AIとリアルの融合でコンビニが進化──ローソン×KDDIが描く“未来の社会インフラ”とは?

「コンビニは、ただの“便利な場所”では終わらない。」そんな宣言にも似た想いを背負って、ローソンとKDDIが仕掛けた“新しい日常”の第一歩が、高輪ゲートウェイに誕生した。それが「ローソン Real × Tech Convenience1号店」。リアルとテクノロジーが本気で交差するこの場所は、私たちの暮らしをどう変えるのか。目指す先は、ただの店舗ではない。社会インフラとして、地域と共に“生きる”場所である。
この日、記者会見では、ローソン株式会社 代表取締役社長の竹増貞信氏、KDDI株式会社 代表取締役社長 CEOの松田浩路氏らが壇上に上がった。

そして今回、現場で交わされたリアルな対話を聞く中で、僕がコンビニの変化と同時に、強く感じたのは、「AIとはインフラである」という核心だった。ここに込められた思想と挑戦を、7つの視点から紐解いていこう。
「テクノロジーが街とつながる」──コンビニが地域インフラに進化する日
この店舗は、単なる「便利な売り場」ではない。むしろ、地域社会の一部として機能する“ハブ”であり、街全体とリアルタイムで接続された“生きているコンビニ”だ。
それらは、ローソンという生活接点に対して、KDDIの持つデジタルリソースを掛け合わせることで実現している。会見で代表の話を聞いていると、それぞれの企業の思惑が立体的に浮かび上がってきて実に面白い。
まずローソンは、従来型の「モノを売る場」としてのコンビニからの脱却を目指している。便利さの本質を問い直し、「顧客体験の変革」を通じて、新しい価値を提供しようとしているのだ。たとえば、生活者にとっては「欲しいものが並んでいる場所」ではなく、「目的がなくても、なにか見つかる場所」になる。商品だけでなく、暮らし全般の“よろず相談所”のような役割を果たす。
店舗側にとっても、バックヤード業務を効率化し、スタッフが本当に注力すべき“人の価値”に集中できるようになる。顧客の気持ちに寄り添うサービスにこそ、コンビニの未来がある。
ローソンから街全体へ──KDDIの構想
一方のKDDIは、ローソンを単なる販売拠点ではなく、「街のハブ」として位置づけている。その店舗に、通信事業を通じて得たユーザーデータや技術を重ね合わせることで、集客のみならず街づくりそのものを変えていこうという戦略だ。
その象徴的な取り組みが「ドローン配送」だ。すでにKDDIの関連会社では実証実験も進んでおり、ローソン店舗が地域社会の信頼拠点として定着すればするほど、こうした新たなサービス導入の土壌も育っていく。
これまでのインフラは、電話線や水道管といった“物理の網”で街を支えていた。しかしこれからは、人と情報が繋がり、データが動く“デジタルの網”が街の命脈となる。その中心に、街と共鳴するリアル拠点としてのローソンが据えられるのは、ある意味で必然とも言える。
つまり、KDDIが描く街の未来像において、ローソンはただの店舗ではなく、“エッジコンピューティングのノード”として機能する可能性を秘めている。人とデジタルが共に息づく街づくり──その実装拠点なのだ。
街とつながる“気づき”の拠点
その前提を踏まえて、新しいローソンを見てみよう。
まず、同店では、気象や人流データ、街のイベントといった周辺環境の情報がサイネージに連動し、「今日この瞬間」に必要な商品やサービスがレコメンドされる。たとえば、猛暑日には熱中症対策の飲料が表示され、街で開催中の催事に合わせた商品も提案される。
また、店舗内の体験設計は、視覚的なフィードバックとAIの連携によって進化している。例えば、サイネージにはランキングが表示され、おにぎりを取ると、下のように、それは「タンパク質量は赤マークをチェック!」に変わる。関連商品を連想させ、行動を促す。

その他、ある来店者がサンドイッチを手に取ると、その動作が天井に設置されたカメラで認識され、すぐ近くのサイネージに「コーヒーはいかがですか?」とレコメンドが表示される(冒頭写真)。
ちなみに、これは、商品同士の関係性に基づいた“プロダクト起点”のレコメンドだ。つまり、人に対しての個別提案ではなく、「この商品を選んだ人は、こうしたものも必要では?」という文脈による提案である。
一方で、店内には陳列棚の上部など複数箇所にカメラが設置されており、これらは来店者の年齢層や性別、おおまかな行動傾向などを捉え、店舗全体のオペレーションデータとして活用されていく。
この両者が結びつくことで、将来的には“人とモノ”の動きを掛け合わせた精緻なレコメンドが可能になる。つまり、「Aを手に取った人にはBをすすめる」から、「この人にとってのベストなBは何か」を見出す次のフェーズへ。
店はデータと共に進化していく
そのほかで、面白いのは、レジ全体を覆うサイネージでは、周辺の交通事情すら表示され、行動決定の拠点となりうることを示す。つまり、ローソンはもはや“モノを買うだけの場所”ではない。
生活の中の「気づき」や「提案」をくれるパートナーへと役割を拡張している。これは、「情報と物流の交差点」に立つ社会インフラとしてのコンビニの、ひとつの理想形だ。

先ほども触れた通り、店の端にはよろす相談のためのBOXがある。この中では生活全般に関する相談に乗ってくれるスタッフが常備、存在している。常備、存在できるのは、AIを活用しているから。AIのコンシェルジュがリモートでその相談に乗るわけである。
当然、そこにかかる人件費も抑えられたことでできるようになる。とはいえ、多くの人数が集まる場所にして、この一人分くらいのスペースの拠点は少々、小さすぎはしないか。

