“個の力”がブランドを育む──ビームス設楽洋さんが語る、社員とファンが共創するコミュニティづくり

ファッションブランドとして長い歴史を持ちながら、常に新しい価値を生み出し続けるビームス。代表取締役である設楽洋氏の言葉には、ブランドを育てるうえで大切にしている姿勢が凝縮されている。社員一人ひとりの個性を活かし、ファンとの関係をコミュニティへと昇華させる。そのためにどのような考え方や取り組みが行われているのか。ここでは、先日、バニッシュスタンダードの発表会の折、設楽氏のトークで見えてきた“ビームス流”のブランドづくりの秘訣を紹介しよう。
1. ビームスが大切にする“ハッピーライフクリエイション”という理念
ビームスは「ハッピーライフクリエイションカンパニー」という軸を持っている。
これは「ハッピー」というキーワードを常に中心に置きながら、ファッションだけにとどまらず、暮らしを豊かにするさまざまな提案を行うという考え方である。
• ハッピーであることへのこだわり
設楽氏が繰り返し強調するのは「尖りすぎたり、暗い雰囲気になってしまうとビームスらしさが失われる」という点。ビームスならではの楽しげな空気感や、人をワクワクさせる提案を大切にし、いつも明るくポジティブな世界観を提供する。この姿勢が、店舗でもオフィスでも一貫して貫かれている。
• 時代や場所に合わせたバランス感覚
ファッションはトレンドによって変わり続ける。そのなかでビームスは、各ラインやセクションごとに時代や市場に合わせた「ちょうどいい境目」を追求していると言う。ちょうどいい、、と言う表現が絶妙ではないか。
若者向けのストリート系からトラディショナルまで、多彩なテイストを取りそろえる。そうすることで、“尖り”と“わかりやすさ”の両立を図っているのである。
2. ファンが社員になり、また仲間としてつながり続ける仕組み
設楽氏によれば、会社説明会に来る学生のほとんどはすでにビームスのファンだと言う。
• “お客さん出身”の社員たち
「ビームスが好きで入社する」。これは当たり前のように思えるかもしれないが、実は非常に重要なこと。もともと商品やブランドに愛着がある。だからこそ、仕事を通じて発信する際の熱量や説得力も自然と高まるということなのだ。
• 小さな店から始まった“お客さんがそのまま店員になってしまう”文化
ビームスが1店舗しかなかった頃、狭いスペースに好きで集まってくるお客さんたちの中から「ここで働きたい」と言ってそのままスタッフになってしまう人が続出したという。その文化が今なお脈々と受け継がれ、「ファン⇒社員⇒さらに次のステージへ」とつながっていく土壌を生んでいるのである。
3. 個性を育む人材育成──「あなたは作る人、あなたは選ぶ人」
ビームスでは服を企画・製造する人もいれば、店頭で販売に立ちながら仕入れやMDに関わる人もいる。設楽氏はこうした人材を育てるうえで、まずは「作る人」「選ぶ人」といった適性を見極めるというのだ。
• 店頭からスタートし、展示会や仕入れにも参加
社員一人ひとりが企画や展示会に足を運び、自分の目で見て、手を動かして経験を積む。
それによって「どんなふうに物が作られ、どんな基準で選ばれているのか」を学ぶ。その経験値が店頭での接客や提案をよりリアルなものにしていくのである。
• 自発性を引き出す“連鎖”
作り手側と売り手側が互いに学び合い、刺激し合う。そうすることで社員の個性はさらに伸びていく。
「自分もいつかブランドを立ち上げたい」「もっとコアな企画に携わりたい」という夢を抱き、行動に移す社員が多いのも特徴である。その結果、新しいブランドやプロジェクトがどんどん生まれ、会社やコミュニティ全体が活性化していくのだ。
4. 離れても続くつながり──OBや独立者との新たな共創
ビームスを卒業し、独立してブランドを立ち上げる人やデザイナーになって活躍する人も少なくない。しかし、その後も関係が途切れるわけではないのがビームス流である。
