あの店が高評価な理由は手厚いだけではない。一元管理システムはネットショップの影の立役者
最初は売ることで手一杯かもしれない。だが、本当の勝負は、売れてきてからだ。今の時代、楽天、ヤフー、自社ECなど、色々な場所を活用して、販売できる。それこそがインターネットがもたらす新しい小売りの形。ただ、売り先が増えるほど、対応が煩雑になりがちで、だから、評価される店舗はそこから先が違う。一見地味な一元管理システムを取り入れ、情報を整理して、仕組み化する努力をしている。表側だけ脚光を浴びがちだが、実は裏にこそ、ネットたる所以がある。アイル CROSS事業部 マネージャーの本守崇宏さんが話してくれた。
目が行きづらいからこそ差がつきやすい
僕が本守さんに話を聞こうと思ったのは、ひょんなきっかけだ。とある懇親会で出会った、若き経営者が美容師をしているという。でも、その人は「美容師というより経営者になりたい」と話して、複数店舗を運営し、美容商材をネットで販売し、ビジネスをトータルで展開していたのである。
つまり、ECが「売ること」だけではなく、「関係作り」の手段として機能し、その人のポテンシャルを引き出している。それだけ売り先に決まりがなく、多様性を持った売り方が当然に行われる時代。だからこそ、その業務内容は煩雑になりがちなのではないかと思った。
それこそ、最初のうちは、それらのことの重大さに気づかない。徐々にそれらの問題は起き、気がつけば、どこから手をつければ解決するのかわからない。
だから、事前にこの記事で「つまづき要素」を早い段階で洗い出しておくべき。そう考えるに至り、僕は本守さんのもとへきた。
思い余って前置きが長くなったけど、アイルは「CROSS MALL(クロスモール)」という一元管理システムを手掛けている。それこそ、彼らは楽天、ヤフー、自社ECなど、色々な場所を活用して、販売できるこの時代にあって、それらを一箇所でまとめて商品登録や受注管理、在庫管理に至るまでフォローするわけである。
ただ、本守さんと話していたのは、ただ便利だよねという話ではない。
クロスモールの多機能性――ネットショップ運営を支える基本
ただ、その本質を触れる前に、知っている人には釈迦に説法だが、クロスモールが提供する基本機能についておさらいしておこう。ネットショップ運営に必要な効率化を支える多機能なシステムで、以下のような特徴がある。
1. 在庫管理の一元化
複数モールの在庫をリアルタイムで同期し、正確なデータを保持。販売機会のロスを防ぐ。
2.受注処理の効率化
受注データを一元管理し、伝票発行やメール送信もスムーズ。セール時期など大量の注文にも迅速に対応可能。
3. 商品登録が簡単
主要モールに対応したテンプレートを活用し、簡単に商品ページを作成可能。商品数が多い業界でも効率的に運営できる。
4.発注・仕入れ管理を自動化
発注点を設定して自動的に発注候補を作成。仕入れ業務を効率化する。
ネットショップ運営に潜む課題を解決する“本質”とは?
僕の話に、大いにうなづいて、だから、彼も何も教科書のようにそのサービスを話すわけではない。もっと具体的で、身近な話をしてくれたのが良かった。それは、裏方業務のケアを徹底させることが結果、表側の顧客満足度に直結する事を言い表している。
彼はこう切り出した。
「運営の効率化は勿論。ですが、それ以上に得られるのは『運営の質を高められる余裕』なんです」。
効率化を果たすツール。それ以上のもっと根本的なところにECの本質があるというのである。
「そうですね、、、楽天のレビュー4.9のお店が何をしているかご存知ですか?」
本守さんはそう語ると「そりゃ、手厚く徹底してお客様をフォローしているんでしょう?」と僕。いやいや、確かにそうだが、ここで大事なのは「手厚いだけではダメだ」ということなのだ。
気持ちばかり焦って、前へと進まないというのはこういうことか。
棲み分けの重要性――「対応すべき業務」を見極める力
実は、ネットショップ運営で最もつまずきやすいのが、「すべての業務を同じ手間で処理してしまう」こと。本守さんは、大雑把な僕の答えに対して、優しくこう語りかける。
「一番大事なのは、業務の『棲み分け』をしていくことなんです。手をかけるべきものと、効率化できるものを早く分ける。そうすることで、顧客対応の質を格段に上げることができます」。
なるほど。受注数がある一定数、増えてくると、慌てふためく。それは、手のかかってしまう対応が、手のかからないはずの対応の足を引っ張っていくからである。それが全体としてのサービスの低下を招いてしまうから、死活問題。表側だけを見ていたら、到底見えてこない、ずっと続く躓く最大の要因なのだ。
発送や伝票発行といった定型業務は自動化し、個別対応が必要な顧客には手厚くフォローする。このアプローチによって、全体の運営がスムーズになる。顧客満足度を高めるのは、お客様ごと棲み分けして、そのレベルにあった適切な向き合い方を実践しているからだ。
上記で言えば、2.の機能がプラスに働いているわけだ。字面では見えてこない本質だ。
何もクロスモールが優れているわけではない。クロスモールを使うことで、仕組み化できた店の努力。それこそがレビュー高評価につながっているというわけである。逆に言えば、システムを使えばいいというわけではなく、一元管理システムをきっかけに店が変わるかが大事である。
ギフト対応の効率化―「負担軽減」が顧客満足を生む
