顧客の離脱の予兆に気づく「通販理論2.0」通販以外にも通用する「100億PDCAマニュアル」
顧客の離脱は一光年先の星。掴もうとしても掴めない。それは、やずやで第一線を走り、今はCRM研究家の西野博道さんがユニークな比喩を交えて、通販の本質を言い当てたものである。そして西野さんは、その比喩が通販以外にも通用することを指し示した。業種問わず、どの企業も持ち合わせている数字で、解決できる全事業に通用する“通販”CRM理論。それが、今回の話す内容である。
通販の理論をあらゆる事業に活かす
比喩が意図するのはこうだ。僕らが流れ星で見ているその動きは、今見ているように感じる。けれど、動いているのはもっと前の話。遅れて見えているに過ぎない。通販の売上は全く同じ。売上が下降し始めた時には、手遅れ。それが起こる前に、売上下降の予兆に気づけるか。そこが大事である。
つまり、顧客の離脱の予兆に事前に気づき、負の原因が何かを「特定」する。それが彼の理論の真骨頂。そもそも、西野博道さんは、やずやで年商470億円まで伸ばした時の大番頭。聞いて思ったが、言うなれば、システムエンジニアだ。
手作業だったものをPCに置き換え、生産性を上げて、通販の仕組みを最大化させた。矢頭宣男さんの考えを自ら咀嚼して体得したから、応用が効く。だから、宣男さん亡き後も、やずやを筆頭に、多くの通販事業者においても、彼の指摘により、売上を伸ばすことになった。それは今もである。
ただ、コロナ禍で多くの企業が廃業に追い込まれる中で、決意をする。その理論を進化させ、広く他の業界でも適応できるように。そういって書籍を発表した。
これまでは概念的で、通販企業にしか通用しなかったものが、より実践的に、どの企業も持ち合わせる数字で、それを可視化できることを示した点で大きい。既に理論を採用する企業はあるけど、メディアで明かすのは初。ここからの話は通販理論2.0である。
必要なのはどの企業も持つデータで
その解明に、必要な要素は、何か。
「顧客番号」「購入年月日」「購入額」の三つだけである。それこそ、全ての業種に通用すると説明する所以である。
今やデジタル化が進んで、それらのデータが集まりやすい。それどころか、それをテコに、LTVを高めて、継続顧客を増やそうとしているほどで、時代の潮流だ。LTVとは、特定の顧客から生涯にわたって得られる利益のことをいう。
彼が今、声を上げる理由は、材料はあれど、集まるデータの使い方とタイミングが違うからである。先ほどの比喩での例えがここで効いてくる。
語弊を恐れず言えば、見るべきは「売上」ではない。
では何かというと、「稼働顧客」である。「稼働顧客」というのは、一年以内に、購買行動を示した人のこと。一年単位でそれを週ごとに分析するのがミソである。例えば、2024年4月15日から2023年4月15日の1年間で見て、一回でも購入すれば、それは「稼働顧客」である。
真実は、もう一年遡った2023年4月15日から2022年4月15日の「稼働顧客」を見ることで浮かび上がる。直近1年間での「稼働顧客」のうちで、その前の一年間でも「稼働顧客」だった人の数がどれだけいるのか。それを、週ごとにチェックすることで、顧客の心理における変化の予兆に気づくことができる。
「木を見て森を見ず」に陥らない通販理論
次に、その「稼働顧客」を細分化して、変化の原因を特定しやすくする。具体的には、稼働顧客を関係性の深さごとに振り分ける。「初回客」「よちよち客」「コツコツ客」「定着客」「優良客」といった具合。
関係性は、購入回数に比例するから、それで分ける。初回客は1回。よちよち客は2回。コツコツ客は3回から6回。定着客は7回から14回。優良客は15回以上。
稼働顧客を5つにわけた理由は、お客様との企業の接し方が変わるからだ。
参考:やずや 西野博道氏 ハヤカワ五味氏 語る 通販 CRMとは?
