“エヴァンゲリオン大博覧会” 彼らが築き上げたモノとコトの祭典
僕はこれを「コンテンツ」の底力と見た。この日、僕がいたのは「エヴァンゲリオン大博覧会」というイベントのプレス内覧会。渋谷ヒカリエ 9階ヒカリエホールで2022年7月15日から8月26日まで開催中だ。アニメといっても様々。しかし、これほど様々なジャンルに波及して、日本中にその名を轟かせるものもないものだ。
エヴァンゲリオン大博覧会 でコンテンツの価値を思う
1.永く浸透するにも理由がある
アニメというものを大人にとっても深い実感を伴うものへと導いたのが「エヴァンゲリオン」の功績だと思う。人間は根本的に弱いけど、でも支える周りがいて、それと共に強くなっていく。そんな普遍的なテーマのようなものをこのアニメからいつも感じるのである。
だからこそ、それを今までアニメを見ていない人たちにも訴求していくために、何ができるか。それを追い求めてきたストーリーは本編とはまた違う醍醐味があるのだと思う。
その歴史は『新世紀エヴァンゲリオン』として産声をあげた1995年10月まで遡る。今から二十年以上前。テレビ東京のアニメからはじまり、新劇場版などの公開を経て、いまだに燦然たる輝きをもっている。その生き永らえるヒントは先ほど触れた通り、作品と作品をなんとかもっと知らしめようとする企業との連携によるところが大きい。それが「エヴァンゲリオン大博覧会」に来れば分かる。
この作品が多くの人に「長く」浸透するに至ったのか。
エヴァは「モノ」と「コト」の表現を切り開いてきた。テーマで掲げている通りである。色々な業態を巻き込み、作品のポテンシャルをフルに引き出している事は他に類を見ない。当日は、版権に関わるクラウンドワークス神村 靖宏さんとエヴァではレースクイーンとして関わった野呂 陽菜さんの軽快な掛け合いのもと紹介が始まった。神村さんはそこを切り拓いた張本人である。
2.フィギュアの歴史にエヴァあり
初めの頃の話を聞くと、時代も味方したことが垣間見える。何が起爆剤になるかわからない。この作品の公開時と時を同じくして、脚光を浴び始めていたのが「フィギュア」である。ホビーイベント「ワンダーフェスティバル」で作画参考模型を販売。それが当時の造形に関わる人を触発したのだ。
造形師などその実力者が実力者たる所以を誇示するための材料として「フィギュア」があった。そして、そこに「エヴァ」がハマったという現実。1996年から1997年における「ワンダーフェスティバル」ではエヴァ一色。そんな現象を巻き起こして、世間を驚かせた。
3.当初から繋がり続けるライセンシー
一方で、当初からその可能性に早くから注目していたメーカーの存在も見逃せない。セガはテレビ放映時からクレーンゲームの景品に起用。最初の商品「キーチェーンマスコット」に始まり、今もあらゆる切り口で作り続けている。その息の長さに驚きだ。いまや「エヴァ」はゲームセンターの顔としての要素を持っていると言っても過言ではない。
バンダイは得意とするプラモデルで、そのライセンシーに早くから名を連ねた。パーツに色がついており、組み立てるだけで、世界を簡単に再現できる商品など、ファンの創作意欲も駆り立てる工夫を惜しまない。こういう当初からのメーカーの力添えが「エヴァ」の戦略の大事な礎になっているのだ。
4.文化を作り、文化に乗る
フィギュア然り、造形物の人気が高まるにつれて、そのマーケットも拡大する。今度は拡大したマーケットがまた「エヴァ」の売り上げに寄与する。ともに成長し、切磋琢磨し合う様々な物事が彼らの追い風となった。
そのフィギュア熱に乗って登場したのが、定番シリーズ「ベアブリック」。それも間もなく「エヴァ」は連携を果たした。いわば自らの力で拡大したマーケットで、自らも恩恵を受けたという事になる。そして更に洗練されたものへと変容していく。
洗練されたという意味では、同作品はファッションにも影響を及ぼしている。その部分においては、ブランド「RADIO EVA」の存在は大きい。
