「デジタルシフトがもたらすリユースの新時代──“ツール導入”以前に考えるべき戦略と未来像」

毎年恒例となった「リユースサミット」。今年は新型コロナウイルス感染症の拡大防止に伴い、オンライン開催を余儀なくされたが、それは同時に、これまで以上に多くの業界関係者が集まりやすいという新たな利点も生んだ。オンライン上で行われた多彩なセミナーやパネルディスカッションには、リユース業界の“今”と“これから”を見据えた熱い議論が交わされ、深い学びの機会となったのだ。
今回取り上げるのは、サミット最終日に行われた「失敗しないリユースのデジタル化の考え方と、失敗事例から学ぶ陥りがちな落とし穴」というパネルディスカッション。
「失敗しないリユースのデジタル化の考え方と、失敗事例から学ぶ陥りがちな落とし穴」
モデレーターはウリドキ株式会社 代表取締役 木暮康雄氏、パネリストとしては株式会社ワサビ 代表取締役 大久保 裕史氏、株式会社NOVASTO(ReCORE) 代表取締役 CEO 佐藤 秀平氏、グラムス株式会社 代表取締役 三浦 大助氏という、いずれもリユース業界とオンラインの交点で注目を集める実務家が登壇し、議論を展開した。
彼らは、現場感とITリテラシー双方に精通し、自社またはクライアントへのシステム導入や効率化支援に深く携わってきた“実践者”たちである。同セッションでは、業務効率化ツールを活用したリユースビジネスの可能性が熱く語られる一方、“魔法の杖”のようにツールを導入してもうまくいくわけではないという辛口な警鐘も鳴らされた。その背景には何があるのか──。
本稿では、パネルディスカッションの内容を踏まえながら、「リユース×デジタルシフト」をめぐる本質的なポイントを深掘りしていく。
1. デジタル化は“戦略”があってこそ活きる
1-1. 「システムを入れれば何とかなる」は危険
リユースをオンライン化しようと考えるとき、つい思い浮かぶのが「最新のツールを導入すれば万事解決なのでは?」という発想だ。しかし、登壇者たちは「それだけでは何も変わらない」と口を揃える。
たとえば、株式会社ワサビの大久保氏は、現場視点・システム視点の両方からこんな指摘をしていた。
「経営者が、YouTubeやセミナーでシステムの話を見聞きして、『ウチでも導入しろ』と号令をかけるだけだと、現場は混乱します。ツールを入れる前に、まず自社のどの工程をどう効率化したいのか、そのためにはどんなデータや運用体制が必要なのか、しっかりと戦略を固めなければ、結果的にシステムが“宝の持ち腐れ”になるんです」
1-2. 課題を数値化する“見える化”が第一歩
「そもそも今、自社がどんな課題を抱えていて、どの部分を改善すれば売上や利益が伸びるのか」。それを可視化できていない事業者は少なくない。株式会社NOVASTO(ReCORE)の佐藤氏もまた、こう強調する。
「デジタルシフトの前に、アナログでもいいから現状を見える化してほしい。売上や在庫数はもちろん、例えば『仕入れルートはどこか』『店頭とECそれぞれでどれだけ作業時間がかかっているか』など、数字や工程を把握できていない状態で、いきなり高機能なシステムを導入しても、どこがボトルネックか見えずに手詰まりになるケースが多いんです」
この“現状把握”こそが、システム導入前の最重要ステップである。特に、リユース業界は扱う商材や業態が多様。リアル店舗中心なのか、ネット買取中心なのか、海外への販売まで狙うのか。戦略と規模感によって、必要となるシステムの要件は大きく変わってくる。
2. ツール導入の落とし穴──「自由にカスタマイズできる」は幻想
2-1. 共通プラットフォームのメリットと限界
今回のパネリスト3名は、それぞれリユース事業の効率化を図るITソリューションを開発・提供している。たとえば、三浦氏のグラムス株式会社は、写真を自動できれいに処理する画像ツールや、買取・販売などの業務システムを提供している。同様に、大久保氏のワサビはリユース向けの基幹システム構築やEC出品代行を手がけ、佐藤氏のNOVASTO(ReCORE)は「リコア(ReCORE)」というリユース特化型の業務支援サービスを展開している。
これらはいずれも、自分たちが過去に膨大な投資と試行錯誤を経て作り上げてきた共通プラットフォームだ。複数の事業者がそれを共同利用するからこそ、一社あたりのコストを抑えられる。
ところが、「ツールを導入すれば、あとは自由にカスタマイズして何でも実現できるわけではない」。三浦氏はこう警鐘を鳴らす。
「うちのサービスは、多くのリユース事業者さんに共通して使ってもらえる形で設計している。だからこそ、初期費用を抑えて導入できる。つまり、みんなが同じ仕様に“寄せる”から安くなるわけだ。逆に『うちの業務フローに完全フィットした形でゼロから作れ』と言われると、開発費は格段に跳ね上がる。そこを理解せず“何でも要望を飲んでくれるんでしょ”と思ってしまうと、結局は破綻してしまうんです」
