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三度の災害も不屈の飴屋 野州たかむら 心はいつも“あめ”のち晴れ

 舐めなくても魅せることで想い伝わる“あめ”がある。それは舐めればもっと伝わる“あめ”になる。動物に始まり、様々なカタチで飴を表現することに強みを持つ野州たかむら。元はOEM専業だった彼らだが、“100年に一度”の災害を創業から50年の中で三度も経験。悩んだ末に今のオリジナル商品を展開した。立ち直り変化する姿は、これからの中小企業が成長する上でのヒントになりそうだ。

渋谷にある 異彩を放つ“あめ”の店

 この日、僕は東京・渋谷にある「AMER」というお店にやってきた。この店もまた彼らの直営店。入り口からして飴で作った自動販売機のようで可愛らしい雰囲気。カタチで見せる彼ららしい飴の表現であり、これもまた、旧態依然にとらわれぬ姿勢を窺える。

 元々はOEM企業。それ故、野州たかむらという社名は出さず、他社の商品を作るということに特化してやっていた。元を辿れば、キャンディレイ(ハワイなどで見かけるネックレスをキャンディで表現したもの)の内職をやっていたのが始まり。その時はまだ他で作った飴を持ってきて、それを繋ぎ合わせるに過ぎなかった。

 ただ、その後、会社組織となった際、キャンディの作り方を知っている人と繋がった。それで自らも作るようになり工場を持つに至った。野州たかむらの「むら」はその作り方を教えてくれた人の名前の一部である。

サンリオとの出会いで“あめ”は進化した

 ただ、当然、その時は形状に強みがあったわけではない。「なぜ?」。そう僕が聞くと、思いがけず、サンリオの名前が飛び出した。サンリオの存在が彼らにとっての転機。

 サンリオが彼らにキャラクター商品のキャンディを依頼したのだ。従来の飴とは違った提案であった。だが、野州たかむらは考えた。当時は、真鍮の棒をキャラクターやハートの形にして、(飴を流し込んで)手で詰めていた。それが今の形状を売りとする飴の原点なのだという。

 その甲斐あって、他との差別化要因も追い風となり「作れば売れる」時代がやってくる。「順風満帆ですね」。僕がそう語りかけると「いやいや!とんでもない。窮地を潜り抜けて、今に至るんです」と。それが冒頭の「“100年に一度”の災害を創業から50年の中で三度も経験した話」になるのである。

絶望からの奮起で掴んだチャンス

 最初は30年前。その災害により会社自体が水没してしまった。当然ながら機械も使えず、場所を変える事となり、その後は事業も順調に推移していた。しかし、またも彼らに悲劇は訪れる。2011年3月11日、東日本大震災だ。これにより建物が破損。

 それを一年かけて立て直し、ようやく出来上がった翌年の5月。今度は竜巻がこの会社を直撃した。

 90枚以上あったガラスは全て割れてしまった。また、そこから入ってきた風はそのまま屋根や壁を壊していった。竜巻が去った後、工場にはガラスの破片が飛び散って、惨憺たる有様だけが残った。しかし、それが今の彼らの姿勢につながる変化が生まれるのである。

 当時を振り返れば、リーマンショック直後でもあって景気が悪かった。そこに加え、中国などの台頭でコスト面で競争に負けた。一番打撃が大きかったのは下請けとなる日本の製造工場である。そこでこの有様、窮地である。

 ただ、野州たかむらは改めて自らが製造工場を持ち、モノを作れるということそのものが、他社に対しての強みであると思った。ただOEMでは売り先が決まっている。だから、価格勝負で依頼されると、会社は疲弊する。だから新たにブランドを持ち、商品を発信していく事で販路を広げて新たな活路を見出そうとしたのである。

商品を販売するだけが企業の役目じゃない

 自らのブランドなら価格に左右されることのない付加価値で挑める。でも、当然ながら簡単ではない。困り果てた彼らは最初、栃木県の産業振興センターに足を運び、単刀直入にヒット商品を作りたいと伝えた。

 そこで、デザイナーを紹介されたもののこう言われるのだ。

「一商品を作るのは簡単だが、その考えでいると結果、一つの商品で終わってしまう。それよりも会社のブランディングを構築したほうがいい」と。

 その言葉に「会社が潰れるかもしれないのに、そんな時間ないのに!」と気持ちは焦るばかり。しかし、グッとそれを堪え、1年間、その学習をするのである。

 ただ、後から考えるとこの一年ほど、重要に感じる一年はなかった。元々会社では企業理念もなかった。けれど、企業理念を「最高」と打ち立てるようになって、会社は変わった。

 人によってその「最高」は異なるからこそ、一人一人にとってに「最高」を考えていこうという姿勢のもとに、飴を作るようになって、長期的展望に立ち、目標を設定するようになった。

野州たかむら 独自の あめ 商品の誕生

 かくして、彼らの第一号商品「どうぶつ べっこう飴」の誕生となる。創業以来、ガスを使って直火で飴を作る「直火炊き」の製法は熱が満遍なく伝達し、味に厚みをもたらす。原材料も厳選されたグラニュー糖であり、飴にありがちな甘ったるさがない。さっぱりとした味わいで、これが大人の心を掴んだ。

 どうぶつの形状が商品の売りである。だが、最初はこれを食べる側の高齢者が「かわいいものを欲しがるのだろうか」と異論は少なくなかった。

 でも、それを押し切った。誰がなんと言おうとも「自分たちの発信したい商品を世に送り出せる」それこそがオリジナル商品での力である。先ほどの企業理念も含めて小手先ではなく、先を見据えて、何を提案するべきかの自信があったから、堂々と送り出せたのではないか。

形状が人を惹き寄せるメディアに

 そして、形状自体が商品を売り込む「メディア」となった。上記にも書いた通り、彼らがいくらこだわりを持とうが、手に取ってもらわなければ始まらない。そのためのきっかけ作りとしては、この動物のキュートな形状は極めて重要なのだと思う。

 次の挑戦に向けて一歩踏み出し、立ち上げたのがこのお店。Tシャツ型やアイスバーの形など、ありとあらゆる形状の飴が並んでいて、ファッション誌などにも取り上げられた。それはOEMの時代とは明らかに違った顔である。僕にも「見せたかったのはこれなのです」と胸を張った。

 そして、この店は新たな可能性を醸成する発想の工房でもある。多くの企業がここに足を運んで、あれやこれやと想像力を膨らませて、色々と商品化につながっている。

 そして「夢は世界に」と海外展開を掲げる。

 ただ、またもや新型コロナウイルス感染症の拡大で、それは妨げられることとなった。だが、これも進化の始まりかもしれない。三度、災害を跳ね返した彼らは共通して、新しいチャレンジをして活路を見出している。そのことからすれば、今度はウイルスという難敵に対しても彼らなりにこの窮地を乗り越えるのであろう。

 どんな境遇でも彼らの先にはいつも晴れがある。洒落ではないが“あめ”のち晴れである。

 今日はこの辺で。

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