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“ワークマンカラー” ただ単純にファッションに進出するだけではない本当の理由

  華やかなショーで「ワークマンカラー」と大きく銘打たれ始まった新作発表会。ファッションに本格的に進出か。メディアなどでもそう言われていたけど、ことの本質は、実は違うと思う。ワークマンは、自らの機能性を軸にしたグッズの裾野を広げる先に、ファッションの要素を今まで以上に取り入れるだけ。似ているようで、違っている。

新たな切り口として

1.「#ワークマン女子」の市場規模は2倍、3倍

 何が言いたいのか。つまり、多くのアパレル企業は、ブランドを提案して、そのブランドごとに新商品を展開して、多くのお客様の関心を惹く。ただ、ここでワークマンが提案するのは、別に新しいブランドではない。

 提案するのは切り口である。今まで通り、機能服重視の「ワークマン」の商品を出し続けるだけで、実は「何も変わらない」。「ワークマンカラー」は切り口なのだ。だから、彼ららしい戦略であり、存在感を示せるだけの差別化があると考えているのである。

 なぜ、そんなことをする必要があるのか。「ワークマン」と「ワークマンプラス」では1000億円が市場規模で、それに対して「#ワークマン女子」のそれはその2倍から3倍はあるだろうと同社は語っている。では2倍から3倍に引き上げるために何が必要かといえば、その受け皿として「#ワークマン女子」という切り口だけでは足らないと考えたからなのである。

2.機能性を潜めるところに価値がある

 つまり、今までであれば機能性と安さを売りにしていた。ところが、実際に「#ワークマン女子」の利用者(主に女子)は機能を気にして買っている人は半分にも満たない。これはいつも僕が言っている通り、男性はスペックを重んじる反面、女性は感覚で選ぶからだ。そこで彼らは、機能性を打ち出しながらも、ファッション性を前面に出す事に意味があると考えた。

 能ある鷹は爪を隠すという感じだろうか。

 例えば、彼らの商品には、背中に二つファスナーがついているカッパがある。なぜファスナーがついているかというと、バックを入れられるようにするためである。その上で、原色を使ったクレージー柄と呼ばれるものを取り入れるわけである。その根本は機能性にありつつも、デザイン性を前面に打ち出すというわけである。

 このデザインを前面に打ち出すためには、切り口を増やして、より多様性に訴えかけることが妥当である。

5つのスタイル

1.得意な部分を活かした3つ

 それを踏まえて「ワークマンカラー」について説明しよう。具体的には、5つのスタイルがある。

 まずは「Vivid」。ワークマンは元々作業着に起源があるから、赤や黄色など自らの存在を誇示して危険から守る姿勢がある。そういうカラーを用いるというのがこのスタイルであり、彼らの真髄でもある。だから、このスタイルだけは、WORKMAN-shipと書いてあるのはそれゆえだ。

 続いて「Tough」。元々の作業服をよりスタイリッシュに着こなすというものだ。ここには都会的なオシャレさと力強さを取り入れている。

 さらには「Travel」。基本的に彼らが脚光を浴びたアウトドアのスタイルに近い。とはいえ、女性なら誰しもキャンプに行くとは限らないので、そのアウトドアの要素をトラベルまで範疇を広げて提案するわけだ。

2.新しい“カラー”を打ち出すスタイル

 そして、彼らにとって挑戦だというのが「Sustainable」。例えば、デニムを使うにしても製造工程で薬剤を減らしたり、素材にバナナを使ってみたり。彼らは既に猛暑対策などの商品を出して、その環境の変化に対応してはいるけど、それは根本的な解決にはなっていないと説く。

 だから、このジャンルには積極的に取り組む意義を感じている。これから徐々にその割合を増やし、最終的には、プライベートブランドの約半分はサスティナブルな商品にしていくことを明らかにした。

 最後に『Trend』。フェミニン的なコーデと謳ってはいるけど、それだけではない。そこだけで勝負をすると、ファッションブランドとの差別化はできない。だから、機能性を散りばめて、これまで通りワークマンらしさは追求する。例えば、ポケットを多くして、バッグが小さい女性の持ち物への負担を軽減するなど、ファッションブランドではないような機能性を潜めておくわけだ。

3.ワークマンcolorのお店を2023年秋から

 これらの切り口を提示しつつ、ワークマンcolorという店も都内で秋から展開予定。

 主に「ワークマンcolor」は都心の店舗を念頭に置く。要は、人は多いが対象が絞られているので、品数を絞って成果を出すわけだ。一方で「#ワークマン女子」は地方での店舗での需要を意識。その地元一帯でカバーする層が大きいのでバリエーションを豊富に展開する。

