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通販企業が“物流“を理解すれば“利益“も “売上“もUPできる理由 高山氏&小橋氏

 ネット通販において漠然と“物流“を利用している人は多い。だが物流のコストを計算するだけで“利益“を上げれて、付加価値をつけるだけで“売上“を伸ばせる。とはいえ、まず、どの数値をどう可視化してどう判断するか分かっていないと、物流を味方につけるのは難しい。そこでスクロール360高山隆司さん、リンクス小橋重信さんに話を聞いたのだ。

物流 を理解すれば 利益も 売上もUPする

 そもそも、僕はリンクス小橋さんと「物流の役目が何か」という話をする中でこんな話をしてくれたのがこの対談の背景にある。「以前、楽天の物流の方々と話していた時、売上が今は年商1億円だとするお店が3億円にできる力を備えた時一番ネックとなるのは物流だと。それだけの物量を動かして、いかに流通させるかに自分達の存在意義を見出していた。まずそれが通販にとって物流が大事な最初の理由ですよね」と。

 モール系の物流についてはインフラである。かつ彼らは集合体にすることでコストカットをして、それを店舗に還元していこうという発想がある。だから初期の店舗においては物流の事を心配することなく自らの売上アップに打ち込めるわけでその存在は重要だというわけだ。

 ただ一方で小橋さんは「売上は上がりました。でも状況は良くなりません。なんでだろう?と言った時に、物流かもしれないとなる。それもそのはず。計算してみると、一個の受注に対して、10〜20%が物流費が占める場合もある中で、お店が物流コストをちゃんと『数字として可視化できているか』が大事なのです」と話して、僕はハッとしたわけである。

 つまり、最初のうちは、物流をそれほど意識なく売上を上げることに専念していても、そのうち商品が定まってくると、逆に意識的に物流を自らの事業の中にうまく組み込まないと、企業の業績を圧迫しかねない。

実態を把握することの重要性

 だから、在庫一つにしてもそういう視点で改めて見直して、軽減するなどの努力が必要になるのではないか。その話をすると高山さんが「そうですね。在庫の軽減という部分において考えると、そこで注目すべきは在庫回転率です」と答えて、ある数値を教えてくれた。

 それが「デシル分析」と言い「10等分する」という意味だ。

 例えば、通販企業が10,000SKU商品を扱っているとして、その10,000SKUを年度で売れた順に1位〜10,000位まで番号を振る。例えば「赤色のTシャツのSサイズ」で1つと捉え、サイズや色ごとに番号は分かれ、その全てに順位がつくわけだ。当然だが一番売れるのが1、一番売れないのが10,000となる。彼曰く、それを10等分するそうで、すると1000ずつの塊ができる。

 そこで上から1000の塊ごとに「デシル1」「デシル2」…という具合に「デシル10」まで作って、それを12等分すれば1ヶ月ごとに判断する数値の土台ができるわけで、次に大事なのが「期末在庫金額」となる。

 「デシル1」が1ヶ月100万円売れているとして、その「期末在庫金額」が200万円であったら、回転月数は「2ヶ月」というわけである。そうやって倉庫の中に無駄な在庫を抱えないようにする。

倉庫に大量に眠る動かぬ商品

 ここで小橋さんは「話が逸れるかもしれないですが、Amazonの黎明時のデータを見ると、在庫を抱えているようでいて、実は殆どその意味では在庫を抱えていないんですよね。キャッシュフローがバリバリいいんです。お金を回収される前にお金が入ってくるので、ロングテールの中では売れる分だけ仕入れるというのが賢いんですよね」と話す。

 ただ高山さん曰く、「うちはそれほど在庫を抱えていない」と胸を張る通販企業ほど「デシル10」までくるとその回転月数は36ヶ月だったりする。要は売れもしないのに倉庫に入っている状態が続いている。

 こういう物流視点から企業業績は改善できると話すわけである。以前、 CaTラボの逸見さんがカメラのキタムラに所属していた時に、彼は実店舗にその回転月数の多いものがあることを見つけ、それらを全て、ネット通販用の倉庫に集約して、実店舗でそのその商品を欲しがるお客様には、倉庫から取り寄せる事で対応したのも、それを考慮したものだ。

 高山さん曰く、実は在庫金額はBS(バランスシート)に掲載されていて、年間売上は当然出ているから、決算資料を見て、それを12で割れば、ある程度、回転月数を出せる。ある時カメラのキタムラのそれをみたら、0.98ヶ月で驚いたと振り返る。

 つまり、どこの倉庫を使うにせよ、店側が商品の仕入れに合わせて、その数もコントロールしない限りは気付かぬうちに、首を絞めていることになる。逆にうまく付き合えば、必要な商品を必要な分だけ、仕入れて売るわけだから、会社の資金は潤沢となって施策がしやすくなるのである。

残在庫を増やさぬための通常業務

 では、現状を把握する為の数値はそれで見えてきたとして、仕入れの段階で何を意識すれば、良いのか。ここで大事になるのが「受注予測」である。

 例えば「ナチュラム」という釣具のネットショップがあって、ここではなんと50,000SKUもの商品を扱っていてそれは無理もない。釣り針一つにしてもそれだけ種類が豊富なのだから。でも逆に彼らは、その品数を物流と組み合わせて強みに変えるわけだが、欠かせないのが受注予測。

