気付かぬ価値に“気づかせる”自社ECを本質的に解き明かすー発揮されるブランド価値の真髄
「やあやあ、よくきてくれました」。ここにもう、自社ECを紐解くヒントは現れていた。フューチャーショップ取締役 安原 貴之さんは、僕を新しい東京オフィスに迎え入れて、その感受性に訴えかける内装に唸った。ECが普及する中、楽天市場などのモール型ECが広く利用される一方で、自社ECの存在意義はどこにあるのだろう。それは、かいつまんで言えば、モール型にはない「顧客との直接的な関係構築」や「ブランド価値の向上」ということになる。だが、その言葉はありきたりである。
本記事では、自社ECのサービス内容を説明しつつ、安原さんのインタビューをもとに、自社ECの本質とその可能性を深掘りしたい。そして、彼の言葉から見えてきたキーワードは「気づかぬ価値に気づかせる」ということである。
1. 自社ECとは:多機能な自社ECプラットフォーム
ネットで店を展開する方法としては、モールに出店する以外に、自社独自のECサイトを構築するという選択肢もある。その際に便利だとされるのがASPカートで、フューチャーショップはその一つと言える。
釈迦に説法かもしれないが、ASPカートとは、商品管理や受注処理、デザイン変更、SEO対策、SNS連携など、EC運営に必要な機能を備えたSaaS型サービスだ。初期費用が低く、短期間でサイトを立ち上げられる。そのため、特に小規模事業者やEC初心者にとっては非常に心強い。
ただし、手が届きやすい分、一般的にはカスタマイズ性に限界がある。その点だけは考慮が必要だ。だが、フューチャーショップはその中でも専門性をやや高め、より柔軟なカスタマイズが可能な環境を提供することに注力している。そのために、エンジニアの体制を強化し、充実したカスタマーサポートを整備しているのだ。
2. 自社ECの本質:未知の課題を解決する場
さて、それを踏まえて、ここからが本質的な話だ。自社ECに取り組む事。それがどういうことを意味するのか。その意味で、安原さんは、自社ECの価値を「未知の課題を解決する場」であると表現する。
例えば、楽天市場やAmazonなどのモール型ECでは、顧客はすでに探したい商品を特定していることが多い。すると、数多く集まる商品の中で、スペックや価格が重視され、それを元に比較検討される。それはショッピングをする上で必要な要素であり、王道である。
しかし、自社ECではそうした「商品検索型」の購買行動ではない。ブランドが提供する新たな提案が求められるとする。それが特徴である。
「Instagramを思い浮かべてください」と安原さんは語る。「多くの人は具体的な商品を探しているわけではなく、生活を豊かにするヒントやアイデアを求めています。自社ECも同じで、顧客が気づいていない課題を解決する提案が求められるのです。」
ブランド品の活用方法やスタイリングのアイデアなど、商品の背景にあるストーリーや価値を伝える。そうすることで、顧客はそのブランドに共感し、自社ECを訪れる理由が生まれる。これこそがモール型ECとの差別化であり、自社ECが持つ最大の可能性なのである。
3. 「コンテンツ」が成功を決める
「だから、代表である星野(裕子さん)は、創業当初から『自社ECはコンテンツこそが生命線』。そう訴え続けてきたんです」と安原さん。なるほど。この日オフィスを訪れ、感性に響く内装に心を動かされたのも、その言葉が体現されているからに他ならないのだ。
自社ECでの成功は、商品の魅力を伝えるだけでなく、顧客の生活や価値観に寄り添うコンテンツを提供できるかどうかにかかっている。
・顧客を惹きつける課題解決型コンテンツ
例えば、ファッションブランドであれば、「30代女性が仕事でもプライベートでも着られる万能アイテム」といった具体的な提案が顧客を引きつける。
繰り返しになるが、目的買いではない。「そういえば、、、好きかも」。そう気づかせるスタイルに、自社ECの真髄がある。逆に言えば、常にカテゴリーやスペック、値段を軸に商品設計をする傾向が強いモールとは決定的に違う。商品との向き合い方を根本的に変えていかなければならない。
しかも、そんな感覚的要素すらも可能にしたのが、今のデジタルの要素である。
例えば、SNSでもそういうアルゴリズムが既に設計されている。これは今までファッション誌などが、読者の総意としてある一定の世界観で商品を紹介していた。だから、読者はそれを参考に選んで、購入をしていた。その世界観とはまるで違う。
ユーザーの好きなテイストを理解して、それに近い雰囲気の世界を持つ発信と引き合わせる。