2-2. 現場を巻き込まずに導入してもうまくいかない
ツール導入に失敗する原因の一つが、“経営者(または担当者)が勝手に決めて、現場に丸投げ”のパターンだ。大久保氏は、こうしたケースでよく見る実例を語る。
「経営者が『すごいシステムがあるらしい』と聞きつけて導入しても、現場が『何をどう変えるためのシステムか』を理解していなかったり、作業時間・人員の確保ができなかったりすると、結局システム導入が進まない。特にリユース事業は、買取から販売まで人手が欠かせない部分が多いので、各工程を回すスタッフの協力なしにはツールを活かせないんです」
同じ理由で、リユース業界内でいまだPOSレジなどを導入していない店舗も多数存在するとされる。手書きやエクセルなどアナログ管理のままでも、「とりあえず回っている」からシステム化のメリットが見えにくい、という現実もあるわけだ。
3. 自社開発か、パッケージ導入か──決め手は“ビジョン”
3-1. システム構築にかかる膨大な時間と費用
「ならば一から自分たちで作れば良い」。そう考える企業もある。しかし、各パネリストが口を揃えて指摘していたのは、「想像以上に時間も費用もかかる」という事実だ。
佐藤氏は、現在運営しているリユース業務支援ツール「ReCORE」を立ち上げる際、最初の設計からリリースまでに1年以上、費用としては億単位に迫る投資を要したと告白する。
三浦氏や大久保氏もまた、フルスクラッチでシステム開発を始めれば、要件定義だけで多額のコストがかかり、そこからさらに修正・追加機能の度にコストが発生する、と強調した。
もちろん、自社の超独自フローを完璧にカバーしたいならば、フルスクラッチ開発にメリットはある。ただ、それは「戦略とビジョンが明確に固まっている場合」に限る。扱う商材、対象顧客、マーケティング手法、海外展開の有無まで含めて、「何を目指すのか」を細部にわたって描けていないと、システム設計の段階で迷走し、時間と費用ばかりが膨れ上がるリスクが高い。
3-2. 戦略・業務設計をリードする“ディレクター”の重要性
システム開発の現場では、「何をどう作るか」以前に「何を作るべきか」を決めるディレクター(またはコンサルタント)の役割が大きい。
業務フローをヒアリングして要件定義をまとめ、エンジニアに正しく落とし込む“橋渡し”がいないと、企業側の“ふんわりした要望”とエンジニア側の“プログラム思考”が噛み合わず、手戻りが多発する。
「リユース業界は商材も顧客対応も複雑で、現場で動く人のノウハウに頼っている部分が大きい。そこを理解して、システム化すべきところとすべきでないところを切り分けるのがディレクターの役割です。作り手と使い手が共通のゴールイメージを持たないと、結局『こんなはずじゃなかった』と不満が募ることになる」(三浦氏)
4. リユース業界の「眠れる6割」とオンラインの可能性
4-1. 未開拓の顧客層を掘り起こすヒント
ディスカッションでは、「リユースを利用した経験がある人が4割程度にとどまり、残り6割の潜在顧客が眠っている」というデータが言及された。実はここ10年以上、その数字に大きな変化は見られないともいう。
「4割の人はECリテラシーもある程度高い。だから、ネット買取やメルカリなどのフリマアプリを使いこなす。一方、6割の人はそもそも『中古品を売る』とか『ネットで査定する』という行動が身近ではない。ここにこそ、リアル店舗や地域連携が活きる余地があります」(佐藤氏)
これまでオンライン化の波に乗れていなかった中小の買取店が、新たなツールを導入して宅配買取を始めたり、外部の出品代行サービスと提携したりする動きも出ている。
とはいえ、そこにも「課題の可視化」と「戦略設定」が欠かせない。「ターゲット顧客はどんな人で、ネットで集客する場合、何を優先すべきか」を考えずに始めてしまうと、デジタル施策のコストだけ増えて終わってしまうケースが目立つのだ。
4-2. 個人をフューチャーしたブランディング
一方で、「誰が査定するか」「どんなストーリーで買い取るのか」といった“人”を前面に押し出して活躍するインフルエンサー型のプレイヤーも増えている。
たとえば、元キャバクラ嬢の有名ユーチューバーが買取サービスを立ち上げた例など、その個人ブランド力で短期的に大きく拡散したケースは象徴的だ。これは大手リユースチェーンが「価格×物量」を武器に集客するモデルとは大きく異なる戦略だといえる。
