生成AIが切り開くファッションの未来 – パルコとトップクリエイターが語る革命の最前線
ファッション業界に革命の波が押し寄せている。それを先導しているのが「生成AI」である。昨年のクリスマスシーズンにパルコが打ち出した広告キャンペーンは、全て生成AIで作成された映像やデザインで話題を呼び、SNS上でも注目を集めた。この生成AIを駆使したキャンペーンに携わったのが、パルコの宣伝部長・手塚千尋さんと、ファッション業界で新しい道を切り開く木之村美穂さんである。ファッション ワールド 東京で語られた彼らの挑戦。そこから、生成AIがどれほど未来のファッションに影響を及ぼしているかを紐解く。
生成AIが作る「パルコならでは」の広告
改めて“ファッションにおける”「生成AI」の革命とはいかなるものか。
それは絵を描くという行為ではなく、言葉によって生み出されるのである。たとえば、プロンプト(テキスト)から画像を作り出し、それをもとに動画を作成していく。これを使えば、手書きやカメラでの撮影は不要。アイデアが湧いた瞬間にビジュアルとして実現できるのである。
パルコではこの技術を活用し、ファッションだけでなく「新しい文化」を発信する場としての広告を打ち出した。従来のCM制作に要した手間と時間を大幅に削減し、特別な映像を生み出すこのテクノロジー。それが、新たなファッション表現を次々と創出しているのである。
それを象徴するのが昨年の「ハッピーホリデーズキャンペーン」である。
クリエイティブディレクターとして関わったのが、木之村美穂さんである。木之村さんはファッションデザイナーであり、ロサンゼルスを拠点に広告の制作会社の代表を務めている。最近はもっぱらアバターで活動しているのだ。
デジタルとリアルが交差する「フィジカル」
そんな彼女が生成AIにおけるファッションの最前線を語ってくれた。昨今、急激に注目を集めていると強調したのが「フィジタル」という新たな概念である。
フィジタルとはフィジカルとデジタルを繋ぎ合わせたという意味合い。木之村氏によれば、要するに、AIが作り出したデザインを、リアルな服やオブジェクトとして形にすることを指す。
それによれば、AIがデザインした服をリアルの生地で再現し、ファッションショーで披露するという未来が現実になる。あるいは、リアルのオブジェをデジタルのファッションショーで公開することもありうる。文字通り、デジタルとフィジカルを超えて、表現が行われている。生成AIは単なるデジタル表現に留まらず、物理的な製品としても存在感を放つようになっている。この点が重要ではないか。
彼女曰く、人間の想像をはるかに超えたデザインを起こしてくる。生成AIには固定概念がない。常識的には結びつけないことも、軽く飛び越えて、あわせてくる。だから、想定外のものが生まれてくるわけである。
AIとファッションが作る新しい職種と未来
先日も、デニム素材を使ったファッションデザインを生成AIで作り出した。そして、それをリアルに落とし込む。まさにそれは、フィジタルによって作品を生み出す行為。それが彼女の中では日常化している。
注目すべきは、繰り返しになるが、デニムの詳細について、すべてプロンプトで入れること。
ただ、ここで大事なのは、具体的に入れていること。デザインの仕様だったり、ステッチがどんな感じなのかという具合に。全部、言葉で入れている。具体的でなければならないからこそ、人間が歩んできた知見が生かされる。素材やパターンなどに関する木之村さんの知見が活かされている。
だから、“生成”なのだと思う。個々人の持っている知見により、生成されるものが異なるからだ。
使い続ける中で、個々の知見をベースに、感覚を掴んでいく。そんな感じに近いだろう。生成AIが1日単位で進化しているから、マニュアルなどない。自分と向き合いながら、生成し続ける。これがファッションに限らず、AIの本質だろう。
彼女のそれまでのファッションデザイナーとしての経験と生成AIへのチャレンジによって、手にした全く違う世界観だ。
世界が注目する生成AI、そして未来へ
だから、現在、生成AIを用いたデザインやプロンプト操作のスペシャリストが登場。アメリカではAIフィルムディレクターやAIプロンプトディレクターといった職業が急速に広がっている。
ファッションとAIの知識を兼ね備えた人材が求められる新しい職種である。
「たった一年前には静止画しか作れなかったのが、今では生成AIによって動画も容易に制作できるようになった」。木之村さんはそう語り、生成AIがファッション界に無限の可能性をもたらしていることを強調する。
すっかり感化された僕は、彼らが仕掛けているというイベントを見に、渋谷パルコに行った。それが、木之村さんが代表を務めるSTUDIO D.O.G主催の「NFFT2025_SS AI Fashion Movie展」。
世界中の32名のAIクリエイターが、最新のAI技術を駆使したファッション映像作品を発表していた。映像と音楽すべてがAIで制作された2分以内の作品が展示されるという趣向である。
全てのデザインの始まりは言葉にある
ここでもフィジタルを僕は体感する。オブジェとして実在するマスクが展示されている。木之村さんは、このマスクの制作者からデータをもらい、それを生成AIに入れ込んで、自ら作り出した新たな女の子とその子が着ている洋服とをあわせて、ムービーを作ったのである。
勿論、これらの最初はプロンプトである。そして、そこから絵を作り、その絵をもとに、映像にしていく。音楽もAIで作り出せるので、それらを合わせると、ほぼ映画のレベル感の作品が出来上がる。
物理的な要因により思い通りにならないこともない。だから、撮影において必要とされていた手間も時間も必要としない。だから、その分、またその時間で、新たな創作で才能が開花する。そんなふうにして、人の可能性を最大化させる可能性を秘めている。
日本ではまだ成長途上。だが、木之村さんは「これからのファッション業界に生成AIは欠かせない」と確信しており、世界中のクリエイターと交流を深めながら、日本のファッション業界にこのテクノロジーを広めていくことを目指している。
改めて、これは生成AIの一側面だ。おそらく、色々なジャンルに及ぶインフラになるに違いない。
あらゆる個性を引き立て、デジタルながら、人間の価値を知らしめる。ファッションの未来は、まさに今が始まりの段階である。ファッションの限界を軽々と超え、より豊かで創造的な未来が広がっていく。
今日はこの辺で。