 ワークマンが別にファッションに進出するのではない。ここまで書けば、そういう言い方を僕がしたことに気づくだろう。

切り口である事にワークマンらしさがある

1.ブランドではない

 ここまで丁寧に書いた理由には、裏話がある。この発表を受けて、僕は、早速、会場内を回りながら疑問に思ったのだ。どこへ行っても「Vivid」や「Tough」など、それで区分けされたコーナーが存在しないのである。それは僕もステージ上の話を聞いて、新しいブランドを立ち上げるのだと勘違いしてしまったからである。

 それで「さきほど、ステージで説明していた『ワークマンカラー』の『Vivid』はどこですか?」と聞いてしまった。それに対して、「いや、ないんですよ」と答えてくれたのがレディース製品企画の只野 沙弥華さん。

 ええ?と叫ぶ僕。(笑)。つまり、商品単位で見れば、「Vivid」も「Tough」もない。普通に、展示会で個々にバラバラに陳列されていて、それらはコーディネートによって初めて露見する。彼女の言葉が極めて、わかりやすかったおかげでそこに気づいた。ここまで書いた通り、「ワークマンカラー」は「切り口」の提案である事を理解したわけだ。

2.実は変わっていない「ワークマン」

 彼女の言葉が印象的で「今まで通りなんです」と。

 作業着を買いにくるお客様が「作業のまま来るから、床を汚しちゃうから、きていいのかな?」などと言われることもあるのだという。スタッフとして店に入っている時、彼女はこういうのだ。「何言ってるんですか。だから床を私たちはいつもきれいにして、お客様を待ってますよ」と。ここに本質がある。ワークマンの本流である“ワークマン”を重んじるために、切り口を複数に分けるわけだ。

 企業として成長するために拡大は必要。だけど、かつてのユーザーが引け目を感じないように様々提案する。どこのお店に行こうが、彼らの提案する商品は同じように手に入るけど、その店ごとにフィルターをかけて、色分けする事で、それぞれのユーザーが入りやすくしているに過ぎないのだ。

 つまり、作業着としてのイズムは定着していて、恐らくそこは「変わらない」。そこで培ったものづくりを最大化させるために、敢えて表側の入り口を変えているに過ぎない。思えば、「#ワークマン女子」もそうであった。

 だから、華やかなファッションショーをしようとも、ファッションへの宣戦布告ではないと僕は受け止めた。

ファッションを追いつつも差別化できる理由

1.生産体制は変えずに表側を変える

 そして、大事なのは、こうやって表の看板を様々、用意できる理由。それは、裏側の生産体制がしっかりしているからである。機能性に準じた素材を色々な多品種で対応できるように共通化させている。かつ、閑散期に生産をかけて、扱うジャンルを増やし横断的に使う戦略で、一つあたりのコストを下げているのである。

 だから、彼らは声高々に、「2023年秋冬PB商品も価格据え置きにする」。

 それもファッション性を重んじながら、それが可能であるのは、基本的な商品作りは変わっていないからだ。長く使われるものを提案していることに、只野さんの話で気付かされた。つまり、その時々で店側が感度を高めて、上記に記した“トレンド”を提案していけば、流行を具現化することも可能だということである。

2.機能性を軸に深掘りして市場を創造

 そうやって間口が広くなる分だけ、お客様が増えていく。その分、コアなお客様には機能性を軸に深さも追求する。「ワークマンプレミアム」といって、高価格帯のものにもチャンレンジしていくことも明らかにした。より密度の濃いユーザーに対してはその機能性をフックに、より経営基盤を安定させることができるはずだ。

 ここまでくると、機能性も飽和状態になる。それは、彼らもわかっていて、だから「快適ワーク研究所」という拠点を作る。これまで自社でまかなっていた機能性を、他の会社と一体で深掘りして、その可能性にかけてみようというわけである。具体的には、パナソニックなどの企業と連携して、パワーアシストスーツなどの存在を明らかにした。

3.ファンションに乗り込むのではなくファッションを活かす

 お分かりいただけただろうか。

 多くのファッションブランドに混じって、ファッションに本格進出するわけではない。お客様想いなだけである。ファッションに進出して、某ブランドに迫るなどと書けば、記事としては面白いだろうが、それは違う。

 ワークマンは、自らの機能性を軸に、その裾野を広げるだけのことだ。その先に、ファッションの要素を今まで以上に取り入れれば、それが最大化できると考えているだけである。似ているようで違っている。

 軸はかわらないものの、その様々なフィルターをかけることで、潜在的な価値を拾い上げ、まだまだ伸び代があるとするのである。ワークマンらしいその進化は機能性の裾野をどう広げていくかといつの時代も一体である。

今日はこの辺で。

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