過去培ってきた“カルチャー”を SHIBUYA TSUTAYAで最大化。提示したのは新たなリアルの使い道
一番、驚いたのはリアルのスペースの使い方である。僕は、この日、SHIBUYA TSUTAYAの内覧会にやってきて、商業施設が「売り場を作って儲ける」のは、もう過去なのかもしれないと思った。カフェやシェアラウンジなど、滞在すること自体に意味を見出しそうとしている。マネタイズの中身がまるで違うわけだ。そしてその付加価値を高める要素として、TSUTAYAが着目したのは、日本が誇る「IP」なのである。
渋谷の一等地だからこその挑戦
渋谷・スクランブル交差点の目の前に位置する、渋谷の一等地。それでいながら、このSHIBUYA TSUTAYAは、どこを見てもその場所のスペースを贅沢に使っている。
下の写真を見てほしい。最近、TSUTAYAが注力している「SHARE LOUNGE」にしても、多くは、社会人に向けて、仕事をしたり、打ち合わせをする場所として提案していた。ここは少し様相が異なる。
かれらが舵を切ったのは、席数を増やすのではなく、その空間的価値をどう活かすかという方向。
「さて、、と、、」僕が腰を下ろすと、「スパイファミリー」のアーニャと目が合った。座るテーブルの向かいには、ショーケースがあって、多くのフィギュアが並べられている。僕の座った箇所では、フリューとの連携でこれが実現しているようだ。
エスカレーター脇には、これまた贅沢に、チェンソーマンの巨大フィギュアがある。人が交流する場所に、人目につくようにIPを点在させること、そこに出会いと発見を作り出す。
カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)曰く、渋谷は「人が多い割には、息抜きをするようなカフェが不足している」。だから、喫茶店を増やせばいいのではない。逆に、有意義に過ごせる場所として、SHARE LOUNGEを提供して、そこに様々な文化を交差させるわけだ。
リアルな新たな使い道
また、SHARE LOUNGEは二つの階を使っていて、もうひとつは、全く趣の違うデザイン系の書棚に囲まれた空間になっている。
こちらはこちらで、クリエイティブワーカーが集まることを念頭に置いたもの。彼らがやってきたSHARE LOUNGEに異なるフィルターをかけることで、それぞれに“居場所”を用意している。同じ価値観を持つもの同士がここに集うことが定着すれば、それは継続的な利用をする日常の場となるだろう。
これまでのTSUTAYAで培ってきたのはDVDやCD、本などによって生まれた文化の醸成。だからそことの関係性をこの場所に持ち込んで、別の価値で昇華させるわけだ。
形を変えたWe Workのようだ。リアルといえば、そこに名だたるブランドを並べて、「売る」(レンタルする)ことで、収益をあげていたのが嘘のようである。でも、これがリアルの今のあるべき姿かもしれない。なぜなら、ものを買うだけで言えば、ネットでもそれは果たすことができるのだから。
聖地となって継続的な憩いの場の創出
要するに、リアルはリアルでしかない、体験的な価値をどう訴求できるか。ここにはまだ明確な答えはない。各社、様々切り口を変えて、模索しているわけである。それは、以前、ハラカドに行った際にも感じたことだ。
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それでいうと、リアルの価値提案において、SHIBUYA TSUTAYAはIPに振り切ったということになる。物販によって収益を上げるのではない。場所の付加価値を上げることによって、滞在することに対価を支払ってもらうわけである。
この内覧会に先駆けて行われた記者会見で、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)代表取締役 高橋誉則さんは、知的資本を提供していくことを約束した。
彼らが意図するのはBtoCtoB。企業とともに場所を作り、それが顧客の満足度を高める。それがまた、企業へと還元されていく。その手を取り合う相手が、IP系のコンテンツに関わる企業や人たち。
自ずと軸は、彼ら曰く三つ。一つにIP、もう一つにそこに絡めた体験価値。三つ目に、そこから生まれるプロモーション的な側面という具合だ。この場所の本領発揮は、ファンが集い、そして各々、価値観をともにする人たちと共に、自らも発信していく場所になってからのことかもしれない。
ポケモンカードの熱狂の聖地もここで
だから一枚目の写真の通り、その場所を贅沢に使う。例えば、記者会見なども行なったり、柔軟性を持たせたインフラとしてこの場所を用意することで、渋谷という人が集まる箇所の最大化に努めるわけだ。
その姿勢は一貫していて、上の階にある「POKÉMON CARD LOUNGE」もそう。「SHARE LOUNGE」と同じようなビジネスモデルで1時間1650円を支払って、この場所を使う。その代わり、集まる目的を明確にして、まずはその照準として「ポケモンカード」を定めた。全ての机や椅子を、対戦用にカスタマイズする徹底ぶりだ。
カードゲームをやりながら、ジュースなどを吹き飛ばさないよう、机には溝があり、そこに置けるようになっている。
当然、アイドルや作家なども、当然、重要なコンテンツと位置付けられる。
地下一階は『Shibuya IP Square B』と呼び、この地は渋谷駅と直結しているので、ギャラリー展示などを行い、その世界へと誘う。写真は地下二階のエンタメワンダーランド。巨大パネル、特大4Kビジョン、吊りフラッグでも分かる通り、アーティストやアイドルなどに関心を持つ人たちのための居場所にする。
だから、目的を持って集まる聖地という感覚に近く、だからこそ、それで、定番的にここへ訪れることを意図しているようにも感じられる。僕はその定番的な、、、というのが肝なのではないかと思う。
スタバもコーヒーを飲むだけではない価値を
定番的という言葉に裏付けられるのは、恐らく、継続顧客。そんな予感が、確信へと変わったのが、スターバックスの店舗設計の方に話を聞いた時のことである。
世界有数の売上を叩き出していたのがまさにスクランブル交差点の目の前の「スターバックス」。その面積は、大幅に拡張されて、この通り。ひっ広い!
