AmazonはAI時代に何を変えたのか──「引き合わせの精度」を磨き続ける進化の本質

Amazonも、いよいよAIを前提に、買い物の形そのものを変え始めたのではないか。そう感じたきっかけが、生成AIを活用した買い物支援機能「Rufus」がAlexa+へ統合され、「Alexa for Shopping」として米国で展開されたというニュースだった。これまでAmazonで商品を探すには、利用者が欲しいものを、ある程度言葉にできている必要があった。「敏感肌向けの化粧水」「ピンクのオフィスチェア」と検索窓へ入力し、その結果から商品を選ぶ。
しかし、AIが日常へ入り始めた今、僕らは必ずしも、欲しい商品の名前や条件を整理してから買い物を始めるとは限らない。
「最近、肌の調子が悪い。自分に合うものはあるだろうか」
そんな曖昧な相談からでも、AIが条件を整理し、商品を比較し、購入まで導く。検索、比較、判断、購入、再購入という別々だった行動が、一続きの会話になろうとしている。
では、Amazonで商品を販売する事業者は、大きく対応を変えなければならないのだろうか。Amazonのコンサルティングを手がけるインサイトアイズ代表取締役・榊洋三郎氏に話を聞くと、その答えは意外にも、「本質は変わらない」というものだった。
Amazonは昔から、商品と顧客を引き合わせる精度を磨き続けてきた会社である。AIによって変わり始めたのは、その思想ではない。引き合わせの入口と、その精度を高める方法なのである。
1.AIが変えるのは、検索ではなく「買い物の始まり」である
僕は、Alexa for Shoppingの登場によって、Amazonの検索がなくなるとは思わない。欲しいものが決まっているなら、検索の方が早いからである。
例えば、「鼻のニキビを改善したい。その中でも敏感肌向けの化粧水が欲しい」と、条件まで固まっていれば、そのまま検索すればよい。榊氏も、買うものがある程度決まっている場面では、従来の検索が使われ続けると見る。
AIが必要になるのは、その前である。
「最近、肌の調子が悪い」「自分の生活に合う椅子が欲しい」といった、まだ検索する言葉すら固まっていない時だ。そこでAIが、何に困っているのか、いくらまで出せるのか、何を重視するのかを聞きながら、条件を絞っていく。商品を探すというより、何を買うべきかを一緒に考えるのである。
RufusがAlexa for Shoppingへ統合された意味も、そこにあるのだと思う。Amazonは、検索専用のAIを別に置きたいのではない。普段Alexaへ話しかけるような感覚で、買い物についても相談できるようにしたいのである。榊氏も、Rufusの機能がAlexa for Shoppingへ吸収され、Alexaへ話しかける感覚で買い物ができるようになったと捉えている。
つまり、AmazonがAIで広げようとしているのは、検索結果ではない。これまで検索窓へ入ってこなかった、曖昧な需要なのである。
2.Amazonは昔から、「引き合わせ」の会社だった
新しい機能だけを見れば、AmazonがAIによって別の会社へ変わったようにも見える。しかし、榊氏の話を聞いていると、むしろ逆である。Amazonは、昔から同じことをやっている。
利用者が求めているものを見つけ、しかるべき商品を引き当てる。その精度を上げることに、徹底して力を注いできた。その構造は、広告を見ると分かりやすい。僕はAmazon広告を「立候補」のようなものだと捉えている。事業者が広告を出すのは、「この検索をする人には、自分たちの商品が合うはずだ」とAmazonへ手を挙げる行為のようなものなのである。
それで売上を立てるのもいいだろう。しかし、本質はそこではない。実際にクリックされ、購入されれば、Amazonは「この組み合わせは相性が良かった」と判断する。反応がなければ、その引き合わせは適切ではなかったということになる。
逆に、広告で相性が証明されれば、その後は広告枠だけに限らず、検索結果やレコメンドでも、Amazonは優先して表示してくれる可能性が出てくる。榊氏との対話でも、Amazonは広告を強く押し出すというより、広告を一つの機会として相性を確かめ、親和性が高ければ広告以外でも提案していく、と説明するのである。
