想像を超えた着想にこそ自然と人への優しさがある 「空間工房OKOME」 「しんこきゅう」勇敢な女性の一歩
僕らの想像を超えた視点は、案外、女性から生まれることが多い。それは何故かって、単純に損得だけではない尺度で見ているからだと思う。例えば、少し心を安らかにして、人を救うもの。あるいは暮らしていく上で、切っても切れない自然との向き合い方。それは未来にとって必要なもの。だから、ガツガツせず、優しく必要じゃありませんかと問いかける。それをこの2人の女性から、「NEW ENERGY」 という展示会で感じることができた。未来に必要な視点として、ここにシェアしたい。
従来の枠組みにとらわれない活力
NEW ENERGY はその名の通り、新しい活力であり、従来の枠組みにとらわれないビジネスのあり方を支援する展示会である。それで、僕が思わず足を止めたのが、こちらだ。
手掛けたのは空間工房OKOME。社名の通り、空間作りの会社で、普段は工具を持って作業着を着て、設営などを行う。地味な(失礼!)裏方である。ディスプレイ、デコレーション、什器など、空間演出と名のつくすべてのデザイン、制作、ディレクションを手がけているのだ。
現場と聞くと、どこか男臭い仕事場を連想させるが、そのスタッフが全て女性である。「え?」と思って尚更関心を抱いた。もう、そこから斬新なのである。
代表取締役 小原澤綾子さんは、今から20年前に、女性的感性をその空間作りの仕事に持ち込み、その事業の大元をはじめている
ただ、ずっと抱いた気持ちがあった。現場では、お世辞にもおしゃれとは言い難い環境。どれだけ作り出す空間が、おしゃれであっても、工具と作業着は一向に地味で目立たぬまま。
おしゃれとは言い難い現場に光を
これでは、働く気持ちも、ポジティブになりづらい。その忙しい仕事の合間を縫って、これらの商品を作りはじめたのがこちらの数々。下の写真は、ハサミである。持ち手部分を、編み物のようなデザインにしていて、ヘアアレンジをする時のようなワクワク感を閉じ込めている。
なるほど。彼女たちは商品で、その空間で培った気持ちの高鳴りを再現しているわけである。
空間を作り出す過程で、おしゃれさをリアルな設計で築き上げてきたその感性は、工具へと注入されることになった。ドライバーや刷毛、ペンチといったものなど、どれも発想が跳んでいて、驚きとともに受け入れられる。
しかし、大事なのは、それが自らの仕事ぶりを気持ちの面から支えたということ。昨今、DIYなどが浸透している中で、こういう工具が、モチベーションを高めるという視点は、ありそうでない。また、作業着自体も工具入れをつけて、実用的。それでありながら、色合い、フォルムなど、オシャレに着こなせる。
「これ、いいですね」そう小原澤さんにいうと「それ、社員の子が考えてくれたんです」とにっこり。まるで化粧筆のような「刷毛」である。みてわかる通り、付け替え可能である。最近、トレンドのガラスペンを連想させる。
最近では、それこそ、こういう設営の作業をする社員からも、アイデアが出てくる。そこにも大胆かつ、繊細な発想が垣間見られて、イズムは着々と社内に浸透している。
定着すると人は思考を止める
もう一人は、「しんこきゅう」というブランドを立ち上げた堆朱杏奈さん。
彼女の生真面目で、でも的を得た視点は、未来にとって必要なものである。一番、気付かされたのは「商品が出て、それが一度受け入れられると人はその範疇でしかものを考えなくなるということ」なのだ。
10年間、伝統工芸の制作に携わっていて、そこに違和感を感じたのが彼女。材料を仕入れて、それを注文数、製造して、指定された先に納品するのが彼女の仕事である。つまり、当然ながら商品が生まれるまでの過程は仕組み化されていて、作るのに、必要な業者を経由し素材を調達して、商品が生まれるわけだ。
その中において、彼女の言葉が印象的だったのは、「伝統工芸において、伝承とその技術だけが注目されていて、抜け落ちていることがある」ということ。
違和感を解決するための試行錯誤が始まる
その流れに対しての違和感だ。というのも、それまでは、素材を集めるにしても、山を転々と回り、山の環境を考えながら、どの木を切ることがベストかを判断していた。ところが、いつしか効率化のもと、それらの仕事は分断されていく。そして、他が見えなくなって、そういう配慮が抜け落ちるようになった。
だから、やればやるほど、原木が地元から失われるという現象が起きつつある。なんのための伝統工芸なのだろうと思ったと語るのである。要するに、地元の価値を生かすというより、もはや各々の生活を守る事が優先されている。だから、原点を忘れ、その流れをこなすことから抜け出せなくなっているように思う。
地元の財産を削ってまで、商売を続けていくようにも思われるが、それが正しいのか。彼女は作り手であり、正直言えば、そんな意義を唱えなくても、仕事はまわってくる。彼女は作り手であり、正直言えば、そんなことを唱えなくても仕事はまわってくる。しかし、そこへの違和感を解決したくて、自らその実力がある程度、ついたところで立ち上げたのが「しんこきゅう」。
木目を目隠しして商品力で勝負
自分で木をノコギリで切って、それを製造するにも、どの方法がいいのかを実際に試していく。そうやって彼女なりに抱いた課題に対しての答えを見出そうとした。
商品の全ては黒ずくめで、ここにこそ、彼女の自然への労わりがある。
つまり、伐採されていない木々からもそれらの器を作っていて、商品一つ一つ、木目が変わってしまう。そうすると、店で売りづらくなる。だから、その木目などはブラインドして、品質をお客様に判断してもらえばいいと考えたわけである。
これなら、偏った調達状況に対して、自らのブランドでバランスを取れる。商業主義の観点では、一見、非効率ではあるけど、持続可能な世の中を思えば、彼女の正直で至極真っ当な意見は、必要である。
でも同時に材料調達から製造、出荷、お客様の手元に届くまで一気通貫で進めている。これはこれで、生産性の高く、仕組みを再構築できそうに思う。自然を守ろうとする上で、考え出した彼女なりの知恵は、実は、今の時代の売り方にはマッチしていると言えるかもしれない。
お分かりいただけるだろうか。想像を超えた視点である。でも、女性ならではの「自然」や「人」との“交流”を礎にして編み出されている。だから、未来に通じる発想である。多様性を重んじられる社会でもあり、価値を見出すファンも出てくるはず。優しきこの感性も、今の経済を動かす大事な尺度と見ていいと思う。
今日はこの辺で。