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「届ける価値」から始めるサプライチェーンマネジメント──秋葉淳一さんが語る“思想としてのSCM”

 ものづくりや小売の現場で仕事をしていると、きっと一度は耳にする「サプライチェーンマネジメント」。生産性を高めるための仕組み──そう思っている人も多いだろう。確かに、それも一つの側面ではある。でも、それだけではどうにも腑に落ちない。「現場の感覚に合わない」「実際の運用に活かしにくい」と感じているなら、今こそ立ち止まって考えるタイミングかもしれない。

 モノプラス会長・秋葉淳一さんが語ったのは、EC初心者から経営者まで、立場を超えて響く“本質”の話。その言葉に耳を傾ければ、小学生でもわかるくらいシンプルな理屈が見えてくる。

第1章:価値を届け続けるための構造

サプライチェーンとは「価値の運び屋」

 サプライチェーンマネジメントは、よくこのように語られる。

「製品やサービスの供給にかかわるすべての活動(原材料の調達、製造、輸送、在庫管理、販売、消費者への配送など)を統合的に管理するプロセス」。なんだか、その言葉の意味は、工場の工程を指すように思える。

 ただ、その小難しい説明(失礼!)で、どれだけの人がわかるというのか。

 だから、サプライチェーンマネジメント(以下、SCM)の目的は何か?そう問われると、多くの人が「無駄を省くこと」や「効率化」と答える人が多い。でも、それは工場内の一部の話に過ぎず、本質を捉えない限り、企業の成長にはつながらない。

 ゆえに、秋葉氏は、もっと本質的な問いを投げかける。「それは“何のため”にやるのか」。

 SCMは、単にモノを運ぶための仕組みではない。

 顧客に“価値”を届けるための構造であり、それは情報や金銭を含む、すべてのリレーションを設計・管理する営みである。そう。繰り返すが「モノ」の流れではない。届ける「価値」を最大化する仕組みを、構築することなのだ。

ワンルームで仕事をしたら・・・

 例えば、小さなワンルームで仕事をしていたとしよう。

 一つしか部屋がないから、複数人がそこに集まり、各々、材料を手にして、商品を作り、然るべきパッケージに包んで、発送の準備をする。つまり、この状態がサプライ“チェーン”なのであり、マネジメントが殊更、重要にならない。

 なぜなら、隣にいる人に自らの役目を踏まえて、仕事を依頼するからだ。だから先ほど、情報や金銭を含む…と書いた。サプライチェーンの上では、商品だけでなく、人と人、そしてそこに流れる「情報」が欠かせない。その情報のやりとりが、つながりを完成させるからだ。「ちょっと、あれやって!」と、その場で声をかけて頼める。

 ところが、このワンルームの作業が隣の部屋にまたがったり、はたまた、隣の国にまたがったりするとどうだろう。一気にその情報の行き来が、悪くなって、この繋がりが活かせなくなる。この瞬間、本来、その企業ごとに持つ価値が、真に顧客に届けられない事態が発生する。

 このとき、はじめて“マネジメント”の必要性が浮かび上がるのだ。時に、人ではなく、システムの導入をすることによって、それを可能にする必要が出てくることもあるだろう。

 サプライチェーンマネジメントと言われる所以である。

「続ける」ことの意味

 しかも、それは、企業ごとだけではなく、産業構造とも関係してくる。どういうことか?

 実は、SCMの真価は「価値を“継続的に”届けられるかどうか」にある。もしも、それが商品単位で見ていたとすれば、それを構造的に捉えてしまう。そうすると、あたかもその構造自体が正しいものと判断されてしまうが、実はその構造は変容していて一定ではない。

 まるで人間の細胞みたいだ、僕はそう秋葉さんに言った。僕という人間は同じようでいて、何日か後には全ての細胞が変わっている。SCMも一見、昔と同じようでいて、微妙に変化している。

 なぜ、変容していなければならないのか。今我々の周りにある環境は、10年、20年単位で考えた時に、変貌しているからだ。それこそ、生成AIは10年前にはこれほど身近ではない。25年前で言えば、スマートフォンすら市民権を得ていない。

 だから、その都度、顧客に「届ける価値」を考え、その途中をアップデートするのである。

 自分たちが届ける核たる部分(価値)は、変わらない。けれど、周りは変わっているから、その産業構造に合わせて、企業ごと、ブラッシュアップされ、届ける価値の精度をあげていかなければいけないのである。だから、構造を固定し、一時点の仕組みを取り上げ、それを正解と捉えるのが危険なのだ。

 そうやって、時代の変化に応じて、途中のプロセスを柔軟に変える。そうすることで、顧客との信頼関係を維持できるのだ。それができなければ、いずれどこかで“しわ寄せ”が発生し、誰かが犠牲になる。

