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挑戦し考え続ける力――モノプラス会長 秋葉淳一さんが語る「無駄にしない人生」

 目の前にあることをただただ、やり過ごす。その日常では見えてこない。モノプラス 会長 秋葉淳一さんはそれを強調する。それは「経験も無駄ではない」「時間は無駄にしない」とも表すことができる。徹底してその真理を突き詰めて、物事の本質を解き明かすこと。それを繰り返すのが、彼にとっての無駄にしないセオリー。エンジニア、経営者など多岐にわたる経験で、自身が学んだことだ。常に「何が本当に大事なのか」を問い続けてきた人生。その軌跡には、AI時代を迎える現代においても通じる、普遍的な教訓が詰まっている。

「どんな経験も無駄ではない」

 自分が大事にしているのはこれでなんですよね。そう言って見せられたのがこの二つだ。

「経験は無駄ではない」「時間は無駄にしない」

 こちらは、矛盾しているように思えるが、矛盾していない。多くの人は「時間を無駄にしない」という意味を、単純に「無駄なことをしない」と解釈しがち。だが、「無駄なことをしろ」というのである。

 つまり、一見すると無駄に思えるような経験も、無駄ではない。ただ、それはただ、経験をすればいいわけでもない。経験を受け入れ、そことどう向き合うのか。自らの姿勢について、彼は言っているのである。

 これを語る上では、秋葉さんの過去を振り返ることなしにはありえない。彼が最初に入社したのが新日本製鐵。配属されたのは新規事業で、制御用マイクロコンピュータを扱う部署であった。

 彼は大学で土木工学を学んでいたから、ゼネコンに入ったのに「コンピューターの開発かよ」と当初は嘆いていた。

 おまけに、その後、SCM(サプライチェーンマネジメント)について学ぶべく、海外に行くことになり、ますます遠のいていく。当時、そもそもSCMという言葉すら浸透していなかった。だから、その時の落胆ぶりは、言葉にならないほどだった。

 つまり、この時点では彼は「時間を無駄にしている」そう思い込んでいたのである。

想像とは異なる世界が広がっていた

 ところが、「何が無駄であるか」。案外、人は、わかっているようでわからない。だから、目の前に何か対峙した時の姿勢が問われるのである。

 少々、話が細かくなるけど、大事な話なので聞いてほしい。実は、製鉄所では、鉄鋼を製造するために多くの工程があり、それぞれの工程で「制御」技術が重要な役割を果たしている。制御技術とは、機械やプロセスを自動的に管理し、最適な状態で運転するための技術のことなのだ。

 これにより、製品の品質を向上させ、コストを削減することが可能になる。

 だから、製鉄所でいえば、鉄が冷えると加工ができないので、それだけ高速でコントロールすることになる。だから、制御用マイクロコンピュータの製造や、製造装置の通信・動作検証を通じて、「10ミリ秒」という単位で物事を考える厳密な世界を経験した。

 ところが、彼は衝撃を受ける。それまでの知見を生かすべく、その後、半導体工場の立ち上げ現場に携わるときのこと。環境は、まるで違っていたのだ。自分の手で、ケーブルを抜いて「3秒」経ったらケーブルを指す。

 つまり、アナログの世界であったわけである。しかし、ここでアナログ作業にとらわれていたら、何も見えない。

 彼はその前の仕事で、物事を俯瞰して、全体での効率化を考えていた。だから、この作業も、それを形成する一部分に過ぎないことを察した。それと同時に、とても大事な作業であることもわかった。

人間こそ、仕組みが大事

 彼はこれを面白い表現で説明してくれた。抽象度の問題ではないかと。具体的な要素があって、それがある一定のところで抽象化された時に、どこまで抽象化されることが、全体最適になるのか、それを考えることがとても大事だということ。その本質がこの時、片鱗として見えてきたのかも知れない。

 それを踏まえて、僕ら人間が的確な指示を出せば、しっかり現場が稼働していく。それはまわりまわって、個々の人間の業務すらも助けることになって、僕らの環境は改善していく。

 目の前にある事象の何を見極め、どう指示をしていくか。これを考える上で、その物事の本質をみていかなければ、それができない。だから、最初に話した通り、目の前にあることをやり過ごす。その日常では見えてこない。そう書いた次第だ。

