売る為ではない ファンと繋がり“並走”し続けて 伸びるナイキの業績
興味深かったのがナイキの決算である。僕が注目したのは、2023年度第2四半期の決算の内容である。その理由は、ロイヤルカスタマーの醸成が大事で、そこにはデジタルが起因しているからだ。簡単に決算の中身を説明するなら、売上高は133億米ドル。為替変動の影響を除けば、27%も増加している。
デジタルでありデジタルでない
1.NIKE directの売り上げが4割以上に
そのロイヤルカスタマーの力が発揮されるのは、ナイキdirectの実績である。その名の通り、直販の事業であり、売上高は54億米ドル。その割合は、全体の売り上げに対して、40%以上を占めている。彼らのブランド力はさることながら、その戦略の中に、今触れた通り、デジタルを巧みに取り入れている。
決算での議事録を見ると、これらの成功は盤石な会員基盤によって成り立っているとある。会員基盤は、いかにして生まれたかと言えば、デジタルビジネスの貢献によるところが大きい。事実、この業界における最高水準の34%の成長を遂げているのが、それらデジタルビジネスだと結んでいる。
2.広告を通して売るのではなくブランディングをする
では、それをどうやって深めたと言えるのだろう。これを考える上では、彼らの考え方に触れる必要がある。ナイキのポリシーにあるのはイノベーションである。
そこで、いわゆるマスメディアなどの活用を取りこぼさない。まずその製品での研究を、選手へのスポンサードなどと結びつけ、力を発揮して、記録に結びつけている。それとあいまってマスを絡めた広告投資を行う。ただ、それは彼らの姿勢を示すものとして位置付けられている。
つまり、広告から売り上げを作ろうとしているのではない。その価値観を一般の人たちに理解してもらい、会員へと誘う手段としている。だから会員になった人に対して提供するサービスを充実させる。それによって、よりファン化を推進するためにだ。ファンとなれば、ナイキのポリシーに沿って、生活を充実させるための付加価値を与えていく。
会員はデジタルとリアル双方、ナイキの体験を深掘り
1.会員化することで消費者すらもナイキの体験に触れられる
付加価値?と思われる人もいるだろうが、繰り返すが、彼らは商品を販売するだけではない。アプリを通して、メディア化してメッセージを伝える。そして、行動へと駆り立てる。たとえば、ジョギングの計測を促すなどして、生活に密着し、その成長の実感をともにしていく工夫をしている。
アプリ一つにしても「Nike Training Club」などの体験により深掘りをしているから、密度が濃くなる。デジタルによってリアルの充実を補完しているという意味合いをご理解いただけるだろうか。
要するに、それらのアプリによりお客様の行動形態を変えていく。そうなれば、お客様にとってナイキは生活の一部である。自然に商品を買う環境を促せるのは、理解できるだろう。だから、これも、決算発表の議事録にも書いてあるけど、会員こそが、購買頻度も高くリピート顧客となって、会社の成長エンジンを担っていると。
2.広告的な価値の捉え方が旧時代と異なる
実際、店舗需要の50%以上は会員からのもの。クロスチャネルの会員はシングルチャネルの会員よりも高いと数値が証明していて、皆がそれを作り出す一員となってる。
これがある意味、最初に話した「ナイキdirect」の実態であると思う。ちなみに、その会員数は1億6000万人もいる。それができているのは、デジタルからだけではなく、リアルの店舗も一体となって、会員獲得に結びつけているから、なのである。もはや感覚の中に、リアルとネットの垣根はない。
いわば、継続顧客となり、企業としても安定した収益を見込める。今度は、経営面でそれが安定基盤をもたらすとすれば、着手すべきはサプライチェーン。だから、そこにおけるデジタル率を10%から27%まで引き上げた。購買におけるデメリットは、体験価値を損なう。だから、物流にもテコ入れし、配送時間の短縮など、基本的な部分のケアも行っていくのである。
会員化をして、デジタルを含め、ジョギングなどで“並走”しながら、商品を訴求していく。あれだけ有名なブランドでありながら、商品をそれらの価値観の中の一部とみなすわけである。その時に、これもナイキ自身が述べているけど、欲しいものを欲しいときに、欲しい方法で、手に入れる環境を整えているに過ぎない。
3.ECで売れるのも自然な話
だから、そこでECサイトが出てくるに過ぎない。自然な流れで、ナイキブランドデジタルの売上高も報告ベースで25%の増加を見せているというわけである。
物売りであろうとする前に、価値を唱えるブランドである認識が大事だ。ではその大事にする価値をどうやって、お客様と一体で取り組めるか。彼らが素晴らしいのはそれで、しっかり卸でも実績を作っている。なぜなら、そのdirectでブランディングができているからだ。
値下げ競争に巻き込まれることなく、卸先にもそれを提案し、その価格が受け入れられているからそちらのラインも崩れることはない。昨今、D2Cという言葉が出てくるが、あたかもそれが中小規模の話のように思われるが、ナイキの話を聞くと、それが違うと気づくだろう。
これからはいかにしてそのポリシーをお客様と育み、その結果を商品に反映して、覇権を握る時代なのである。
今日はこの辺で。