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楽天が“物流”に注力するワケ──店舗にとってのメリットと宅配クライシス

 「楽天市場」が、近年「物流」への本格的な投資を進めている。楽天市場に出店している店舗にはどんな利点があるのか。社会的関心事の一つとなった「宅配」問題と合わせて、楽天がどう切り込むのかを考えてみたい。

1. 楽天が物流に本腰を入れる背景

宅配クライシスとは

 ここ数年、宅配の問題が大きく取り沙汰されている。2017年の時点で配送荷物は年間42億個に達し、10年で10億個も増えている。ヤマト運輸をはじめとする配送業者が荷物の総量を制限したり、採算性を確保するため配送料を値上げするのも無理はない。

 しかし、だからといって抜本的な解決策が見えない状況が続いている。

 こうした中、「楽天市場」で出店店舗の売上拡大を後押しするため、宅配クライシスの打開に取り組み始めた。もし配送料が高騰したり、配送そのものが滞ったりすれば、店舗の成長が妨げられる可能性があるからだ。

 まず、楽天が課題としているのは、今の物流の状況である。

 2017 年データで言えば、既に配送の荷物の量は42億個。ここ10年で10億個も出荷数が増えている。

 ヤマト運輸を筆頭にその量を制限し、また採算性を高めるために、その価格をあげたいというのも無理はない。ただ、とはいえそれで解決するそぶりも見えない。

参考:ネット通販の拡大と宅配クライシス―物流の役割が増すほど深まる課題

2. 楽天が物流を整備する狙いとメリット

大規模イベントで“物流”を強調

 楽天の代表取締役会長兼社長・三木谷浩史氏は、「楽天オプティミズム」においても、多くの講演時間を“物流”の話題に割いた。それだけ、楽天にとって物流対策は“最優先事項”となっているのだ。

店舗目線で見るメリット

• 配送料の高騰リスクへの対策

 物流の負担が増大し配送料が上昇すると、せっかく売上が伸びている店舗でも利益が圧迫される。楽天が自前の物流網を構築し、交渉力を持つことで店舗をサポートする狙いがある。

• スムーズな配送による顧客満足度向上

 注文量が急増した際も配送が滞りにくくなれば、リピーター獲得や評判アップにつながる。これこそ出店店舗にとって最大のメリットと言える。

3. 2000億円投資の“本気度”──楽天エキスプレスと物流網の拡充

 三木谷氏は「物流」に2000億円を投資。楽天エキスプレス(配送)楽天ロジスティックス(倉庫)の拡充に取り組むと発表している。

• 拠点増加・配送網の確立・人員拡充

楽天エキスプレスという自社配送の仕組みにより、独自のネットワークを形成。2020年1月時点での“フォロー率”は61%まで引き上げた。

• 倉庫の自動化で生産性UP

 マテリアルハンドリング機器を導入し、倉庫内作業を自動化。スピーディーな出荷体制を築くことでコスト削減と注文対応力の強化を目指す。

 さらに、楽天はサードパーティーロジスティックス(3PL)企業とも連携。店舗ごとの荷物を一括管理する仕組みを進めている。これによりスケールメリットを活かして、店舗が抱える物流の悩みを少しでも軽減しようとしているのだ。

4. “送料無料ライン”導入がもたらす波紋

楽天が全国一律「3980円ライン」を提案

 楽天市場で話題を集めたのが、全店舗統一の送料無料ライン設定だ。

 従来は店舗ごとに送料ルールが異なり、顧客にとってわかりづらい部分があった。三木谷氏は3980円(税込)を一つのラインとし、「顧客が購買しやすい仕組み」をつくることで売上アップを図ろうと考えている。

 この価格の設定は楽天の全店舗を対象にリサーチ。「購入数が減少してしまうほど高い価格」ではなく「客単価そのものを低下させてしまわない」価格設定だという。ただ、この議論には店舗側の粗利の概念がない。

関連記事:ECと実店舗の融合が小売を変える:デジタル武装の理由と未来戦略

 つまり、店舗サイドの視点では、粗利が薄い商材ほど厳しくなるリスクがある。

 型番商品を安く仕入れて売っている小規模店舗ほど、送料無料ラインを守るには価格設定の見直しが必須だからだ。「どこで差別化するか」。「オリジナル商品をどう開発するか」。結果的にそれが問われるようになり、価格競争とは別の軸での勝負が必要になってくる。

5. 配送会社だけでは解決できない問題──楽天が果たす役割

受注予測でドライバーを確保する仕組み

 楽天は過去に物流施策で失敗を経験している。とはいえ、同時に売上データ(需要予測)を一括管理している強みがある。

 新商品のヒットが事前に予測できれば、その分のドライバーを早期に手配し、給与などの条件を整えることで離職を防ぎやすくなる。配送のみを手掛ける企業よりも、投資判断がしやすいというわけだ。

店舗・物流・顧客の“三位一体”

 宅配クライシスを解消するには、店舗が取り扱う商品数や在庫管理物流側のリソース配分が深く結びついていなければならない。楽天というプラットフォーマーが間に入り、店舗の声をまとめ、配送会社と連携することで、初めてスムーズな供給体制が作れる。

6. まとめ──一社単独では生き残れない時代に

 店側に一律の送料無料ラインを課すなど、楽天の施策が強引に見える面もある。

 しかし、宅配クライシスという厳しい現実を前にすれば、「一社だけで完結する」時代は終わったとも言える。店舗同士、物流会社、プラットフォーマーが横で連携し合い、持続可能なしくみを築く必要性が迫っているのだ。

 楽天は物流投資に本腰を入れることで、将来的に配送網の大部分を確保。宅配クライシスによる混乱を最小限に抑えようとしている。

 もちろん、無料ラインの設定を含め、まだ課題は多い。しかし、大局的に見れば、ネット通販の成長を下支えする“物流インフラ”を進化させる試み。各企業にとっても無視できない動向となるだろう。

今日はこの辺で。

参考:楽天×日本郵便─宅配クライシスを超えた“第3の物流時代”への必然的連携

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