ヤマト運輸が取り組む「デジタル×配送」の最前線――LINEとの共創がもたらす新しい顧客体験

「一見するとアナログに見える宅配業界も、いまやデジタルの力で大きく変わろうとしている」。そう思わせてくれるのが、LINEが主催する「LINE AI DAY」で登壇したヤマト運輸の事例。実は、ヤマト運輸が目指す方向性はLINEが描くAI活用のビジョンと深く重なっている。では、彼らはどのようにAIを使い、どんな顧客体験を創り出そうとしているのだろう。
ヤマト運輸 は、 LINE の AI で何に期待しているのか?
・お客様とより近いところで
ヤマト運輸とLINEの接点は、2016年1月にさかのぼる。このとき、ヤマト運輸がLINE公式アカウントを開設したことで、消費者とのコミュニケーションが一気に広がったのだ。
現在(2020年7月時点)では、お友だち数は3,994万件にのぼり、配送予定の通知などで利用者とのやり取りが日常的に行われている。宅配業者と顧客をつなぐ、より身近で便利なツールとしてLINEが活躍しているわけである。

「NEXT100」――デジタル投資に本気のヤマト運輸
ヤマト運輸は社内改革の大きな指針として、「NEXT100」というテーマを掲げている。これは“データ・ドリブン経営”への転換をめざし、今後4年間で約1,000億円をデジタル分野に投資。300人規模の新しいデジタル組織を立ち上げるという計画である。
かつては“アナログ”なイメージが強かった宅配企業。だが、デジタル企業さながらの思い切った変革を図ろうとしているのであり、その中心に位置づけられているのが、AIの活用なのだ。
AI活用は自動応答だけじゃない
すでにヤマト運輸のLINE公式アカウントでは、AIを使ったチャットボット機能(自動応答)を導入しているが、ヤマト運輸はそこにとどまらない。
ポイントは、さまざまなユーザーインターフェイス(UI)で顧客とつながり、それらを一元管理して個々のニーズに合わせたサービスを提供するという考え方なのだ。これは、もともと同社が大切にしてきた“手厚い配送”のスタンスとも深く結びつく。
アナログな対応も大切に、しかしデータは一元化
ヤマト運輸といえば、CtoC(消費者同士)の配送にも力を入れ、荷物とともに“気持ち”を運ぶようなホスピタリティで知られている。ただ、従来の接客スタイルは電話応対や対面など、どうしても個々の担当者に依存する傾向があった。
そこで、デジタルを活用し、顧客ごとのデータを蓄積。誰がどのような経緯で問い合わせをしてきたのか、どんな希望を持っているのかをリアルタイムで把握できるようにする――。
これがヤマト運輸の狙いである。理念として掲げてきた“一人ひとりに合った手厚いサービス”を、データドリブンでさらに高めようとしているわけである。
ところで、最近、お客様の間で「ヤマト運輸」の話題がSNSを賑わせた事があったのをご存知だろうか。
「にゃん」語応対がSNSで話題に
ヤマト運輸が「接点づくり」を重視していることを象徴するエピソードが、SNSで話題になった。
利用者がLINE上で「〜にゃん」と“ねこ語”を使う。すると、ヤマト運輸側も同じく“ねこ語”で返答してくれるというもの。これには「遊び心がある」「親近感がわく」といった反響があり、単なる連絡手段にとどまらないコミュニケーション施策として注目を集めた。
そんな柔軟で親しみやすい姿勢も、デジタルを活用して顧客との距離を縮めていこうとするヤマト運輸らしさと言えるだろう。
次なる一手は「LINE AiCall」
さらにヤマト運輸は、一歩踏み込んだAI活用として「LINE AiCall」に注目している。
LINE AiCallは、人工的なオペレーターが電話で人間に近い応対をしてくれるサービス。すでに飲食店の予約受付にも導入され、AIとは思えないほど自然なやり取りが可能なのだ。
ヤマト運輸にとって電話応対は昔から欠かせない重要なチャネル。
そこにLINE AiCallの技術を組み合わせることで、自動応対で得られる情報をデータとして蓄積・分析し、それを他の接点(LINE公式アカウントなど)とも結びつけることができるようになる。
AI×電話×LINEがもたらす顧客満足度の最大化
顧客が電話でもLINEでも気軽に問い合わせでき、そのやり取りがすべて一元管理されていれば、よりパーソナライズされた対応が可能になる。
たとえば、過去に「ねこ語」でやり取りしていた顧客なら、その“楽しみたい”という気持ちを踏まえた柔らかい対応ができるかもしれません。逆に「とにかくスピード重視」という顧客には、最短ルートでの回答を提供するといった使い分けも期待できる。
こうしたきめ細かな対応が大きな顧客満足につながり、さらには新たな事業の可能性を生み出す――。これこそがヤマト運輸が目指す「NEXT100」のビジョンとも直結し、同社が進めるデジタル改革をさらに加速させる原動力になるはずである。
LINEのAI技術を取り入れ、電話やチャットといった複数の顧客接点を統合し、個々のニーズに合わせたサービスを実現していく。ヤマト運輸がいま進めているのは、まさに“手厚いサービス”と“デジタル”との融合だ。
「手厚い配送」という強みをいかしながら、データドリブンで顧客満足度を高める。そんなAI時代の配送DXが、これからも多くの注目を集めていくことだろう。
今日はこの辺で。