「そこに顧客はいるのか?」Francfrancの講演から見えた、再現性のあるブランドづくり

ブランドづくりというと、「センス」の世界だと思われがちだ。とりわけインテリアや雑貨のような商材では、「感性」が成功を左右する、と語られることも少なくない。しかし、本当にそうなのだろうか。「第29回 ライフスタイル Week 夏」で、株式会社アインファーマシーズ Francfranc事業部長兼事業開発部長・佐伯佑介氏の講演を聞きながら、私の頭に浮かんでいたのは、「そこに顧客はいるのか。」
商品を企画するときも、店舗をつくるときも、販促を考えるときも、これがなければ、どれだけ優れたアイデアも独りよがりになってしまう。逆に、この問いを組織全体で共有できれば、感性は属人的なセンスではなく、再現性のある力へと変わっていく。
今回の講演で僕が興味を惹かれたのは、まさにその構造だった。
第一章 構造を理解すると、感性は再現できる
① 製造小売だから強いのではない。「顧客を起点に考えられる」ことが強い。
講演を聞いていて、最初に興味を惹かれたのは、Francfrancが製造小売であるという理解だった。もっとも、それは「自社で商品をつくれるから強い」という単純な話ではない。
僕が面白いと思ったのは、製造から販売までを一つの会社で担っているからこそ、すべての仕事を「顧客」という同じ視点でつなげられることだった。一般的には、商品開発は商品開発、物流は物流、店舗は店舗というように、それぞれが最適化を目指しやすい。
ところがFrancfrancでは、それぞれの部署が違う仕事をしていながら、判断の起点が同じなのである。
その象徴が、クリスマス商戦の話だった。
佐伯氏は、一年前から次のクリスマスを考え始めると話していた。ただし、「今年は何が流行るだろう」というところでは終わらない。
まず世の中のトレンドを把握する。その上で、もう一度問い直すのである。「Francfrancとして、どんなクリスマスを提案するのか。」
ここで、自分たちなりの答えを定義する。つまり、流行を集めることが目的ではない。流行を受け止め、自分たちならどんな価値を届けるのかを決めることが目的なのである。
この順番が、とても重要だと思った。商品は、最初から商品として考えられていない。届けたい価値が決まり、その価値を表現するには何が必要なのかを考える。
必要なアイテムは何か。優先順位はどうするか。クリスマスに間に合わせるには、いつまでに企画し、生産し、物流へ乗せなければならないのか。
商品は、その結果として生まれてくる。つまり、価値から逆算して商品が生まれる構造になっているのである。ここで私が感じたのは、「感性を大切にしている会社」という印象ではなかった。
むしろ逆だった。感性を、そのまま感覚に任せない。一つひとつを判断できる構造へ置き換えているからこそ、組織全体で同じ方向へ進めるのである。
② 「うちのお客様なら、どうだろう。」という共通の物差し
その構造は、商品の考え方にも一貫していた。佐伯氏は、商品価値を考えるうえで、「目利き」と「デザイン」という二つの要素を挙げた。目利きとは、品質や機能を見極める力。デザインとは、装飾性や世界観をつくる力である。
ここだけを見ると、どこのブランドでも語られそうな話に思える。しかし、Francfrancはその先が違う。必ず、「Francfrancのお客様なら、どう感じるだろう。」という問いを挟むのである。
世界中のトレンドを調べる。便利な機能も見つける。美しいデザインも見つける。それでも、そのまま採用はしない。
「他社なら成立するかもしれない。でも、うちのお客様なら、どこまでなら自然に受け入れられるだろう。」
講演では、それを「0.5歩先」と表現していた。この話を聞きながら、私は「構造的理解」という言葉が浮かんだ。感性を、「顧客」という共通の物差しで整理しているのである。
だから、担当者が変わっても判断基準はぶれない。機能と装飾という二つの軸を持ち、さらに「うちのお客様ならどうだろう」という問いを通すことで、商品は少しずつ絞り込まれていく。
その積み重ねが、「Francfrancらしい商品」をつくっているのだと思った。
③ 再現性は、「構造」があるから生まれる
