学校と企業をつなぎ、若き才能を育む──「缶バッジ」から始まる新たなクリエイション

子供の頃に集めた缶バッジを懐かしく思い出す人は多いだろう。帽子やエコバッグに付けて楽しむ大人もいるくらい、意外と身近な存在です。そんな缶バッジを軸に、「人々を元気づけたい」という想いから生まれた企画がある。コロナ禍という逆風の中でも、創造力が人と企業を結びつける事例として注目された「Badge-Design-Labo(バッジデザインラボ)」がある。
学校と企業をつなぎ、若き才能を育む──「缶バッジ」から始まる新たなクリエイション
「え?缶バッジって自分で作れるんですか?」
僕がそう言うと「そうなんです。僕たちアーティストにおいては、非常に低コストで色々なデザインの缶バッジを作って、販売しており、馴染み深い。バッジマシン自体も4万円程度なんです」とキタイさん。そう聞いて驚く。
「へえ、それはいいですね」
僕はよく作家の個展に行く。ポストカードと並んで缶バッジは定番商品だ。
その話を聞いて、多くの人がバッヂを出すのに納得だ。
キタイさん曰く、作業工程はすごくシンプル。各々デザインされた用紙を挟み、バッジマシンでプレスし、ガチャン!そうやって缶バッジを一つ一つ作るのである。
当然ながら、ロットなどもない。なので、ありとあらゆる缶バッジを好きな数だけ作れる。この使い勝手の良さが多くのクリエイターに支持されている所以だ。
「Badge-Design-Labo」とは?
まさにその製造機メーカーが株式会社ベック。その相談から始まったのが、Badge-Design-Labo。
株式会社ベックによれば、バッジマシンはアーティストの他、企業やショップなども販促などでよく購入されるのだそうだ。バッヂではなく、「バッヂマシンのほうを」である。
ただ、悩ましいのはバッヂマシンを購入した後。
購入したはいいが、納得のいくデザインが出来ないという声が聞かれること。確かに作り続けて、数が増えるうちにデザインは単調なものになるという。
そこで、キタイさんが立ち上がった。彼は自ら講師を務める大阪モード学園に声をかけ、学生たちにデザインをしてもらう事を着想することにした。キタイさんがそれらを監修することでクオリティを保つ。そして、そういう企業やショップに納品する。
かくして「Badge-Design-Labo」の誕生である。
缶バッジ をキャンバスに
全く素材なしでデザインを依頼する場合だけではなく、素材としてロゴやキャラクターを提供して、それをアレンジするという形でも対応する。

よくできた仕組みである。というのも、株式会社ベックはバッジマシンという“ハード”を提供するとともに、キタイさんと大阪モード学園の学生たちによるデザインというインフラを一緒に提供する。
そうすれば、マシンの購入も増えるし、株式会社ベックを使う差別化要因にもなる。
これであれば「デザインが作れない」と嘆く企業やショップに継続的に、魅力的な缶バッジが作れる環境を作り出すことができるのである。
なお、株式会社ベックとキタイさんは、大阪モード学園グラフィック学科の学生からこのデザインをする「バッジデザインラボ」のメンバーを厳選。さすがデザインに対してのこだわりは一級品である。
若き才能を企業のブランディングへ
この動きはバッヂマシンのメーカに限らず、色々な可能性を感じさせ、多方面に応用が効きそう。
学生はプロの指導を受けながら、自身の感性や独創性を活かしてデザイン案を提案する。若い視点から生まれるインパクトのあるアイデアは、従来の社内デザイナーだけでは思いつかなかった新鮮な魅力をもたらす。バッジは手軽なノベルティとして人目を惹き、企業やブランドのイメージを広めることにつながる。
缶バッジは多くの人にとって見逃せないメディアになるのである。
今後の可能性──IPコンテンツとの相性
また、たとえ本プロジェクト自体が一区切りついたとしても、このスキームと考え方に、ヒントがある。この産学連携の仕組みはさまざまなIPコンテンツにも応用が可能ではないか。人気キャラクターやブランドとのコラボレーションはもちろん、漫画・アニメ・ゲームなどの限定グッズ制作など、多彩な展開が考えられる。
• IP作品のプロモーション
アニメやキャラクターのファン向けノベルティとして缶バッジは定番。だが、その背後に学生のクリエイティブが加わることで、より洗練されたデザインをファンに届けられる。
• 新キャラクターやブランドのローンチ
一からキャラクターを作り上げる際も、試作を小ロットで作成し、反応を見ながらブラッシュアップできるのが缶バッジの利点である。
企業のブランディングにも寄与するのでは?
Badge-Design-Labo(バッジデザインラボ)」は、製造機メーカー・アーティスト・学生が一体となり、企業ブランディングや新たなデザイン提案を行う先進的な試み。
小さな円形に込められたアイデアやメッセージ。それが、企業に新しい価値をもたらす。そんな可能性を実証したプロジェクトともいえるだろう。
このような産学連携の動きは、今後も若き才能を発掘し続ける。
企業にとってはブランディングだけでなく、新たな市場開拓の糸口にもなるはず。すでに企画としては幕を閉じたとしても、この試みが残したクリエイティブの火種は消えることない。クリエイターと学生の未来を照らし続けることだろう。
デザインの可能性で、沈みがちな日常を華やかにする取り組み。何より未来を担う大阪モード学園の学生たちの才能が発揮される機会でもある。多くの人に燦然と輝く夢をもたらす企画となる事を期待したい。
今日はこの辺で。