 シンプルな話だが、来月が7月だとすれば「今年の5月、6月」「昨年の5月、6月、7月」「一昨年の5月、6月、7月」で来月の予測を立てる。ただ、大事なのはそこからで、例えば「来月50個売れる」と予測したなら7月1日には「25個納品する」。つまり半分しか納品しないのである。

 その後、10日、11日になるにつれ、月末の予測が立つので、そこで追加の数を考慮する。実際「月末まで30個しか売れそうにない」と判断すれば、7月15日には5個だけしか入れさせないという具合だ。必要な数量、必要な時期に出荷をしていて無駄がない。

 ナチュラムの場合は、数が多いのでシステムを作ってやっているが、どの店舗でもエクセルを使えばそれも可能だから、これはやるかやらないかの話である。ところが、概してその意識が薄い店舗は残在庫が増えてしまう。なぜなら仕入元から「仕入れる量を増やせば掛け率を落とす」と言われ目先の利益に目が眩んでしまうのだ。

 小橋さんは「皆さん、なんとなくはわかっているんです。ちゃんと数字で捉えてない。Eコマースってロングテールだよね。在庫を持っていないと売れないよねという事になるので、営業はいかに積んで、いかに欠品を無くすかという部分もある。そうなると、売上を上げることしか近視眼的に見えていない。キャッシュが焦げ付いて、僕が前いた会社もそれで倒産してしまいました。」

 高山さんは「黒字なのに倒産しちゃうんですよね。お金が在庫になってしまっているので。酷いところでは冬用の商品を真夏に何百坪と押さえているというのもなくはありません。それは欠品が怖いんですよね」と。

 そこで何をすべきかというと、バイヤーが「最終における残在庫の金額」を目標として、残在庫を評価の指標の中に入れることだとする。これは勿論、仕入れに限った話ではなく、メーカーとして販売している企業も、工場からの仕入れをそうやってコントロールする必要がある。「会長が売れると言って1万個作って入庫したけど月5個しか売れないというような事があるのでテストマーケティングは最低限してほしい」と高山さん。

もう一段階上げるための物流側の工夫

 ここで小橋さんはもう一つの軸として「最初は、安さと機能だけで済んでいたところが、そういう点に配慮して不利益分を減らしたところで、もう一段階、売上を上げていこうというところで、物流が果たす役割というのもありますよね」と高山さんに話を持ちかけた。

 つまり倉庫と配送はお客様とのタッチポイント。だから物流センターがそこでいかに顧客体験を向上させるかで、売上そのものを向上させるプロフィットセンターになり得ることを指摘したのだ。

 すると、高山さんはカシューナッツなどの「小島屋」の例を挙げた。このお店の場合、梱包にこだわりがあり、例えば、段ボールのガムテープは「店長である小島さんが西へ東へと配達している」という続きものの漫画。中には「小島屋通信」という冊子が入っている。

 「小島屋通信」には店長の小島さんの顔があり、実店舗がある上野のアメ横界隈の美味しいお店など、観光の案内がついているのだ。それでいて、ウェブサイトにはその小島さんの顔があるから、ここで繋がる。これはモールなどで買った際には、お客様はそのモール名で覚えていて、店舗名を忘れる傾向があるので、店名を印象付ける為に行った物流施策なのである。

 この辺がまた新たにどこの物流施設を使うかという要因になってきて、その答えは店舗ごとに異なるはず。逆にいうと店舗はある程度、成熟してくるとそういう部分も考慮して動かなければならない。

商品を仕入れる前から物流は始まっている

 いかがだろうか。小売にとって商品は物流と表裏一体を為していて、それを意識するかどうかで、会社の経営状況が変わってしまうのと、逆に言えば、ネット通販はそこを一体で見て生産性高く、運用できる手段であって、だから、大きな成長を見込めるのである。

 小橋さんは「これまで現場で学んだのは、商品が伸びてきて並行して下がっていくという一つの商品のライフサイクルがあるじゃないですか?ある程度、伸びるときは在庫を積まなければいけないけど、踊り場にさしかかった所で、在庫回転率を出さないと、売上に対して在庫が異常に増えてくるわけです。だから商品のライフサイクルを見ながら在庫回転率を追い、次の商品という具合にやっていかないと、商品には山と谷があるのでそれに合わせて在庫をコントロールしていかないとダメなんですよね」と。

 つまり、この話はまさにコロナ禍で伸び盛りの今からある程度、落ち着きを見せる未来を見据えるのと重なる。今避けて通れない考え方なのではないかと思っている。

 それでいて付加価値をつけて自らのオリジナリティを持ってそれを店の差別化要因にできるのも物流なのである。利益も売上もその鍵は物流が握っている事がわかる。

 ただ、ここまで読めば、お分かりいただけるだろうが、いきなり全部をやれるわけではない。その段階ごとでやるべきことのプライオリティは変わってくる。つまり、どの状況でも手っ取り早く、全てをプラスに変えるツールや倉庫など、魔法の杖はない。だからまずは数値とともにどう付き合えばいいのかを指し示し、それを初歩的な数値も並べて、ここではその重要性を語ってみた次第である。

 冒頭話した通りである。ネット通販において漠然と物流を利用している人は多いが、物流のコストを計算するだけで利益を上げれて、付加価値をつけるだけで売上を伸ばせるのだ。

 今日はこの辺で。

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