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価値か、コストか。AMR110台が並ぶSTOCKCREWの倉庫で見えた物流の本質

 最近、TikTok Shopをはじめとして、個人や小規模事業者でも商品を販売しやすい環境が整いつつある。以前ならネットショップを立ち上げるだけでも大変だったが、今はSNSから直接販売へつながる時代になった。これは裏を返せば、商売の単位が小さくなっているということでもある。商品は作れる。販売もできる。しかし、多くの人がぶつかるのが物流だった。

 注文が月に数十件、数百件なら何とか自分で発送できる。だが、売れ始めると梱包や発送作業に追われるようになる。一方で、従来型の物流代行会社は、ある程度の物量がなければ採算が合わないケースも少なくなかった。

 そこで注目したのが、STOCKCREWだ。彼らも、そうした市場の変化を前提に設計されている。初期費用や固定費をなくし、使った分だけ支払う完全従量課金とすることで、小規模事業者でも利用しやすい形を実現している。利用社数は2,200社を超え、その多くがEC事業者だ。  

 ただ、ここで疑問が生まれる。

 小規模事業者を相手にしているのに、なぜここまでの設備投資ができるのだろうか。

 僕自身、当初は「ロボットを導入した最先端倉庫」という理解だった。ところがSTOCKCREWの考え方は少し違っていた。そこではロボットそのものよりも、もっと根本的な経営思想が動いているということだった。

中小企業を束ねることで、投資を可能にする

 倉庫の中に入ると、まず目に飛び込んでくるのがAMRと呼ばれる自律走行ロボットだった。現在110台が稼働している。物流効率化実証事業でも、その効果は第三者検証されており、荷待ち時間が92%削減され、ピッキング作業に必要だった総作業量が63%減ったといった成果が報告されている。  

 だが、ここで注目したいのはロボットの性能ではない。なぜ、その投資ができたのかという点だ。

 STOCKCREWが公表している資料によれば、設備投資額は9億円にのぼる。しかし同社は、その投資を1社で負担するのではなく、2,200社で共有するという考え方を採用している。資料では「1社あたり実質約15万円の負担」と説明されていた。  

 これは非常に興味深い。

 物流業界では、大手企業向けに専用設計を行うケースも多い。大口顧客に合わせて倉庫を作り込み、その企業に最適化する。しかし、それでは顧客が離れた瞬間に投資回収が難しくなる。

 一方でSTOCKCREWは違う。

 年商数千万円から1億円規模の事業者を中心に、多数の荷主を集める。誰か一社に依存するのではなく、多くの企業で設備を共有する。その結果として、個社では到底できないレベルの投資を実現しているのである。 

 そして、この構造を成立させるために必要になるのが「標準化」だった。実は、印象に残った言葉も、ロボットではなく標準化だったのである。

標準化は冷たいのか──なぜ独自対応を断るのか

 「標準化」という言葉を聞くと、どこか冷たい印象を受けるかもしれない。画一的。融通が利かない。顧客ごとの要望に応えない。

 しかし、STOCKCREWの現場で聞いた話は少し違っていた。同社では、独自性の高い物流は基本的に引き受けない方針を取っているという。もちろん、ラベル貼付やギフト包装、セット組みといった流通加工には対応する。だが、「特定企業だけのための物流」は原則として作らない。 

 その理由は明快だった。

「それを標準化した時に、他に誰か必要とする人がいるか」

 同社は、この問いを判断基準にしている。

 なぜなら、2,200社が同じ設備とシステムを共有しているからだ。一社のためだけの仕組みを作れば、その作業は特別な工程になる。特別な工程が増えれば、人は覚えることが増え、作業は複雑になり、ミスも起きやすくなる。そして、その複雑さは最終的にコストとなって全体へ跳ね返る。

