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なぜ「かにファクトリー」は、ここまで規格外なのか──その建物には、一人の経営者の人生が詰まっていた。

 やること、なすこと、全ては規格外で、そこまで振り切れば、ライバルすら出てこない。正直、胸に抱いた気持ちはそれだった。僕が訪れたのは、「かにファクトリー by 甲羅組」。カット生ずわい蟹の工場見学やシネマ、遊びや食事処が揃う、北陸新幹線が開通した敦賀駅から車で10分ほどのところにあるテーマパークである。

 昨日、一日歩いてみて分かった。この施設は、工場でもレストランでもない。運営をしている伝食 代表取締役 田辺晃司さんがこれまで話してきた『大きく振る』『真っ当』『地域』『仕事の報酬は仕事』という一見バラバラだった話が、すべて建物になっていたのである。

①何より驚いたのは、「無料」だった。

 驚くのは、入場料が無料であることだ。 

 田辺さん自身、これを壮大な実験だと語る。まず、そもそもの話であるけど、カニの名産地といえば、北海道などがお馴染み。ただ、敦賀がここまで「カニの街」として打ち出されるようになったのは、実は最近のことだ。そこに、この拠点の意味がある。それが、田辺さんの生き方にも関連してくるから実に面白い。

 彼の話を聞くと、確かに、敦賀は港町であり、カニを食べる文化はあったけど、ここまでカニを打ち出すきっかけとなったのは、まさに彼が生業の中心としているネット通販がきっかけでもある。

 どういうことかというと、その場で食べる分にはいいのだが、全国にそれを送り届けるとなると、専用の加工場が必要となる。つまり、専用の加工場を作るようになったことで、それだけのカニをこの場所から出荷できるようになった時に、カニはこの地の名産品となった。

 特に、田辺さんは、今から15年ほど前に、会社を立ち上げ、ネットでカニを売り始めて、月商0円から始まり、やがて月商30万円ほどに、今や年商160億円。そこでのヒット商品が、カット生ずわい蟹なのであり、メインコンテンツは、その製造工程を見ることができることにある。

 また、拠点のスタート地点には、体験コーナーがあって、その商品を使って、カニの食べ方講座である。案外、噛み切ったり、口で吸ったりする人が多い。だから、気持ちよく食べれるように、先生が丁寧に教えてくれる。

 自然と、商品を購入したくなるようなきっかけ作りを用意しているのだ。さらに、驚きなのが、事前予約制で、その体験はなんとタダ。二回目以降も五百円という破格である。えええ?って唸ってしまった。

②無料には、田辺さんらしい理由があった。

 なぜなら、そもそも、かにファクトリー自体の入館料もタダであるからだ。要するに、予約さえ取れれば、この場所に来て、カニの食べ方体験まで無料でできてしまうのである。しかも週末は、専用のシャトルバスまで走る。もちろん、無料である。

 ただ、これこそが、実に田辺さんらしいところである。彼も話しているが、近隣には、ミュージアムがあって、その多くは、大抵、自治体が関係していたりする公共のものでありながら、数百円の入場料を取る形式をとっている。

 わずか数百円が寄与するのは限定的。なぜ取るのだろうと。

 実際に、全国のテーマパークに彼が足を運んだところ、100万人の来場者を超える明太子ミュージアムなどは、無料である。つまり、そのわずか数百円の差で、立ち寄るプライオリティが変わるのであれば、最初から無料にするべきだ。

③ 大きく振るから、本当の答えが見える。

 これこそが、彼の人生にも直結している。話が逸れるが許して欲しい。以前、彼が話してくれた話に、大砲の話がある。

 え?なに、大砲??そう思われる方もいるだろうが、彼がこの施設に限らず、共通して、戦略で意図していることに通じる。要するに、振り切ることである。大砲を打つ時、もしも狙い通り当たらなかったら皆さんはどうするだろう。すぐ横にずらして、また打つのではないか。

 しかし、実は、少しずつ修正しても答えは見えない。

 だから、田辺さんはそうしない。すぐ横ではなく、うんと離れた場所へ、左右に大きく振って打つ。それだけの振り幅で挟むから、本当の答えはこの間にあるのか、と初めて見えてくる。