 つまり、作業員になってはダメなのだ。それこそが「時間を無駄にしている」ということになる。

 この根本を辿れば、SCM(サプライチェーンマネジメント)にも応用できる。

 サプライチェーンマネジメント(SCM)は、製品の原材料調達から製造、流通、販売に至るまでの一連のプロセスを統合的に管理する手法。この管理手法は、企業が効率的に商品を供給し、顧客のニーズに応えるために重要である。秋葉さんは、現に、SCM導入コンサルタントとして、エスビー食品やユニクロなど数々の企業で成功を収めた。「無駄である」と思った「SCM」が結果、彼の強みとなっていくのである。

コンピューターの世界と変わらない

 この話で最も注目すべき点は、全く違う業種であるということ。なにせ、食品とアパレルだ。それでも、活躍する所以はどこにあるのか。繰り返しになるが、仕組みづくりなのである。その意味では、彼が新日鐵で向き合ったことと大きく変わらない。

 それらの倉庫などに訪れ、その環境の違いは感じながらも、一定の共通項を見出す。それこそが、先ほどの抽象度の話につながる。これが突破口になりうる。

  倉庫では、制御用マイクロコンピュータに関わっていた時とは比べ物にならないくらいに、人の数が多い。だからこそ、イレギュラーがたくさんあったし、業務効率の悪いところも見られた。しかし、その多くが解決策を見出せなかったのは、その目先の作業に追われていたからである。

 ところが、ひらめきを得たのは、実はコンピューターと変わらないではないかということ。コンピューターの業務は設計をして、それを滞りなく、一つの目的を達成するために、連携して形をなしている。それらは一つ一つ、仕組みづくりから入る。実際に作業を動かして、何か問題が発生すれば、その仕組みの部分から立ち返り、解決策を見出していた。それと同じじゃないか。

 しかし、いざそれが人間となると、そういう動き方はしない。なぜなら、個々人の存在に目を向けてしまい、問題を人間単位で捉えるからだ。それにより、物事の本質に辿り着けないのである。

具体と抽象

 でも、物事は必ずロジックがあって、それが生産性高く、運用されている。抽象度を調節して、共通項を見出し、早く物事を解決させるためのアップデートをしていく。そうすることで、コンピュータと同じく、引きずることなく、業務の改善ができるのである。これが他ジャンルでも活躍できた所以である。

 正直、彼は新しい分野に飛び込むたびに「知らないことだらけ」だったと語る。

 しかし、「未知への挑戦こそが成長につながる」と信じ、常に一歩を踏み出した。専門外だからやっても無駄と判断して、避ける事こそが時間を無駄にするとわかっていたから。だから、驚くほど、同じ部分があると気づいた。扱うものは違っているし、環境も、働く人も異なる。けれど、そこには共通して「ロジックが存在して、それにより運用が進められている」という現実。

 だから、しぶとくその現場を見て回り、よくよく理解を深めて、個々の事例に合わせて考えていくにすぎない。何を課題としてチョイスして、業務の要かを見極める力。それこそが大事なのである。

 結果的に、過去からそういうことを繰り返すほど、見極めと解決の精度が上がっていく。

 特にユニクロの案件では、中国の縫製工場に何か月も常駐し、生産現場の実態を徹底的に学び取った。「システム屋が現場に飛び込むことで、初めて見える本質がある」と彼は強調する。この経験が、物流業界での活躍を支える重要な基盤となった。

「本質を見極める」投資家としての視点

 秋葉さんが天才というわけではない(失礼!)。考え方の問題なのだ。新日鐵での話とユニクロの話で共通して、彼の手腕によって果たされた事はなんだろう。それは本当に些細なことにもロジックがある。その時に大事なのは何か。究極は、「なぜだろう」という興味を持って、奥底にある心理を引っ張り出すことに他ならない。

 ビジネスの話だけではないんですよ。子供に語りかけるように、人懐っこい笑顔を浮かべて、こう語る。例えば、僕らの「カラダ」だってロジックがある。例えば、なぜ、僕らはボールを投げられるのだろう。

 それには「手はなぜ動くのだろう?」という構造的なことがある。考えてみてほしい。肩は「回る」けど、肘は「上下にしか動かない」。つまり、この構造的なことはどうやっても覆せない。でも、それぞれ異なる役目が連携して、一つの行動として成立するから、ボールが投げられる。

