【2025最新】リユース市場の最前線──リユースフェスから見えた「データと信頼」が導く3つの鉄則

リユースという言葉を聞いたとき、多くの人は「中古品を(安く)売る場」を思い浮かべるかもしれない。だが、2025年の今、そのイメージはすでに過去のものになりつつある。eBay・ヤフーオークション・メルカリ・スニーカーダンク──渋谷ストリームで開催されたリユースフェス2026で並んだ各売り先の代表者たち。その言葉を取材して強く感じたのは、そこに「安さ」ではなく「信頼」や「関係性」といった、人と人をつなぐ新しい価値が息づいているということだった。
データを駆使して顧客の心を読み解き、安心できる仕組みを整え、複数のチャネルを掛け算しながら市場を広げていく。そこに見えてきたのは、単なる商売のテクニックではない。むしろ「人の信頼をどう可視化し、循環させていくか」という根本の問いかけである。
本稿では、このセッションで明らかになった「三つの鉄則」を軸に、リユース市場が迎える新たな地平を紐解いていく。
1. リユースフェスで浮かび上がった「市場の多様化」
リユースフェスの会場で行われた特別セッションは、四つの売り先の責任者が一堂に会する貴重な場だった。eBay、ヤフーオークション、メルカリ、スニーカーダンク──名前を聞けば誰もが知るサービスだが、語られる言葉を聞きながら僕は一つの確信を抱いた。それは「リユース」という大きな言葉で括られていても、その中身は実に多様である、ということだ。
eBayは越境のインフラとしてデータを武器に戦略を組み立てる。ヤフーオークションは競りの文化を根幹に据え、一点ものを高付加価値で動かす市場を守り抜く。メルカリはフォロワーを通じた関係性を拡張し、個人と事業者をまたぐ経済圏を形成する。そしてスニーカーダンクは、スニーカーで築いた信頼を土台にホビー市場へも展開し、ブランドそのものを信頼の源泉としている。
取材していて思うのは、もはや「リユース=安さ」ではないということだ。各モールが違う思想を掲げ、顧客との距離感を設計し、戦略を分け合っている。その姿にこそ、リユース市場が成熟へと向かう兆しが見て取れた。
2. eBayが教えてくれる「データで顧客を知る」必然性
eBayの篠原さんの話には、世界市場を相手にする迫力があった。彼が繰り返し強調したのは「顧客を知る」という言葉だが、それは抽象的なスローガンではない。eBayでは国や地域ごとに需要の傾向が詳細に可視化されている。オーストラリアでは釣り具やカメラ、イギリスではレコード、アメリカではブランド品──そうしたデータが具体的に提示され、事業者は仕入れや販売戦略を根拠づけられるのだ。
僕が取材して感じたのは、この「数字が語る現実」にどれだけ向き合えるかが勝敗を決める、ということだ。国内市場だけを見ていては得られない広がりが、データを通じて可視化される。しかも需要は季節やイベントによって大きく変動する。ホリデーシーズンには財布の紐が緩み、春にはアウトドアが動く。定点的にデータを追い、変化を読み解き続けることが越境販売の必須条件になる。
「勘や経験ではなく、再現性のある戦略を」。篠原さんの言葉は、これからのリユース事業者にとって避けられない課題を突きつけていた。
3. ヤフオクが守り続ける「競りの文化」
ヤフーオークションの西谷さんが語ったのは、オークション形式というヤフオク!ならではの強みだ。定額出品よりも競りの方が売上構成比は圧倒的に高い。腕時計や楽器といった高単価の中古品は、まさにこの形式だからこそ価値を最大化できる。
僕は思った。ここには単なる売買を超えた「駆け引きの文化」がある、と。買い手は価格を競い合い、売り手は商品説明を丁寧に書き込み、双方の信頼が積み上がることで市場が成立する。クーポンやストア機能といった新しい仕組みも用意されているが、その根底に流れているのは「この人から買いたい」という信頼だ。
安さやスピードではなく、「一点ものをどう評価するか」に市場の醍醐味がある。リユースという言葉が安売りのイメージを帯びがちな中で、ヤフーオークションはむしろ“価値を競り上げる場”として存在感を放っていた。
4. メルカリが拓く“つながり”の経済圏
メルカリShopsの七尾さんが強調したのは「フォロワー」という言葉だった。かつては一度きりの取引で終わっていたフリマの関係が、フォロー機能によって店単位のつながりへと拡張されている。フォロワー限定クーポンやプッシュ通知が用意され、顧客は“選んだ店”と継続的に接点を持つようになる。
強く感じたのは、ここにSNS的な発想が持ち込まれているということだ。売る側は単に商品を並べるのではなく、顧客との関係を積み上げる。その関係性が次の購買につながり、売上が積み上がっていく。価格競争に陥らずとも成立する「濃いつながりの経済圏」が広がっているのだ。
事業者にとって重要なのは、まず顧客にフォローしてもらうこと。そこから通知やキャンペーンで接触を重ね、ファン化を促す。この循環が回り始めたとき、メルカリは単なるフリマアプリではなく、独自のリユース経済圏へと変貌する。僕はその姿に、リユースの新しい未来を見た。
5. スニーカーダンクが築いた「信用を拡張する力」
スニーカーダンクの佐々木さんが語ったのは、鑑定や検品といった“信頼の仕組み”だ。出品者と購入者が直接やり取りするのではなく、モールが真贋をチェックする。これによって「安心して買える場」としての地位を確立している。
印象的だったのは、その信頼を土台に新たな領域へと広げている点だ。ポケモンカードなどのホビー分野が盛り上がり、従来の顧客層とは異なる事業者が参入している。異業種からの参入者が増えているのは、それだけプラットフォーム自体の信用が商売を支えている証拠だろう。
聞いていて思ったのは、スニーカーダンクは単に「スニーカーのモール」ではなくなっているということだ。信用を軸に顧客を惹きつけ、その信頼を別ジャンルにも波及させる。リユース市場が次のステージへ進むとき、この“信用の拡張性”は大きな鍵を握るに違いない。
6. 見えた「3つの鉄則」
整理されていったのは「三つの鉄則」だった。
第一に、データを基盤に顧客を知ること。感覚ではなく数字で裏付けられた戦略こそが、再現性ある成果を生む。
第二に、信頼を可視化すること。鑑定・評価・フォロー・クーポン──形は違っても、最終的に顧客が選ぶのは「安心して取引できる相手」だ。
第三に、チャネルを掛け算すること。ヤフーオークションで動かない商品がメルカリで売れ、スニーカーダンクで仕入れた商品がeBayで高値を付ける。きっと、それはある。市場を横断しながら在庫を動かすことで、機会を最大化できる。
リユースは「安さ」の代名詞ではない。むしろ、顧客との信頼をどう設計し、どの市場の文脈に自分の商品を重ねていくか──そこに未来がある。
リユースは、単にモノを循環させるのではない。人と人の信頼を循環させる営みへと変化しているのかも知れない。
今日はこの辺で。