 この話も、みかんを扱うお店、上野真歳さんから聞かされた話を大切に、彼流に咀嚼したものだ。

 これは彼のネット通販のやり方にも直結していて、値引きもやるなら、半額までしてしまえばいいという。なぜなら、それでも売れない商品は、なにをしても売れない。逆に売れる商品は、値上げしても、その後、買ってくれる人がいるというのである。

 だから、これらの無料の理由を聞いて、彼の人生と照らし合わせた時に、いかにも田辺さんらしいと僕は納得したのだ。だからこそ、見るべき数字も売上だけではない。見るべき指標は来場者数。目標は50万人である。

④「旬」を売るのではなく、「カニ」を一年中届けたかった。

 その来場者数を支えるのが、開業の時期だ。ここにも、彼のネット通販のやり方が重なっている。

 実は、このオープンの7月というのは、敦賀の名産となった越前かにの収穫時期ではない。本来は、11月〜翌年3月であり、ここにこだわらず、年中売れるようにしたことが、甲羅組のECが他との差をつけた要因である。

 つまり、収穫時期が限られているのは日本海に限った話であり、世界に目を向ければ、時期が変われば、収穫できるのである。そこで、港町である敦賀の利点を活かして、世界中から集めるのである。そうすれば、常に、旬のカニを、年中売れるようになる。

 同じ発想が、開業の時期にも出ている。カニは冬のもの、という常識をあえて外す。夏休みにこそ、カニで楽しんでほしい。その考え方は、入り口の物販コーナーにも表れていた。

 ネットで人気の商品はもちろん、地域の特産品まで並ぶ。しかも値札にはQRコードが付いていて、そこから自社ECサイトへ飛べる。ただ、田辺さんは言う。

「知ってもらえれば、買うのは楽天市場でも、Yahoo!ショッピングでも構わない。」

 売る場所を囲い込むことではなく、まず知ってもらうこと。その発想もまた、ネット通販で育ってきた田辺さんらしかった。

 そして、その体験コーナーを超えて、先へ行くと、カット生ずわい蟹の生産拠点(ミニ工場)があって、ここでガラスを通して、働く人の姿が見える。

 上には1、2、3と番号は振られ、壁にはその数字の工程がなにをしているのかが書かれている。

 ここが肝であると思っていて、この拠点はカニの拠点ではないからこそ、彼の強みが生かされるわけである。大事なのは、カニに関する「真っ当な」仕事ぶりを示している点なのである。

⑤ガラス越しの工場で、「真っ当」の意味が分かった。

 「真っ当」とは何か。以前、田辺さんは、一度「真っ当な会社になろう」と思った時期があったという。しかし、それは違った。人並みに整えることではない。まして、誰かを蹴落として勝ち上がることでもない。

 自分たちの仕事と、どこまで本気で向き合えるか。カニとどれだけ本気で向き合っているのか。その仕事を胸を張って見せられること。

 だから工場を隠さない。だから加工を見せる。だから体験にする。この瞬間、この建物が単なる工場ではなくなった。ずっと向き合ってきた、カニの商品づくりのノウハウが、結果、この施設のコンテンツとなっているのだから強い。

 さらに、難しそうな一つ一つの要点は、その横にあるシアターで、コウラクミなどのオリジナルキャラクターによるムービーで解説してくれて、子供達にも響くことになって、未来の雇用につながる。

 つまり、地元への貢献度も高くなる。この地元への貢献度がまた、彼の成長を後押しした要因でもある。

 実は、甲羅組の売り上げが年商50億円ほどになった時、3年ほど、何を目標に据えればいいのか見えなくなった時期があった。「会社をきれいにしよう」「適正利益を出そう」。そんな”常識的な経営者”になろうとした時期だったという。

 実は、その突破口になったのが、ふるさと納税だった。

⑥地域に残したかったのは、施設ではなく「人が集まる理由」だった

 売上が伸びても、地元での存在感はほとんどなかった。

 しかし、ふるさと納税を契機に、地域から「すごいね」と声を掛けられるようになり、自分たちの仕事が地域の役に立っていることを実感する。その頃から、「もっと地域に貢献したい」という思いが強くなっていったのである。