 僕らはその腕の役目や、肩の役目を一つ一つ考えたことがあるだろうか。もしも、投げられないとしたら、ここの役目に何かがある。それで、原因を突き止められる。

 うまく行っていない工場ほど、役目が不明確だったり、役目の価値を発揮する連携になっていない。人が集まる以上、ここは同じ。どれだけ商材が変わろうと、人が変わろうと、本質は変わらない。

 だから、他の業種になったとしても、何を見極めて、どう役割として、連携として正しいか。それを判断していけば、同じようにできる。

ベンチャーの経営者のその立場になれているのか

 秋葉氏は、その後、フレームワークスの代表取締役や、モノプラスの経営者としての経験を経て、大和ハウスベンチャーズのアドバイザーに就任した。

 そこで彼がその社員たちにこういって発破をかけるわけだ。

経営者目線、投資家目線で、自分ごととして視ることが経験である

 スタートアップ企業と向き合う中で、単に財務データを見るだけで済ませていないか?そうではなく、「創業者の熱意や事業の本質」までも見極めずして、ロジックは見えてこない。そのことの重要性を語っているわけだ。

  つまり、投資先を選ぶ際、企業の成長性だけでなく、その事業がどのように人々の生活に影響を与えるのか。そこまで、考えているだろうかと熱っぽく説く。なぜなら、物事はシンプルだけど、そのシンプルさはとことん入り込んで、ものごとの本質をその企業ごと見定めてこそ、解き明かせるものなのだ。

 だから、その投資家、経営者になった気持ちで、その企業の中にある本質を見極めてこそ、それが相応しいかが見えてくる。それには深く深く、先ほど工場に何ヶ月も通い詰めたという秋葉さんの話があったけど、そこまでしてやらないと見えてこないものなのだ。

時間を無駄にすることは人生を無駄にすること

 物事はシンプルだけど、シンプルに感じるまでの道のりは簡単ではない。

 「その商品が単なる機能性だけでなく、ユーザーの生活全体にどのような価値をもたらすか。それを考え抜くことが、これからのビジネスの鍵だ」と彼は力説する。

  こういう考え方が、過去にとどまらず、未来につながる理由は、まさにAIを見ればよくわかる話だ。

 これについても秋葉さんの話は痛快だ。かつてであれば、コンピューターのキャパシティに限界があった。だから、できる作業量に上限があって、頼める範囲も小さかった。だから、その分、人間が入り込んで、一つの業務となるように落とし込んできたわけである。

 ところが、最近はそれをやるだけのキャパシティが備わった。だから、人間の手を介さずに、人間がやっていたことをできるようになった。それこそが、AIなのである。

 では、人間の仕事は奪われるのか。寧ろ、逆に人間は更に進化する。コンピューターができるキャパシティが増えた分だけ、一人一人の人間の行動の生産性は、AIと共に歩むことで格段に高くなるのだから。できることの幅が広がった分だけ、人間は俯瞰すべし。自分がやれることを作業単位ではなく、事業単位で見ていく。

「挑戦し続けることが人生を豊かにする」

 AIと共に描く、未来の設計図を書くのは人間である。それは人それぞれの生き様によって、全く違ったものになる。逆にどんな経験をしているか。それがAIに指示できる内容の質を左右していく。

 そう考えると、秋葉さんのいう「どんな経験も無駄ではない」はますます意味を持つ。

 最後に、語弊を恐れず言えば、「残業をしない世の中によって、人間はチャンスを失っている」と漏らした。

 秋葉さんの時代は残業も青天井で、働き続けた。それがいいとは言わない。

 ただ、それは会社のためになった以上に、自分のためになった。本質を追い求め、現場に張り付き、答えを見出すための行動。それは無駄とも思える仕事の数々の中で気づくことができた。いうまでもなく、その後の人生を大きく左右するまでの大事な経験となった。

 今はっきりとわかるのは、無駄と思える行為の中に、時間を無駄にしない本質があった。

 だから、最初から無駄かどうかを考えて行動するのではない。そうすれば、結果、時間を無駄にしていないと言える人生が待っている。彼のキャリアは、多様な経験を通じて「本質」を追求し続けた物語だ。そしてそれは、AI時代を迎える私たちに向けた、普遍的なメッセージでもある。

 「経験は無駄ではない」「時間は無駄にしない」秋葉氏は語る。その言葉は、今後の未来を切り開く全ての人々にとって、心に響く指針となるだろう。

 今日はこの辺で。

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