捨てられるはずだった布に、なぜ新たな価値は宿ったのか──サンローズが挑む“循環するものづくり”と付加価値の再定義

カーテンは、暮らしの中でとても身近な存在である。けれど、その一枚がどのように作られているのかまで意識する機会は、あまり多くない。愛知県蒲郡市に本社を置くサンローズ株式会社。その代表を務める榊原功二氏が語ったのは、カーテンづくりの裏側で生まれる大量のハギレの話だった。サンローズは、カーテンを中心にインテリア製品を手がけるメーカーである。その製造現場では、年間40トン以上ものハギレが発生しているという。
しかし、そこでそのまま、終わらせなかった。細かな生地は反毛によって自動車部品の防音材やクッション材へ。大きな端切れは直営店で販売し、ものづくりを楽しむ人たちの手へ。ポリエステル素材は再資源化され、建材ボードとしても活用されていく。
ただ、それでもなお、最後に残ったものがあった。スパンコールやラインストーン、ラメ糸、刺繍などが混ざった、再利用の難しい生地である。“この壁”をどう乗り越えるのか。その問いから生まれたのが、廃棄されるはずだった布を使ったウェディングドレスだった。
年間40トンのハギレが生まれる、カーテン製造の宿命
カーテンは、ただ布を裁断して縫えば完成する商品ではなく、高い品質が求められる。生地に小さな傷があれば、その部分は使えない。柄物のカーテンであれば、左右で柄の位置がずれてしまうと見栄えが悪くなる。窓を覆う面積が大きいからこそ、わずかな違和感が目立ってしまう。
そのため、カーテンづくりではどうしてもカットロスが発生する。サンローズでは、その量が年間40トン以上にのぼるという。これは、品質を守るために生まれるロスであり必然である。単純に「ハギレを出さなければいい」と言うことは簡単だ。しかし、品質を落とせば商品としての価値が失われる。逆に品質を守れば、一定のロスは発生する。
美しいカーテンを作ることと、素材を無駄にしないこと。
この二つをどう両立するのか。サンローズの挑戦は、まさにそこから始まっている。
端切れを仕分けして再利用
サンローズの取り組みを見ていて印象的なのは、ハギレを一括りにしていないことだ。
「余った布」と言っても、その種類はさまざまである。細かなドレープ生地もあれば、大きな端切れもある。レース生地もあれば、ポリエステル素材もある。素材や大きさ、混ざっている装飾によって、使い道はまったく変わる。
だからサンローズは、それぞれの性質に合わせて活用先を探している。
細かなドレープ生地は、月間約1,200kg発生する。これは反毛という技術によって繊維をほぐし、フェルト状に戻される。その後、自動車部品の防音材やシートクッションなどに活用されている。
95%以上は循環している。それでも残る“月100kgの壁”
大きな端切れは、月間約600kg。こちらは直営販売店のサンレジャンで販売される。ハギレ詰め放題として店頭に並び、ものづくりを楽しむ人たちの手に渡る。さらにハギレコンテストも実施され、購入した人が作品を作り、再利用の楽しさを広げている。
ポリエステル100%のレース端切れは、月間約400kg。再ペレット化され、再び素材として使われるほか、クッションの中材などにも活用されている。また、色柄のある生地はPANECOによって建材ボードへと生まれ変わっている。
しかし、それでも最後に残ってしまうものがある。スパンコール、ラインストーン、ラメ糸、刺繍などが混ざった生地である。再利用の工程では異物になる。繊維として再生しようとしても、装飾が混ざっているため扱いにくい。再ペレット化にも向かない。反毛にも不向きである。
その結果、月に約100kgがどうしても廃棄せざるを得ない生地として残っていた。
SNSが変えた発想──「何に使えると思いますか?」
月100kg。数字だけ見れば、それほど大きな量ではないのかもしれない。しかし、サンローズにとっては違った。
なぜなら、その100kgだけが循環の輪の外に残されていたからである。そこで、彼らはSNSで問いを投げかけた。
「このキラキラした生地は、何に使えると思いますか?」
すると返ってきたのが、「ウェディングドレスに使えるのではないか」という声だった。言われてみれば納得である。スパンコール。ラインストーン。刺繍。ラメ糸。再利用を難しくしていた装飾は、ウェディングの世界ではむしろ魅力になる。
つまり、問題だと思っていたものが、別の文脈では価値になるのである。これは単なるアイデアではない。価値の見方そのものが変わった瞬間だった。
ウェディングの“廃材タブー”を超える
ウェディングドレスという発想が生まれてから、プロジェクトは具体的に動き出した。
プロジェクトには、エシカルコーディネーターのエバンズ亜莉沙氏、アップサイクルコスチュームデザイナーの谷公美子氏、一般社団法人エシカルウェディング協会の野口雅子氏が参画した。さらに、蒲郡クラシックホテル支配人の安川貴也氏らも加わった。そして、忘れてはならないのが、サンローズの榊原功二氏である。
こうして、アップサイクルウェディングドレスの制作プロジェクトが動き出した。
また、蒲郡市内や近隣地域から縫製経験者を募集したところ5名が参加。約3か月をかけて5着のドレスが完成した。
しかも完成したドレスは展示用ではない。2025年4月からは蒲郡クラシックホテルで実際に着用できるサステナブルウェディングプランとして展開されている。
ただ、注意したいのは、一般的なウェディングドレスは、一生に一度のために作られるもの。人生で最も特別な日を彩る衣装だ。だからこそ、新品であることに価値があると考えられてきた。
