売る場所も。向き合う相手も。ボーダレスに アイル「BACKYARD」に時代の変貌を見る
小売業は多種多様なアプローチが可能になり、転換期を迎えている。後押ししたのがネット通販の存在だ。元々、サブ的な存在だったが、今やそれが軸。事業の拡大を後押しするからこそ、そこをテコに事業者も意識を変えるべき。それを、「BACKYARD™」という新たなサービスの視点から紐解く。先日、運営元のアイル本守 崇宏さんに誘われ、彼らの思いを込めた「BACKYARD TOKYO」でその主張を耳にして、時代の変化を思ったからだ。
・モールと自社だけでなくリアルも
ガタンゴトン、電車の音が鳴り響く。
出来立てほやほやの「BACKYARD TOKYO」は、なんとJR神田駅の高架下にある。電車という公共機関に絡むところ。なので、それなりの交渉期間をかけたことを、そっと教えてくれた。元々この場所は、彼らの取引先のショップの物流拠点であった。まさに、この現場の棚から商品をピックして、出荷されていたのだ。現場目線を知るにはふさわしい場所。
その店が、移転を決意した際、その話を耳にして、借りる決断をした。そう話すのは常務の山本 浩孝さんだ。
この経緯も彼ららしいし、ここにこそ、彼らの想いがある。僕が行った際には、歌を聴かせるなどの趣向がなされていた。それだけでも彼ららしいおもてなし。
ただ、主たる狙いはそこだけではないだろう。彼らは、バックヤードフェスティバル、バックヤードカフェと、イベントの数々で、その“縁の下の力持ち”に光を当て続けてきた。だからこそ、この場所で、バックヤードで働く人の価値を拾い上げる。そんな意味合いがありそうに思う。
例えば、この写真の通り、バックヤード体験に子供が触れる機会を作り出し、働く意味を実感させる。論より証拠。体験を以て、それが誇りある仕事であることを伝える。そして、未来、そこで働くことに夢を描けるようになったらいいな。そんな真心のようなものを感じる。
・一元管理もリアルを含めて多種多様に
さて、話を戻そう。彼らは「CROSS MALL」というサービスを提供している。楽天市場、Amazonなどモールに出店しつつ、自社ECを展開する。そういう風に他店舗展開を意識した事業者を対象として、受注管理など、一元管理をして、業務を救った。
ショップの持ち味は商品であり、店員であり、考えであり、個性である。
それを最大化させる為の様々なタッチポイント。それは必要不可欠ながら、複雑になりがち。そこで、自らのサービスで効率化を図ったのが始まり。遡ること、2009年の話だ。その時代はネット通販は、サブ的存在。当時のEC化率は2%にも達していなかったし、楽天の流通総額もようやく一兆円を超えた頃だ。
でも、15年近く経って役目は変わった。今やネット通販を軸にビジネスの広がりを見せる。ネットショップから始めた企業が、リアル店舗に出る。そんなことは、今や当然の事実となっていることが、何よりの証拠だ。
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ただ、確かに「CROSS MALL」はネットショップという軸では、モールや自社ECなどの”ボーダレス”な一元管理を実現して、事業の拡大を担ってきた。しかし、世の中の変貌は、その”ボーダレス”を軽く超えていく。更に大きな”ボーダレス”の波を作り出し、彼らもまた、そこに合わせて成長することが必要になった。
・ボーダレスの幅が広がりもっとチャンスを手に
語弊を恐れずいうなら、「CROSS MALL」はネットショップという範疇を超えない。そこで、広がる”ボーダレス”を補完するのが、「BACKYARD™」ということになる。
かつてなら、ブランドがあって、ネットショップが補完するところも少なくなかった。
しかし、今はネット通販を起点として、リアルの店舗も含めた運営も出てきた。常設でなくとも、ポップアップストアの展開だって必要だ。更には、ネット通販で売った事をキッカケに卸売を求められる事もある。
繰り返すが多種多様なビジネスチャンスはネットを軸に生まれつつある。「BACKYARD™」はそこに応える。その点、既に「CROSS MALL」でボーダレスを実現しているから、シームレスにそれを利用していく。
「BACKYARD™」は何ができるのか。従来、在庫にしても、ネット通販用の倉庫だけで管理していた。なぜならモール、自社ECなどの複数の“ネットショップ”を持つ事業者にとっては、そこの在庫を一元で管理して受注と紐づけられれば、十分、助かったからだ。
しかし「ネットを軸に」リアルに波及するとその事情は変わる。例えば、リアルの店舗で目の前にある実在庫も別で管理できるようになる。従来であれば、それをエクセルなどで個々で管理するほかなかったけれど、それが可能になる。
・売る場所も、向き合う相手もボーダレスに
しかも、複数の倉庫を活用していればその倉庫別での管理も可能となる。これらによって、多店舗展開、かつ、様々なロケーションで販売されている中で、今、そのお客様がいる拠点で、一番最適な案内をできるようになるわけだ。
また、綺麗なデータがすぐ出てくることの意味も語る。例えば、商品の出荷数が急に増えた際に、トラックへの商品の詰め込みが時間内に間に合わない。お客様への納期を守ろうと、トラックを待たせてまで、詰め込んだなどの話も耳にするという。それこそ綺麗なデータが迅速に出せれば、スタートを早くでき、それもなくなる。
加えて、発想はtoBにも及ぶ。例えば、相手が企業であれば、掛取引だから分けなければならない。そもそも、企業に卸す事は文化が異なるから、システム上、容易に対応できることが必須なのだ。ネット内のボーダレスから、リアルを含めたボーダレスに。さらには相手も消費者から企業までボーダレスになる。
実態に即した変化なのだ。それに課金の仕方だって変わる。従来なら、その他店舗展開する店舗数で課金していた。しかし早い段階から、リアルとネットの併用が考えられるとしたら、その利用するサービスの度合いに合わせることの方が良い。
こうやって足元では変化している。ECは表現力を持ち、顧客接点として、企業の価値を底上げできるようになった。デジタルの強みであるデータを活用すれば、多種多様な展開も可能にしていけるのだ。
・今こそ、ネットを起点に変わるべき時
逆に言えば、企業はそういうところから伸び代を模索しないといけないということになる。不思議と、今、ネットが映し出している現実は、人と人との繋がりの深さである。ネットはそのきっかけに過ぎない。大事なの売り場ではない。つまり、デジタルやリアルであるという枠組みはもはや意味を持たない。そのそれぞれで、共通の向き合い方ができるか。
そこで少しでもその業務を効率化して、その質を上げていけるかが肝なのだ。
すると、あらゆる視点でのアプローチが事業成長の礎となる。そして、そこにはきめ細やかな配慮が伴って、顧客満足ととなり、企業を安定させる。バックヤード側の働きがしやすくなる分、企業全体の生産性も上がる。バックヤード側にゆとりが生まれれば、それがまた顧客満足度に直結するのだ。
最終的には、彼らはそれにより、バックヤードで働く人の士気も上げたいと考えているのだろう。
実際、バックヤードは地味で目立たない。けれど、実は、お客様に近いところにいて、要である。そこでの仕事にやりがいがあり、豊かな発想が生まれれば、そこから新しいビジネスチャンスが生まれる。変わりゆくバックヤード環境と、それに伴う働く人の意識の変化が、世の中を変えていく。
その一つ一つは回り回って、先ほどの「BACKYARD TOKYO」のような場で、讃えあえる日へと誘うのだ。歌に酔いしれた素敵な機会を提供してくれたあの時の充実感のように。ビジネスに酔いたい。乾杯したい。
今日はこの辺で。