彼らは店の仕組みを変えるだけではない。店ごとその個々の事例に合わせて、適応させる事もある。色々な商品があるけど「ギフト対応」はネットショップ運営で欠かせない重要な業務のひとつ。
購入者がギフトメッセージを添えるケースが多くある。だが、その対応に一件ずつ手動で対応することは、裏方業務の負担増につながる。お客様の想いを大事にする、店の気持ちはわかる。そこを丁寧にどうシステムを用いて、解決に導くかが彼らの真骨頂。
例えば、とあるクラフトビールメーカーのギフト対応。それまで全ての注文に対し、購入者が「備考欄」に書いたメッセージを手動で反映していた。しかし、注文が増えるにつれ作業負担が限界に達し、スピードや正確性に課題が出てきた。
そこでアイルの提案により、クロスモールを活用した新しい方式が導入された。
備考欄ではなく、注文画面で10種類のギフトメッセージ文例を提示し、そこから選んでもらう。一方、自由記入を希望する方には備考欄を使ってもらう。そんな方式だ。
この方法により、約9割の購入者が用意された文例を選択し、裏方の負担が大幅に軽減された。
本守氏は次のように述べている。
「この負担軽減によって対応スピードとサービス品質が向上したのは勿論、お客様の利便性が上がり、顧客満足度が高まったという事実が大事です。システムを活用した効率化が、最終的には真心ある対応につながる事を実感しました」。
農家支援への夢―「デジタルの力」で広がる未来
余談だが、冒頭、何気なく、僕は若き経営者の話をした。その一方で、本守さんは思いがけず、地方にある農家への想いを口にして、これらのシステムが果たすべきことはまだまだある事を思わせた。
農家は多くの場合、地元での直接販売や特定の取引先への出荷に依存している。つまり、販売チャネルが限られていて、潜在的な需要を逃してしまう「機会損失」に直面している。要するに、クロスモールを使えば、自社ECの他、楽天市場やYahoo!ショッピングなどへの出店で、販路を広げることができるのではないか。そう語るのである。
そこで肝になるのは、在庫管理や受注処理の自動化。それまでかかっていたであろう販売業務の負担も軽減するはず。例えば、加工品などの新商品の開発やブランディングに注力できるようになる。
「我々がやっているのは単なる管理ツールではなく、次の挑戦を後押しするシステムなんですよね」と本守さん。
現在、実際に導入している農家はまだ少ない。でも、こうした取り組みが成功すれば、それこそ、デジタルの真骨頂ではないか。人間が丹精込めて作った生産物が守られ、地方の農業経営が大きく変わる。その可能性を広げることもまた、自分たちの使命だと話す彼の情熱をチラリと見た。
BACKYARDの登場――リアルとネットをつなぐボーダレスな運営
さて、これで見えてきただろう。ECは「売ればいい」のではない。インターネットによって生まれたECの仕組みや考え方は、彼らのように縁の下の力持ちを支え、その力を伸ばすことで「売り方」に変革を起こしているのだ。
そして、ネットショップのやれることの幅を広げた。各々の店のアプローチが多様性に満ちたものになったのはいうまでもない。それに対応するべくアイルは「クロスモール」に続いて「BACKYARD」というサービスを誕生させた。
「クロスモール」は、楽天市場やYahoo!ショッピングなどのモール、自社ECサイト間で効率化を支えるツールである。
それに対して、「BACKYARD」はリアル店舗や催事、さらには卸売などの業態をも含む「ボーダレスな運営」を実現するシステムなのだ。思えば、大きなところへ来たものだ。
BACKYARDの強みは、ネット通販を軸にしつつリアルの販売機会を広げる点にある。
例えば、ネット通販で販売していた商品がリアル店舗での販売機会を生み、さらには卸先との取引や催事出店につながるケースも多い。BACKYARDはそのすべてを統合し、シームレスな対応を可能にするのである。
その場合にも、効率化されたデータ管理が運営の安定性を支える。そしてそれが、運営者が本当に集中すべきクリエイティブな取り組みにリソースを割ける環境を作り出す。
クロスモールとBACKYARDが描く未来
本守さんは熱っぽくこう語り始めた。
「最近では、逆に“リアルに直営店を持つ”メーカーがBACKYARDの仕組みに関心を抱いています」。
つまり、直営店、ECサイトに加え、自らの商品の卸先までの一元管理を行うわけである。卸先への情報提供なども的確に共通化されて、迅速に行われれば、そのブランド自体の価値向上になる。
このように、クロスモールがネットショップ間の連携を支え、BACKYARDがリアル業態までをカバーする。ネットを起点にしてビジネスが成立する時代だからこそ、生まれるリアル業態の変革だ。
「共通しているのは、単に効率化するためのものではないということ。ネットとリアルを結び、運営の質を向上させることで、事業者が次の一歩を踏み出すための基盤を築くためのものです」。
もう今の時代は「売って当たり前」で、「売る以外に何をもたらすか」なのかもしれない。
そこにはあらゆる要素を総動員して、未だ見ぬ提案の仕方も含めて、顧客満足度に努める必要がある。
今こそ人が知恵を働かせ、その創造の幅をもっと広げて、小売の可能性を伸ばす。そこに在るべき、小売の本当の未来があるような気がする。更に多くの人がアクティブにECでチャレンジできる世の中へ。
今日はこの辺で。
追伸:縁の下の力持ち“バックヤード”で働く人の環境を改善させることが彼らの夢。だから、僕らのオフ会にも自ら、縁の下の力持ちとしてフォローしてくれました。感謝。