勿論、Amazonにとって、広告は収益である。だが、それ以上に重要なのは、利用者と商品の相性を知る材料になること。だからAIになっても、その本質は変わらない。これまでキーワードを使って行ってきた引き合わせを、今度は会話や購入履歴、好み、生活の文脈まで含めて行う。
Amazonが変えたのは、引き合わせるという思想ではない。そこに使える材料の量と、読み取る深さなのである。
3.検索順位より、「誰に選ばれる商品か」を考える
だとすれば、事業者がAI時代になって、急に別のことを始める必要はない。榊氏がこれまで話してきたことを、より深くやることになる。その一つが、商品の立ち位置を明確にすることである。これまでAmazon対策というと、検索順位を上げることが中心に語られてきた。
しかし、榊氏によれば、検索順位自体が利用者ごとにパーソナライズされ始めている。誰に対しても同じ一位を目指すという考え方だけでは、成り立たなくなっているのである。だから、近い商品をベンチマークする。ただし、相手より安くするためではない。自分の商品は、近い商品と比べて何が違うのか。その差を明確にするためである。
例えば、競合商品のストラップがプラスチックで、自社の商品が革であるなら、その違いを示す。価格が高いのであれば、その差額がどこに使われ、どんな体験の違いにつながるのかを示す。
単に「高品質」と言うのではない。何が違うから、その品質になるのかを書くのである。これはAI時代になって突然生まれた話ではない。榊氏が以前から繰り返してきたAmazon対策であり、それが評価されてきた理由でもある。
Amazonが知りたいのは、商品を飾る言葉ではない。榊氏の言葉を借りれば、「あなたは誰の役に立つのか」である。誰にでも良い商品ではなく、この条件を持つ人には、この商品が合う。その立ち位置が明確だからこそ、Amazonはしかるべき相手へ引き合わせられる。AI時代になって変わるのは、その立ち位置を、全体の検索結果だけでなく、一人ひとりに合わせて読み分けるようになることだ。
検索順位を上げることより、誰に選ばれる商品かを決める。その方が、AI時代のAmazonには合っている。
4.「100を100」で伝え、個々人への引き合わせを深くする
① 「100を100」で伝えることが、すべての前提になる
商品の立ち位置を明確にしたら、その違いをAmazonへ正しく伝えなければならない。榊氏は、それを「100ある価値を100のまま伝える」と表現する。ただし、100を100で伝えれば、それだけでAIに選ばれるという話ではない。
Amazonに正しく認識されなければ、その先の引き合わせが細る。だから、商品の価値を欠けたまま渡さないことが前提になるのである。この考え方も、AI時代になって生まれたものではない。榊氏は以前から、近い商品との違いを具体的に示し、その価格や価値に理由を持たせることを重視してきた。
ただ、これまでは主に、検索結果の中で比較され、全体の中から選ばれるための精度を高める話だった。これからは、それに加えて、一人ひとりにフィットするための精度が問われる。
② AI時代は、「違い」まで伝えなければならない
同じ商品でも、誰に、どの場面で、どの違いが価値になるのかは異なる。そのためAmazonは、商品説明のテキストだけではなく、画像内の文字、使われている場面、誰が使っているのか、管理画面の裏側へ登録された商品属性まで読み取っているという。コーヒー豆であれば、産地、内容量、焙煎度といった、表では目立たない情報も認識の材料になる。
なぜ、そこまで細かい情報が必要なのか。
Amazonが、商品の違いをより細かく理解し、利用者ごとに引き合わせようとしているからである。革のストラップを求める人もいれば、軽さを優先してプラスチックを求める人もいる。高い方が良いのではない。どの違いが、どの人に価値を持つのかが重要なのだ。
