EC以外のデジタルでECの売上が伸びる理由 ともに文化を作り顧客と共創する企業
プレイスレスの時代。買い物において、場所を起点に需要を生み出す仕組みは、もう古い。顧客起点で物事を考え、顧客IDをもとに企業ごと、どこにデジタルを取り入れるか。それが肝となる。ECはやっていて当然。EC以外のデジタルを考える。それが、小売の未来を考える上で大事なのだ。第10回「FaW TOKYO」にやってきて、オイシックス・ラ・大地のCOCO奥谷 孝司さんの話を聞いて痛感したのである。
日本は取り残されている
1.デジタルの使い所が変わってきている
その本質を考える上では、海外に目を向けないといけない。日本においては、いまだにコロナ禍について報道されているが、もはや海外でマスクをつけている人の方が少ない。つまり、日本の中で飛び交う情報では、世界のレベルに追いついていけないということである。
海外では「プレイスレス」の発想が重んじられて、デジタルの使い所が変わっていることに気付かされる。
従来では「場所」を起点に需要を生み出していた。「百貨店」などがわかりやすいが、いかにその場所に人を集めるか。そこに注力してその分、商品は一気に集中。不特定多数に受け入れられるものを、戦略も含めて、一気に売り切っていく。だから「場所」としての価値が重要であった。
でも、そこにモバイルが登場したことで状況が一変した。掌の上で決済ができるから、リアルとモバイルを含めて、「その場所」であることに意味はなくなった。それこそがプライスレスであり、そうなると、意味を持つのは顧客そのものである。
2.顧客に着目するほど企業の変革が必要
すると、ECはできて当たり前。EC以外で各企業の個性をどう出していくかに関心が向いていく。すでに海外では、数々のトライアンドエラーがなされていて、幾つかその事例も見られ始めている。そこで上記の通り、プライスレスとなった時に、商品軸で「売れた」「売れない」には価値はなく、顧客との向き合い方を再定義する必要が出てきた。
つまり、消費者側にデジタルを提示して、購入を促すというところまではできていても、会社内でデジタルを味方につけて、企業価値を上げきれていない。それは個々のブランドごとに姿勢が違うから、デジタルの使う場面が異なるからだ。
昨今、見られる「リセール」への取り組みもその傾向を示すもの。大量に作って、大量に行き渡らせるという事業の中身からの転換が迫られている。けど、バックヤードを含めて、そのデジタルをどう取り入れればいいかの議論までは、まだ答えが出ていない。試行錯誤の中にある。在庫連動の仕方など、まだ企業側が抱える課題は多い状態だ。
けれど、日本はそこにすら辿り着いていないのが実態だ。
3.多くの企業がリセールに関心を抱く理由
メーカーに限らず海外では、百貨店すらもその46%がリセールに注力しているほど。でも、一体、「リセール」をやることで何が良いのだろうか。そもそも中古品はどこかに必ず存在する。だから、奥谷さんはリセールを利用している人数でその実態が見えてくるとした。
「毎月」利用している人は7割。「毎週」利用している人でも3割とも言われているのだそうだ。ここの部分は、それまで新品を発売している側からすれば、消費を取りこぼしている。つまり、リセールをする人はそもそも購買意欲が高いのである。だから中古品は日本でこそ消費者同士でやり取りが行われているが、海外ではブランド主導型になると言われている。
つまり、自分たちでブランドを立ち上げて、商品を販売して、それがうまくいけば、同時にリセールも開始する。それが常識になるだろうと。それゆえに、リセールのサイト作りから、在庫管理などを一手に請け負うスタートアップ企業が出てきているほどである。
購買意欲が高い層が購入した商品をリセールして、購入するのはそのブランドの初心者である若い世代。その理念に共感して、リセール品をきっかけに、そのブランドを知って、新しいコアユーザーを醸成し、社会を作り上げていく。従来のECではない部分でデジタルを取り入れ、新しい事業を模索する。それがもう海外では当然なのである。
デジタルを顧客満足度に繋げる
1.継続的な繋がりに至るデジタルスキーム
「消費者が買う」部分だけでデジタルを考えるのは、いまやナンセンス。上記以外で言えば、ECでの知見をフックに、顧客満足度へと繋げる動きもある。これもまた「EC以外のデジタル」に投資することで、成果を出しつつある企業の話である。
奥谷さんは「PELOTON」という「フィットネスブランド」の存在を挙げてくれた。独自のフィットネス・マシンを提供している。本来、そのマシンは一台で30万円はかかるだろう。しかし、同ブランドは、それをあえてサブスクにしている。
