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未来の食卓を彩る食べチョクの革新 〜秋元里奈さんの想いと、農家の声を紡いで〜

 食の流通環境に新しい価値観を持ち込むことで、生産者、生産物との向き合い方に彩りをもたらす。食べチョクの記者会見にやってきて、一番、痛感したのはそれだ。元々、彼らは「ビビッドガーデン」という産地直送ECサイトを運営している。この日は、そこから一歩踏み出した。定期便、加工食品、ギフトとそのジャンルの幅を広げることを明らかにして、生産物がもたらす付加価値をもっと多様性に応えるものにする。とりわけ、大きいのは、独自の倉庫の設置であろうと考えられ、この辺に焦点を合わせると、彼らがやろうとする本質が見えてくる。

1. 食べチョクが生産者と消費者を直接結ぶ理由

秋元さんのビジョン、自分の想いをカタチにするために起業

 冒頭から、話が逸れてしまうが、僕は会見後、代表取締役 秋元里奈さんにこう訊ねた。正直言って、バリバリ儲けて、事業を伸ばすというギラギラした感じがない。このビジネスを着想したのは、お金儲けというよりは、ご自身の想いに駆られて始めたことなのではないかと。

 「“作物を作る人が報われる仕組みを作りたい”という強い思いがありましたね」。

 そう彼女は語り出した。元々、DeNAで働き、ゲーム事業で利益を追求する環境に身を置いていた彼女だったが、ただお金を稼ぐのではなく「自分の想いを形にしたい」という気持ちが高まり、今へと至る。

 想いとは何か?自身の実家も農家であり、そこで感じたことは、生産者が抱える「効率的に生産を行えない中小規模農家が報われない現状」。だから、彼女は、消費者と直接つなぐ食のインフラを築こうと思うわけである。

 遡ること、食べチョクはオーガニックなどで、それをやろうと考えていた。ただ、結果、それをやるうちに、徐々に世の中のニーズが見えてきた。規格外品など、既存の流通には乗らない食材に光を当てることで、消費者に新しい選択肢を提供できるのではないかと。

消費者に届けたい「顔の見える食材」

 儲かりそうだからやるのではない。必要な価値だから事業をするのだ。結果、食べチョクは、「顔の見える食品」というコンセプトで、消費者と生産者を直接結びつける仕組みを整えることになった。

 この日、僕は農家の大和田 昌幸さんと話して、その意味を痛感した。彼は「自分が作った野菜が消費者の笑顔につながることを目指している」と語り、とはいえ、それが簡単ではないことを思う。

 なるほどと思ったのは、その土壌ごと、採れる作物は異なる。彼の土地の場合、さつまいもだとか。代々伝わるのはそれだけど、そこにとどまらず、昌幸さんは新たに、はくさい、せり、かぶなど30種以上まで栽培作物を増やした。

 しかし、JA然り多くは規格通りに納品しなければならず、そこに合わせることも簡単ではない。彼の場合、生協などに卸すなどして、自らの商売を築き上げた。そう。彼には野菜への愛があったのだ。

 ただ、時を経て、昨今の原材料費などもあり、彼の事業における粗利が以前よりも厳しくなりつつある。彼に限った話ではないだろう。そういう中で、食べチョクの仕組みでは得られる利益の80%を生産者に還元している。共感している農家が増えていったのは、言わずもがなである。

2. 課題と成長:中小農家を支える新たな取り組み

 結果、食べチョクは設立以来、1万件を超える生産者と100万人の消費者を結ぶまでに成長した。

 繰り返しになるけど、大きかったのは、上記に加え、小規模農家が市場で評価されにくい「規格外品」に目を向け、価値を見出して消費者へ届けることができたこと。

 こうした農産物は従来の流通に乗りにくく、十分な利益を確保するのが難しい状況にもある。食べチョクはその課題を解決し、生産者が付加価値を反映した価格で販売できる環境を提供している。それにより、生産者に、やりがいをもたらしたのだ。

 秋元さんも「生産者にとって安定した販売の場を提供し、持続可能な仕組みを築きたい」と語り、農家の声に耳を傾けている。ここまでの話を踏まえて、新たなサービスを深掘りしてみると、彼らの真意が読み取れる。

3. 「ビビッドテーブル」で広がる多様なニーズへの対応

 一つ目は「Vivid TABLE(ビビッドテーブル)」。

 一言で言えば、それらの生産物からなる加工品である。野菜が本当に美味しくて、農家の顔が見える調理済みテーブル料理。「Vivid TABLE」オリジナルメニューの第一弾として、食べチョク出品生産者のこだわり食材を使用した主菜商品3点を展開する。