第2章:分業の進化と“見えない”マネジメント

狩猟と農耕から始まった物々交換

 大体のその概略は見えてきたと思う。改めて、その理解を深めるほど、このSCMという考え方は、今に相応しく考えられた理論であることに気付かされる。というのも、この理論は1990年代に語られ始めたもの。

 つまり、大量生産、大量消費によって、その規模が大きくなって、そのマネージメントが難しくなっていたからなのである。秋葉さんが面白い話をしてくれた。

 サプライチェーンの原点を「物々交換」に例えたのだ。

 例えば、Aさんが狩猟が得意だとしよう。一方で、Bさんが農作物を育てることが得意だとしよう。その時に、イノシシを狩る者と、麦を育てる者が互いの価値を交換し合う関係。生きるために、それをしていたわけだ。

 ところが、Aさんのイノシシをもっと多くの人が欲しがった時に、他の人にも渡そうと考えるのが、まさに産業化である。この産業化を経て拡大し、国境を超えた連携へと進化した。

分業の進化と“距離”の課題

 つまり、かつては同じ村、同じ地域での分業だったが、産業化により地理的距離が広がることで、関係性の“見えにくさ”が増した。その結果、サプライチェーンには「管理=マネジメント」が必要となった。見えない関係性をどう繋ぎ、信頼を担保するかが課題となる。

 徹底的に仕組み化を進め、大量生産・大量消費を可能にする土台を作るというのが、産業革命である。製品が作られ、消費者に届けるまでの過程で、分業という構造が、これまでの最適解だったというわけである。

 だから、今もそれが根強くあって、その生産性を高める動きは、サプライチェーンマネジメントという言い方で“片付け”られるようになった。でも、根本的に、その分業が必ずしも正解でなくなっていたりもする。結果、過去の仕組みの中で作り上げられた構造でしか、物事を判断できないのが命取りとなる。

 仕組みにとらわれているのだ。仕組みは手段であり、目的は「届ける価値」をブラッシュアップすることである。その時見るべきは、商品ではなく、商品を含む価値である。物々交換の話に戻せば、イノシシが大事なのではなく、Aさんが狩ったイノシシを届けることが大事なのである。そこへの途中はどうあるべきか。

テクノロジーがつなぐ“距離”

 だから、届ける価値から考えるべきだ。そして、それに逆算して組み立て直す必要があるのは、届ける先である消費者の環境が、先に述べたように大きく変貌しているからだ。

 かつ、現在では、AIやクラウドを使った情報共有がその“距離”を埋めてくれる存在となっている。

 その途中の部分に入り込むテクノロジーも進化しているから、これらが届ける価値の意義を高めてくれる可能性がある。極端に言えば、途中に介在する人の手間すら減らし、結果としてコスト削減につながる場合もある。だけど、この部分で、SCMが脚光を浴びているのは、本質的にはズレている。

 あくまでもその本質は、「届ける価値」からの逆算なのだ。それをやることで昔と変わらず、いや、さらに届ける相手がその価値を感じてもらえるように。

 だから、システムなども取り入れると、企業の成長と顧客の満足度が両方育つ。でも、部分的に見れば、単なるツールに過ぎない。柔軟に「届ける価値」から逆算して、時代に即していき、仕組みを常に見直すことこそが真髄。

 そして、大切なのは、分業によって断絶された現場同士が、「価値を届ける」という目的のもとで再びつながり直す意識なのだ。まるで、同じ部屋で一緒に作業をしていたときのように。

第3章:スマホが変えた購買主導権とECの可能性

「手のひらの中」から「手の中」へ

 ここまで、中身の変容が大事だと書いた。では、これから必要なのは何か。それを考える上では、その大元の産業構造の変化ついて考えるとわかりやすい。

 秋葉さん曰く、以前は、消費者は百貨店やカタログという企業の“手のひらの中”で買い物をしていた。つまり、消費者は自ら、そこへと足を運んで、商品を手にしていたわけである。例えば、百貨店では、数多くの品揃えがあるし、カタログにしてもそこに多数並んだ商品があって、そこから選ぶというスタイルである。

 つまり、消費者は相手の土壌=手のひらの中で、購入していたのである。

 ところが今はどうだろう。

 今や、スマホの普及により主導権は消費者の“手の中”に移っている。これは購買体験の根本的なパラダイムシフトを意味する。

 だから、SCMを固定化された理論と捉えると危険なのだ。SCMの本質を捉えていないと、そこに対応できないのである。

だからこそ、ECはチャンス

 それを踏まえて、変な言い方だけど、これから、ECを始める人はチャンスなのかもしれない。

 なぜなら“構造の変化”を前提に、自分なりのSCMを構築できるからだ。過去の仕組みに縛られる必要はない。秋葉氏は「むしろゼロベースで組み立てる人にこそ、大きなチャンスがある」と語る。