恋愛を思い浮かべれば、わかるだろう。いきなり初対面で付き合ってくださいと言っても、断られるのは明白(笑)。相手が人間である以上、同じ。距離感に伴い、接し方が変わる。とはいえ、個人単位で見ていたら、キリがない。
だから、目安として、上記で分けた括り(顧客のタイプ)で、企業側がお客様との対応で変化させれば、共通化できる。いわば、施策を特定しやすくするための顧客単位である。
顧客維持率の分析で稼働顧客の心理を知る
それで、1年ごと区切った稼働顧客数を、週ごとにチェックする。週ごとだから、起点となる日にちが変わっているので、もし下がっていたら、前週から見た一年よりも今週から見た一年の施策に問題がある。その顧客タイプも5つに区分し、共通化されているから、どのタイミングの何が問題となり、変化しているのかを「特定」できる。
下の図を見てほしい。
まず右側が最新で左へ行くほど、遡る。一年単位で区切るから、2024年4月15日をA時点として、そこから2023年4月15日の一年。それから、2023年4月15日をB時点として、そこから2022年4月15日の一年。番号が振ってあるのは、顧客番号だと考えてほしい。
B時点で購入があった顧客が、A時点でも購入していれば、2年連続で購入し続けていることになる。そこで、期間での購入回数を見て、その顧客が5つのタイプのどれに相当するかを見る。そうすれば、2年連続「優良客」、2年連続「コツコツ客」が誰なのかがわかる。
ゆえに、5つの顧客タイプごと、A時点での顧客数を、B時点での顧客数で割れば、どれだけその顧客が「維持」されているかがわかる。そのパーセンテージを「顧客維持率」と言い、これを週ごと出せばよい。変化の予兆に気づける。
計算することで繊細な顧客心理が数字になる
それでは、それぞれの顧客維持率を出してみることにしよう。
「優良客」(赤)はB時点で顧客番号19から35で、17名。A時点では顧客番号19から30が優良客で12名。顧客維持率は(BからAへの移動率なので)12名/17名で割り算をして、70.6%となる。
ここで気づいたかと思うけど、19から35はBを起点とする遡る1年間で「定着客」から「優良客」に変わっている。この場合、19から35の顧客は「優良客」となる。原則として、B時点で最後に購入した時の顧客のタイプでその人数を出す。
続いて「定着客」 (緑)はB時点では4から18までの15名で、A時点では4から13の10名。だから、顧客維持率は、10名/15名で66.70%。
「コツコツ客」はB時点で1と36と37の3名で、A時点では1だけの1名。え?と思った方、その通り。A時点で38は「コツコツ客」である。しかしB時点で見ると38は「よちよち客」である。つまり、上記に書いた通り、B時点で最後に購入した時の顧客のタイプで移動した率を出すから、BとAで顧客のタイプが違う以上、38はカウントされない。
顧客維持率は1名/3名で33.3%ということになる。
要するに、この顧客維持率を4月15日起点と4月22日起点で、比べてみる。減少していれば、4月22日起点の1年間の施策に何かしらの問題がある。上昇させていけるよう日々努めるわけだ。
離脱客の復活も目を向けるべき要因
そうして会社の軸となる数字が出ていれば、その先5年の会社の資産を出すことも可能である。つまり、5年後、生き残れるかを明確に示せる。それが「カスタマーサクセスKPI」である。
そのためには「顧客維持率」と合わせて「顧客復活率」も出し精度を高める。
考えてみてほしい。継続しているお客様がいるということは、離れたお客様もいる。直近一年で、買ったお客様を「現役客」と呼ぶのに対して、買っていないお客様を「離脱客」と呼ぶ。
だから、会社の使命としては、現役客を現役客であり続けさせるとともに、離脱客を稼働顧客にすること。故に、その「稼働顧客」の中にいる、一度離れてまた戻ってきたお客様への接し方も、注視していく。
要領しては同じで、下の図を見てほしい。一度、離脱しているから、B時点では離脱客であり、更に遡ってその前のC時点での数値を見る。下のピンクの部分がそれに当たる。
「優良客」(赤)の「顧客復活率」は、C時点で76から79で4名、A時点で76の1名だから、1名/4名で25%
「定着客」(緑)の「顧客復活率」は、C時点で71から75で5名、A時点で71の一名だから、1名/5名で20%。
2年連続の「維持の顧客」と同様に、離脱客から復活した稼働顧客の方にも注目したい。そちらも伸ばす手立て(施策)を検証すれば、稼働顧客の数は安定してくるから。
カスタマーサクセスKPIは企業に危機感と安心をもたらす