だからと言って、そこに席をぎっしり詰め込んで、大量の人を捌こうというわけではない。
その分、リボンをモチーフにしたオブジェがあって、そこを潜って入店する。それは一続きになっていて、高低差を利用して、テーブルになったり、椅子になったり、張り巡らされている。それが渋谷のこの店のテーマであり、Green ribbon。Greenは彼らのシンボルカラーで、人を繋ぐリボン。
これまで、彼らは、画一的な店舗形成ではなく、地域と寄り添いながら、内装を設計して来た。そう説明していて、それが価値を持つ理由に継続顧客につながっていると話すのである。
なるほど。単にコーヒーを飲む場所であれば、どこでも良い。けれど、地域と一体となって、歩調を合わせる。その度に、そこに集まる人との距離が縮まり、コーヒー以上の価値を持つようになって、継続してスタバを選ぶようになる。
画一的にマスにアピールするのは過去の話?
だから、渋谷でも同じ。渋谷では元々滞在時間の多い店ではない。その代わりに、人が続々とやってくる。だから、コーヒーを作るスペースを広く用意した。機動力が増して、生産性高く、数多く提供できるからだ。また、その過程を見せることに価値を見出した。
舞台裏にスポットライトが当たることで、その光景はスタッフとお客様とを繋ぐ“リボン”となる。
そして、僕らの顔を見るなり「ようこそ!」って声を揃えるわけだ。でも、大事なのは、これがスタバ共通のルールではないということ。すごく魅力的な笑顔で、「これは自分たちで、こうしようって決めたのです」とスタッフの女性。お客様に歓迎や感謝の気持ちを込めて、「ようこそ」って。開店前なのに、意思疎通ができている。素敵じゃない?
そして、もう一つ気付いたことがある。それは、価値が生まれると、そこには商品も生まれるということ。スターバックスの掲げるその世界観をそのままに、渋谷限定のぬいぐるみやスノードームなどが販売されている。コーヒーをただ飲むだけではない、特別な体験して、そこに価値を見出す。そうすれば、それを持ち帰って、家でもそれを思い返すこともあろう。
その役目を果たすのがこれらのグッズでもある。収益の意味もあるけど、それが次の来店の機会を生み出していく。先ほどの内装の話然り、継続的な利用が重要になっている。思うに、不特定多数の人にアピールするのは過去なのかもしれない。
商品のあり方も変わる?
ものをつくることに固執して、そこにこだわりが生まれる。だから、そこに価値が生まれ、それをフックに売り場を作り、売って、収益を上げる。それを最大化させるために、メディアが機能し、商業施設が機能する。そんな時代は、過去のものになってきている。
IP然り、スタバ然り。その価値を考え、共感が生まれて、人と人とで作る心地の良い居場所が生まれる。その時間を満たすものとしてリアルが機能して、対価を支払う。それが時代の潮流だ。だから、価値の深掘りが大事になっていく。リアルは果たして、それをどう補完できるか。その部分に集約されていきそうに思う。
そして、図らずもその2日前に開始されたのがVポイント。SHIBUYA TSUTAYAは基本キャッシュレスである。つまり、そこでの文化的価値が熟せば熟すほど、それがポイントに反映されていく。
その答えは、正直、まだ見えない。ただ、それらの文化の深掘りを触発するのが、個々のコンテンツ意識ではないか。なにも、それはアニメやゲーム、アイドルなどを指しているのではない。個々人にある想いや発信するその行動自体をコンテンツと考えればいい。先ほどのスタバの女性の笑顔もコンテンツだ。集まる人の熱狂もコンテンツだ。
企業や人と共に、これからのTSUTAYAはこれまで培ってきた“カルチャー”をそこで最大化させて、また、新時代へと歩み出す。
今日はこの辺で。