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放課後、モンスターを縫っている──17歳、アルショップの内なる宇宙

 制服の向こう側に、もうひとつの世界があった。この日、僕は、デザインフェスタminiに来て、一人のアーティストの二つの驚きに遭遇した。原宿のデザインフェスタ・ギャラリーで出会ったその作品群は、どれも目を引くものだった。けれど、真正面から向き合うと、一瞬たじろぐ。角のあるぬいぐるみ、血のように赤い縫い目、無表情の顔をしたモンスターたち──グロテスクなはずなのに、どこかユーモラスで目が離せない。

 そして、その異形の世界をひとりでつくっているのが、まだ17歳の高校生だと知って、驚きは確信に変わった。ブランド名は「アルショップ」。ここではアルさんと呼ぼう。

小学生からずっと「変わったものが好き」だった

 ぬいぐるみ、アクセサリー、イラスト──表現の手段を自由に横断しながら、彼女は“自分の好き”を、確かな形に変えている。

「小学生の頃から、作ってました」

 ええ?思わず叫んでしまった(笑)。この一言にすべてが詰まっている気がした。

 最初から誰かに習ったわけでも、売ることを考えていたわけでもない。ただ、気づいたら“変わったもの”が好きになり、布や樹脂を使ってそれを形にするようになった。

 影響を受けたのはホラー映画。

 「怖いけど綺麗」「不気味だけど目を離せない」──そんな感覚に惹かれ、彼女は自然と角や目玉を持つモンスターを作るようになっていた。ぬいぐるみに使われている角やコーンのパーツは、すべて自作。シリコンで型を取り、樹脂を流して固める工程もひとりで行っている。

「買ってくるのはなんか違う気がして。自分で全部つくりたくて」

 その手には、クリエイターとしての矜持が宿っていた。

「静かな高校生」の、もうひとつの顔

「学校では本当に静かです」

 そう語る彼女は、イベント会場では堂々と作品を紹介していた。

 でも普段は、制服を着て教室で過ごす、ごく普通の高校生。話すときは少し照れたような声色で、でも作品の話になると芯のある言葉が返ってくる。“ギャップ”という言葉は簡単だが、それ以上の深さがある。

 人前では言えない思いや、日常に居場所を感じられなかったことも、きっと少なくないだろう。でも、モンスターたちを縫い続ける中で、「ここなら自分でいられる」という感覚を見つけてきた。

 その静かで強い自己肯定の感覚こそが、今の彼女を支えている。

「静」と「動」──姉妹というもうひとつのコントラスト

 取材の終盤、アルさんの話にそっと加わってきたのが、彼女の“お姉さん”だった。

 会話のトーンもややハキハキとしていて、装いも含めて、ごくごく普通のお姉さん(失礼!良い意味での話だ)。その姿は、まさに“外で柔軟に溶け込む人”。美術系の家庭に育った姉妹らしく、話の端々にアートやビジュアルカルチャーへの理解がにじむ。

 でも、アルさん自身は、「学校では静かです」とお姉さんも語り、控えめに言葉を選ぶタイプだとか。だが、その奥にはしっかりとした熱量と世界観がある。でも、作品に取り掛かると、“外へ表現を解き放つ人”。この“静かな妹”と“動きのある姉”というコントラストは、ただの性格の違いではなく、表現の源の違いでもある。

 姉は外界にインスパイアされ、それを拡張するように表現するタイプ。妹は内側から湧いてくる感覚を手作業で具現化していくタイプ。

 どちらも「つくる」という行為において、本質は変わらない。家族の中に、似ているようでまったく違う2つの表現がある──その空気感こそが、このブランドの面白さなんだろうな。

「メルカリ」という小さな窓から、世界に向けて

 驚いたのが、ただ自己満足でそれを手がけているわけではないこと。アルさんは、作品を販売する場所として「メルカリ」を選んでいる。まずは自分ができる一歩を試した。

「売れたとき、すごく嬉しかったです」

 どこかの誰かが、お金を払って自分の作品を買ってくれた。小学生にしてその楽しさを味わった彼女は、自らの創作意欲がちゃんとお金につながっていくことを、把握していたのである。別にお金儲けをしたいわけじゃないと思う。その事実が、自分の手でつくったものに“価値”があることを教えてくれた。この現実に喜んでいるのだと思う。いずれにせよ、それにも、感銘を受けた。

 勿論、価格も、商品説明も、発送方法も、すべて自分で考える。だからこそ、「買ってくれた人が喜んでくれるにはどうしたらいいか?」を自然に考えるようになる。

 マーケティングの知識はなくても、彼女はすでに「誰かに届けるための設計」を実践しているのだから。

若さというエネルギーは、「迷いながら試す」ことに使える

 イベント会場でのやりとりの最後、ふとした言葉が印象に残った。

「まだ若いから、これからですけど……」けれど、僕からすれば、それは“これから”ではなく、“すでに始まっている”挑戦だった。

  話し始めると止まらない。自らの作品をインスタで見せてくれて、その一つ一つに驚かされる。

 小学生の頃から続く表現への衝動。自作パーツにこだわる探究心。メルカリでの販売という現実的な一歩。

 どれも、創作に必要な本質が詰まっている。誰かに褒められたからでも、有名になりたいからでもない。

「つくりたい」「届けたい」──それだけで、彼女はもう“表現者”なのだ。

表現とは、「自分の中の静かな違和感」に手を伸ばすこと

 社会に出ると、やりたくないことをやる時間の方が多くなる。けれど、アルショップさんのような存在を見ると、胸の奥がざわつく。

 あの頃、自分にも確かにあった“好き”や“こだわり”を、今でも信じて動いている人がいる。しかもそれが、17歳の女の子なのだ。

 彼女の作品は、可愛いとは言い切れない。不気味だけど、このテイストを好む人がいる。果たして成功するかどうかはわからないけど、この不完全さ、未完成さこそが、むしろ見る者の想像力を刺激する。

「何か感じる」──その余白があるから、人の心に残る。そしてそれは、きっと僕ら大人にとっても必要な感覚だ。やり方がわからなくても、ツールがなくても、「好き」から始めていい。迷いながらでも、何かは必ず形になる。

 そう思わせてくれる、17歳の創作だった。いい刺激をもらった。

今日はこの辺で。

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