そりゃ今の若年層が、そちらで自らの商品選択を決めていくのは当然だ。感性の引き合わせがデジタルで可能になったからこそ、発信する側は自分が意図するユーザーに響いているか。SNSの機能を利用して、その流入度合いで、自社ECは自らの立ち位置を検証することができる。
つまり、安原さんは、「初心者でも、顧客の反応を見ながら改善を重ねることで、コンテンツを充実させることができます」と語る。
・デジタルコマーススキルがもたらすDXの未来
あるECサイトでは、WEBメディアでそれをやっている。アパレルにおける着こなしなどの課題感を一つ一つ、コンテンツ化していく。そうやって、自分のコーディネイトなどで、その商品の必要性に「気付かせる」わけである。
だから、WEBコンテンツも相当数のアクセスを記録している。このプロセスこそが、自社ECを成長させる原動力となる。
それには、根本的に「デジタルコマーススキル」を備える姿勢が大事だと説く。横文字を聞くと敬遠しがちだ。しかし、今まで当たり前にやっていたことの置き換えなのだ。
リアルなお店で、スタッフは色んなことを思いめぐらせ、提案をしていた。でも、それは人間の頭の中で完結していた。そんなリアル店舗で行っていた接客や陳列のあり方を、デジタルで再現するのである。
つまり、今までは人の頭にあった顧客行動に基づく店員の対応を、データ化して、EC運営の施策の中でPDCAで改善し続ける。それこそがデジタルの真骨頂。
何も生産性を高めるツールがデジタルなだけではない。アプローチを通して自らを知ることができるようにしていくこと、それが「デジタルコマーススキル」である。
だから企業は強くなる。データに基づいた意思決定が可能になり、リアル店舗での成功体験をデジタルでさらに発展させることができるからだ。
4. オムニチャネル戦略で生まれるデータ活用の真価
ゆえに、スペックに頼らずして、新しく売上を作り出す要素につながる。ところが、まだ多くの企業は、その分析と検証が徹底できていない。だから、会社全体の生産性が高くないのだ。
「そう考えると、自社ECは、DX(デジタルトランスフォーメーション)の入り口でもあります。それを活用できる企業は、時代の流れを梃子にして成長するでしょう」。そう安原さんは述べる。
話は自然と全体の話に至った。つまり、デジタルコマーススキルは、EC単体での解決でありながら、他の事業部にも影響を及ぼす太い幹となるのである。
そう考えると、オムニチャネルという視点にも直結するのはいうまでもない。これは、ブランド価値を高める上で必要なこと。実店舗を展開しているブランドがECに取り組むことで、新たな顧客体験を生み出す事例も少なくない。
「店舗とECを連携し、顧客データを統合管理する。そうすることで、顧客体験をさらに向上させることができます」と安原さん。デジタルコマーススキルと同様に、組織として、その理解を深めて、行動に活かすことが重要だ。
そのために、実店舗のスタッフが率先して垣根を越えた関係性を築く。それには、お客様へECに対して積極的にアプローチしてもらうよう、促すことが求められる。例えば、共通のポイント制度や、オンライン購入商品の店舗受け取りサービス。それを導入することで、オンラインとオフラインがシームレスに結びつく。
5. 自社ECがもたらす未来
組織として、デジタルの元で一つになる。それが大事なわけである。それこそが今の時代。
ここまで話してきてお気づきだろうか。自社ECとはそれ自体で完結し、ブランド力を最大限に発揮できる環境を作り上げるもの。これにより、企業が自らの立ち位置を確立していく。だから、今度は向き合う顧客とシームレスにどう繋がれるかを模索する。
オムニチャネルの話もした。けれど「うちは実店舗を持っていない」から関係がない。そんな話ではない。
デジタル上でコンテンツ力をPDCAサイクルで磨き、ブランド価値を高めていく。そうすれば、やがて実店舗を展開する機会が生まれる。その時、デジタルコマーススキルがあれば、問題なく対応できる環境が整う。
それこそが、成長の余地であり、未来への可能性だ。
彼らはフューチャーショップ・アカデミーなどの学習の機会も徹底して行い、その知見を身につけるように仕向けていく。これにより、企業は顧客との直接的なつながりを深め、ブランド価値を高めることが可能であると胸を張るわけである。
安原さんはこう締めくくる。
「自社ECは、ブランドと顧客が直接つながる場です。顧客の課題を解決し、生活を豊かにするために何ができるか。それを問い続けることが、企業の未来を創るのです。」
今日はこの辺で。
追伸:ライブコマースも彼らの考える“コンテンツ”の一つ。だから僕らのオフ会でも、僕らの仲間とそれを実践してくれました。感謝。