なぜ不動産会社は、その街で強いのか。森ビルの逆転劇から見えた、商業施設が建ち続ける本当の理由

なぜ不動産会社は、その街で強いのか。森ビルの逆転劇から見えた、商業施設が建ち続ける本当の理由先日、ふと疑問に思ったことがあって、三井不動産が都心にどれだけの施設を持っているのかを調べてみました。東京ミッドタウンに、コレド日本橋、コレド室町、そして東京ミッドタウン八重洲。改めて並べてみると、東京を代表する場所ばかりです。では、そのライバルはどこなのか。調べてみると三菱地所の名前が出てきて、丸ビル、新丸ビル、大手町のオフィス群など、こちらも錚々たる顔ぶれ。さらに住友不動産は新宿、東急グループは渋谷と、各社に強い地盤がある。
そこで、あることに気づいたんです。
「そうか。昔ながらの不動産会社は、そもそも都心の一等地に土地や施設を持っているということか」
それまでは、資金力のある不動産会社が、その都度、土地を取得して新しい商業施設を建てているのだろうと思っていました。でも、どうやら話はそれほど単純ではありませんでした。
1.土地を持っているから、建物を何度でも作り替えられる
例えば三菱地所の場合、ルーツをたどると、1890年に三菱が丸の内一帯の土地を政府から買い受けたことに行き着きます。三井不動産にも、江戸時代に日本橋で始まった三井越後屋から続く歴史があります。つまり、各社が街と深く結びついているのには、長い年月をかけて築かれた土地や事業の基盤があるわけです。
これを知ったとき、僕はもう一つのことに気づきました。
「つまり、語弊を恐れず言えば、土地を持っているから、上の建物は作り替えて、資産価値を高められるってことか」
ここが、何気にすごいと思ったところです。普通の商品であれば、古くなったら価値が落ちます。新しい商品を作ろうと思えば、その都度、原材料を調達し、販売先を探さなければなりません。
ところが不動産の場合、土地そのものはなくなりません。むしろ一等地であれば、時代に合わせてその上に建てるものを変えることで、新しい価値を生み出せる可能性があります。古いオフィスビルを建て替え、商業施設やホテルを組み込み、場合によっては都市計画上の条件を満たすことで、従来より多くの床を作ることもできる。
土地は同じなのに、そこから得られる収益の可能性が変わるのです。
しかも、もし周辺にも自社のビルを持っていれば、一つの施設が生み出した賑わいが、別の施設の価値にも波及するかもしれません。そこで、さらに思いました。
「そうか。だから、場合によっては建物を他のファンドとかに渡しちゃうんだ」
これは不動産会社の資金の回し方を考えると理解できます。建物を保有して賃料を得続けるだけでなく、開発した不動産をファンドなどに売却して資金を回収し、次の開発に充てるという選択肢もあるのです。
もちろん、土地まで売却するケースもありますし、必ずしも土地を持ち続けるわけではありません。それでも、一つの建物を建てて終わりではなく、土地、開発、運営、資産の売却を組み合わせて、何度も事業を展開できる。
これは強い。
丸の内、八重洲、日本橋、新宿、渋谷。そんな都心の一等地で、長い時間をかけて事業の基盤を築いてきた会社の強さを、改めて思い知らされました。
出典:三菱地所「三菱地所の歩み」 / 三井不動産「日本橋の歴史」 mec.co.jpmitsuifudosan.co.jp
2.だったら、森ビルはどうやって、そこまで大きくなったのか
ただ、そうなると、今度は別の疑問が湧いてきます。
「六本木もそうか。森ビル。でも、森ビルは最初からあそこに広大な土地を持っていたのか?」
これが、今回の話の中で、一番面白かったところです。三井や三菱には、歴史的に形成された大きな事業基盤がある。では、森ビルはどうやって六本木ヒルズや麻布台ヒルズのような巨大な街を生み出せるまでになったのでしょうか。
森ビルは、戦後、新橋周辺の比較的小規模なビル事業から発展してきた会社です。三菱が明治時代に丸の内一帯を取得したのとは、成り立ちが違います。その森ビルが、大規模な街づくりを実現するために取り組んできたのが、複数の地権者を巻き込んだ再開発です。
その代表例が、1986年に完成したアークヒルズ。森ビルによれば、17年もの歳月をかけて完成した、民間による先駆的な大規模再開発事業でした。
なぜ、そこまで時間をかける必要があったのでしょうか。
もともと街には、さまざまな土地の所有者がいます。住宅もあれば店舗もあり、それぞれに生活があります。そこを一つの大きな敷地として再開発しようとしても、単純に買い取れば済む話ではありません。
では、どうするのか。
ここで出てきたのが「等価変換」という考え方でした。
出典:森ビル「アークヒルズ」 mori.co.jpmori.co.jp
3.土地をお金で買わずに、新しい建物の権利に置き換える?