 だから同社は、「できるだけ多くの人が同じやり方で使えること」を重視する。標準化とは、融通を利かせないためのものではない。誰か一人のための仕組みを増やさないことで、全員が安く使える状態を守るための考え方なのである。

物流で差をつけないという発想

 印象的だったのは、「物流に付加価値はない。だからこそ物流費で差がつかない世界を作る」という言葉だった。

 物流そのもので競争するのではない。物流は誰もが同じように使えるインフラとして磨き上げる。その代わり、事業者は商品開発や販売、ブランドづくりといった、本来価値を生む部分に集中する。

 つまりSTOCKCREWが目指しているのは、物流で差をつけることではなく、物流で差がつかない状態を作ることなのである。

 これは物流業界だけではなく、多くのビジネスに通じる発想かもしれない。

 企業はしばしば「顧客ごとに最適化しよう」と考える。しかし、その積み重ねが組織を複雑化させ、結果として誰も幸せにならないこともある。STOCKCREWが守っているのは、ある意味で「引き算の経営」なのだ。

物流で価値を作る会社、物流でコストを下げる会社

 最も興味深かったのは、物流にもまったく異なる思想が存在することだった。実は僕自身、これまで取材してきた物流現場は、どちらかといえば「価値を作る物流」が多かった。

 例えば、スクロール360高山 隆司さんは、うちは手のかかる方の物流ですと。例えば、スポーツ用品の物流では、届いたグローブをそのまま送るのではない。硬い革を柔らかくするために加工し、使いやすい状態に整えて出荷することがある。

 アパレルなら裾上げが入ることもある。

 D2Cブランドであれば、箱のデザインや同梱物そのものが顧客体験になる。つまり物流そのものが価値創造の一部になっている。ところが、STOCKCREWはそこに向かわない。

 むしろ逆だ。ブランド体験を作ることよりも、物流を徹底的に効率化することを選んでいる。

 彼らとの会話の中でも、「ブランディングを重視する商材とは棲み分けになる」という趣旨の話が出ていた。箱や同梱物そのものが顧客とのコミュニケーションである事業者にとっては、その部分まで含めて価値だからだ。 

 一方で、IP商品や日用品のように、価値の源泉が物流以外にある場合もある。キャラクターが価値。商品企画が価値。販売戦略が価値。そうであれば物流はできる限り安く、早く、安定していた方がいい。

 つまり、どちらが正しいという話ではない。物流で価値を作る会社もある。物流でコストを下げる会社もある。重要なのは、自分たちがどちらなのかを理解することだ。そしてSTOCKCREWは、その答えを極めて明確に持っている会社だった。

一番危険なのは、「両方欲しい」という経営判断

 ここまで読んで、「では価値を作る物流より、コストを下げる物流の方が優れているのか」と感じる人もいるかもしれない。しかし、そういう話ではない。むしろ見えてきたのは、どちらを選ぶか以上に、「どちらも欲しい」と考えることの危うさだった。

 興味深かったのはコストも下げたい、でも独自性も出したいという状態が最も難しいという話だった。 考えてみれば当然である。物流コストを下げるためには標準化が必要になる。標準化するためには、作業工程を減らさなければならない。

 しかし、ブランド体験を作ろうとすると、逆に工程は増える。

 特別な箱を作る。同梱物を入れる。顧客ごとに対応を変える。細かな調整を加える。そうした工夫は確かに価値になる。しかし同時にコストにもなる。

 つまり、両者は本質的に引っ張り合う関係にある。だから経営者は決めなければならない。自分たちはどこで価値を生むのか。どこを標準化するのか。その境界線を曖昧にしたままでは、組織はどんどん複雑になる。物流だけではない。システム開発もそうだ。マーケティングもそうだ。組織運営もそうだ。

 個別対応を積み重ねれば、一時的には顧客満足度が上がるかもしれない。

 しかし、どこかで運営コストが限界を迎える。STOCKCREWが興味深いのは、この難しい問いに対して、「私たちはコストです」と言い切っているところにある。 だから判断がぶれない。だから投資もできる。だから標準化も進む。結果として、2,200社が同じ仕組みを利用できるのである。

