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もっと大事に。魚をいたわる漁業関係者の真心に、レシピで応えるABCスタイル「サステナ缶」の優しさ

 既にある食材でいかにおいしくできるか。それがレシピであり、料理の醍醐味。であれば、地球に存在しつつも利用に至らなかった食材でも「いかにおいしくできるか」を考えてみる。元々、漁業関係者には愛着のある魚だからこそ、もっと有効活用してあげたい。そんな思いがある。だから、ABCスタイルは自然な形で「サステナ缶」という商品でそれに応えた。それが素敵な理由は、課題に答えつつも、それを忘れてしまうくらいに、美味しく、料理の醍醐味を教えてくれたからだ。

料理の醍醐味は光を当てること

1.料理が果たせる役目は多い

 「これ、美味しかったですよ。味が、玉ねぎにしっかり染み込んでいて、魚も柔らかくて、臭みもない。」開口一番、ABCスタイルの商品「サステナ缶」について話すと、取材に答えてくれた加藤里菜さんと上村碧さんの表情がパッと明るくなった。これが全てを物語っているのではないか。彼女たちの料理には想いがあって、愛がある。

 「サステナ缶」の開発者と話すべく、この日、東京・日比谷にある「ABCヘルスラボ」へと足を運んだ。そこには、広々とした空間が広がる。ABCと聞くと、ABCクッキングスタジオが有名であるが、ABCスタイルでは料理を通して、人々に実は様々な価値を提供している。講師を活用しての人材派遣や、レシピ開発、メーカーの新商品への助言に始まり、試食会など、多岐にわたる。この場所はそういうあらゆる料理について意見を交わすステージである。

 それでも、彼女たちが自らメーカーになるというのは、製造の知見もないし、かなりの挑戦であることはいうまでもない。けど、聞けば聞くほど、それらの商品が彼女たちだからこそ、具現化できた部分も多くて、それが必然であるようにも思えて、感慨深い。

2.新しい食材を通して新たな味への探究

 その「サステナ缶」というネーミングもさることながら、SDGsなどの動きに配慮した商品であるのは間違いない。しかし僕は「サステナ缶」をひとくち食べて、「自然に優しいから食べねばならない!」というようなお説教じみたものとは無縁で、僕らに新しい食の楽しみ方を提示しているのだと思った。

 それこそが長年、料理で培ってきた彼女たちの力だろう。

 何が大きいかと言えば、今まで未利用とされていた食材が、料理の専門家たる彼女たちに遭遇されたことだ。「サステナ缶」で使われた食材は「サクラマス」である。「サクラマス」は変な言い方だが、叩き上げの努力の魚。元々は川魚(かわざかな)で、川で餌を取りきれなくなったものが、自ら海へと出て海水へと徐々に成長を遂げた出世魚なのである。

 海ではミネラルも豊富で栄養分を蓄えるから、実際に料理に使われて美味しい。

 ・・・というのが常識であるが、ここで語られているのは、実は、オスに関してのみである。メスに関しては違うことを彼女たちは知るのである。

3.未利用食材は実は宝の持ち腐れだった

 上記の通り、彼女たちは事業の幅が広がる度、様々な企業と渡り合う中で、サクラマスの養殖所の人と出会う機会があった。そこでABCスタイルは一つの気づきを得る。

 「メス」のサクラマスに関しては未利用部分があったのだ。

 といっても、漁業関係者においては、手の施しようがなかっただけのこと。それだけの魚である。だからこそ、魚への想いはひとしおなのだ。未利用部分に関してもなんとか活用できないだろうかというのは長年の懸案であった。

 そこで、料理の王道である「既にある食材で美味しくできるか」という視点が活かされる。加藤さん曰く、非利用の魚でも味は利用されているものと遜色ない。「そうなんです、手をかけるほど、伸び代が大きい」と上村さんもその言葉に呼応する。この優しさがこの会社の魅力だなと思いながら聞いていた。

 また、その事実を知ることで、逆にチャレンジ精神旺盛に、自らの料理でその課題解決をしようという機運が生まれたのはいうまでもない。魚をもっと大切にしたい。その漁業関係者の思いと、料理の専門家が引き合わされたことで、サクラマスの“お母さん”に救いの手が及んだのである。良かったね!

既に存在しつつもスルーされたものだから意義がある

1.何も新しい食材なわけではない

 ここで大事なことは、「あたらしいものがそこにあったわけではない」という事実だ。

 引き合わせがもたらした価値。ABCスタイルは世の中に流通するもので料理を指南していた。ただ、彼女たちは誰もが手の施しようがなかった未利用の部分を知ることで、自分たちの価値の活かし方に更なる可能性を見た。それは二人の言葉が暗に示している通り、料理という“魔法”をかけることで、あらゆる食材が見違えることを見てきたし、そこに対しての自信があったからだ。

 それは同時に、その事実は彼女たち自身がメーカー業にも着手することにも背中を後押しした。確かに、ABCスタイルはものづくりの意識は以前からあって、商品を自ら作りたいという考えはあった。とはいえ、それが甘いものではないことは十分承知している。彼女たちが手掛ける意義が大事だった。