大久保氏も「個人としての魅力を打ち出してファンを作ることで、店舗や企業を超えた差別化が進む」という流れを実感しているという。ただし、人材に依存するリスクもあるため、どこまで組織としてフォローし合えるかが今後のポイントになってくる。
5. 越境ECとSDGsの追い風──リユースが果たす社会的意義
5-1. 越境ECの可能性と“使い方”
海外市場に目を向けると、日本の中古品は品質が高く、相場が1.5倍になることも珍しくない。実際、多くのリユース事業者が「越境EC」に取り組み始め、成果を上げている。
しかし、アメリカ、ヨーロッパ、中国、東南アジアといった地域によって市場特性や商習慣、言語の壁は大きく異なる。自動翻訳などの技術進歩もあり、部分的にはハードルが下がりつつあるが、「じゃあ全自動で海外販路が開拓できる」というほど単純ではない。
加えて、越境に出した先で“ぐるぐる回す”には、現地のバイヤーや倉庫との連携、輸出入管理などが欠かせない。大久保氏や佐藤氏も、過去に海外販売を試みた経験から、「やるなら本腰を入れて体制を作る必要がある。それでも海外向け市場は大きなチャンス」と話す。つまり、ここでも**“やみくもな参入”ではなく、戦略的なアプローチ**が不可欠だというわけだ。
5-2. SDGsとリユース──業界の地位向上に向けて
リユースビジネスは、SDGs(持続可能な開発目標)やサステナビリティとの親和性が高い。「新品を生産しないでモノを循環させる」「廃棄物を減らす」という点で、社会的意義は大きいはずだが、業界としての認知やブランディングはまだ十分とは言いがたい。
「中古屋という地味なイメージも根強いけど、実際は“地球に優しい”“資源を大切にする”という価値を提供している。もっと業界全体で連携してアピールし、働く人のモチベーションや社会的評価を高められる余地は大きいと思います」(大久保氏)
また、オンラインによって地域や国を越えた連携がしやすくなったことで、デジタルシフトが思わぬ相乗効果をもたらしている。最近は「Remo」などのオンラインカンファレンスツールを使った懇親会や勉強会が増え、リユース業界のプレイヤー同士が相互に学ぶ機会が格段に広がっているという。
6. 結論──“段階を踏む”からこそ始まるデジタルシフトの真価
システム依存からの脱却
今回のパネルディスカッション「失敗しないリユースのデジタル化の考え方と、失敗事例から学ぶ陥りがちな落とし穴」で語られた一貫したメッセージは、“システムやツールを導入するだけでは成功しない”ということに尽きる。
- 1. 課題や現場の実態を数値化し、見える化する
- 2. 自社の戦略(ターゲット、ビジネスモデル、規模感など)を明確にする
- 3. その戦略に沿った形で、ツールを使いこなす体制を整える
この3つのステップを踏み、初めてデジタルシフトは効果を発揮する。もし社内にディレクションできる人材が不足しているなら、コンサルタントに相談したり、業界コミュニティでノウハウを共有しあったりと、段階的に知見を蓄える方法もある。
サミットを通じて印象的だったのは、登壇者たちが皆「不安な人を突き放すつもりはない」と強調していた点だ。オンライン懇親会や情報交換の場を積極的につくり、リユース業界全体の価値向上を目指したいという姿勢がにじむ。
新型コロナウイルス禍をきっかけに、急速にデジタルシフトが進んだのは事実だ。しかし、その“後戻りできない”流れのなかで、あらためて「どう戦略を描くか」「どの分野を優先的にオンライン化するか」を考えることこそ、今求められている。SDGsをはじめとする社会課題の解決や、海外の消費者に誇れるリユース文化を育てるためにも、リユース企業それぞれが“段階的かつ着実なDX”に向き合う意義は大きいと言えるだろう。
デジタル施策で何を優先する?
「何から始めていいかわからない」「システム会社に相談しても要件が固まらずに足踏みしている」。
もしそう感じているなら、一度原点に立ち返って、自社の在庫状況・作業フロー・顧客ニーズを再点検することから始めてほしい。自社だけで難しければ、リユースサミットのような業界イベントやオンラインコミュニティを活用し、横のつながりを得るのも有効だ。
「オンライン化すればそれでOK」ではない。ツールは“手段”であり、自社ビジョンを具体化するためのものである。だからこそ、パネルディスカッションで繰り返し強調されたように、“戦略”という根幹を固め、初めてシステムは効果を発揮するのだ。
持続可能な社会への転換が叫ばれるなか、「ものを大切にする」リユース事業の役割はこれからますます大きくなる。業界内外の連携や、ユーザー一人ひとりの視点を大事にしたサービス設計を模索しながら、一歩ずつ階段を上がっていく──それこそが、リユース業界における真のデジタルシフトであり、未来への可能性を切り開く鍵なのではないだろうか。
今日はこの辺で。