 これは物流会社の話であると同時に、経営の話でもある。

標準化は中小企業を自由にする

 考えていくうちに、不思議な感覚になった最初は「標準化」という言葉に、どこか制約のような印象を持っていたからだ。

 ルールに合わせる。仕組みに合わせる。個別対応をしない。そう聞くと、自由とは反対のように思える。

 ところが現場を見れば見るほど、実際には逆なのではないかと感じるようになった。なぜなら、多くの中小企業にとって、本当に大変なのは物流そのものだからだ。商品開発をしたい。販売に集中したい。SNSを更新したい。顧客と向き合いたい。

 しかし現実には、出荷作業や在庫管理に時間を取られる。売れれば売れるほど忙しくなり、本来やるべき仕事に手が回らなくなる。

 だからSTOCKCREWは、ECエコシステムの中で物流バックエンドを引き受ける立場を明確にしている。事業者は商品開発や販売活動に集中し、物流は標準化された仕組みに任せる。 

 ここに、この会社の価値がある。物流を代行することではない。

 物流を標準化することで、事業者を本来の仕事へ戻すことにある。だから見方を変えれば、AMRも自動化設備も目的ではない。

 あれらは全て手段だ。中小企業が余計なことに時間を使わなくて済むようにするための手段なのである。

 実際、同社が対象としているのは、年商1億円前後の事業者が中心だという。物流に大きな投資をするにはまだ早い。しかし自社発送では限界が見え始める。その中間地点にいる企業にとって、標準化された物流基盤は大きな武器になる。 

 自由とは、何でもできることではない。やるべきことに集中できることだ。

 そう考えると、標準化は自由を奪うのではなく、むしろ自由を生み出しているように見えた。

価値かコストかではない。どこで価値を生むかである

 最後まで考えていて、最も印象に残ったのはAMRではなかった。110台のロボットが走る光景は確かに壮観だった。9億円もの設備投資も驚きだった。だが、それ以上に興味深かったのは、その全てが「標準化」という思想の上に成り立っていたことだった。

 標準化という言葉は、ともすると個性の反対側に置かれがちである。

 しかし、STOCKCREWがやっていることは、個性を否定することではない。むしろ逆だ。物流を標準化することで、事業者が本来発揮すべき個性に集中できる環境を作っている。

 商品開発に力を注ぐ。ブランドを磨く。顧客との関係を深める。新しい販路を開拓する。本来、事業者が時間と情熱を使うべき場所はそこにある。だからこそ、物流はコストとして徹底的に磨く。それが同社の答えなのだろう。

 一方で、物流そのものが価値になる事業もある。ブランド体験を届ける物流。特別な加工を施す物流。顧客とのコミュニケーションを担う物流。

 そうした世界もまた確かに存在する。

価値かコストかではない。どこで価値を生むかである

 だから、この話は「価値かコストか」という二者択一ではない。どちらが正しいかを競う話でもない。重要なのは、自社にとって価値の源泉はどこにあるのかを見極めることだ。

 物流なのか。商品なのか。ブランドなのか。接客なのか。

 そこが定まれば、どこを標準化し、どこに投資するべきかも自然と見えてくる。110台のAMRは、単なるロボットではなかった。

 中小企業を束ね、標準化を徹底し、投資を共有することで生まれた経営判断の結晶だった。倉庫の中を走っていたのはロボットだ。

 しかし、その奥で動いていたのは思想だった。

 価値かコストか。その問いを投げかけながら現場を歩いた結果、たどり着いた答えは意外なものだった。価値かコストかではない。

 どこで価値を生むのか。AMR110台の倉庫が教えてくれたのは、物流の未来というより、むしろ経営の本質だったのである。

 今日はこの辺で。

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