ファンがブランドを支える新時代──バニッシュスタンダードの『ファンバサダー』が示す未来像

近年、ブランドを支える“当事者”の範囲は、企業やスタッフだけに留まらず、ファンや一般のユーザーへと拡張しつつある。これは、企業側が一方的に商品を提供するのではなく、ファンも積極的にブランドを盛り上げる動きが強まっているからである。しかし実際には、ファンがいくらブランドを応援していても、その姿勢や行動を企業が受け止めきれなかったり、双方のコミュニケーションが途絶えてしまったりするケースも少なくない。そうした背景の中、新たに登場したのがバニッシュスタンダードの「ファンバサダー」というサービスである。
「ファンバサダー」とは何か?──ファンが参加する新しいECのかたち
「ファンバサダー」は、株式会社バニッシュ・スタンダードが提供する新サービス。
ブランドを応援するファンが、EC運営に参加できる仕組みである。
ファンがSNSで投稿したコンテンツとECサイトを結びつけることで、投稿の影響力や成果を可視化。企業側が評価・報酬を与えることも可能にするのである。
これにより、ファンはただの“顧客”ではなく、ブランドの一員として価値創出に関われるようになる。まさに、ファン主導の共創型マーケティングといえるアプローチです。
時代が生んだ新サービス「ファンバサダー」
これも時代の流れだろう。「ファンバサダー」は一言で言えば、ファンの活動を企業と結びつける仕組み。元々、バニッシュスタンダードは「スタッフスタート」を展開してきた。アパレル販売員のSNS投稿をECサイト上に連携し、スタッフが商品を売った実績に応じて報酬を得られるサービスである。
ここでは「ブランドを愛するスタッフ」の熱量を売上や情報発信の力に転換していた。
それに対して、そこで培ったノウハウを、今度はファンにも広げていこう。それが「ファンバサダー」。SNSなどでブランドを応援しているファンの投稿を集約し、企業がそれを正しく評価できるようにする。
これまではそれは難しかった。なぜなら、それはファンを企業側がコントロールすることができないからだ。ファンの自発的な行動によって生まれるものなのだ。
さらに、成果に応じた報酬を還元する仕組みも用意することで、ファンが継続的にブランドへの愛を表現しやすくなるわけである。
“売り込み感”ではなく、コミュニティへの自然な誘導
一見すると「ファンバサダー」は企業主導のマーケティング施策に思える。
しかし、その中身をよく見ると、企業がファンを“コントロール”しているわけではない。つまり、自発的に、自らのファンをうまく束ねて、コミュニティ化することで、行動を触発するのである。
そうなると、彼らの未来の行動も確約できる。なぜなら、もはや彼らがブランドの主ではないかと想うくらい、自分ごとになっているから。ブランドに成り代わって、発信していくのが使命とばかり、動くのである。だから、報酬のイメージもしやすくなって、その行動は理にかなったものになる。
ゆえに、SNSの投稿を強制するのではない。ファンの自然な行動を後押しし、今後も末長く応援したくなる環境を整える。いわゆる“押し付け型”の広告やキャンペーンとは一線を画す考え方が、ここには見て取れるのだ。
つまり、時代の変化から生まれた「もっとファンの力を活かし、ファン自身にも喜んでもらうにはどうすればいいか?」という素朴な問いへの一つの解が、「ファンバサダー」なのである。
小野里寧晃×設楽洋トークショー——“企業とファンを繋ぐ”先の未来
今回の発表会では、バニッシュスタンダード代表・小野里寧晃さんと、ビームス代表・設楽洋さんによるトークショーが行われた。
ファッションを中心としたブランドの世界でも、ファンが積極的に商品や体験を発信するシーンが増えている。設楽さんによれば、ビームスでは長年「ファンがお客さんから仲間へと変わる」文化を大切にしてきたとのこと。
- ファンがスタッフと同じようにブランドを盛り上げる
- 新たなコミュニティが生まれ、そこから次のコラボやプロジェクトが広がる
- 企業を離れたOB・OGとも繋がりが続き、さらなる価値を生み出す
こうしたエピソードには、「ファンの力を核とする時代を象徴するキーワード」が詰まっているように感じられた。
コアを見失わないブランドこそ“当事者”が増えていく
そして、僕が設楽さんに聞きたかったことがある。それは何か。それはコアが何であるかということ。
先ほど、ファンが率先して行動し、広がっていく時代だと書いた。けれど、広がるにも、そのファン同士における共通認識がないと進むはずはない。だから、僕は問うたわけだ。例えば、ビームスにとってコアな部分というのは、一体なんでしょうかと。
確かに、ファンやコミュニティが広がるためには、ブランドとしての“コア”が欠かせない。そううなづいて、設楽さんは強調した。そして、このように社員に話していると言い始めた。
「不良になれ、チンピラになるな」と。
程よい匙加減
つまり、尖っているファッションというのは時代や場所によって異なる。その言葉が意図するのは、何かというと、実はその尖っているのは、真っ当と不謹慎の境目にあるのだということ。もしも尖り方が小さいのであれば、もっと不謹慎であってもいいだろう。
大事なのはその匙加減なんだというのだ。
なるほど。どんな世界観や価値観を大切にし、そのためにどんなアクションを積み重ねるのか。この部分で共通して、各々が実践すれば、確かに、ブレない。ブレないほど、ファンも「自分ごと」としてブランドに関われるようになる。
この考え方は、まさに今回「ファンバサダー」が登場した背景とも繋がる部分ではないでしょうか。サービスを通じてファンがブランドに深く関わるからこそ、その“芯”が定まっているかどうかが、より重要になってくるわけだ。
これからの“当事者”が増える未来へ──ビームス設楽洋の言葉へ続く
新サービス「ファンバサダー」の可能性は、企業にとって新たな販路拡大だけでなく、“当事者”の枠をさらに広げるという点にあると感じる。
- スタッフしか生み出せなかった熱量を、ファンにも解放する
- そのコミットを応援する仕組みで、ファンも企業もWin-Winになる
そして、その先には「コアをしっかりと持ったブランドだからこそ、ファンが積極的に動く」という現象が見えてくる。
それを長年実践してきたビームスの設楽洋さんが語る“ブランドの育て方”とは何なのか。
▼参考記事:「ビームス代表・設楽洋が語る、社員とファンが共にブランドを育むコミュニティ論」
バニッシュスタンダードの新サービス発表会は、こうした“当事者が増える時代”の必然を感じさせるものである。また、その後のトークショーで交わされた設楽さんの言葉が、それをいっそう鮮明にしてくれたように思う。
今日はこの辺で。