 だから、物流の拠点を造ることを決めた。同時に、生産拠点も併設することで、この場所から新しい価値を生み出せるようになった。その積み重ねが、年商160億円を超える成長にもつながっていった。

 しかし、それだけでは終わらなかった。建設地は、本来、製造業と物流施設しか認められていない産業団地だった。田辺さんは、そこへ物販や飲食も認めてほしいと行政へ働きかける。地域の人が訪れ、観光客も集まる場所にしたかったからだ。

 さらに、この地域には長年、道の駅がなかった。民間施設が大きすぎることなどから、行政との融合が進まず、二十五年もの間、その構想は実現していなかったという。

 だからこそ田辺さんは言う。「僕はここにインフラを渡す。」その言葉は、道路や建物のことではない。人が集まり続ける土台を、この街に残したいということだった。

 施設を造ることが目的ではない。地域に、人が集まり、経済が回り、新しい価値が生まれる拠点を残すこと。その発想まで含めて考えると、かにファクトリーは一企業の新施設ではなく、地域への新しい提案として見えてくる。

⑦「仕事の報酬は仕事」──田辺さんが本当に欲しかったのは、次の挑戦だった。

 一見すると、お金の話ばかりしているようだが、実は、それは違う。彼は可能性の話をしているのだと、僕は思っている。

 彼は起業時代に、本当に苦労した。取引先はわずか一社で扱える商品に限りがあったからこそ、それと比較して、こう語る。これだけ商品を仕入れて、自由に商売に変えられるなんて、なんて恵まれているのだろうと。

 ここでようやく、田辺さんが何度も話していた「仕事の報酬は仕事」という言葉が腑に落ちた。彼にとって会社が大きくなるということは、売上を積み上げることではない。次の挑戦ができるようになることだった。

 それは、彼のこの言葉に集約される。仕事をして成果を出すことの報酬は、新しい仕事に巡り合えることであると。新しい仕事が舞い込んでくるなんて、幸せなことじゃないですか、それは、彼の苦労時代を踏まえることで、深い意味を持つ。

 集まるお金が多くなれば、それだけ扱える材料が増えて、もっと新しい商品を自らの手で生み出せるということになって、さらに違った景色を見ることになり、それを地域に寄与していこうという考えが、かにファクトリーに至るのは自然にさえ思える。

⑧だから、かにファクトリーはスタート地点なのである。

 採算だけを考えれば、ネットに振り切った方がいい。

 それでも、この施設には、カニ工場やレストランだけではなく、「かにキッズランド」や「デジタルおえかきランド」といった、子どもたちが遊びながら楽しめる空間まで用意されている。

それは、採算だけでは説明できない。

 田辺さん自身も、それは分かっている。けれど、地域に根差し、道の駅のなかった街に人が集まる理由をつくる。それは、きれいごとではなく「意地」なのだという。会社が信用を積み重ねて得たお金でやるから、本気になれる。

 その言葉を聞くと、かにファクトリーが単なる新施設ではなく、田辺さんの覚悟そのものに見えてくる。聞けば聞くほど、これだけ壮大な実験でありながら、その先にある景色まで見据えていることが分かる。

 ここから先は、僕の想像だ。この箱は、いずれ海外へ渡る。だが面白いのは、その頃には敦賀のこの場所が、もうカニだけの場所ではなくなっているということだ。周辺には海が見え、豊かな食材が育つ土地がある。海も、畑も、この一帯そのものが一つの目的地になっていく。海外に「かにファクトリー」ができる頃、こちらの敦賀は、カニを超えた何かになっている。

 そうなれば、この場所の価値が敦賀の価値になり、敦賀の価値が、結果として甲羅組の価値にもなっていく。

 そう考えると、この場所は、スタート地点に過ぎない。地域を盛り上げるという新たなテーマを持って、敦賀どころか、日本を元気づけようと、田辺さんは意気軒昂である。

 今日はこの辺で。

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