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パラパラ漫画でアニメの原点に立ち返る?―ピンクパンサー60周年でみせた森本晃司さんの哲学

アニメ界で数々の偉業を成し遂げてきた森本晃司さん。出来上がったものの完成度はさることながら、それが生まれる本質は実にシンプルだ。僕は、そのギャップに感銘を受けた。代官山の蔦屋書店で行われている「Celebrate 60 Years of the Pink Panther」に絡んで、彼の話を聞いていた。同イベントで彼はピンクパンサーを素材にコラボ作品を手がけ、新しい一面を独自の表現で示したのである。

 アニメーションとは何か。その原点に立ち返りつつ、新しい表現を追求する森本さんが、今回のコラボレーションに込めた想いと、映像作家としての哲学を語る。

森本さんとこのイベントについて

 まずは森本晃司さんについて説明しよう。彼はアニメーション業界のレジェンド的存在であり、スタジオ4℃の創立者として知られている。関わった作品には『AKIRA』『MEMORIES』などがあり、その名は国内外で広く知られている。彼の作品は、視覚的な美しさと深いテーマ性が特徴的であり、特に都市や人工物を独特の世界観で描く手法には定評がある。

 また、音楽ビデオや短編アニメーションでも活躍し、宇多田ヒカルさんのMVを手がけたことも記憶に新しい。

 今回、そんな森本さんが参加しているのが、「Celebrate 60 Years of the Pink Panther」というポップアップイベントだ。これは、名作アニメーション「ピンクパンサー」の60周年を記念する企画であり、渋谷ロフトでのプレ開催を経て、代官山 蔦屋書店で本開催が行われている。

 会場には60周年を記念したコラボグッズやアート作品が展示されており、その中でも特に注目すべきは、森本晃司さんが手がけたコラボレーション作品だ。彼は、ピンクパンサーという遊び心に満ちたキャラクターを素材に、アニメーションの原点とも言える「パラパラ漫画」に立ち返りつつ、新しい表現に挑戦したのである。

 下記の通り、パラパラ漫画の映像が流れて、原画が展示されている。

アニメーションの原点は「パラパラ漫画」にある?

 インタビューが始まると、森本さんはこう切り出した。「パラパラと動く絵。それこそがアニメーションの原点であり、自分のクリエイティブのスタート地点だ」と、懐かしさと確信を込めて語る。

 中学生時代、アニメーションに興味を持った森本さん。しかし当時は今のような技術書や資料もなく、手探りで「動く絵」というものに向き合い、その魅力に引き込まれていったという。でも、その原点は、パラパラ漫画というシンプルな手法にあったのではないかと、話を聞いていて思った。

 「動く」という概念を一枚一枚の絵に落とし込み、繋げることで、命が宿る。この体験こそが、森本さんの原点だ。そして今回、ピンクパンサーのコラボレーションにおいても、このシンプルな原点に立ち返ったのだ。

 僕自身もパラパラ漫画を描いた経験があるが、当時はそこに意味や価値を見出せていなかった。だが、森本さんの言葉を聞いて気づいたのは、「人の心を動かす本質」がそこにあるということだ。

 絵が連なることで生まれる時間の流れ、動きの繊細さ。それらはアニメーションの基礎であり、同時に人の感情を揺さぶる構成力の結晶なのだ。

行動の分岐点に人の感情が動く

 「アニメーションには文法があるんですよね?」――森本さんはそう話す。

その「文法」とは、人の心が動く“分岐点”を作り出す技術だ。

 一枚一枚をバラバラに並べたところで、そこにはなんの心の動きも生まれない。

 つまり、単に絵を描き続けるだけでは見えてこないが、流れを変える事で、心が動く瞬間を生み出す。笑いのツボと同じように、人の感情が動くポイントがある。

 一枚の絵の続きに、どの絵を持って来て、気を引くか。これこそが心を揺さぶる鍵なのだ。

 今回のピンクパンサーで言えば、ポケットがないのに、ポケットに手を入れている素振りがある。

 そうやって、そういう気持ちの分岐点を意図的に作る。

 それまでの流れをパッと変えてしまうような。作り手からすれば、そのヒントは街中で無数にあるし、人それぞれ。彼は彼の考えで、漫画のストーリーに心をくすぐる“道草”を作るわけである。

 その時代を生きている人にリアクションを起こさせるわけだから、彼は人の観察を惜しまない。どういう事で人は心が動くのか。転換部分に貪欲である。だから、日常を好奇心たっぷりに、寄り道するわけである。蔦屋書店には何度も来ているけど、「来るまでの道のりは毎回変えています」。

