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松本零士展「創作の旅路」レポート|銀河鉄道999と宇宙を描いた想像力の軌跡

 漫画でありながら、映像的であり、美しい。描く女性も、広がる惑星の世界も──それは、紙の上に現れたもうひとつの宇宙だった。目を閉じると、あの列車の汽笛が聞こえてくる──。終着点のない夢を乗せて、どこまでも銀河を走り続ける『銀河鉄道999』。その生みの親・松本零士の創作人生を辿る展覧会が、六本木・東京シティビューで開幕した。

 今年は『銀河鉄道999』連載開始から50周年。そしてこれは、彼の没後初となる大型展覧会でもある。300点以上の原画や未公開資料、アニメーションの裏側を支えた道具や創作エピソードが、作家・松本零士の“魂の軌跡”として空間を満たす。

 会場を歩くと、まるで999号の乗客になったかのような気持ちになる。「何のために生きるのか」「命とは何か」──その問いかけは、どの時代の私たちにもなお響く。本記事では、プレス内覧会の模様とともに、その宇宙規模の創作力に、心からの敬意を込めて光を当てていきたい。

 展示の始まりは、まるで“出発の儀式”のようだった。『銀河鉄道999』のモニュメントと、あの名曲『出発のバラード』が会場に響き渡り、海抜250mの空間が“銀河へのホーム”と化していた。

1|14歳から始まった、“未来”へのスケッチ

 その話を聞いて意外に思った。松本零士の創作の旅は、実に14歳で描いた昆虫漫画から始まっていたのだ。

 美しい女性の姿も、宇宙世界もそこにはない。まだ自我が確立できていないそんな一端を見ることができる。展示会冒頭には、1952年に描かれた『虫の世界探検記』の原画がそっと佇んでいる。自分の手で物語を生み出したいという、まだ名もなき少年の情熱が、そこにある。

 彼は、当時の少年漫画業界に立ちはだかる“壁の高さ”に苦しみながら、あえて少女漫画という新たなフィールドに挑んだ。ジャンルにとらわれず、自分の表現を探し続ける姿勢は、のちの壮大なSF世界にも通じる“想像の跳躍力”を感じさせる。松本零士の歴史は、決して華やかではなく、全く今抱く印象とは違った顔つきで、地道に山を登るようであった。

 でも、彼は諦めなかった。作品が多くの人に届く以前から、松本零士はただひたすらに「描くことで未来へ旅していた」のだ。その筆跡のすべてが、「ここにいない誰かへ届くこと」を信じていたことが、初期原稿から伝わってくる。

 少年が書き綴ったアイデアノート──その創作ノートが今回、初公開された。ページには、キャラクターの設定、物語の断片、夢見た未来のスケッチが溢れていた。作品になる前の“想像の種”が、そこに息づいていた。

2|“松本美女”が生まれた夜──ジャンルを超える表現者へ

 松本零士といえば、浮世離れした神秘的な美女たち──いわゆる“松本美女”を思い浮かべる人も多いだろう。その原点ともいえるのが、1960年代後半に描かれた青年漫画『セクサロイド』だ。

 それまでの少女漫画的感性や、SF・冒険漫画の経験を融合させたこの時期の作品には、妖艶でどこか哀しみを湛えた女性像が登場する。どのキャラクターも単なるヒロインではない。「人生の意味」や「命の有限さ」など、深いテーマを託された“語り手”として、物語を牽引している。

 松本美女たちは、見る者に「この人はいったい何を想っているのだろう」と想像させる。無口で静かな存在であるほど、物語の重力を引き寄せる。ある種、彼が描く、女性の内面は宇宙のように奥が深くて、謎めいているから、神秘的。この辺りから、彼らしさの片鱗が見えてくるように思える。

 彼が描く女性は、まるで、宇宙のなかでぽつんと光る恒星のように、強く、美しく、孤高なのだ。

3|漫画からアニメへ──“夢の列車”が動き出した瞬間

 「僕は、本当はアニメーターになりたかったんだよ」

 もともと彼の漫画には、“映像”が宿っていた。

 ページをめくれば、そこには静止画ではなく、カメラワークと照明を感じる世界がある。一コマ一コマがまるで映画のワンシーン。白と黒、光と影──相反する2色の世界を、まるでシネマトグラファーのように操って、読者の視界を広げていく。

