イオン の リアルの強みを活かすDXとは 商品軸から顧客軸への転換の理由
昨今、海外ではウォルマートを筆頭に、リアルのお店がDXを進めていて、徐々にその成功事例が見られる。デジタル企業に対抗できる理由は、結局、デジタルだけでは小売が進化しきれないからである。リアルの強みを備えて、デジタルを取り入れる。そこに、未来の小売の“進化”があるので、リアルのお店の奮起に期待したい。リテールテックでの話していた、イオンでDX推進に関わる菓子豊文さんの説明は、それを実感させるものだったので、シェアしようと思う。
リアル店は何を転換すべきか
1.スマホとリアルを店内でも行き来する
イオンは、リアル店を持ち、お客様との直接、接点を持っている。そのことをまず強調して、では、どう変えていくのか。それに関連して、お客様のアンケートをもとに、こんなデータを挙げたのだ。
「リアルにいながら、スマホで情報収集をしている人」の数が、全体の55%を占めている。あわせて、スマホ決済「PayPay」でクーポンを利用している人の数は1000万人を超える。
つまり、リアルのお店で商品を手に取るその瞬間も、購入シーンでも、お客様はスマホをチェックしている。
2.お客様の分類も多様化
その一方で、使うお客様の定義も変わってきている。Facebookでは、属性を男女、その他にとどまらず、58種に分類して、人を理解している。つまり、企業側もその向き合い方として、その多様性を受け入れる形を整えなければならないわけだ。
だから、情報発信と決済、そしてパーソナライズという側面でデジタルが補完していくことが、たとえリアルでも必要になっているわけだ。スマホを使った自らの決済と有益な情報により購買を促し、それとともに、細かくそのお客様のパーソナライズデータを構築して、リアルの顧客体験を補完していく。
今までとは大きな転換が迫られている。彼らがリアル単体で物事を考え、目の前にあるPOSデータを通して判断していたのだから。
大事なのは、彼らの場合では、これが大事なのである。全部がそうなのではない。自分たちの強みを見極めた上でのDX。それを証拠に、以前記事にしたパルコとは同じデジタル化でも少し違うことに気づくだろう。
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強みを活かすDX
1.顧客接点を最大化させる
そして「強みを活かす」という部分で、最初の「リアル店を持っていて、接点を直に持っている」という話に戻ってくる。リアル店は2万店を抱え、発行されているレシートは1200万枚に及ぶ。加えて、それらはスーパーマーケットに限らず、ヘルス&ドラックなど、生活全般に及んでいる。だから、自らのリソースを使えば、実は、お客様の特定をしやすい環境にある。
最終的には、彼らの場合、スマホアプリを起点にすることにした。リアル接点の補完として情報を発信して、決済を通して、データを収集できれば、今まで培ってきたリソースを最大化できることになる。そこで、イオン系列のお店ごとに、バラバラで管理されていた会員の仕組みをすべて、「アイイオン」に統合していく。
とはいえ、今までアナログをベースにしていた。それだけに、ライフスタイルを転換させるには、それなりのメリットが提示できないといけない。デジタルとお客様の接点として、まずは認知がある「ネットスーパー」の強みを最大化させていきます。そこで彼らが着目したのは「ネットスーパー」である。これならば認知があり、既に実績が伴っていて、これを強みを、アプリを軸としたデジタル化へと導きやすくなる。
2.物流改革でネットスーパーで差別化
今度は、そのネットスーパーという部分で、他との差別化をどう図るか。
彼らが注目したのは「物流」である。
そもそも、リアルなお店の品揃えは彼らにとっての強みだが、倉庫も並行して強化した。物流拠点に、24時間稼働できるロボットを投入したのである。BtoBとしてだけの使い道だった倉庫をBtoCにも注力した。この辺が、DXはビジネスのありようと、組織を変えるものなのだとわかる。それが、差別化要因になると考えているから、そこに投資をしたわけである。
まずは、その物流拠点をフックに配達時間に柔軟性を持たせた。これまではリアルの店に合わせていたから、AM11時からPM10時まで。でもその対応を、AM8時からAM0時までに伸ばす。
リアルの環境も「スキャン&ゴー」を活用し、レジを使わず、またデータとして補完しやすく転換を図る。ネットスーパーが呼び水となって、自然にお客様のデジタル化を進めていく。
スタッフ側もリアルタイムで情報をアップデートしていく、迅速な対応を推進。データ収集にかかっていた時間を接客に回して、顧客満足度の向上に繋げたわけだ。
顧客行動のデータが教える戦略の成否
1.PBブランドで顧客の行動を読む
ゆえに商品とお客様の行動を紐づけて、俯瞰的にデータを把握。それを施策に活かしていくことができるようになる。結果、その視点でのデータが気づきをもたらした。
例えば、原材料の高騰で値上げが起こった。ただ、彼らの施策としてプライベートブランド「トップバリュー」では料金の据え置きをした。数としては以前より売れたが、そこではない。従来品を買っていたお客様が、「トップバリュー」に移行した人数で出してみた。するとその数は100万人以上に及んでいたのだ。
そのお客様のうち、複数回、トップバリューを購入した人は36%。特に男性で45歳から65歳の人が移行しやすく、デリカ・お酒好きな人にその傾向がみられると。世のお父さんの悲しき実態がくっきり(笑)。また、グロサリーで定着した顧客に関して見るとなお面白い。他のトップバリュー商品も含めたPB商品で構成された率は20%増加しているのだ。だから、惣菜でPBを買った人ほど、他の商品でもPBを買っている。
しかも、その構成された率が増加しているお客様は、定着顧客の69%も占めている。
2.商品軸から顧客軸へ
こうやって見えてくるデータはPOSで分析をしたものとは大きく異なる。顧客を起点にデータを分析をし、そこから戦略を分析するわけである。これまでは、産業化で大量に物を動かし、その売れた数を追いかけていた。けれど、データの引き出しが変わってより人間的で、生産性の高い処理に近づいた。
だから、逆にいうと、彼らは「アイイオン」を軸に、極力、そのリソースを集中させたい。そのデータとしての精度を高めていことが、結果、リアル店を含めた生産性を高める。
顧客を知る。それはある意味、デジタルでの強みであった。けれど、DXにより柔軟にデータを集められるようになった。その時に、自分たちの強みと照らし合わせて、何のデータを集めることが価値になるのかを、本当のDX革命というのだろう。継続顧客というと、とかく、経営を安定させるからという部分で語られる。でも、そのデータの分析により、顧客接点を最大化できるという視点が大事なのだ。
3.データを生かしてこれまでの蓄積を強みに
ロイヤルカスタマーの醸成は何も通販だけではなく、小売という業態にとって大事になっているのである。
これらが機能してくれば、生産と物流のバランスも読めてくる。いずれ、ECにもその変化が訪れるようになって、結果がついてきそうに思う。例えば、配達する以外でも、ECで販売し、お店で取り置きして、受け取るなど、小売は多様化していくだろう。リアルでもネットでもなく、両方の垣根を超えた利便性である。
コロナ禍は、デジタル企業の背中を後押しして、確かに、次世代においてDXが必要なことを示した。ただ、だからといって、リアルに価値がないわけではない。リアルは直にお客様との接点を持つ強みがある。要は、その捉え方である。
今日はこの辺で。