• 辞める人間を妨害しない文化
「辞めるときには協力体制を取り、独立した後も応援する。そこで成功すれば、また次に続く人が出てくる」。この循環がビームスの強みであり、ブランド力の源泉でもある。
• ファミリー・コミュニティとしての広がり
設楽氏は「完全に別れることはほとんどない」と語ります。
OBが新ブランドを立ち上げれば、その製品をビームスで扱い、必要に応じてサポートを行う。こうしたネットワークが絶えず広がり、コミュニティ全体を豊かにしているのである。
5. ブランドからコミュニティへ──顧客との境界線を超える楽しさ
ビームスの大きな魅力の一つは、店員とお客さんの関係性の近さにある。スタッフと仲良くなって一緒にサーフィンへ行ったり、イベントで交流を深めたりすることも少なくない。
• “売る側”と“買う側”を超えるつながり
設楽氏は「一緒に遊ぶ」という感覚を非常に重視しているのだ。高級ブランドのようにお客様を招待しておもてなしをする、というスタイルとは少し異なり、よりフラットな関係性を築くことで、双方が楽しむコミュニティが育っていく。
• “好き”が集まる空間が次のものづくりを生む
好きなスタッフを応援したり、一緒に企画に参加したりする。そうすることで、新しいアイデアや商品が自然と生まれる。ファンとの境界線が曖昧なために、そこから革新的なコラボレーションや新サービスが生まれる土壌が整っているというのだ。
6. デジタルがもたらす拡張性とコミュニティの未来
ビームスは店舗の接客やリアルイベントの楽しさにこだわる。その一方で、デジタルを活用した取り組みにも積極的である。SNSの普及によって、一人のスタッフがもたらす影響は地域や国境を超えて広がるようになった。
• 地方や海外へも届く“推しスタッフ”の存在
かつては店頭でしか知り得なかったスタッフの人柄やコーディネート。それが、今ではInstagramなどを通じて誰にでも見られるようになっている。ビームスの“ファン”がどんどん拡大するのは、こうしたデジタル時代の追い風も大きいのである。
• 共創プラットフォームとしての可能性
設楽氏が期待を寄せるのは、将来的にファンがただ買うだけでなく「こんなアイテムを作ってほしい」というリクエストを出したり、ともにプロジェクトを立ち上げたりすること。デジタルはこのハードルを大きく下げ、より多くのファンがブランドづくりに参加できる未来を拓く。
7. “好き”を解放し、新しい時代を切り開くために
最後に設楽氏が強調するのは、「社員だけでなくファンも巻き込んで、もっと面白いことをしていこう」という想いなのだ。
• “好き”な人が集まるからこそ生まれる価値
もともとビームスに惹かれて入社したスタッフや、長年のファンが力を合わせることで、いわゆる“消費者”と“企業”という枠組みを超えた新しいムーブメントが起こせる。
• コミュニティこそがブランドを育てる土台
ビームスの事例が示すように、コミュニティとしての強固なつながりがあれば、人は離れても関係性が残り、何度でも新しいコラボレーションが生まれる。こうした循環こそがブランド価値を高め、時代の変化を乗りこなす推進力となるのである。
【まとめ】
ビームスの設楽洋氏の言葉には、“ブランドを愛する”という一人ひとりの意志や個性が、どれほど企業と顧客を豊かにするかが色濃く表れている。
社内でも「作る人」「選ぶ人」をはじめとする多様な人材を尊重し、卒業しても協力関係を続ける。顧客との境界すら取り払い、ファンやOB、他業種との連携を広げていく。この一連の循環が、ビームスというブランドそのものを“コミュニティ”へと変えてきたのでしょう。
「ハッピーライフクリエイションカンパニー」という旗印のもと、ビームスがこれからも“好き”の力で人々を巻き込み、新しい時代を切り開いていく様子は、多くの企業やブランドにとって大きなヒントとなるはずである。
今日はこの辺で。