 つまり、そこで個々の企業ごと、時代に合わせて、「届ける価値」を考える。

 すると、SCMの本質は“途中”にある。商品を届けるまでのプロセスが変われば、企業の価値提供の姿勢も変わる。だからこそ、AIやユニファイドコマースといった新しい考えや技術も“途中を変えるための手段”として捉えるべきだという結論になる。

第4章:スケールと情報の重み──数と価値の関係性

スモールとラージ、それぞれのマネジメント

 そして、もっと根本的に捉えていく。これらのSCMを学んでおくことがプラスになる理由。それは、事業を拡大する上で、大きな味方となるからである。少量であれば、SCMはあまり複雑にはならない。

 ただ、忘れてはならないのは、どこまで行っても、物理的なモノが移動するという現実である。

 つまり、扱う数が増えた途端、物理的にも情報的にも“重さ”が一気に変わる。だから秋葉さんはSCMの重要性を説くとともに、「%で捉えると、危険である」と指摘する。

 100個売るのと、10万個売るのとでは、同じ1%の誤差が意味するインパクトがまるで違う。なぜなら、売れ残りが1個で済む場合と、1000個残る場合とでは、影響がまるで違うからだ。物理的なモノだから、それらの管理にかかるコストは、想像を超えて膨れ上がる。

 だから、届ける価値から逆算して、そこにとどまらず、その途中も考えて、設計をしておくことが、事業を成長させる上での大きな力になる。それを理解したうえで実行するか否かで、結果には雲泥の差が生まれる。

売上目標ではなく、価値目標へ

 ゆえに、「1000億を目指す」といった数字ありきの発想は、ことの本質を捉えていない。それは、拡大する旧来の産業構造に引っ張られがちだから。途中から逆算して、それが今の産業構造と照らし合わせて、相応しいかの判断をすべきである。

 むしろ、どのくらいの人に、どのような価値を届けたいのかという問いが、SCMを設計するうえでのスタート地点であるべきだ。

 極論、よく決算会見などで耳にする、昨対110%成長などという言葉が、正しくないかもしれない。本当に伸びることで、企業と顧客、ステークホルダーまで健全に納得する環境ができているならいい。ただ、届ける価値が定義されれば、受け止める相手だってキャパシティーがある。

 増えることを目指すあまり、その途中の流れ(=SCM)が歪んでしまって、届ける価値が逆に、失われていくことだってある。

計画とは、未来への約束

 だからこそ、秋葉氏が語ったとある会社の逸話は象徴的だ。

 経営会議で、予想を超えて売れたという話が出た時、多くの人が喜ぶ一方で、彼の知人でもある幹部は、「計画以上に売れたことを叱責した」のだ。

 わかるだろうか、この本質を。

 少しでもそこに誤差が生まれれば、その仕組みの中にひずみが生まれている。その時、必ず現場に皺寄せがいくことになる。それではSCMの意味がない。ここまでずっと書いてきた本質に従い、産業構造を踏まえながら、アップデートをして、極力、その誤差をなくすことが大事なのだ。

 そうすれば、消費者は勿論、取引先などのステークホルダーすらも安心して、未来を思い描くことができる。自ら変化に敏感になってこそ、手にする「安定」なのだ。だから挙党体制ができる。

 その姿勢は、全員が同じ方向に進むための信頼の設計であり、“未来をつくる力”としてのSCMを象徴している。

第5章:「価値」を軸にした共同作業としてのSCM

 まとめると、秋葉氏は、SCMを単なる分業管理ではなく「共同作業」だと捉えるべきだと説く。

 だから、その時にともに歩んでいく、物流会社やITパートナーは、“安く仕入れるための存在”ではなく、“共に価値を届ける仲間”である。そして、ともに未来を見据えて、自らを変えつつ、思想を維持していく中で、成長がある。

 サプライチェーンマネジメントは、生産性向上のためのツールではなく、価値を「届け続ける」ための思想である。

 顧客の手に何をどう届けたいのか、その道筋を誰と、どのように共に設計し直していけるか。この問いに立ち戻ることで、変化に流されるのではなく、変化を味方につけた経営ができる。

 小さなEC事業者こそ、いまこの『価値の設計図』を手に取ってほしい。目の前の一歩が、未来の大きな信頼へとつながっていくからだ。そして、未来の顧客は、きっとその“丁寧な設計”を選び取ることだろう。

今日はこの辺で。

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