ここまで話を聞いていて、私が最も印象に残ったのは、商品づくりそのものではない。商品づくりの”考え方”だった。感性を大切にする会社は多い。数字を重視する会社も多い。
しかし、その二つをつなぐ会社は意外と少ない。Francfrancは、感性を起点にしながら、それを誰もが判断できる構造へ分解している。
だから商品が変わっても、担当者が変わっても、ブランドはぶれない。ここで、その背景に製造小売という立場が活きているのだと思った。
商品が生まれる理由を知っている。その商品を、どう届けるかも考えられる。そして、その価値をどう伝えるかまで、一つの流れで設計できる。
だから部署が違っても、全員が同じ方向を向ける。講演を聞きながら、「製造小売だから強い」というより、製造小売という立場を生かして、顧客を起点にした共通の判断軸を組織全体へ張り巡らせていることが強い。
そう感じた。
そして、その構造は、この後に語られる店舗づくりでも、まったく同じ形で現れてくるのである。
第二章 店舗もまた、「顧客」から逆算してつくられている
① 店舗は、商品を売る場所ではない
第一章で見えてきたのは、Francfrancでは商品が「価値」から逆算して生まれているということだった。では、その価値は、どうやってお客様へ届くのだろう。
その答えが、店舗だった。講演の中で佐伯氏は、店舗を「ブランド価値を体現する場所」と表現していた。さらに、「店舗は舞台であり、スタッフは演者である」という印象的な比喩も用いている。
僕は、この話を聞きながら、商品開発とまったく同じ構造がここにもあることに気づいた。
商品開発では、「Francfrancなら、どう提案するか。」を考えた。
店舗では、「この店のお客様なら、どう伝わるか。」を考えているのである。
つまり、店舗は商品を並べる場所ではない。商品の背景にある価値を、その地域のお客様へ届く形にもう一度翻訳する場所なのだ。
だから、店舗の役割は販売ではない。価値を届けることである。
ここまで一貫して考えられているからこそ、商品開発と店舗は別々の仕事ではなく、一つの流れとしてつながっている。
② なぜ、店によって売り場が違うのか
この考え方が最も分かりやすく表れていたのが、立地ごとの売り場づくりだった。佐伯氏は、店舗のロケーションによって、お客様が来店する目的はまったく違うと説明する。
例えば、駅直結のファッションビル。ここへ来るお客様は、流行や新しい発見を求めている。滞在時間も長くない。
だから入口では、まずトレンド感のあるファッションアイテムを見せ、一瞬で「入ってみたい」と思わせる必要がある。
一方、地域密着型のショッピングセンターでは事情が違う。家族で来店し、生活用品の買い物も兼ねている。だから、「今日はこれも買っておこう」と思えるような消耗品や日用品を自然に手に取れる売り場が求められる。
さらに、広域型ショッピングセンターでは、お客様は車で来店する。大きな家具でも持ち帰れる。
だから家具を組み合わせ、「こんな暮らしがしたい」とイメージできる空間提案が重要になる。ここで面白いのは、店によって商品を変えていることではない。
店によって、お客様が違うことを前提に価値を再解釈していることなのである。つまり、クリスマスというテーマが同じでも、ファッションビルと地域密着型店舗では見せ方が変わる。
商品は同じでも、価値の伝え方は変わる。第一章で商品開発がやっていたことを、店舗も同じように繰り返しているのである。
③ 裁量とは、「自由」ではなく「構造」の上に成り立つ
ここまで聞いていて、僕は一つ疑問が浮かんだ。ここまで店舗ごとに違うなら、本部は何をしているのだろう。逆に言えば、店舗へ任せ過ぎればブランドはばらばらになってしまう。
しかし、本部がすべて決めれば、その土地のお客様には合わなくなる。その答えも、講演の中にあった。商品が生まれた理由。この商品で、どんな暮らしを提案したいのか。何を伝えたいのか。
そこだけは、本部が明確に共有する。だから店舗は、「何を伝えるか」は変えない。変えるのは、「どう伝えるか」だけなのである。
この違いは、とても大きい。共通化するべきものと、現場に委ねるべきもの。その線引きがあるからこそ、店舗は自由に考えられる。