だからこそ、アニメへの展開は必然だったのかもしれない。

 実際、自作のマルチプレーンカメラを組み上げ、アニメの撮影を試みるほど、彼の創作は“動かす”ことへの衝動に満ちていた。会場には、その手づくりのカメラも展示されている。松本零士の頭の中では、すでに物語がメディアの壁を越えて動き出していたのだろう。

 結果、『銀河鉄道999』『キャプテン・ハーロック』と、彼の作品は漫画とアニメを同時に展開する“メディアミックス”の先駆けにもなった。どれも、ただの物語ではない。命を削るような想像力が、そのまま世界を走らせていた。

 この展示には、そんな“走り始めた列車”の熱を帯びた資料が数多く並ぶ。彼の原動力は、商業性でも、技術でもなかった。ただ「届けたい」という純粋さだった。

4|創作に込めた“宇宙”──松本零士、技のすべて

 松本作品の特長は、世界観だけではない。細部にまで行き届いた“描写のこだわり”に、彼の本質が宿る。

 たとえば、彼が好んで描いた宇宙空間──星の輝きは筆ではなく、金属ベルトで絵の具をはじいて生まれたものだった。展示されているその道具には、創作の美しき秘密が詰まっている。

 不思議と、ここまでの話とそれらはリンクしてくる。空想的なストーリー性を持ちながら、それをどう絵で補完し、どう読者を引き込むか──彼は、常にそこを考えていたのだ。だからこそ、通り一遍の絵を描くことでは、満足できなかったのだろう。

 また、操縦席に並ぶ“ベージュメーター”の描き込み、メカの構造、計器の配置。細かすぎるほどの緻密さは、「宇宙」という空想をリアリティに変える“魔法”のようだった。

 そして今回、「零士メーター」と呼ばれる造語にちなんだ展示も登場した。彼が描いた未来の計器やコクピットは、実は“時間”や“命”を測る、創作のメタファーでもあったのだ。技術ではなく、“好き”が先にある。そう感じさせてくれるのが、松本零士の凄みだ。

 その絵には、完成された計算ではなく、少年の頃から一貫して燃え続けていた「夢中」がそのまま描かれている。

 展示の最後の区画には、数々のカバーイラストや扉絵の原画が並ぶ。インクの滲み、色の階調、線の震え……どの一枚にも、物語と同じ熱量があった。色を持ったページは、まるで彼の想像が直接紙に降り立ったようだった。

5|最後のページを、いま見つめるということ

 2020年。松本零士は、もう一度『銀河鉄道999』の世界に筆を走らせていた。展示の最終コーナーに、そっと置かれているその原稿には、鉄郎とメーテルが再び出会う場面が描かれている。

 そのメーテルは、どこか優しく微笑んでいる。

 長い旅路の果てに、鉄郎と交わす穏やかな視線。それは、物語の“終点”を見つめるようでもあり、“新たな始発駅”に立っているようでもある。

“旅人”としての遺影──帽子が語る、次の物語へ

 その傍らには、松本零士が生前ずっと愛用していた帽子が静かに佇んでいた。誰に語るでもなく、誰を待つでもなく、けれどまるで次の物語の風を感じていたかのように──。

 思えば、彼の物語はずっと“旅”だった。どの作品にも「終わり」があるようでなく、「続き」が暗示されている。それは彼自身が、つねに未来へと歩き続ける“旅人”だったからかもしれない。今回の展示の締めくくりに、カバーイラストや扉絵の原画が並ぶコーナーがあった。色の階調、線の震え、そして紙に吸い込まれるようなインクの滲み。そこには、語られなかった「余白の物語」が確かに息づいていた。

 ページの外側にまで広がる松本宇宙。その最後のページに私たちが立ったとき、そこには問いとともに、確かな“希望”が残されている。

 ──生きるとは、旅を続けること。

 この展覧会は、ただの追悼ではない。むしろ、未来への発車ベルだ。創作という汽車に飛び乗り、まだ見ぬ景色を思い描こう。松本零士は、きっとこう言っている。

「君の心に、まだ見ぬ銀河があるんだよ」と。

 今日はこの辺で。

©松本零士/零時社・東映アニメーション

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