そして、お客様の運動状況を的確に把握して、そのマシンに搭載されたモニターを使って、一体でレッスンを受けられるようにしたわけだ。レッスンを強化して信頼を得て、商品ではなく、繋がる価値を訴求する。
2.差別化要因は「場所」から「人」へ
日本の従来の発想で言えば、トレーニングマシンを大手量販店で売って終わりだろう。考え方の中心にまず「場所」があって、そこから逆算して商品を販売するから、そうなる。けれど、「PELOTON」が躍進した理由は、その発想を捨てたことにある。マシンを提供しているのだけど、それを通して、運動に関してのコミュニティを形成した。そこに意義がある。だから、タッチポイントを重視していくために、自らの価値観を育て、顧客起点で物事を進めて、お客様と一緒に文化を作っていくのである。
要するに、モバイルがでてきたことで、もはや「プレイスレス」になった。リアルが存在しようとも、全てはお客様はIDで管理され、情報が自由に得られるようになったから、場所に対してのこだわりがなくなったから、満足度に振り切れたのである。
すると、これからは何が大事になるかと言うと、顧客起点となり、カスタマーサクセスが大事になってくる。そのカスタマーサクセスは、商品、理念、施策と密接に関わりを持っていて、そのもとで、エンゲージメントを高めていくことが大事なのだとする。
3.カスタマーサクセスとは何か
だから、先ほどの話の通り、売る手段としてのデジタル化は当然であり、企業は今一度、そういう商品、理念、施策という部分に照らし合わせ、何をデジタル化することで、カスタマーサクセスになるかを考えていくことが大事なのだというわけだ。
ヨガブランド「ルルレモン」にしてもそうだ。元々彼らはヨガのグッズを提供していたメーカーでありブランドだ。けれど、昨今、「オムニチャネル」が実践できて、そこから何をするかに視点は移行している。
店舗にはヨガスタジオを入れて、インストラクターと、フィジカルな関係構築をできるようにしている。ただ、そうはいっても、インストラクターもデジタルを取り入れ、最適なヨガ環境をお客様とともに作り上げていく。
その戦略は「Omni Guest Experience」と呼ばれている。家にいてもインストラクターと繋がって、適切なレッスンが受けられるようにしていることで、価値観で繋がるのだ。
4.顧客体験を向上させるための企業買収
それを突き詰めていく中で、彼らは、ミラーという会社も買収している。本来、メーカーであるはずの彼らとは無縁の企業であるから興味深い。実は、ミラー社の特殊なミラーを使えば、鏡上にデータは映し出される。また、インストラクターから助言を受けられる。つまり、自分の全身での運動をきちんと自分で確認しながら、インストラクターの指摘を反映して、矯正していくことができるわけだ。
そうすることで、ヨガ体験の質が向上していき、もはやメーカーとしての色彩はない。いかに体験価値を重んじていけるか。そこにデジタルの舵を切った事が、今の時代の流れである。要は、EC以外のデジタル投資で小売の売り上げを伸ばすというわけだ。
極論、奥谷さんが関わる「オイシックス」にしてもそうだ。体験価値に重きを置いていて、それは、野菜という部分ではどこでも購入できるものだからだ。考え方とそこに基づく、体験方法が他とは違うから、それがエンゲージメントに直結しているのだと。
「売る」ためのデジタルではなく、事業の構造そのものを変えるためのデジタルとは何かということである。
5.EC以外での価値を求める事でECが伸びる時代
まさに、デジタルを上手に取り入れて、自分たちの個性を発揮する。
確かに、会員制の小売業は数多く存在する。でも、ポイントを付与するなどという次元ではない。また、商品をサブスクするECはもう存在している。でも、これらの企業に共通するのは、その会員とともに社会を作り、その恩恵を企業も受けるという事である。デジタルを何に応用することが自分たちの存在意義を高めるのか。その視点でビジネスが組まれているのである。
だから、 ルルレモンは、カリスマインストラクターを生かし、ヨガ体験の価値を上げるために、ミラーというリソースを買収して、“EC以外に”投資をしている。
さて、では、これからのEC企業はEC以外に投資する上で、押さえておくべき点はなんだろう。奥谷さん曰く、5つほどそのステップがありそうだ。一つは「透明性」。そして「コンプライアンス」。三つ目に、自らの態度をもって「考え方を示す」こと。四つ目に「囲い込みはしない」。最後に「お客様と共創していく」という部分である。
改めて、自分たちの存在意義はなんだろう。それにともづき、何を実装すれば、自分たちの顧客体験は「向上するのか」。そこで必ず、実現性を高くするのがデジタルである。だから、ECだけでなく、EC以外の部分でデジタルを強化していくことが、今後、生き残る上では大事だという話なのである。
今日はこの辺で。