等価交換?
そう思う人も多いはずです。要するに、古い土地や建物の権利を、新しいビルの床の権利に置き換えるという話です。例えば、ある人が土地と家を持っているとします。その土地を含めて再開発する場合、従来の土地や建物の評価に見合う権利を、新しい建物の住宅や店舗などに置き換えることができます。
一方、土地をまとめて高度に利用すれば、それまでより多くの床を作れる場合があります。そのうち、従来の権利者に割り当てるものが「権利床」で、新しく生み出した「保留床」を売却するなどして、事業費を賄うのです。
「タダで?」
そう思っても無理もありません。もちろん、実際には建設費もかかりますし、権利調整にも膨大な手間がかかります。決してタダで土地を手に入れているわけではありません。
ただ、僕が驚いたのはそこではないんです。
土地の持ち主に現金で買い取りを申し出るだけでなく、これから作る建物の価値を使って、土地の権利をまとめることができる。
当然、新しい建物には以前より多くの床が生まれる可能性がある。今ある土地を、そのままの姿で評価するのではなく、そこに新しい建物を作ったときの価値まで考えて、事業を組み立てているわけです。これなら、最初から広大な土地を所有していなかった会社でも、地権者と協力し、資金と時間をかけることで、巨大な開発に挑戦できる。
森ビルが財閥系のデベロッパーと肩を並べるほどの存在感を築いた理由が、少し見えてきた気がしました。
ただし、等価交換や権利変換という仕組み自体を森ビルが発明したわけではありません。重要なのは、その仕組みを使い、長い年月をかけて大規模な街づくりを実現したということです。
出典:国土交通省「市街地再開発事業」 mlit.go.jpmlit.go.jp
4.そうか、だから商業施設の中に「しれっと住宅」があるのか
この仕組みを知って、もう一つ、僕の中でつながったことがありました。
「ん? 待てよ。だから、新たに建てられる場所の中には、しれっと住宅もあるのは、そういうこともありそうだ」
六本木ヒルズや麻布台ヒルズを見ていると、オフィスや商業施設の中に、高級住宅が組み込まれています。もちろん、住む人がいれば街は賑わいますし、高級住宅そのものも事業になります。でも、それだけではないのかもしれない。
そもそも再開発する場所には、以前から暮らしている人がいます。その人たちが持っていた土地や建物の権利を、新しい建物の住宅に置き換えるのであれば、住宅を組み込むこと自体に意味があるわけです。
実際、権利変換では、従来の権利者が住宅や店舗などの床を取得することがあります。もっとも、住宅の全てが元の地権者向けというわけではありませんし、住宅を設ける理由はそれだけではありません。
それでも、僕にはこの仕組みがとても合理的に思えたんです。土地を提供する側は、今まで持っていた資産を新しい建物の権利に置き換えられる。一方、開発する側は、まとまった土地で大きな建物を作り、そこから新しい収益を生み出すことができる。
なるほど。それは街を活性化させる材料になるね。だから、単価の高い料理屋とかも入るのか。
例えば、高級住宅に住む人がいるなら、その人たちの日常の食事や買い物を支える店舗にも需要が生まれます。高級な飲食店や食品店があれば、それを目当てに外から訪れる人もいるでしょう。そして、そうした店が集まることが、その街に住む価値をさらに高める可能性もあります。
ここで、不動産会社の商業施設に対する見方が変わりました。これまでは、オフィスがあって、住宅があって、余った場所に商業施設を入れているようにも見えていました。
でも、そうではないのかもしれません。
住宅によって街の中に消費する人を生み出し、商業施設によってその人たちの暮らしを充実させる。それによって、住宅にも商業施設にも新しい価値が生まれる。