だから、商品説明、画像、登録情報を別々に考えてはいけない。すべてが同じ立ち位置を示し、その違いを具体的に伝えている必要がある。AI時代になって、榊氏の考え方が変わったのではない。近い商品との差を明確にし、その価値を正しく伝えるという従来からの考え方が、全体最適だけではなく、個々人への引き合わせにまで深く入り始めたのである。
5.最適化された世界は、売れているほど狭くなる
① 最適化は、新しい顧客を見えにくくする
ここまで見てきたように、Amazonは、商品と人を引き合わせる精度を高め続けている。それ自体は、利用者にも事業者にも悪いことではない。自分に合う商品が表示され、欲しいものへ早くたどり着けるからである。
ただ、精度が高まるほど、別の問題も生まれる。見える世界が、狭くなるのである。これは、Xを見ていると分かりやすい。同じ話題が何度も流れてくると、世の中全体がその話で盛り上がっているように感じる。しかし実際には、自分の関心や行動に合わせて選ばれた世界の中で、繰り返し表示されているだけかもしれない。広い世界を見ているつもりで、実は自分向けに整えられた小さな世界にいる。
Amazonにも、同じことが起こり得るのではないか。商品が売れ始めると、Amazonは、その商品を購入した人と近い傾向を持つ人へ提案する。そこでまた売れれば、その引き合わせはさらに強くなる。その結果、広告効率も良くなっていく。だが、その数字が良いからといって、新しい顧客へ届いているとは限らない。
榊氏は、広告の半分が既存顧客に当たっていたとすれば、その広告は、そもそもなくてもよかった可能性があると指摘する。単月のROASだけを見ていると、すでに買う可能性の高い人へ広告を出し続け、その中だけで効率を高めていることにも気づけない。
つまり、最適化は、今いる顧客との関係を深める一方で、その外側を見えにくくする。
② Amazon自身も、「外側」の顧客を探し始めている
だから僕は、Alexa for Shoppingの意味も、ここにあるのではないかと思う。Amazonは、これまでの検索キーワードや購入履歴だけでは拾えなかった需要を、会話から見つけようとしている。
利用者自身も言葉にできなかった悩みを引き出し、これまでの引き合わせとは異なる可能性を探る。Amazon自身が、新しい入口を作って、最適化された世界の外側へ出ようとしているのである。だとすれば、事業者も、今見えている広告効率だけを追ってはいられない。まだ買ったことのない人へ、どれだけ接点を作れたのか。そこへ目を向ける必要がある。
6.データの価値は、「何を共通化するか」で決まる
① データは「答え」ではなく、「材料」である
では、今いる顧客の外側に、次の顧客をどう見つけるのか。ここで重要になるのが、データである。ただ、データを増やせば答えが見えるわけではない。今の時代、データはすでに腐るほどある。大事なのは、その中から何を取り出し、どこを共通化するかである。
例えば、商品を購入した人が、どの広告を見て、どの経路を通り、購入へ至ったのか。その経路を並べるだけなら、事実の確認にすぎない。そこから、「この広告を見た人が買っている」ではなく、「この経路を通った人たちには、何が共通しているのか」と考える。
その時、データは初めて、新しい顧客を探す材料になる。榊氏がここで挙げたのが、Amazon Marketing Cloud、AMCである。AMCを使えば、広告の表示、クリック、購入を横断し、どの広告経路が新規顧客の獲得につながったのかを確認できる。
② AIが進化するほど、人間は「何を問うか」が問われる
そして、そのデータへ質問する言葉がSQLである。以前は、SQLを書ける人が必要だった。しかし現在は、何を分析したいかを自然な言葉で伝えれば、AIがSQLを生成する。榊氏は、どの広告経路が新規集客に有効だったのかをAIへ尋ね、生成されたSQLから結果を取り出せると話す。
ここで重要なのは、SQLを書けるようになったことではない。何を尋ねるかである。データの中から、どの共通点を見つけたいのか。何を確かめれば、今いる顧客と新しい顧客をつなげられるのか。それを定めるのは、人間である。榊氏の例では、新規購入へ至った人が、どの広告経路を通ったのかを見る。そこで一定の共通点が見つかれば、その人たちに似たオーディエンスを作れる。