 お皿に出して、5分程度レンジで加温するだけでそのまま提供でき、簡単に彩り豊かな食卓が作ることができる。このブランドでは「生産者の顔が見える」ことをコンセプトに、品質や安全性が高い食品を提供し、消費者の食卓を彩る商品開発を進めている。

 パッケージのQRコードから生産者の詳細情報も確認でき、生産者と消費者が「顔が見える」形でつながれる工夫がされているのだ。秋元さんは「ただ商品を売るのではなく、ストーリーも一緒に届けたい」と、その意図を話している。

4. 定期便「食べチョク ドットミィ」で手間いらずの旬の味をお届け

 二つ目が「食べチョク ドットミィ」。

 一言で言えば、定期便である。旬の食材を、定期的に、手軽に取り入れられる。消費者が好みの食材を登録しておくことで、旬の食材が自動で選ばれ、最も美味しいタイミングで届けられるのだ。

  農家さんもまた「自分が育てた食材を、最高の状態で食べてもらえるのが嬉しい」と喜びを語り、秋元さんも「旬の一番良い時期に消費者へ届けることに意味がある」と感じている。

  ここで大事なのは、1万軒の生産者と100万人の消費者をつなげてきた産直型「食べチョク」だからこそ、見えてくる「消費者の好みや品種への興味関心」である。彼らの価値観のもとに、共感して集まっているユーザー、生産者だからこそ、この定期便としての価値が際立つ。

 先ほど話題に上げた大和田 昌幸さんのように、扱う野菜が多ければ、使われなくなるものだって多くなる。それを生産性高く、価値に変えていく土壌もここで実現できそうである。

5. 隠れた銘品とストーリーを贈る「コレダギフト」の新しいギフト体験

 三つ目が「コレダギフト」。

 全国の隠れた銘品を特別なストーリーと共に贈るギフトコンシェルジュサービスである。

 秋元さんは「ギフトには生産者の物語が必要」と語り、贈り物に込められたストーリーが相手とのつながりを深めると考えている。繰り返しになるけど、生産者や生産物への敬意が、食べチョクのサービスには溢れているからこそ、ギフトとしての価値を誰よりもユーザー側が理解できるというのが大きい。

 山燕庵(さんえんあん)の杉原晋一さんは、「正直、他の生産者の方が売れているだろうに、我々が選ばれたのは光栄」と話していた。彼は、IT企業出身ながら父の米作りを手伝うようになり、気が付けば、そのあとを継ぎ、農家を始めた。代表的な商品である『玄米がユメヲミタ』は、玄米と米糀(こうじ)のみで作られている、ノンアルコールの玄米甘酒であり、それを商品にした。

 何が言いたいのか。ちゃんとそこにストーリーがあることに食べチョク側が気づいていることだ。売れる売れないではなく、彼らの物語が受け取る相手に響くかどうかなのだ。

食べチョクは感性だからこそ、ずっと続く

 一番、共感したのは、その感性である。儲かるからやるのではなく、未来に必要な価値を育てていくために、事業を活用するということだ。そして、コロナ禍で急激なネットシフトが生まれ、彼らの価値観が多くの人に認知され、受け入れられるに至った。

 その感性なり、ビジョンなりは、未来を見据えたものだから、持続可能なものである。だから、今回の話へと至る流れも、自然である。

 正直言えば、倉庫なんて固定費がかかる。中身が回転し続けなければならない。倉庫を自ら構えることのコストはかなり大きい。ただ、それよりも今できることを、ということなのではないか。

 要するに、彼らが挑戦する加工品や定期便、ギフトなどはいずれも、今までとは違った付加価値をもたらすものなのだ。そこが大事だ。それを、共通化された倉庫で一気に展開すれば、生産性は高められる。そうやって自らの意志を貫き、また同時にリスクヘッジをして、その体制を未来に繋げる。

 だから、彼らの倉庫を紐解くと、彼らの真意が見えてくると書いたのだ。

 倉庫は、生産者単体ではできなかった価値の醸成の場なのだ。過去と同じく、消費者にその付加価値を理解してもらえれば、コスト以上の利益は得られる。根本は何ら変わっていない。

 生産者と生産物の新しい関係の在り方を模索し、直接届けるだけでなく、価値をさらに広げる。秋元さんの目指す世界が形になりつつあるものの、それはまだ続くのである。

 今日はこの辺で。

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