Amazon を世界企業に押し上げた「 メカニズム 」

1994年に創業されたAmazonは瞬く間に時価総額9230億ドル(2019年7月末時点)の世界企業となり、Microsoft、Appleと肩を並べるに至った。そんな Amazon にとって大事な要素である「新規事業の創出」一つにしても、僕はAmazonらしいと思った。熱量がある部分と冷静に進める部分が峻別され、見事に仕組み化されている。つまりは メカニズム 。今回の取材相手 星健一さんは元Amazonにして「Amazonビジネス」というBtoB向けサービスを日本に持ち込んだ張本人であり、その舞台裏に迫った。
Amazon の新規事業の現場は活気に満ちている
1.新規事業でも「シンプル思考」
改めて「Amazonビジネス」について説明すると、Amazonの世界一の品揃えを「対企業向け」に販売しようとするものである。企業がその活動の過程で必要となる備品や本など、購入先が複数、バラバラで煩雑になりがちなのをAmazonにまとめることで、購買や経理業務は改善されるというわけだ。
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サービス立ち上げ時、Amazonでは詳細から詰めていくことはしない。必ず、前提となる部分から考えていき、それこそ代々AmazonにはTenets(テネッツ)に基づいてサービスモデルが設計、構築されていく。Tenetsは日本語でいうところの「信条」や「教義」という「考え方の礎」である。
また、そこではメンバー全てがその提案の中身を理解できるよう提案者は「頭にあるもの」を徹底的に開示しシンプルにTenetsに落としこんでいく。
「Amazonビジネス」の例で言えてみることにしよう。
・「(BtoBで利用する)お客様が抱えている問題点は何か」
・「そのお客様の問題点を解決するにはどうすればいいのか。買っていただきやすいように、購買のプロセスを簡素化できないか」
・「このサービスの目的は何か」
・「Amazon側も事業をする上でどう効率化を図り、この事業の成長を後押しできるか」
このように数えきれないほどの項目を全て書き出し、何のためにこのサービスを提供するのかというTenetsを決めていく。そこで初めて、次のステップの「アクションプランを立ててみよう」と着地する。
いきなり行動し始めずに、徹底的に話を詰めていく。細部に落とし込むまで徹底的な議論をするから、この新規事業の最初の会議はいつも「熱気」を帯びている。
2.細部まで議論されるから仮説と検証も早い
Amazonらしいなと思うのは、喧々諤々、大きな所から入り細部まで議論をしているからこそ一貫していて、それ故、業務の遂行に必要な役割の洗い出しも、適切な人員の配置も的確だということ。配置された側もシンプルだからやることが明確で、目標設定もしやすくなる。
また、Tenetsによって目的がはっきりしているからこそ、間違った方向に進みそうになったときに、ちょっと待て!と原点に立ち返り軌道修正することができる。これが大きい。
こうやってサービスをお客様に満足いくように、継続的に提供していく「メカニズム」は生まれる。今話したように、本質的な議論は勿論、人間が熱量を持ってやっていくべきことだけど、このメカニズムという名の「仕組み」の一端を担うのは恐らく、人でなくともいいのかもしれない。
人間がやらなければならないこと、機械に任せて良いことは、それらの仕組みを考える過程で峻別するはずだし、それで、機械の方が生産性を高めるのであれば、人ではなく迷わず機械を使い自動化するはず。それがお客様へのサービスの向上には近道だからだ。
星さんが強調するのはこの「メカニズム」に長けたAmazonの企業文化である。Amazonと関わりがある企業なら、感じることだが、Amazonに対して(いい意味で)無機質で、淡々と作業をしているイメージを抱かないだろうか。でも、ここまでの話を聞けば、当然なことで「淡々と作業ができるまでシンプルにしている」からなのであり、それが事業の成長を促しているのだ。それは熱量のある会議の結果、生まれたもので、印象とは裏腹に、熱量のある会社ということになる。
でも、実はそれだけでは足らないこともわかった。この「メカニズム」を最大化させるにはあと一つ、大事なことがあって、それはこちらの記事に譲ろうと思う。
今日はこの辺で。