サスティナブルはものづくりに打ち込むきっかけとなる“PENON”をみて感じたこと。
職人気質。「ものづくり」の文脈ではそれがよく言われる。「サスティナブル」はそれらを引き出す力を持っているように思う。大量生産で安く購入するという文化に対して、敢えてサスティナブルをテーマに、ものを作り込んで、そのメッセージを伝えることの意義。この時代にあってはそれが大事だ。それを「PENON」というブランドに触れて思った。同ブランドは、素材などにおいて、環境に配慮した文具のシリーズである。
PENON が創る サスティナブル な文具
1.文具で環境に配慮するとは?
環境に配慮する、と言っても、何をすることがそれに相当するのだろう。単純に考えれば、筆記具の多くはプラスチック製。だから木に変えることで、それを実践しようと着想するわけである。
ところが、この「PENON」はもう一歩先を見据えて考えた。木が大量に伐採されていく姿を思い浮かべ、ただ木を使っただけで、果たして環境に配慮したといえるのか。だから、彼らはその素材にPEFC森林認証木材を使うことを意図するわけである。
2.PEFC森林認証木材って???
聞き慣れない「PEFC森林認証木材」という言葉。要は「木を伐採する」と言っても、そのタイプには色々あるいう事だ。ただ闇雲に伐採するのでは、それは森の破壊を生む。だから、その伐採の仕方が大事なのであって、そこに彼らが着目したところに真心を感じる。
生い茂る樹木を適切なタイミングで伐採。伐採によって生まれた空間に、また新しい木々を正しい間隔で植える。そうする事で、前の木を活かしながら、新しい樹木が正しく育っていく。この循環を促すことで自然の環境に即した成長を促す事ができるというわけだ。
「その基準を守っている木材を使用しています」。それがこの「PENON」というブランドたる姿勢を示す部分である。彼らは「メガネペン」(1200円(税込))「フラッグペン」(1400円(税込))を手掛けた。ペンに使用しているのがその木材なのである。
3.パッケージもプラを使わぬ工夫
しかも、パッケージも同じく森林認証紙を使用しており、少々変わった仕様。紙を重ね合わせて作っており、それを解いて、ペンを取り出す。また、解いた一つ一つは、パーツごと切り取られるようになっている。切り取れる理由はなぜか?
組み立てていくとそれ自体が、ペン立てになるからだ。つまり、入れ物すら無駄にしない。机の上には、必要最小限の材料で、必要な空間を作ることを念頭に置いているわけだ。
ここまで話せば、いかにその自然に配慮しているかがわかるだろう。
ものづくり精神に溢れた制作現場
1.サスティナブルを契機にものづくりを打ち込む
ただ、僕が注目したのはそれだけではない。このサスティナブルというテーマのおかげで彼らは伸び伸びと「ものづくり」の真価を発揮していて、それが良い。フラッグペンはペン先にフラッグをつけて、その部分を刺繍に。
ハンドメイドのような感覚にして特別感を演出するわけだ。そこでふと思った。こういう「自然に配慮する」という付加価値をつけることで、その分、彼らは「ものづくり」に打ち込むことができるなと。
語弊を恐れず言えば、以前、文具業界でライターをしていて、文房具は「貧乏具」と揶揄されるのを耳にすることもあった。つまり「安価で提供されて当たり前」の風潮があった。だから、安易にそれらが作られ、使われるようになって、素材も安価なプラスチック製へと流れていく。
この説明会でも話されていたが、筆記具だけで年間に45億本、1480億円も出ている。6割が水性油性合わせたボールペン。細かく見ると一本単価は32.8円で売られている。これでは、安易な使い道を呼び込む要因となる。
2.価値あるものづくりと共感するお客様
価値ある「ものづくり」に打ち込み、サスティナブルの文脈にのせて、それに理解を示すユーザーとともに、新しい文化を作っていく。それが彼らの真に意図することだろうと僕は受け止めた。
それに合わせて、価値あるものづくりのイズムに共感する作家も巻き込む。この日、その刺繍の新作デザインを手がけたhinakaさん(冒頭の写真)の姿もあった。彼女はヒナトリエという工房を持っている刺繍作家である。この作品がまた素敵なのである。いやー時間がなくて直接、想いをお聞きできなかったのが悔やまれる。
ほらこの通りで、論より証拠。刺繍もアートだと思った。繊細であって、清々しい光を感じる刺繍である。
彼女の工房を再現したのがこちら。
3.刺繍が織りなす努力と工夫の結晶
この知見をフラッグペンに取り入れたというわけだ。新作「シマエナガ」という作品では、その動物の寄り添う仲の良さを刺繍で表現。「目と口の表情を重んじて、安心感をもたらすデザインに仕上げた」と説明会の席上、彼女は振り返った。
改めて、作家の力量を実感させる数々。「キツネ」という作品で、その走る姿が躍動感に満ちているのは、わざわざ、針の落とし方を工夫し、刺繍する糸の方向を違えることで表現したものだという。
彼女の凄さはそれを一品ものにすることなく、ある程度の生産数に耐えられるように、作り方も含めて刺繍を製作している点にある。だから、彼女の刺繍のアイデアをもとに、「PENON」はメーカーとして工場側の手を煩わせることなく、安心して、生産数に耐えられるのである。作家の想いを尊重しつつ、商売ベースに乗るように、互いに歩調を合わせて、世に羽ばたかせるわけである。
作家のメッセージ性も合わせて、付加価値をつけて良い「ものづくり」に反映していく。これは、先ほど安価で売られがちな文具業界にとって、その存続にかけても大事な動きだと思う。
5. いかに自然に、ずっとこれからも必要だと思わせるか
こだわりは十分伝わってきたし、これからの文具にとって大事な一歩だから讃えたいと思う。
だからこそ、一言だけ苦言を呈するなら「PENON」代表の話が気になった。想いの強さの分だけ、認定の話など、少し必要性に関する説明を強調しすぎる節がある。でも「SDGs」然りなのだが、“持続可能”な社会であり、もっとライトに日常ずっと使い続ける意図が大事だ。
必要だからと言われてやるのではなく、十年後も続けていられることで、続けることで意味があることが、サスティナブルであることを忘れてはならない。理屈ではなく日常化する「感覚」的な要素なのである。
「明日も、明後日も、使っていたいよね」そのくらいのライトさがあれば何も説明などする必要なく、特に女性などが筆頭に、それらの商品を引っ張っていってくれるはずだ。真にその想いと秘めつつ、今日見せてくれたその情熱が、それらの感度と問題意識の高いユーザーに“自然に”受け入れられる日が来ることを切に祈る。
今日はこの辺で。