しかし、それは単なる「そっくりな人」探しではない。自分たちの商品と相性の良い顧客は、どのような経路で興味を持ち、何をきっかけに購入したのか。その構造を共通化するのである。
データそのものが顧客の本質を教えてくれるわけではない。何を共通化するかによって、初めて顧客の輪郭が見えてくる。AMCは、そのための材料がある場所である。SQLは、その材料へ仮説を投げかける言葉なのである。
7.共通軸が見えた時、広告は「効率」から「投資」へ変わる
① 共通軸が見えた時、広告は「投資」になる
顧客の共通軸が見えれば、その先にいる、まだ顧客ではない人へ打って出られる。ただし、新しい顧客は、これまでの顧客ほど簡単には買ってくれない。すでに商品を知っている人へ広告を出すより、獲得単価は高くなる。短期的なROASも悪く見えるだろう。
それでも挑戦できるか。ここで、広告の意味が変わる。効率を求めるための費用から、新しい顧客を獲得するための投資へ変わるのである。榊氏は、AMCで新規顧客につながった広告経路を見つけ、その顧客に似た人たちへ、通常より高い入札額で広告を出す例を挙げる。
当然、既存顧客へ出す広告より効率は悪くなる。
しかし、その経路で獲得した顧客が、その後も商品を購入し続けているなら、初回購入だけで広告を評価する必要はない。LTVまで見れば、獲得時にどこまで踏み込めるのかが分かる。
榊氏は、短期のROASだけなら悪く見えても、その顧客が長く購入してくれるのであれば、通常より高い費用をかけて新規顧客を獲得する判断ができると話す。
② 投資できるのは、「立ち位置」が分かっているからである
ただ、ここで最も重要なのは、LTVという指標ではない。なぜ、その顧客へ投資できるのかである。自分たちの商品が、誰に、どのような価値を届けているのか。その立ち位置が明確だからこそ、現在の顧客に共通するものを見つけられる。その共通軸が見えるから、同じ可能性を持つ新しい顧客へ投資できる。
つまり、前半で書いた商品の立ち位置と、後半のデータ分析は、別の話ではない。立ち位置を明確にするから、顧客を共通化できる。顧客を共通化できるから、その外側にいる人へ仮説を広げられる。
そして、その人が実際に商品を選べば、Amazonはまた、新しい相性を学んでいく。榊氏は、そうした顧客との相性をAmazonへ伝えていけば、やがてAlexa for ShoppingやRufusによる提案にも反映される可能性があると見る。ただし、これは榊氏自身も想像を含む話だと断っている。
③ Amazonの本質は、AI時代になっても変わらない
それでも、Amazonの思想を考えれば、筋は通っている。Amazonは、利用者と商品の引き合わせに全力を注ぐ。新しい顧客との相性が実績として示されれば、その引き合わせを別の顧客へ広げようとするはずである。広告で新しい顧客を獲得することと、AIに推奨される商品になることは、離れた施策ではない。どちらも、自分の商品が誰と相性が良いのかを、Amazonへ伝える行為なのである。
こうして考えると、AmazonはAI時代になって、本質を変えたわけではない。検索では拾えなかった曖昧な需要を、Alexa for Shoppingという入口から取り込む。商品ページや画像、商品属性から、商品の立ち位置をより深く理解する。
そしてAMCに蓄積されたデータから、現在の顧客に共通するものを見つけ、その外側にいる新しい顧客へつなげていく。すべては、利用者と商品を引き合わせる精度を高めるという、一本の思想でつながっている。だから事業者に必要なのは、AI時代だけに通用する新しい技術を追いかけることではない。自分の商品が、近い商品と何が違い、誰の役に立つのかを明確にする。
その価値を100のままAmazonへ伝える。
そして、現在の顧客に何が共通しているのかを見つけ、まだ出会っていない顧客へ打って出る。Amazonの本質は変わっていない。ただ、その本質を実現する入口と手段が増え、事業者にも、より深く自分たちの商品と顧客を理解することが求められ始めているのである。
今日はこの辺で。