 違った視点にパッと流れを変える、人の心を動かす、そのヒントがあるからである。その寄り道での「あっ」がパラパラ漫画の分岐点である。

敢えて止めて訓練をする

 単調な流れの中で、どう人の気を惹きつけるか。その貪欲さゆえに、面白いやり方で、自分の感覚を訓練していることを明らかにしてくれた。

 アニメの映画を見ていて、わざと途中で止めてしまう。そして、自分ならその後、どういう表現をするのかを想像するのだという。

 そして、実際に再生をして、作品の表現と自分の発想とを比べる。その中で、自分の発想をアップデートしていくのだ。

 聞いていて、先ほどのパラパラ漫画に通じることだと思った。次に何が来るのか。それを、人の心が動くかどうかで、考えること。それは、そのパラパラ漫画で言えば、全体の面白さを左右する。

 つまり、人の気持ちの上下を巧みにアニメで操るのである。表現のキャンバスが変われば、それ相応にまた、人の心の動き方は変わっていく。

 余談ではあるが、宇多田ヒカルさんのMVでのアニメ部分に関連して、彼は、こう話した。「音楽にふさわしい『動き』があるんです」。

 「この音楽には“横に流れる動き”が合う。そんな具合に。だとすれば、横に動く物体は何かを思い浮かべる。それはなんでもいい。電車でもいいし、竜でもいい。ただ、それは、曲調や歌詞に合わせて選ぶから、アニメと音楽が合わさると、、、カチッとハマる瞬間が生まれるんです」。

 観る者の心理や心の動きに敏感で、それを構成に反映させる。そうやって、彼は、作品に魂を吹き込む。

縦長フォーマットへの挑戦――新しい時代に合わせた表現

 それでいうと、今回、彼がピンクパンサーのコラボ作品で選んだキャンバスは何か?

 ずばり、スマートフォンだ。彼はそのパラパラ漫画を縦長の絵で表現したのである。縦長になればなったで、また、人の心理的な変化は変わっていく。

 「キャンバスが縦長に変われば、表現も少し変わるんです。でも人の心を動かす本質は変わらない」と森本さん。

 縦長の画面だからこそ、彼は、ピンクパンサーの動きに奥行きを持たせたのだ。

 すると、時間の流れや景色の変化が、より縦の動きによって強調される。

 ピンクパンサーが歩く事自体は、シンプルで平凡である。でも、その構図で背景や動作の変化を加えたことで、印象が残りやすくなるのである。自分の感性と見る側、そして作品を人の琴線に触れるよう、絶妙にアジャストさせていく。でも、それは所詮、パラパラ漫画で分岐点を作り、ハッとさせる手法と本質的には変わらない。ゆえに森本さんの作品は、どのキャンバスでも心を動かすのだ。

 そして、それは、このイベントにふさわしい形で華を添える。その歩く光景に様々なものを掛け合わせれば、それは歴史を感じさせるからだ。

 60周年、色々な場面を渡り歩いてきた。同時に、これからも先々の色々な場面へと歩いていく。ピンクパンサーとしての過去と今と未来をその絵が想像させるのである。彼は、縦長の長所をフルに使って、“パラパラ漫画”の面白さを更に引き立てたのだ。

新しい時代に歩き続けるピンクパンサー

 結果、森本晃司さんが手掛けたピンクパンサー60周年の作品は、過去と未来を繋ぐ「歩み」がテーマとなった。最初から話した通り、シンプルな構造の中に、人間らしい動きや遊び心が息づき、僕らを引き込む。

 そして、最後に「なぜ、ピンクパンサーでコラボしようと思ったのか」そう尋ねたら、茶目っ気たっぷりに小さく笑った。「それはやんちゃだから」。

 「正しいことだけではなく、そこから外れた予想外のことにも手を伸ばす。ピンクパンサーには、そんな人間らしさや愛らしさがある」と森本さんは言う。

 まさに、ポケットがないのに、ポケットに手を入れたような仕草はそうだ。

 人間もそうだけど、完璧すぎるのはつまらない。ちょっとくらい逸れるからこそ、そこに興味が惹かれる。つまり、ピンクパンサーだからこそ、歩くその過程に、色々遊び心を持ち込める。だからこそ、彼もその作品制作を楽しめる。そう直感して、今回の話を快諾したというわけだ。

  思えば、ベストな巡り合わせだったのかもしれない。

 パラパラ漫画の原点から現代の縦長フォーマットまで、絵を動かす上での本質は共通している。そんな本質の中で、ピンクパンサーは、私たち自身の「歩み」と重なりながら、新しい時代を歩き続けていくのである。

 今日はこの辺で。

THE PINK PANTHER TM & © 1964 – 2024 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved.

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