今の時代の逆張り 無駄と手間を武器に?ショッピングの熱狂を追求するFANATIC代表 野田大介の挑戦
誰でもアクセスできる時代。だからこそ、アクセスできない世界を作ることで、熱狂が生まれる。僕は、この日、渋谷ヒカリエで、その熱狂を感じ取った。そこにいたのが、FANATIC代表取締役 野田大介さん。普段はネットビジネスに従事している彼が、だからこそ提案したい価値がある。そう言って2日間限定で、「あんときマーケット」というイベントを開催した。まさに、今のトレンドの逆張りなのだ。
ネットでの利便性を超えた「ショッピングの楽しさ」
語弊を恐れず言えば、魅力的に感じたのは「閉鎖的」環境、一見さんお断りの面白さ。誰でも入れるわけではない。今の時代は、誰でも、どこでも、いきたいところ、知りたいことに、すぐに触れることができる。つまり、行けないということが、逆に価値観を共にする人たちで、濃度の高い共鳴を果たせる土台になり、熱狂を生み出すわけだ。
その「閉鎖的」な環境はどのようにして築かれたのか。それについては追って話す。まず、野田さんに耳を傾けてみよう。開口一番、こう述べてくれた。
最近、ファッションの分野では、過剰な効率化が進んで、商品を購入する体験が「作業化」してしまっている。でも、それはファッション本来の持つ、本来の楽しさを失ってしまっている。
「だって、考えてみて欲しい。スマホのない時代、例えば、デニムのムック本を探しまくり、そしてそれを読み込んで、どこに行けばあるのだろう。それをヒントに街を散策して、店を見つける。店では、多くの商品の中から、お目当てのものを掘り当てる。宝探しのように、楽しんでいた」。
つまり、彼らがこのマーケットで追うのは、そこだ。本来、アパレルや雑貨に求められる「驚き」「ワクワク」の体験なのである。面白いのは、彼がFANATICという会社でデジタルの最前線にいて、真逆のことを語っていることである。
「あんときマーケット」に見る発見の喜び
野田さんはそこにある「人間らしさ」や「体験価値」を重んじ、買い物に再び喜びと発見を取り戻すための試みをしようというわけである。
では、どうやってそれをやっていくのか。これがまた、面白い。僕が思うに、それを解決するのが「編集力」だ。その時代を第一線で作り上げてきた人は、それぞれで活躍している。ただ、それは個々に存在するのであって、下手すれば昨今のデジタルの台頭の中で、埋没する可能性がある。
それをどうやったら、世の中の人に関心を集められるか。その切り口を考えるのが編集者としての価値。そこで、野田さんは自らの知見をそこで活かす。
そこに辿り着くために「MIMIC」というメディアを立ち上げた。そのメディアが注目したのは、80年代から90年代のストリートファッション。その最前線で触れていた元オーリー編集部のメンバーたちが《あんときのストリート》といって、アパレル、雑貨を振り返るわけである。
取材対象は、一時代を築いたブランドの仕掛け人。今もまた、働く場所は変われど、そのイズムを胸に走っていて、光り輝く。だから、そこにどう光を当てるか。「MIMIC」は、その時代の熱量を呼び起こそうと説いて、その価値観を広めた。
それを言われた仕掛け人たちも、自分たちの原点がそこにある。だからこそ、それを掘り起こすことに皆、二つ返事で協力した。そのメディアを形作るには十分な素地はできていたわけだ。
ネットビジネスとの対照的な価値観
だから、その延長上で「あんときマーケット」が生まれる。この“あんとき”こそ、80年代から90年代。
そのメディアを構成する人たちが、結集。各々の自慢のセンスの効いた商品を持って、この場所で一点ものとしてフリーマーケットを開く。各々の企業で大手スポーツメーカーの中で、伝説的なコラボを仕掛けてきたような人たちだから、面白いに決まっている。
この土台を作った上で、完全に効率化されたネットショッピングとは一線を画す環境を作る。敢えて、効率的に商品を手に入れるという行為を排除。参加者が自ら商品を探し出し、その過程で生まれる「発見」の喜びを楽しめるように設計されている。
ゆえに、事前にこの「あんときマーケット」と銘打たれたフライヤーを作成した。というのも、それを主に関東近郊のストリート系で、特に尖ったショップに配布するからだ。実は、このフライヤーがないと、あんときマーケットの初日には参加できないのである。
そして、これはフリマであるから、早い者勝ち。それが欲しくて、タダで配布されたフライヤーなのに、メルカリで“売買”されるやり取りまで生まれたのだから面白い。
当然、開始前から順番を待つ列ができ、胸を高鳴らせる人で溢れる。自分の順番が来ると、居ても立っても居られず、走り出す人もいた。直に物に触れ合い、感動するから、出店する人たちとの会話の盛り上がりようは、想像に難くない。
ショッピングに「熱狂」を取り戻す試み
野田さんが自身で、普段行っているネットビジネスでは、利便性やスピードが求められているのとは、まるで逆。ここでの体験は、まさに無駄と発見の積み重ねから生まれる喜びであり、そのプロセスがユーザーに「熱狂」をもたらす。
それこそ、スマホのない時代、本を漁って、その中で必死に行間読んで、いろいろ思いを馳せて、ファッションに夢を抱いていたその時代。限りなく、そこに近い世界を今の時代に取り戻す。それがファッションが誇るべき価値だからだ。
驚くことに、僕の知人でアパレル雑貨の第一線で、世界を股にかけて活躍するその人も、来ていたらしい。そこにいる皆川 伸一郎さんが自分の恩人だと語った。そして、今も“あんとき”を楽しんでいると、その場所にいた皆川さんの姿を絶賛したのだ。
野田さんが目指す「熱狂」は、ただ商品を購入するだけではない。その背後にあるストーリーや背景を探ることから生まれるわけだ。その背景の探究すらユーザー側が担い、買い物における「発見」が、個性や独自性を生み出し、それがユーザーの熱狂につながる。
それは、ファッションアイテムにおいて、単なる服としてではなく、文化を重んじることになる。そのデザインや素材の由来、背景までを知ること。それで、ユーザーはより深い満足感を得ることができる。
利便性だけではない「体験価値」
効率化と利便性が追求される現代の消費社会。だから、ショッピングの根本的な楽しさを再評価する取り組み。それが「あんときマーケット」。
彼は、デジタル技術が発展していく中でも、単なる商品購入ではなく、その過程や背景にあるストーリー、発見の喜びを大切にすることを提唱している。
今後も、デジタルで利便性を追いながら、一方で、ショッピングの楽しさを追求し、今に必要な価値のバランスをとっていく。オムニチャネルが大事だと言われ、生産性が高い環境も必要。だけど、かつての全てを否定することなく、ユーザーに新しい体験を提供し続け、努力したいと語るわけだ。
消費者が再び買い物を楽しめるような、熱狂的な体験は増えるだろうか。単に商品を売るだけではなく、消費者との新たな関係性を築くための必要な“逆張り”となるのは、間違いないだろう。
今日はこの辺で。