さて、カスタマーサクセスKPIの出し方である。5つのタイプの顧客を下記の通り、横に並べるのである。
左から初回、よちよち、コツコツという具合で、関係が深まるほど右に行く。各々5つのタイプの顧客には顧客維持率、復活率が出ていて、それを一年単位で見ている。だから、つなぎ合わせれば、仮説として5年後「優良客」まで何人辿り着けるか、数を出せることになる。
だとすれば、直近で獲得した新規顧客の数字を当てはめていけば、最終的に何人が残存するか、数値で表わせるのである。かつ、それぞれの顧客の年間LTVの額を出せば、最終的にその新規顧客はその会社に幾らお金を残してくれるかわかるというわけである。
言葉で説明するより、数字を当てはめた方がわかりやすいかもしれない。
初回客ははやく2回目の購入へ
ここでは新規獲得顧客を仮に10,000名とさせてもらった。
本題に入る前に一つだけ。実は「初回客」は一年で一回購入のみの顧客である。継続を考えるなら「その一年の中でいかに2回目を買ってもらえるようにするか」つまり、2回目転換率が大事となる。
それで言うと、この2回目転換率(一年の中で再購入する人の率)は、最低でも50%は欲しい。
ちなみにB時点で購入した「初回客」が年内で「よちよち客」にならなかったけど、A時点でまた購入してくれた場合もある。それが「初回客」の顧客維持率である。その際、表記としては、(初回客と書くのも変なので)A時点では「よちよち客」とする。下で言うなら、顧客番号42の水色で囲った推移である。
手元の数字を当てはめると5年後が見えてくる
これらを前提とするなら、初回客はその一年の中で「よちよち客」になっている。だから「よちよち客」になった分を「初回客」から差し引く。仮に2回目転換率が50%であれば、5000名。
そこで、残った5000名が(その一年で一回購入した)「初回客」となる。「初回客」の顧客維持率が20%だとすれば、5000名の20%で「よちよち客」は1000人。2回目転換した人は「よちよち客」に初年度の一年でなっているからその顧客を「よちよち客」に混ぜる。1000名+5000名=6000名。
加えて「初回客」から離脱した人の中にも「よちよち客」となって「復活」することがある。「初回客」5000名のうち離脱顧客が80%だとしたら、4000名。ここから復活して「よちよち客」になった割合(「顧客復活率」)が11.1%だとすれば444名。これらを全部足すと「よちよち客」は6444名になる。
各顧客の残存数が出れば、5年後の資産も出る
これで5年目を迎えた時、新規獲得顧客が最後、何人になるのかが出る。ここでは516名。残存率は516名/1万人だから5.16%。
5つの顧客タイプごと年間LTVを出せるから、それを上記人数で掛ければ5つの金額も出る。出た金額を足せば、それは新規獲得したことで5年後の資産となる。今の資産で割れば、どれだけ伸びるかが予測できる。例えば、現在の会社の資産が6億円だとして、5年後に残る資産が10億円だとする。すると、10億/6億=1.66。これに100をかけた数字が、カスタマーサクセスKPI。
つまり、166が「カスタマーサクセスKPI」。100%を切れば今のままでは会社は3年間、持たない可能性がある。
経営と現場の両面から
かくして、未来と過去と今が全て紐づいた。
稼働顧客を一年単位で起点を変えて2年分みることで、その数値における予兆を察知する。察知できれば、瞬時に対応策がねれる。また、顧客を5つのタイプに分けて、施策に共通性を持たせれば、その特定がしやすく、対応もしやすい。それで、日々、その改善に努めるわけだ。
そうやって数字を操れば、その数字は確度の高い、会社の力を示す指標となる。だから、それを当てはめ、5年先の未来を形成できる。それを踏まえて、直近の新規顧客で得た資産を、5年後にどれだけの資産にできるか。それが示せるから、その企業のポテンシャルも可視化できる。
大事なのは、経営層と社員とで役割分体して、この数字の中身をよくすること。その数字を軸に、必要な投資を行い、具現化できる組織体系にするのは、経営者。
一方で、社員はその数字を軸に、その数値を上げるためのお客の向き合い方を検証していく。それが経営層と社員が互いに歯車のように補完しあって、その数字を上げていく。
数字は時として、ミスリードを行う。指標となる数字の選び方を間違えると、ノルマを達成しているのに、売上が伸びない。見るべきは「売上」ではない。「稼働顧客」であるということに着地して、彼の比喩に辿り着く。
顧客の離脱は一光年先の星。掴もうとしても掴めない。
今日はこの辺で。