AIが答えをくれるわけじゃない
今まさに出てきたAIというキーワード。これも取り組みでは重要だ。
これらの環境を裏側で助けるのが、AIだからである。僕が一番、この場に来て実感したのは、「企業がAIにおけるインフラを作る」フェーズに来ているということだ。つまり、読者も然りだが、個々でAIを使うことがあるだろう。それを企業単位でどう向き合うかに関しては答えがまだない。
つまり、個別にAIを使っていてはダメなのだ。
企業が持つ共通の条件の中で、個々の才能や可能性を引き出すAIのインフラを作り出す。そのことこそが、これから必要なこと。おそらく、KDDIはその素材を探しているのだと思った。その一つがこのローソンという小売店のインフラなのだ。
そして、AIは「答えを出す」存在ではない。それはむしろ、問いの“ブラッシュアップ”を促す存在だ。現場で店長が感じた違和感──たとえば「なぜ売れなかったのか」「どうして客が減ったのか」──それらをLINEのようなUIでAIに問いかける。そのプロセスこそが、思考の筋トレになる。
ポイントは、「正解」を得ることではなく、より最適な仮説に近づく精度を高めること。そしてこの対話を通じて得られた気づきは、店舗全体の付加価値に直結していく。AIはそのための“拡張装置”であり、道具に過ぎない。
むしろAIが真価を発揮するのは、現場の人間が「自分の頭で問いを立て続ける」姿勢を持ち続けたときなのだ。
現場の「個性」を、企業の「知」に変える──テンプレート化という民主化装置
だから、担当者に聞いたのだ。結局、使いこなせる人と、使いこなせない人に差が出る。そこをどう標準化するのだと。
その答えとして、今回の仕組みで特に面白かったのは、優れた店長がよく口にする質問をテンプレートとして用意し、誰でも選べるようにしている点だ。つまり、「よく考える人の問い」が、組織の共通資産になる設計だ。
それにより、属人的になりがちな“勘”や“経験値”が、店舗を越えて共有されていく。この構造は、ただのマニュアルではない。“問いの民主化”だ。
こうしてAIは、現場の感性と、企業のナレッジを橋渡しする存在になる。問いの精度が上がるたびに、企業全体の対応力も底上げされていく。ローソンが目指すのは、まさにその「問いを磨ける組織」なのだ。
デジタル素養×直感UI──考え続けられる現場の条件とは
いわば、KDDIが打ち出したのは、「誰でも使えるUI/UX」の徹底設計だったのである。LINEと同じ操作感、グラフや写真による視覚化──それらはすべて、“理解のハードル”を下げる工夫に他ならない。

そして、誰もが問いを立て、仮説を検証し、学び直せるようにすることで、“デジタル素養”は徐々に自然なものへと昇華していく。大切なのは、「できるかどうか」ではなく「続けられるかどうか」。その土壌を支えるのが、直感的に使えるデザインであり、日々の反復で生まれる“気づきの習慣”だ。
考える人と考えない人──その“差”を埋めるもの
AI導入の議論の中で最もリアルだったのは、「ボタンだけ押す人と、問いを深掘る人」の二極化の問題だった。AIの精度や性能以前に、「考える習慣」がなければ、どれだけ優れたツールも宝の持ち腐れになる。
だからこそ重要なのは、「考えない人を責める」ことではなく、「考える力が芽生える土壌」を用意することだ。たとえばAIの方から「こんな問いはどうですか?」とレコメンドする構造を仕組みに組み込む。それにより、誰でも問いの精度を少しずつ高めていけるようになる。
ここにあるのは、“個”の才能を最大化しつつ、“共通化”によって企業全体を底上げしていくという思想だ。
これは「店舗の話」ではない。「人の価値」の話だ
結局のところ、ローソンのこの挑戦は、店舗効率化の話ではない。人の可能性をどう引き出すかという、極めて人間的な挑戦なのだ。AIによって拡張されるのは「業務効率」ではなく、「問いを持ち、思考する力」だ。逆説的に聞こえるかもしれないが、テクノロジーの本質は人間の思考を“解放”することにある。
どんなに便利なUIでも、どんなに直感的でも、それを通じて「なぜ?」と考え続けられる人間がいてこそ、AIは本当の力を発揮する。ローソンの1号店には、その“問いの文化”を根づかせようとする覚悟があった。
AIは「便利」じゃない。「問い」と「価値」の間をつなぐインフラである
結果的に、デジタル化が進むほど、人間力が問われるということなのだ。AIなりデジタル化によって、より人間味の溢れる対応が増えるとすれば、それは今回の取り組みの成功を意味する。生産性だけが答えでなはない。
それゆえ、AIについて言及した。今回の議論を通して僕が強く感じたのは、AIが“便利な道具”という認識では、もはや通用しないということだ。むしろ、企業にとっての「思想を実装するためのインフラ」こそが、AIのあるべき姿だ。
企業のルールや文化を叩き込み、現場の課題に沿った運用をAIに学ばせていく。その蓄積が、やがて「考える組織」としての質を引き上げる。そこには「個」と「共通化」の両立がある。
インフラという言葉には、静かだが力強い響きがある。AIを人間の思考のインフラとして捉える。そんな未来が、ここから始まっている。ごめん、ローソンとKDDI、ちょっと話が逸れているかもしれないけど、でも、本質的には同じことだろう。もっと、素敵に、人間味あふれる、よりどころとなるローソンに期待したい。
今日はこの辺で。