の意味を持ち始めた。

すでにある商売がこれからの時間を支えている

 東急に交通、不動産、生活サービス、ホテルといった事業がある。それは、会社案内の項目で終わる話ではなかった。新しい開発では、土地や建物に資金を投じても、収益を得るまでに時間がかかる。その期間をどう支え、完成後の効果をどこで受け取るか。既存の事業構成は、そこにも関わってくる。

 東急は2026年10月の投資家向け説明で、渋谷駅周辺などの再開発には、投資が先行して収益を生まない期間があるため、その間は既存事業や資産の力を着実に発揮することが重要だと説明している。ir.tokyu.co.jp

 さらに、同社が説明する渋谷エリアの営業利益の構成は、半分が不動産賃貸で、残り半分が交通、リテール、ホテルなどである。この比率を知ると、新しいビルの家賃だけでは見えていなかったものが見えてくる。

 街で働く人が増えれば、鉄道を利用する人が増える可能性がある。買い物や飲食、宿泊の機会も増える。その変化を、駅や周辺の施設を通じて、複数の事業で受け止められる。実際に東急は、他社の物件竣工による就業人口の増加も、鉄道事業や周辺のリテール施設に波及すると説明している。自分で建てたビルの中だけで、投資の効果を考えているわけではない。

 新しいビルの採算に加えて、既存の事業から得る収益と、開業後に周辺の事業が受け取る効果がある。その重なりまで含めて、長期の投資を考えているのだと理解できる。

 工期が延びれば、完成後に得るはずの収益は先へ延びる。東急自身も、遅延と工事費の上昇によって採算が厳しくなることを認めたうえで、費用と収益を検討し、採算を確保できると判断して事業を進めていると説明する。既存事業があることは、負担が消えることを意味しない。その負担も含めて判断する際の、収益の土台なのである。

 ここまでたどってから、「渋谷の再開発は失敗だ」という話を思い返すと、確かめたいことが変わっていた。空いている店舗や、続く工事の向こうには、誰が資産を持ち、何に資金を投じ、どこから収益を得ているのかという関係がある。その関係まで見れば、目の前で起きていることを、もう少し具体的に考えられる。

 東急プラザと東急スクエアの違いを知りたかっただけなのに、いつの間にか、会社が時間をかけられる理由を考えていた。

 次に大きなビルを見たときは、その姿と一緒に、こんなことを考えると思う。

この会社は、すでに何を持ち、何で稼いでいるから、この選択ができるのだろう。

  今日はこの辺で。

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