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永遠の命に挑む「火の鳥」展――福岡伸一と手塚るみ子が語る“生命の本質”

 面白い発想の仕方だと思った。僕らも、周りにあるものはいずれ滅びゆく。人間はそこに抗って生きようとする中に輝きを見出す。これは、生物学者・福岡伸一さんの『動的平衡』という考えの根本である。まさに、手塚治虫さんの描く「火の鳥」もそれに近い。有限であることに美しさがあるとして、その二人のつながりを思いながら、作品のテーマの奥深さに唸ったのである。なるほど。今回、発表された、福岡さんが企画監修する「火の鳥展」はそんな意味で違った気づきをくれそうだ。

 改めて「火の鳥」は永遠の命や生と死という普遍的テーマを描きながらも、時代や読者の視点によってその意味を変える名作だ。「火の鳥」展は2025年3月7日から5月25日、六本木ヒルズ・森タワー52階の東京シティビューで行われる。本展覧会は、70年の時を超えて今なお輝き続ける「火の鳥」の魅力を、多角的な視点で再解釈する場となる。

1. 「火の鳥」は何を問いかけるのか?

 「火の鳥」は、不老不死を象徴する伝説の鳥を追い求める人々を描いた物語だ。とはいえ、最初に話した通り。実は、そこに描かれるのは、不老不死ではなく有限であることの価値が述べられている。その核心には、「生と死」「輪廻転生」といった哲学的テーマがあるわけだ。

 人間はいつか死んでいく。身近な自分の部屋を見ても、どれだけ片付けようとも、いずれ散らかる。埃が溜まる。決して、必ず今の状態は失われ、そしてまたそこで再生することで、それを取り戻そうとする。人間の生きるということはまさにそれだ。

 エントロピー増大に抗う動的平衡。その言葉はそれを意味している。そう火の鳥が表現しようとしているのも、それだと言って、それが火の鳥展のサブタイトルにもなっている。

 そして、福岡さんは会見の席上、「この名作には普遍性と個別性の両方がある」と述べた。

 「普遍性とは、誰にでも刺さるテーマ。個別性とは、あなただけに語りかける物語。『火の鳥』はその両方を持っています。」

 福岡さんが特に注目したのは、物語に込められた手塚治虫の「問い」だ。それは「永遠の命は可能か?」という科学的な挑戦であると同時に、「命をどう生きるべきか?」という倫理的な問いかけでもある。この二重構造が、作品を時代を超えた名作にしている。

2. 福岡伸一が語る“生命”の哲学

 福岡さんは、生物学者としての視点から「火の鳥」をこう分析する。

 「生命は動き続けるものです。『動的平衡』ー壊れながらも作り変わり続ける。その本質を手塚治虫は『火の鳥』で描き出しました。」

 さらに福岡さんは、手塚治虫が生命の循環や進化に着目し、未来と過去を交錯させながら描いた壮大な宇宙観を称賛。「死を避けられないものとして受け入れつつ、その中でどう生きるかを問う作品」と評価した。

 また、「火の鳥」が読者の年齢によって異なる意味を持つ点にも注目。

 「子どもにはそのダイナミックな絵が、成人には物語の深みが、さらに人生を重ねた人には哲学的なテーマが刺さる」と述べた。

 しかも、手塚治虫は物凄く古い過去を描く一方で、物凄く先の未来を描き、それらを振幅させて、現在を考えさせる。敢えて、手塚は現代を書かなかったのは、書いた瞬間にそれが過去になるから、だとしている。

 これは生前、角川春樹さんとの対談で明かしたこと。だから、死ぬ瞬間に一コマでもそれを描くつもりだと言った手塚治虫の本音に、この作品への想いを感じる。

3. 手塚るみ子が見た、父の本音と挑戦

 手塚るみ子さんは、父である手塚治虫が「火の鳥」に込めた思いをこう語る。

 「父にとって『火の鳥』は、自由に描ける場でした。読者や出版社に縛られることなく、自分が本当に表現したいことを追求した作品です。」

 さらに、彼女は子どもの頃に「火の鳥」を読んだ時の印象を振り返る。「その美しさと恐ろしさに圧倒され、不安感を覚えた」という。「火の鳥」には、人間の欲望や葛藤だけでなく、自然の美しさや宇宙の壮大さも詰まっている。るみ子さんは、「父の創作の自由と探求心がそのまま表現された作品」と強調した。

 描くテーマは普遍的であり、だから、どの世代にも響く。子供にとってはやや過酷であっても、それが後々意味を持つ。

4. トークショーで紐解かれる「火の鳥」の美と恐怖

 会見中、福岡さんは「火の鳥」の美しさと恐怖についても語った。

 「美しいものは生命を肯定し、醜いものはその反対を示す。『火の鳥』はこのコントラストを通じて、人間の矛盾を浮き彫りにしています。」

 彼はまた、作品が死を直視している点に感銘を受けたという。「現代社会では死を避けがちですが、『火の鳥』では主要キャラクターも容赦なく死を迎えます。死を恐れるのではなく、どう受け入れるかを問いかけています。」

 手塚るみ子さんも、「火の鳥」が未来の希望と恐怖の両方を描いていることに触れ、「そのバランスが読者に強烈な印象を与える」と語った。

 そして、福岡さんが同展のキービジュアルについて触れ、仮説としてこう述べた。

 「白く包まれた何かの上に火の鳥が止まっている。白く包まれたものは、手塚治虫の遺体ではないか」

 その言葉は先ほどの最後の一コマを書くなら、死ぬ瞬間だ。その言葉がこの一コマに集約されている。

5. 作品の核心に迫る展覧会の魅力

 本展覧会では、原画やコンセプトアートを通じて「火の鳥」の世界観を体感できる。福岡さんは、「展覧会は作品の本質を再発見する場」と述べ、こう続けた。

「手塚治虫は、宇宙と生命を媒介する象徴として火の鳥を描きました。この展示を通じて、彼が何を問い、何を伝えたかったのかを感じ取ってほしい。」

 先ほど、「普遍」という言葉もあった。まさにそれが示している通り、作品は今も鮮明に今の時代に生きる人に共感を生む。

 福岡さんは自らも手塚治虫と同様に子供の頃、虫好きであったことを明らかにして、その小さな世界に生命が集約されていると説いた。有限であり、それに抗おうと色々していく。

 しかし、その中身は触れた通り、美しいものもあれば、醜いものもある。原子力発電所などを挙げて、それは美しいと言えるのだろうかと。つまり、それこそが今に通じる問題提起であり、世代問わず、考えるべきテーマなのである。

 さらに手塚るみ子さんは、父の遺した作品を次世代に伝えることをライフワークとし、「火の鳥」を新たな解釈で読み継がれる作品にしたいと語った。

 「火の鳥」展は、哲学と科学、そして芸術が融合した希有な展示だ。福岡さんの深い洞察に触れることで、手塚治虫の創作の奥行きを再確認できるだろう。永遠の命や生命の本質に迫る「火の鳥」の問いかけを、あなたも体感してみてはいかがだろうか。

 今日はこの辺で。

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