イベントの手法に学ぶ 人の興味を引く仕掛けの秘訣
人々の興味が細分化され、それゆえ特定のユーザーの興味が注目される事で、結果、ヒットにつながる事が少なくない。では、その原点である、人目を引く企画や切り口はいかにして生まれるか。今日はその仕掛け人に話を聞いた。LIVeNTという催しでの事。グローバルプロデュース 代表取締役 光畑 真樹さん。AR三兄弟 長男 川田 十夢さん。Afro&Co. CCO/クリエイティブディレクター アフロマンスさん。インパクトの強い3人の鼎談である。
人を振り向かせる企画やイベントとは?
光畑さんが代表を務めるグローバルプロデュースは聞く限り、企業向けの案件が比較的、多い。企業価値を底上げしたり、社員やファンを触発する意味でイベントを活用。形にとらわれず、個々にいろいろな人が集まって、ひとつのイベントで時間と空間をいかにして共有していけるか。そうやって、企業価値を上げる。最近では、オンライン、ハイブリッド、メタバースなど、手がける範囲は幅広い。
それに対して、川田十夢さんとアフロマンスさんは一般ユーザーを触発するという点で視点が違う。そこで、当記事はどちらかと言えば、彼ら2人の話に注目してみた。題して「どう消費者を唸らせる企画を発想するか」。それであれば、メーカーや小売など、読者の発想のヒントにはなるだろう。
ミシンメーカーで出会ったAR
AR三兄弟 川田十夢さんはシンメーカー出身で特許技術を開発していた。ある時に、ミシンの部品を注文するシステムを2007年くらいに着想し、「部品をカメラに映せば商品がわかる」という仕組みを考える。実は、これはカメラの認識技術とデータの掛け合わせによって具現化されるもの。だから、それが、ARの発想に繋がっていく。
そもそも、ARとはわかりやすいのは、ポケモンGO。例えば、スマートフォンを平面にかざすとキャラクターが現れたり、アプリでポスターをかざした際に画面上で動き出す。現実を拡張して、コンテンツを楽しむことができる。その意味で彼はそれを武器に、リアルの場所に、常識外の発想を持ち込める。それがイベントに直結する。
ARをイベントの発想に結びつける
代表的なのは、六本木ヒルズ展望台東京シティビュー内スカイギャラリーでの催し。
「星にタッチパネル劇場」という取り組みで、脚光を浴びた。見上げるのではなく、街を見下ろすプラネタリウムができないか。彼はスカイギャラリーをみて、それを着想。窓に特殊フィルムを貼って、スマホを構える。すると、スマホが星空を操るコントロールになるわけだ。
音量のボリュームのように、それを調節すると、星空の解像度が上がる。見える星の量が変わるわけである。
実は、東京の空でも見える星は本来、存在するものよりも少ない。だから、このボリュームの匙加減で、見える星が異なる演出を取り入れ、それをイベントにより体感させた。現実を強く意識しながら、仮想現実を通して、星の価値を実感させる。現実の夜景の力を借りる分だけ、そのリアリティは増す。だから、この場所のポテンシャルを引き上げ、来場者の興奮へと繋げる。来場者記録を作るほど、話題を集めるに至った。
リアルの現場を切り口で魅了する
一方、アフロマンスさんは、前職が広告代理店で、イベントはその頃からで「趣味」と笑う。脚光を浴びたのは「泡パ」。元々、地中海の楽園イビサ島の名物のパーティーの一つ、泡パーティー。そこに着目したのがきっかけで、その名の通り、泡にまみれる。
SNSでの告知のみで300名枠に3000名を超える応募が殺到。結果、マスメディアなどが取り上げるに至り、著名人も参加したいという声を断ってまで、盛り上がった。その時からずっと、恒例のイベントとして根付いている。
彼の手法に学ぶところは「極端」であるというところだ。例えば、佐賀の日本酒のイベントを東京でやりたいとオファーをもらうとしよう。着想したのは「120万枚の花びらに埋もれるチルアウトバー「SAKURA CHILL BAR by 佐賀」である。
実は桜と日本酒は親和性が高い。花見でお酒を飲むイメージがあるからだ。しかし、「桜と花見でイベントをやりましょう」で止まってしまっている。それはどんなビジュアルで、どこが楽しいのだろうとイメージを膨らませられるかが肝である。
そこで、120万枚という着想が生まれる。なるほど。イメージができるかどうかが、成功するかどうかの分かれ目。なのに、あともう少しというところまで来て、断念してしまうから企画としての完成度が届かないわけである。何気ないことだけど、その指摘は的を得ていて、ある意味、「泡パ」もその要素はしっかり抑えている。
人の体験の仕方が変わっているからチャンスがある
視点を未来に向け、その仕掛けを考える上で留意することはなんだろう。「時代の変化には抗えない」。そう川田さんは強調した。例えば、かつてはレンタルビデオで映画を見ていた。しかし、皆が配信でそれを楽しむようになって、一度利便性を実感した人は、過去に戻れない。