 その意味で、サクラマスに関連する上記の流れは、彼女たちにこそできる全く新しい食品の在り方を提示するもの。必然性があったから踏み出せた。

2.繰り返し試作をし続ける日々

 とはいえ、商品化まではゆうに1年はかかった。そのメスのサクラマスが何と相性がいいのかを考えるところから始める。調味料を引っ張り出し、例えば、塩と合わせたり、様々な組み合わせをシンプルに実施した。その最適解への道において、やっぱり、彼女たちの財産、料理に関わる専門家とのネットワークが活かされた。複数の専門家に聞きながら進行できたことは、商品のクオリティを上げるのに大きく貢献したからだ。

 そして、「サステナ“缶”」の着想に辿り着く。

 フードロス商品ゆえに、長く保存できて、多くの人に食べてもらえる方が良い。だから、缶がその素材に選ばれる。徐々に、料理の形が完成形に近づくほど、缶詰の中でどれだけ近づけられるか。それも同時並行で考えなければならない。

 当然の話だが、お客様の求める金額を想定して、原価を考え、料理にかかるコストを考える。更にここに込められたメッセージは何かを考え、それをパッケージのロゴやデザインに落とし込む。また、購入者に優しくあるために、開けやすい仕様にしたのもこだわりの一つだ。

 どの工程ひとつとっても、今までの彼女たちにとっては全く未知数のことばかり。料理を指南する立場とメーカーとして商品を作る立場はまるで勝手が違うので、苦労が絶えなかった。そう加藤さんは感慨深げに、語る。

2.缶詰は保存の手段である同時に製法である

 作りたてと変わらぬ印象を作り出せるか。何度となく試作を繰り返したというが、その過程の話を聞いて、僕が思ったことがある。それは、缶詰というのは、一種の製法であるということ。缶詰と聞くと、保存の為だけに用いられる「手段」だと思われがちだ。でも、それが違うのは、彼女たちの製造工程を聞けばよくわかる。

 僕の食べた「サクラマスの和風甘酢あんかけ風味」であれば、缶の中に汁に浸したサクラマスと玉ねぎが入っているけど、調和が絶妙なのだ。他にも「サクラマスのスパイスオイル漬け」はスパイスなどが魚の味を引き立てている。それは、実は缶詰という“製法”によって作られた。つまり、缶に封をしてしまった後で、一つの大きな釜に入れて、熱して“調理”している。入れる前の味付けとこの製法の賜物なのだ。

 こうすることで、元の汁やサクラマスの旨味がそれらに自然と缶の中で浸透。程よく熱されて柔らかく味わい深く定着する。また、缶を開けた時に、スパイスの風味が、まるで料理をした直後のように、醸し出される。

 当然、そういう調理は彼女たちも経験外であるから、そのバランスには苦労した。独自の製法と書いた通り、茹でたり、炒めたりという調理方法と同様に、缶詰というのもその味わいを作り出す手段と考えた方が正しいだろう。それすらも上手く、味方につけたのは彼女たちの手腕によるところが大きい。

3.共感して広がっていくことを思い描いて

 最後に、仕掛け部分において大きな存在が女性。女性は母性ゆえか、持続可能な価値は何かに敏感。そして、必要であれば、素直な気持ちで、それを広めてくれるからだ。以前、僕が記事で書いた通りだけど、それは一貫している。

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 それを踏まえて、彼女たちが実はサステナブルとは別に、もうひとつテーマを持っていた。それは、自分たちの商品が「魚との距離を近づける一手になる」ということ。その背景には、多くの家庭で食卓から魚料理の数が減少していることにある。魚は調理が面倒で、臭いも残るという理由で敬遠されがちだからだ。

 ゆえに、彼女たちの商品はそれらも配慮した。このサステナ缶を材料にすれば、1から手間をかけることなく、容易に別の料理を作り出すことができる。そうすれば、日常の食卓に今までよりも、魚を持ち込むことができる。そこでまた、その専門家の力を結集して、それを利用した料理を、女性を意識しながら発信するのである。そうすれば、それは文化となる。

4.料理の醍醐味を通して新たな文化を作り出す

 ご飯も、肉も、野菜も、魚も皆、大事なのである。偏りなく食事を摂取するように、自らのオリジナル商品が促す契機になれば、それはレシピがもたらす新しい価値だろうというわけである。

 既にある食材でいかにおいしくできるか。それがレシピの醍醐味だと書いた。だからこそ、彼女たちは今まで培った総力を込めて、今度は地球に存在しつつも世の中では、未利用される食材で、同じく「いかにおいしくできるか」を考えてみた。そこで生まれたのが「サステナ缶」である。

 もしもこれらがきっかけになって、メスのサクラマス然り、未利用の食材として受け入れられるものが増えれば、どうだろう。それこそが料理としての醍醐味と言えるはずだ。業業関係者の魚への愛は、どれだけ果たされたか、計り知れないだろう。

 確かにメーカーとしての動きは不慣れな部分もなくはない。自ら販売している分、なおさら簡単なことではないが、地道に続けてほしいと願う。それは、先ほどの女性の文脈然り、未来に必要な価値だと思うから。続けることで今の常識にとらわれることなく、価値ある将来を料理を通して、築き上げてほしい。そして、サクラマスのお母さんのように、未利用に至った食材がもっと減りますように。

 今日はこの辺で。

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