つまり、どれか一つだけで儲けようとしているのではなく、それぞれの価値が互いを高め合うように設計されているのではないでしょうか。もちろん、住民が全員富裕層というわけでも、商業施設が高級店だけで成り立っているわけでもありません。
でも、街の中にどんな人が住み、どんな人が働き、どんな人が買い物をするのか。それを組み合わせることで、商売が生まれる環境まで作っている。
だからこそ、不動産会社は、建物を建てて終わりではなく、商業施設を運営し、そこに入る店舗にもこだわるのでしょう。そう考えると、ビルが建ち続ける理由も、単なる建物の老朽化やオフィス需要だけでは説明できなくなります。
5.ああ、だから東京建物も、TOFROM YAESUで等価交換の話をしていたのか
ここまで考えたところで、僕は思い出したことがありました。以前、東京建物が進める「TOFROM YAESU(トフロム ヤエス)」について話を聞いた際にも、等価交換や権利者との調整の話が出てきたんです。
そのときは、再開発を進めるための手続きとして聞いていました。でも、森ビルの話からここまで考えてきて、ようやくその意味がつながりました。
そうか。東京建物も、等価交換って言ってたのは、それなのか。トフロムで。
東京建物の発表によれば、TOFROM YAESU TOWERは、約250名の権利者や地域の人々とともに、25年を超える時間をかけて進められてきたプロジェクトです。2020年には権利変換計画が認可され、2026年2月に竣工しています。
つまり、あの東京駅前の巨大な建物は、単に土地を買ってビルを建てたという話ではなく、それまで別々に存在していた権利を調整し、一つの再開発として成立させたものだったわけです。しかも、その中にはオフィスや商業施設だけではなく、住宅、医療施設、劇場、バスターミナルなどが組み込まれています。
改めて調べると、TOFROM YAESUだけではなく、森ビルが手掛けたアークヒルズでも、市街地再開発事業の権利変換という仕組みが使われています。
つまり、森ビルだけが特別な仕組みを持っているのではありません。ただ、もともと大きな事業基盤を持っていた不動産会社が、その土地の価値をさらに高めようとする一方で、森ビルは、地権者との長年にわたる調整を通じて、新しい開発の機会を生み出してきた。
そこに、異なる会社の強さが見えてくる気がします。
出典:東京建物「TOFROM YAESU TOWER竣工」(2026年3月2日) tatemono.comtatemono.com
今回、僕が一番面白いと思ったのは、不動産会社が街の価値を高めることによって、自分たちの事業の可能性までも広げているという点です。商業施設を作るのも、住宅を作るのも、その一環として捉えると、これまでとは違って見えてきます。
例えば、僕らは商業施設を見ると、どんなテナントが入るのか、そこに人が集まるのか、といったことに目を向けがちです。でも、そのもっと手前には、そもそも土地をどうまとめ、どんな人が集まる場所にしようとしているのか、という構想がある。
そして、それがうまく機能すれば、そこにある住宅やオフィス、商業施設の価値も上がっていく。そう考えると、不動産会社が一つの街にこだわり、長い時間をかけて開発を進める理由が、少し理解できたように思うのです。
店が街を賑わせるだけではなく、街を作ることによって、商売そのものが生まれる。何気なく見てきた東京の街並みも、そのように考えると、全く違って見えてくるから面白い。
そして、その仕組みを知ると、次に新しい商業施設ができたときには、そこにどんな店が入るのかだけでなく、なぜその街に、その建物を作ろうとしたのかを考えてみたくなるのです。
今日はこの辺で。







