BEAMS メタバースの戦略に想う 仮想空間でありつつリアルに近い本質的世界である理由
僕らって「メタバース」などというキーワードを耳にすると、それは完全に仮想現実で今までにないものと思われるかもしれないけど、その中身を見ると、実はすごく今存在するネットの世界よりも、本質的だと思った。ビームスクリエイティブの代表取締役池内 光さんの話を聞いて気付かされたことである。
BEAMS メタバースで見えた本質
1.原宿店を模したお店でトライ
池内さん曰く、最初の頃は「ノリ」の良さで始めた要素も強いと明かしてくれ、きっかけは今から3年前。2019年にVR法人 HIKKYという会社のCEO舟越 靖さんがこのメタバースの世界に関して、熱っぽく語っていたのをビームスの設楽社長をはじめとするメンバーが耳にしたことにある。
勿論、ビームスには「ブームをカルチャーにしていく」文化が根付いているから、そこに着手するのは自然な流れであったのかもしれないけど、彼ららしいなのは儲かるかどうかよりもそれ自体が面白そうだから、といって取り組んだところにある。
彼らが最初、出店したのは「バーチャルマーケット」という仮想空間の街。その雰囲気を伝えるとすれば、下記の写真は2021年のものだが、このような世界観だ。
そこに彼らは自らの旗艦店でもある原宿店を模したショップをオープンさせるのである。それがこのような感じだ。螺旋階段などはまさに、そのお店の内装を彷彿とさせるものだ。
2.デジタルながらリアルに近い世界
ここで痛感するのは、最初に触れた通り、そこに広がるのは仮想空間と言いながら、割とリアルの世界観と変わらぬ本質的な世界だという事だ。今まで言うと、オンラインの世界は「ググって」「タグって」という具合に目的に対して一直線であったように思うけど、メタバースは感情と感性が飛び交う空間であると直感した。
だから、メタバース上で求められるのは、今までネットで言われていたような、品揃えが豊かであるとか、そういう次元の話ではない。寧ろアバターによって表現されたユーザー達が、リアル同様に自己表現をするために、ビームスに足を踏み入れ、スタッフと共通の価値観を持って楽しくやりとりする。逆説的であるけど、デジタルが進化すると、リアルへと原点回帰していくのかもしれないと思ったほどだ。
アバターに扮したスタッフは極力、ユーザーとのコミュニケーションを充実させると共に、そのエンゲージメントを高めて存在価値を示していくわけだ。本当にビームスのリアルのお店と変わらないではないか。
お客様と価値観を共にする
1.リアルな商品との連動も
だから、ビームスも社員を交代で(会期中は10:00から16:00にそこにいて)、ショップを案内できるような環境を作っていたわけで、その事実からも彼らが何を大事としているのかがわかる。ヘッドセットとコントローラーを使ってスタッフアバター2体の身振り手振りを操作し、ヘッドフォンとマイクを通してお客様と音声で会話をしながら、リアルタイムで接客したというのだから、彼らも本気でエンタメしている。
改めて、池内さんの話で痛感したのが、ユーザーのアバターそのものがファッションであるという事。元からあるものとは違った形で表現可能なデジタルの世界は、ある意味、人にとっての真実があるのかもしれない。見た目も格好も、リアルと一致している必要性はなく、良い意味で自分を着飾れば良いのである。
上記は、実際の2021年秋冬のルックをそのまま纏ったアバターを2種類、それぞれ3000円(税込)で販売したものである。彼らがそれをやりつつ、メタバース上で公式オンラインショップにアクセスできるようにして、アバターが着用しているアイテムの実物が購入できるようにしている。ある意味、仮想空間だけでは馴染めない人にもリアルとの接点を作る事で身近にさせているようにも思える。
2.企業コラボの中で、彼らのクリエティブが最大化
これらの取り組みを、池内さんがいるビームスクリエイティブという会社がやっているという事実も聞いて納得である。この会社は元々BtoBでの事業を重んじていて、彼らのクリエイティブが他の企業と連携することによって、彼ららしさが表現され、相手企業にも価値をもたらすわけだ。
つまり、メタバースも主にビームスクリエイティブという会社で取り組んでいる理由は、そういう「メタバース」という、ネットの強みである垣根を超えた異文化交流が生まれやすいフィールドで、盛んにコラボレーションすることで、また彼ららしさを発揮すると共に、同社の取り組みの幅も広げていこうという意志の現れであると。
しかも、ネットだからそれを深く提供できます。
これはNetflixの映画『浅草キッド』の世界観を再現したバーチャル浅草を店内に持ち込んだものです。その他、ちびまる子ちゃんとのコラボ商品が並んだりして、コンテンツが入り乱れる。そこにカルチャーがあるではないか。物理的な要素がない分、これまでには到底できなかったような他の企業やIPとの連携が可能となるわけだ。
彼ら自身もこの取り組みで初めて知ることもあって池内さんが話していたのは「PUI PUI モルカー」というキャラとの連携。彼らの想定以上の反響を持って迎えられたのに対して、ファンからすればそれは当然の結果と言われて、まだまだできることの可能性が広がっていることを痛感したという。
3.真に価値観で繋がる土台がメタバース
思う以上に、本質的であることがお分かりいただけただろうか。下手すると、渋谷なり、原宿なりという世界もまた、アイコンなのかもしれないと思った。リアルの場合で言えば、移動場所、集まる場所としての存在かもしれないけど、バーチャルの世界だと、その地域自体が個性となっていくのかもしれない。
リアルよりリアルであり、物理的に移動コストがかからない分、ダイレクトで価値観の同じくする人たち同士が集まり、そこでの化学反応を楽しむということなのかもしれない。
彼らはブームをカルチャーに変えてきた。メタバースがカルチャーになるかはまだ未知数ではあるけど、その世界で彼ららしく自分達を表現し始めたとき、そこで人と人との間でやりとりされる価値観や消費などリアルに絡むものまで、一新してしまう可能性すら感じられた。
必要とされるのは、自分自身の存在というよりは、その外側にある人なりキャラなり企業の価値観であり、それを彼らのデザイン性によりどうやって刺激的に変容できるかということに、彼らとしての真骨頂があって、どんな化学反応を見せてくれるかは今から楽しみである。
今日はこの辺で。