彼らが意図したのは「日常に溶け込むエヴァ」であった。キャラクターグッズはどうしてもベタな物が多く、誰もが着用できるものばかりではなかった。だけど、彼らは洗練されたデザインで馴染ませた。その甲斐あって、有名ブランドとのコラボを含めて、約10年以上も途絶えることなく商品を作り続けている。これがまたアニメとは違うユーザーを引き寄せるキッカケになっている。
アニメの枠を越えた「エヴァンゲリオン」
1.常識を超えたコラボも
改めて『エヴァンゲリオン』で素晴らしいのはアニメ作品の枠を超えて、価値あるコンテンツとして世の中に、知らしめた事にあるように思う。「大展覧会」で所狭しと飾られているコラボ商品はその賜物である。
型破りなものも少なくない。2000年代後半においては「SUPER GT」の場をも魅了する。
「エヴァンゲリオンレーシング」と言って、遂にはレーシングとのコラボを果たした格好だ。象徴的なカラーに身を包んだマシン。それだけではなく、キャラごとに用意されたレースクイーンのコスチューム。安易にコンテンツを起用するだけではなく、コンテンツを素材にそれを驚きへと変えたのだ。
2.画期的だった「UCCコーヒー」コラボ
企業とのコラボも盛んだ。僕らが「エヴァ」と企業の連携で誰もが知るのが「UCCコーヒー」の取り組みではないだろうか。作中にも似たようなコーヒーが出てくることはあった。しかし、当時、誰がその本家本元との実現不可能とも言える連携を想像しただろうか。
缶コーヒーのように大量生産するものに、オリジナルで印刷したコーヒーを発売するなど、異例中の異例。しかも、それをキャラクターごと作成するだけの熱量。現場の努力なしにはなし得ないレベルだから、話題を集めるのである。
3.作品への理解があって地域も盛り上がる
これらの動きに感銘を受けつつも、これぞ「コンテンツ」が世の中にもたらすその好例だと思うのは、地域との連携である。思えばその舞台が箱根であることをヒントに、小田急箱根グループが「エヴァンゲリオン箱根補完マップ」を作成して、箱根に来るよう呼びかけた。
多くのファンがその地図を片手に、その場所を訪問。思い思いに脳裏に焼き付いたシーンをそのリアルの光景に重ね合わせて、箱根に絡む各地で人が殺到したのである。
聖地巡礼は今でこそ、定着した言葉である。それもコンテンツの訴求力が高いからこそ、できることである。舞台となった地元に関連づけて、地元を活性化させるアイデアは、アニメの価値を新たに知らしめた画期的な取り組みだったと言える。ただ、それも小手先でキャラを使って、売りだすのではない。そこに地元企業などのエヴァへの理解があってこそ、ファンも納得され、愛されるイベントに昇華できた。ゆえに、その功績は大きいわけである。
4.20年以上、常に進化し続け色褪せないその理由
「エヴァンゲリオン」が放映されてから二十年以上が経過した。それでもなお、色褪せない理由がわかったのではないか。幾らなんでもアニメを作り続けるのは難しい。要所ごと、新作が発表されているものの、それがない期間も誰かしらの気持ちを、真に理解ある人たちとともに、コトとモノで仕掛け続けてきた。だからこそ、人の心に浸透し「続けている」のである。
作品に自信があるから、それをどうやって訴求するかも同時に大事なのだ。語弊を恐れず言えば、人間の実写のドラマの方が感動的だと思い込んでいる人もいなくはない。そんな人にも届くようにするには、やっぱりこういうサポートが大事なのである。様々なジャンルに波及して、日本中にその名を轟かせる。企業、人とエヴァの二人三脚が成せる技である。
「コンテンツ」の底力を見た。最初にそう触れた通りである。今一度、アニメという価値をアニメの世界にとどめる事なく、世に広めた軌跡をたどるのだとしたら、「エヴァンゲリオン大博覧会」は、僕らに何かの気づきをくれる格好の機会となるに違いないと思うのだ。
今日はこの辺で。
©︎カラー