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700年の歴史を今に伝える OKANO 日本から世界へ発信すべきこと

 例えば、商品を売るのだとしても、どんな雰囲気で商品を提案すればいいのだろう。ただ、見栄えがいいだけではなく、店としての主張をどう世界観に馴染ませるか、そこがキーになる。岡野 代表取締役 岡野博一さんは、700年の歴史がある博多織をそこに擬えながら、今に根付かせる工夫をしている。六本木アークヒルズにある「OKANO」に何を込め、それを通して、着物の魅力を伝えようというのか。

革新と歴史の狭間で

1.歴史を重んじつつ今を取り入れることの大事さ

 広々とした現代的なアートギャラリー。その一方で、着物服に身を纏った上品な女性のお客様が上品にお茶を嗜んでいる。老舗でありながら他にはない発想。それは、岡野さんのここまでの経緯を辿るとうなづける。

岡野博一さん
岡野博一さん

 元々、この岡野さんの父は博多織の職人。父の兄が経営していたのがこの「岡野」という会社だ。ところが、創業99年を迎えたその時、会社の看板を下ろすという話が出た。彼は思いがけず、その経営状況を見ることになったのである。それは岡野博一さんが、自らベンチャー企業を起こし、知見があったからだ。

 色々話を聞くうち、そこで彼は決意する。その理由は、父をはじめとする職人と伝統の奥深さに感銘を受けたからだ。その決意のもと、自らの会社をバイアウトして、この会社を受け継いだのである。仕事を愛し、懸命にその腕をあげようとする職人の姿勢は美しい。また「博多織」は700年の歴史もあって、守るべき伝統である。

 ただ、彼は考えたわけだ。職人の美学は美しい。しかし、資本主義の中で生き残るには、それだけでは難しい。敢えて、職人と経営とを切り離して、自らその舵取りを担う決意をしたというわけである。

2.時代を反映する 店 の姿勢

 だから、伝統を重んじつつも、型にとらわれない。古風なその佇まいの中で、今大事なのは「お店が何を発信できるか」と説く。

 コロナ禍で、デジタルシフトが推進されていく世の中。どこにいても世界各地の情報を得られやすくなった。だから、お店の役割が変容して、リアルの拠点から「世界に向けて」発信するべきフェーズに来たというのである。

 では彼らなりの発信できるお店のイメージとは何か。そこでこんなことを口にした。「今の僕らには季節を実感する機会がありません。なんせ、空を見上げるよりスマホを眺めている時間の方が多いのですから」と。

 なるほど。いきなり着物、ということにはならないようだ。つまり、季節や文化を重んじる中で、それを伝えようと言うのである。ただ、伝えればいいわけではなく、それらを嗜む「余裕」が大事だと説明するのである。

3.余裕とゆとりが醸し出す 店 の文化的側面

 「アートギャラリー風であって」というのも、そうした意図からなる。店の奥にある広いスペースでは、月ごとテーマを設定。そこに沿った形で、着物のスタイリング提案など、イベントを実施する。ここに、季節や文化を発信する土台を作っていくのである。

 何気なく彼が口にする「季節」も奥が深くて、掲げるテーマは「旧暦」に基づく。グレゴリオ暦でずれてしまった現代人の季節感を、この地においては取り戻す狙いがあるのだ。だから、ある意味、来店した人はタイムスリップしたかのような気持ちにさせられる。そうやって深く文化を感じる設計にしているのである。

 彼らの着物もまた、言い換えれば、文化に触れるための手段であり、伝えるべきは文化の方。入り口付近にあるのは着物ではなく、工芸品が陳列されているのも、その意思が表れていると言えよう。日々使うものから、文化を取り入れていただこうと。

 まず、お店はお客様がそれを実感する場でなければならない。そして、お客様が実感するその世界を丸ごと、世界に発信するのである。

4.縁側のようにして結びつける

 そして、僕が特に印象的だと感じたのは「喫茶」を意識したゾーン。木目調のテーブルがお店の真ん中に構えている。岡野さんはそこで和菓子を振舞って、こう話し始めた。「茶道でもなく茶の湯でもなく、お茶を飲むというのは心身ともに安定させることを意味しています。そんなふうに、皆さんとこの『喫茶』で会話をしたい」と。

5.縁側でくつろぐその雰囲気が大事

 そしてこう続ける。「昔はね、“縁側”っていうのがどこの家にもあったんですよ」と。“縁側”とは昔は大抵、どこの一軒家にもあって、家と庭の境目にあった。それはある意味、「家の中の自分たちの世界」と「外の世界」とを程よく引き合わせてくれる「中間地点」。だから、ご近所さんとのコミュニケーションは“縁側”で自然に生まれた。

 彼はこの「喫茶」を“縁側”に見立ているのだろうと僕は受け止めていて、恐らくここは、これから人々の日常生活と文化の「中間地点」になるのだと思った。

 “縁側”がその結びつきを、飾らずに演出してくれた場所であるように、彼もそこに倣ってこういう場所を用意したのだろう。日本の伝統と文化を世界中へと売り込んでいくという姿勢はこの店になっても少しもブレてはいないようだ。いかにも岡野さんらしい。

 お分かりいただけただろうか。改めて、お客様も含めての世界観である。着物を伝える土台は、こうやって築き上げているのである。逆に言うと、その土台があってこその着物である。

 時代をとらえながら古き良き伝統を重んじつつ、革新をもたらすとはこう言うことを言うのだろう。この店を起点に真に文化の魅力を伝えて育んで、大きな海原へと飛び立っていく。

 今日はこの辺で。

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