そのため、廃材を使うという考え方は長らく受け入れられにくかった。「縁起が悪い」「特別な日にふさわしくない」そうした価値観があったのである。
価値基準そのものが変わる
ところが、サンローズはあえて、このドレスを通して価値観そのものを問い直そうとしているのである。そもそも、今の若い世代の感覚は少し違う。幸せなイベントのためだけに大量の資源を消費することに疑問を持つ人も増えている。
新品であることよりも、意味があること。高価であることよりも、共感できること。価値の基準そのものが変わり始めているのである。
実際に完成したドレスには、単なるアップサイクルにとどまらない工夫が盛り込まれていた。汚れた部分だけ交換できる構造。パーツを組み替えることで異なるスタイルに変化できる設計。
つまり、一度使ったら終わりではなく、繰り返し使うことを前提としている。これは従来のウェディングドレスとは発想がまったく異なる。
「一度きりの幸せ」ではなく、「循環する幸せ」を形にしたのである。
結婚式そのものの価値観を変える
さらに蒲郡クラシックホテルでは、ドレスだけでなく、WEB招待状やアフターブーケ、植樹セレモニー、サステナブルコーヒー、再生箸などを組み合わせたサステナブルウェディングプランも展開している。
つまり、変わったのはドレスだけではない。結婚式そのものの価値観を見直そうとしているのである。
そして、この考え方は高く評価された。環境省などが後援するエコプロアワード2024において奨励賞を受賞したのである。おそらく評価されたのは、単に廃材を再利用したことではない。
ウェディングという特別な場面において、「幸せとは何か」「価値とは何か」を問い直したことに意味があったのではないだろうか。
なぜメーカーが“捨てる責任”まで背負うのか
そもそも、サンローズがここまでこだわるのは、彼ら自身、職業柄、再利用による価値を実感しているからだ。例えば、サンローズが直営店「サンレジャン」で行った不用品回収の実証実験。
カーテン専門店であるサンレジャンは、一般的な量販店とは少し違う。
採寸のために一度お客様の自宅を訪問し、商品が完成すると再び取り付けのために訪問する。つまり必ず二回、顧客との接点が生まれる。サンローズはそこに着目し、最初の訪問時に回収ボックスを渡し、二回目の訪問時に不要品を回収したのである。
カーテンの掛け替えという行為は、多くの場合、部屋を整理するタイミングでもある。
つまり、断捨離のタイミングと一致する。その瞬間に回収の仕組みを組み込んだのである。結果として三か月間で235kgの不要品が集まり、そのうち90%以上が再利用できたという。数字だけ見ても十分な成果だ。
しかし、この取り組みの価値は回収量ではない。販売のための接点を、循環のための接点へ変えたことにある。普通なら営業活動として終わる訪問を、資源循環の入り口へ変えている。
サンローズの活動を見ていると、それぞれ別の取り組みに見えながら、根底には一つの思想が流れていることがわかる。
残り物に価値はないのか──付加価値を問い直す
僕が気づかされたのは、無意識のうちに、端切れもそうであるように、「使われなかったもの」を価値の低いものとして扱っていることだ。しかし、彼らの話を聞くうち、「本当にそうなのだろうか」と思った。
例えば、スパンコールやラインストーンが付いた生地は、再利用の観点から見れば扱いにくい素材だった。ところが、ウェディングドレスという文脈に置いた瞬間、その評価は一変する。
華やかさになり、個性に映り、それはその人の魅力になる。
つまり、変わったのは見方だけである。ここに、付加価値の本質があるように思う。高性能にする。高級素材を使う。便利にする。
もちろんそれも商品化における大事な付加価値だ。
しかし、誰も見向きしなかったものを拾い上げ、新しい意味を与えることもまた、付加価値なのである。廃棄予定だった生地に、新たな物語が加わる。その共感が新たな需要を生み出す。
彼らは、その価値を再定義することで、新しいストーリーを生み出している。
ウェディングドレスは“答え”ではなく“問い”だった
そう思うと、ウェディングドレスの完成は、このプロジェクトのゴールだったのだろうか。おそらく違う。むしろ、スタートだったのではないかと思う。
完成した5着のドレスは確かに美しい。エコプロアワード2024で奨励賞を受賞したことからも、その社会的な評価の高さはうかがえる。しかし、サンローズが本当に解決したかったのは、ドレスを作ることではない。
再利用できない素材をどう生かすか。そこにあった課題である。実際、このプロジェクトでは完成したドレスを販売やレンタルだけで終わらせない構想も描かれている。ドレスは次の利用者へ受け継がれ、役目を終えた後は回収される。分解された素材は再びリサイクルへ回り、使えないパーツは別の用途へ活用される。
つまりサンローズが目指しているのは、一着のドレスではなく、ドレスが循環し続ける仕組みそのものなのである。それは、これまで彼らが続けてきた活動とも重なる。むしろ、その延長線上で進化した取り組みと言える。
課題を見つけ、その課題に対して社会と一緒に答えを探している。それは従来の商品開発とは少し違う。つまり主役は商品ではなく課題なのである。
そして、その先に見えてくるのは、企業と顧客の新しい関係かもしれない。企業が価値を生み出す。顧客がその意味を理解する。
共感が生まれる。そして、その共感が次の価値を支える。
そうした循環が回り始めた時、そこにはこれまでとは違う市場が生まれている。サンローズの取り組みは、その可能性を静かに示しているように見えた。
今日はこの辺で。