実際、講演では売り場を見直したことで前年比約40%売上が伸びた店舗の事例も紹介された。照明そのものを変えたわけではない。商品の配置や見せ方を見直し、お客様の動きに合わせて売り場を再設計した結果だった。
この数字を聞いて、「店舗スタッフのセンスが良かった」とは思わなかった。むしろ逆である。商品開発で使っていた構造を、そのまま店舗へ持ち込み、お客様に合わせて最適化した。
だから結果が出た。感性だけでは再現できない。構造があるから、創意工夫が成果につながる。
第三章 経営の仕事は、「判断軸」をつくること
① 本部は「正解」を配る場所ではない
ここまで見てきたように、Francfrancの商品づくりも店舗づくりも、一つの共通点があった。それは、「顧客を起点に考える」という判断軸である。では、本部の役割とは何だろう。
売り場を細かく指示することだろうか。
商品を一律に並べさせることだろうか。
講演を聞いていて、そうは感じなかった。佐伯氏は、本部が考えるべきこととして、お客様の期待とブランドが届けたい価値を基準に、サービス全体を見直していく話をしていた。店舗だけではない。物流も、マーケティングも、ECも、カスタマーサポートも含めて、「どこへ力を入れ、どこを効率化するのか」を決めることが本部の仕事だというのである。
ここで重要なのは、「何をするか」より、「何を判断基準にするか」だった。つまり、本部は現場へ正解を配る存在ではない。
現場が自分で判断できる基準を整える存在なのである。
② 「自由」と「共通化」は対立しない
講演を聞き終えたとき、一つの答えが見えた。なぜFrancfrancは、店舗ごとに違う売り場をつくりながら、それでもブランドとして一貫性を保てるのか。
それは、自由だからではない。逆に、縛っているからでもない。共通化するものと、自由にするものを、明確に分けているからである。
顧客を起点に考えること。商品が生まれた理由を理解すること。ブランドとして届けたい価値を共有すること。ここは全店共通である。
一方で、その地域のお客様にはどう伝えるか。入口で何を見せるのか。どんな順番で商品を見てもらうのか。ここは店舗ごとに違う。
つまり、本部が共通化しているのは「答え」ではない。考え方である。
だから現場は自由になれる。
私は、この講演を聞きながら、「管理が強い会社ほどブランドが強い」のではなく、「判断軸が共有されている会社ほどブランドが強い」のだと感じた。
これは小売だけの話ではない。組織が大きくなればなるほど、人はマニュアルを増やしたくなる。しかし、本当に必要なのは、マニュアルではない。
誰もが同じ問いを持てることなのではないか。
「そこに顧客はいるのか。」
Francfrancの強さは、この問いが商品開発から店舗、本部まで、一つの構造として貫かれていることだった。
第四章 AIが変えるのは、人の仕事ではない。構造を回す速度である
講演の終盤、佐伯氏はAIの活用についても触れた。プレゼン資料の多くをAIで作成したことや、今後も定型業務はAIへ置き換えていく考え方を紹介していた。
ただ、ここまで記事を読んできた人なら分かると思う。この講演の本質は、AIではない。AIが何をできるのかではなく、人は、どこで価値を生み出すのか。
その答えを探していた講演だった。商品開発では、流行を集めることが仕事ではなかった。「Francfrancとして、どんな価値を届けるのか。」という問いを立てることだった。
店舗では、商品を並べることが仕事ではなかった。「この店のお客様なら、どう伝わるだろう。」を考え続けることだった。
本部もまた、正解を配る仕事ではなかった。現場が自ら判断できる共通の物差しを整え、その構造を磨き続けることだった。どこを切り取っても、最後は同じ場所へ戻ってくる。
「そこに顧客はいるのか。」
これが、商品開発にも、店舗にも、本部にも流れている。だから、部署が違っても判断はぶれない。だから、ブランドとして一貫した価値を届けられる。
感性を構造で支え、その構造を数字で磨き続ける。その循環があるからこそ、ブランドは一時的なヒットではなく、積み重ねによって育っていく。顧客を起点にした判断軸が、組織の隅々まで行き渡っている状態。その積み重ねこそが、人に選ばれ続ける理由になるのだと気付いたのである。
今日はこの辺で。