これが何を意味するかというと、「体験」の仕方も変わっていく。かつてはファッションショーもロサンゼルスでやるのが定番だった。けれど、今ではメタバース上でもそれをやる。
そんな世の中では、何ができるだろう。何かモノを買うとしたら当然、リアルなモノに集約される。だけど、場所がメタバースになれば、体験が変わっている。だから、メタバースの世界で着用して、歩ける衣装も購入されるようになっていく。それも絶対にリアルでは着用しないデザインで。
しかし、全ては「体験」に紐づいている。メタバースという「体験」に対してもリアルと同様に「お土産」は欲しいから、普段、買わないようなデザインのデジタル衣装を購入していく。
そこを踏まえて、自分のARが活かせないだろうかと思案しているそうだ。例えば、リアルのアクリルスタンドでも、そこからその人物が飛び出すなどの演出など。体験が変化したことで、そこから派生する副次的要素の変化。ここはまだ、商流になり得ていない部分。そこに注目していると川田さん。
使えるものである必要はない
お土産というキーワードに反応したのは、アフロマンスさん。「それでいうとお土産は必ずしもそれは使えるものである必要はないですよね?」と。彼の指摘は、ある気づきをくれる。それは、体験は変化しているけど、着想の仕方は実は変化していない。
要はその付随的な要素は、デジタルであれ、リアルであれ、必ずしも必需品ではなくてもいいのではないかと指摘する。「木彫りのくまが必需品かと言えば、そうではないですよね?」と笑う。
つまり、デジタルを絡めた体験が増えるに伴い、それがデジタル上でお土産的なものが増えてくる。これが川田さんの指摘だ。
それに連動して、ハイブリット的なお土産が増えるだろうから、そこの部分で言うと、それが別に、必要か必要ではないかとは別の議論で探し求めていく。この二人の対話によって、変わっていくものと変わっていかないものをうまく使い分けながら、発想していく。そこにこそ、他の人が目をつけない企画のポイントがあると指摘がアフロマンスさんの指摘なのだ。
意味のないところに意味を持つことで拡散は生まれる
例えば、彼はその日も時計をしていたけど、その時計には「NOW」と書かれてあるだけだ。時計なのに、時間を示さない。時計の役目は今を示すのだから、NOWと書いてあるだけ。これは面白いと思って、彼がそれをSNS上でシェアしたら、こんなに意味のないものなのに、周りが皆、購入した。
逆に意味を求めないことに意味を求める視点こそが、人の関心を集める。それがわずかな人でも広がり、結果的に、マスメディアすらも注目するような企画につながる。彼はイベントを手がけているから、「こんなイベントがあるのを知っていますか」と周りに問いかけた。それは「ボーっとする大会(笑)」。ぼーっとしているだけのことだ。それは、誰が優勝するというのだろう。実は脈拍数を調べて、いかにリラックスしているかを競い合っている。こういうのも一度、SNSで話題にあげれば、一気に脚光を浴びる。
滅多にやらないイベントは個性を発揮するチャンス
なかでも、僕が彼らの話で興味を惹かれたのは、イベントの定義である。案外、イベントを定義しようとすると、範囲が広い。野外フェスもそうだし、展示会のようなものも該当する。そんな中でアフロマンスさんは「短期的に行う何か」という表現をしていた。
ここで「デジタルであれ、リアルであれ、必ずしも必需品ではなくてもいいのではないか」という議論の着地を見る。
つまり、一年中やっているものは、イベントとは言わない。短い期間だから、思い切ったことができると。そこから逆算して、何をするべきかと考えていく先に、新しい視点があるのではないかと説く。そこに先ほどの意味を求めないことを持ち込むわけだ。
だから、企画のヒントはここにある。「『イベント』ってこの1日だけなら、この3日間だけなら何だったらこの3時間だけだからできることというのがめちゃめちゃあるんですよね」。まさにそう思って120万枚の企画も、その中で生まれるパワーを具現化したと。「365日じゃできないんです」。
年中、意味のないことをしていては怒られるけど、その日だけであれば、それを楽しめる。どんなビジネスでも、長期では到底できないことの逆張りで、考えていくと、実は、イベントで脚光を浴びるというのは何かという着地になる。
彼らに共通する点が見えた気がする。奇抜さゆえに、誰もやらないけど、誰もやらないことを探って、イベントにかこつけて、やってしまうから脚光を浴びるのである。つまり、人から関心を集めるという部分では、イベントを効果的に味方につけて、楽しい演出を心がけることで、チャンスを握れるということなのである。
今日はこの辺で。